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アリアが用意してくれた正礼装はどれも無難なものだった。派手過ぎず、地味過ぎず、程よく気品のあるデザインの服を選んでくれていた。
さすがアリアだな。
ただいかにも「貴族」といった服で、あまり好んで着たいとは思わない。イメージとしては西欧の貴族が着ていたであろうロココ調の盛装に近い。気品ある刺繍、ジャボやカフスがついたシャツ、ウェストコート。そして下は足首まで届くブリーチズだ。一言で言うなら非常に窮屈な服装。アキに似合うとも思えないし、今すぐにでも脱ぎ捨てたい。ただ色合いや刺繍が落ち着いているのがせめてもの救いだ。
「アリア、無難なのを選んでくれてありがとう。」
こればかりは本当にアリアに感謝だ。地球の西洋貴族であれば、シャツやコートはもっと鮮やかな色彩で、華やかで豪華な刺繍がされている物を好んでいたはず。果たしてこの無難な色がベルフィオーレの正礼装として主流なのか、単純にアリアのセンスなのかはわからないが・・・とにかく地味で助かった。というか黒目黒髪の純日本人にパステル調のシャツや豪華絢爛な刺繍が似合うとは到底思えない。
「はい。アキさんは黒髪ですから暗い紫みの青か、暗い黄みの赤が似合うと思いましたのでそちらの色を中心に5着ほど仕立てたんですよ。」
「なるほどね。まあ今すぐ脱ぎ捨てたいけどな・・・」
アリアが用意してくれた正礼装には文句ないが、やはり着慣れない服はどうも落ち着かない。
「ふふ、とてもよくお似合いですよ?」
「そうか?着こなしてるんじゃなく、服に着られてる感しかないけど・・・」
「そ、そんなことないです!かっこいいです!惚れ直しました!」
アリアがグイっと顔を近づけ、食い気味に否定してくる。
しかし至近距離でうちのメイドを改めて見たけど・・・やっぱり美人だな。
可愛い。
――ギュッ
そんなアリアをそっと抱きしめる。
「きゃっ!ア、アキさん!?」
「アリアが可愛かったから。」
「そ、それは嬉しいですけど・・・!あの!せ、せっかくの服に皺が・・・!」
急いで離れようと腕の中であわあわと身じろぐアリア。
「せっかく2人きりなんだし・・・ちょっとだけイチャイチャしない?」
服の皺なんて後で直せばいい。それにミルナ達の待つリビングへ戻ったらゆっくりなんて出来ない。あいつらは「自分と!自分が!」と五月蠅いからな。
アリアはメイドという立場からか、ミルナ達とは違い、あまり自分からイチャつこうとしてこない。だから偶には無性にアリアを構いたくなるのだ。まあ朝っぱらから何してんだと思わなくもないが・・・今更アリアの前で体裁を取り繕っても仕方ない。イチャイチャしたいと思ったからする。それだけだ。
「あ・・・え、えっと・・・は、はい・・・します。」
アリアが顔を真っ赤にしながら小さく頷く。
結局その後、30分くらいアリアを抱きしめたり、キスしたりして、たっぷりイチャついた。アリアも嬉しそうにしてくれていたし、満足だ。
「じゃあそろそろ戻るか。」
「は、はい。」
アキとアリアはリビングルームへ戻り、アキはそのままベルを連れて城へと向かう・・・つもりだったのだが、正装したアキを見たミルナ達に捕まった。そして「かっこいいのだ!」「に、似合ってるわよ!」「新鮮でいいと思うよ!」と全員が大騒ぎを始めたせいで、滅茶苦茶足止めされた。まあこうなる予想はしてたが。
それに彼女達に褒めれられるのは悪い気はしない。素直に嬉しい。ただ一部頭のおかしい連中はいたが。「これは永久保存ですわ!襲っても許されるやつですわ!」「今すぐ愛を誓い合いましょう!既成事実ですー!」とか意味の分からない事をほざいていた。誰の発言かは言うまでもないだろう。相変わらず鬱陶しい。
しかしどうやらアキが思っている以上に正装が似合っているらしい。ただミルナ達の評価はあまり当てにはならない。多分アキが何を着ても「素敵です」と褒めてくれるだろうからな。
とりあえずそんなミルナ達を落ち着かせ、ベルとミスミルド城へと向かう。ただミルナ達は当然のようについて来る気満々だったので、留守番してろと説得するのが大変だった。ミルナ達曰く、「アキさん一世一代の晴れ舞台!ついていく権利があります!」との事らしいが・・・大勢で行っても迷惑になるだけし、なにより大名行列で街中を練り歩きたくない。
「うるさい、黙って留守番してろ。」
「「「「ぶー!ぶー!」」」」
騒ぐミルナ達をなんとか振り切り、城へと到着した。