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ルベルシアとのお茶会ならぬ井戸端会議をなんとか終わらせ、屋敷へと戻ってきたアキに待っていたのはミルナ達による「家名決定会議」だった。
そしてミルナ達は真剣な表情で話し合っている。アキとしてはもっと気楽な感じでやりたかったのだが、彼女達の有無を言わさぬ迫力に何も言えなかった。
「誰か他に良い案はありませんの!」
「はいはいー!」
「却下ですわ!」
「なんでですか!まだ何も言ってないです!」
「ソフィーはさっきから頭のおかしい家名しか思いつかないからですわ!」
「それはミルナさんもです!」
「なんですって!?」
「なんですかー!」
何時の間にかミルナとソフィーが睨み合っている。
うん、仲良しだな。
こんな感じでさっきから白熱した議論をしているミルナ達。それはいい。だが何故かアキが蚊帳の外だ。アキの家名を決める話だから自分も混ざるべきだと思うのだが、会話に参加しようとすると「アキさんは黙ってて!」と睨まれる。どうしてこうなった。
ちなみにミルナ達が提案してきた家名はどれも碌なものではない。「ソフィーラブ」や「イチバンハミルナ」と・・・まともに考える気なんてないのではと思ってしまうくらいの壊滅的センス。というか家名ですらない。言うまでもないだろうが、前者はソフィー、後者はミルナの案だ。
暫くは睨み合いも終わらなさそうだし、あいつらの事は放っておこう。
「ナギー?」
「ん、呼んだ?」
アキが呼ぶと、すぐさまリビングの入口からひょこっと顔を出すナギ。
「ちょっときて。」
「なになに、どうしたの?」
ナギが犬耳をぴくぴくさせながら駆け寄ってくる。
「モフらせて。」
「え!?な、なんで!?」
ミルナ達の会話に混ぜてもらえないから暇なんだよ。あともふもふ要員であるセシルやリオナも家名がどうこう騒いでいるからモフれるのがナギしかいないのだ。
「いいから、モフらせろ。」
ナギの脇の下に手を入れ、ひょいとナギを持ち上げて膝の上に座らせる。
「きゃっ!」
「いいでしょ?」
「・・・う、うん・・・いいけど。」
「ありがと。」
もふもふの尻尾と犬耳を交互に撫でまわす。リオナとは違った手触りだ。兎や狼もいいけど、やっぱり犬のもふもふも素晴らしい。
「ね、ねえアキ?」
「ん?」
「シャルちゃんから聞いたんだけど・・・アキは貴族になったの?」
「うん、なっちゃった。」
どうやらアリア→シャル→ナギやジーヴスといった感じで情報が共有されたらしい。まあ情報共有はアキが許可しているので別段問題はない。というかアリア曰く、使用人が主人の事を知らないようでは駄目なんだとか。使用人の評価も主人の「格」に関わるので、使用人内での情報共有は必要との事。
「なっちゃったって・・・えっと、とりあえずおめでとう?」
「ありがとう。これからもよろしくな、俺のメイドさん?」
「うん!」
「頼りにしてるぞ。」
ナギの頭をわしわしと撫でまわす。
「わふぅ・・・えへへ、気持ちいい。」
嬉しそうに尻尾をぱたぱた振っている。
『ちょっと!そこの駄犬!何してるですー!!』
『アキさん!なんで私達をほったらかして遊んでるんですの!!!』
ナギを愛でていたらソフィーとミルナに怒鳴られた。
「俺をほったらかしていたのはミルナ達だろ。」
会話に混ぜてもらえないからナギと遊んでただけだ。怒られる筋合いはない。あとナギは駄犬ではないぞ、良犬だ。むしろ駄目人間なのはお前らのほうだ、この駄エルフに無駄乳め。
「違いますわ!私達はアキさんの家名を必死に議論していたんですのよ!」
「俺が口だしたら『黙ってろ!』って言われたんだけど。」
「アキさんは私達の議論をちゃんと見ていてくださいませ!」
何で見てるだけなんだよ。とりあえずミルナ達がこっちに絡んできたと言う事は・・・無事何かしらの結論が出たと言う事なのだろう。
「ナギ、あいつらが色々とごめんな。もう仕事戻っていいぞ。」
アキはナギを膝から下ろし、最後に彼女の頭をひと撫でする。
「わふ・・・大丈夫、慣れてるから!じゃあお仕事してくるね!」
そう言い残し、ナギがタタタと早足でリビングから出て行った。相変わらず真面目なわんこだ。しかし何というか・・・嫌な慣れだ。ミルナ達がいつもすまん。