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「ですから授与式や国家会議用の正礼装の準備は出来てます。」
アリアが当然ですと言わんばかりの顔で告げてくる。
「あ、うん、それはわかった。そうじゃなくて・・・こうなんていうか・・・」
アリアは一体、何時、どうやって準備したんだ。うちのメイドが超優秀なのは知っているが・・・何故既に正礼装が仕立てられているのか意味が分からない。
凄いを通り越して呆れる。
それに正礼装は間違いなく高価な服だ。それを買えるような金はアリアに渡していない。そもそもアキの服のサイズ自体知らないはずだ。測られた覚えもない。
「アキさんの疑問を一言で説明しましょう・・・メイドの嗜みです。」
「メイドの嗜みで片付けるのはやめろ。そうじゃない。」
しかし「メイドだから」と言われると何か納得してしまいそうになる。もの凄いパワーワードだ。だがよく考えれば全く意味がわからない。大体そんなメイドの嗜みがあってたまるか。
「金はどうした?そもそもいくらしたんだ?」
「1着50金くらいでしょうか。お金はアキさんから頂いた報酬から出しました。」
「あの5000金はそういう事に使う為に渡したんじゃないんだけど・・・?」
あれはいわゆるお小遣いであり、メイドとしての給金だ。アリアが趣味や嗜好品を買う為に渡しているもので、アキの為に使われても困る。
「ですから私が好きな物を買う為のお金ですよね?私は『大好き』なアキさんの衣装に使いました。それのどこに問題が?」
その言い方をされるとぐうの音も出ない。いくらアリアに「自分の為に使え!」と口煩く言っても、給金として渡した以上、彼女の金だ。それをアリアがどう使おうが彼女の自由。しかも「好きな人の為に使いました」と来たら余計に文句は言えない。
「問題ない・・・ありがとな。」
「ふふ、どういたしまして。」
悔しいが認めるしかないだろう。
だがまだだ。まだ他にも聞きたい事はある。
「いつそんな服を準備したんだよ。それにサイズは?俺のサイズ知らないだろ?」
ここ最近アリアは外へ出かけていなかった気がする。そもそも彼女は常にアキの側に仕えてくれているから1人で買い物に行く時間なんてないはずだ。
本当にいつ準備したんだろう。もしかして留守番させている時か?だがミルナ達を留守番させると、必ずアキが帰った後に「今日は〇〇してました!」「〇〇にいきました!」と逐一報告をしてくれる。
それにミルナやソフィー達はちょくちょくシッピングに出掛けたりしているようだが・・・アリアに関してはそう言う報告は一切聞かない。彼女はいつも「お屋敷のお掃除をしてました」「お屋敷にいました」としか言わないのだ。
そもそもアリアは「主人が留守にしている間、お屋敷を守るのは専属メイドである私の仕事です」と言い張って絶対に出掛けようとしない。日用品や食料の買い出しにすら行かない。ちなみにその辺は主にシャルがやってくれているらしい。最近ではナギやジーヴスも協力しているようだが・・・まあつまりアリアは出かけていないとはっきり断言できる。こっそり出掛けて服を仕立てたというのはありえない。
「アキさん、メイドは出掛けずとも正礼装程度は仕立てる事くらい可能なのです。サイズについても見ればすぐにわかります。メイドの眼は全てを見抜くのです。」
だからそのメイド万能説やめろ。
「嘘だろ?」
「はい、嘘です。」
「おい。」
この糞メイドめ。
「では正直に言いましょう。サイズについては簡単です。アキさんの服を洗濯しているのは誰だと思いますか?」
「アリアだろ?・・・ああ、なるほどね。」
つまりアリアはアキの服を洗濯している時に服のサイズを確認したのだ。
ただこれについては一言言いたい。洗濯については本当に助かっているのだが・・・アリアは文字通り「アキの服」しか洗濯しない。ミルナ達のは当然のように放置だ。むしろ彼女達の服をゴミ箱に放り込むという暴挙に出ようとしたこともあった。幸いにも今はシャルがミルナ達の洗濯物を処理してくれているが、彼女が来るまではアキを含めみんなで洗濯当番を決めていたくらいだ。
メイドしているようでしてないアリア。優秀なんだからミルナ達の世話も少しはやって欲しい。ただ何を言っても「嫌です」としか言わないのでもう半分諦めているのだが・・・
「ミルナ達の洗濯も少しは・・・」
「死んでも嫌です。」
ちょくちょくこうしてアリアに注意はするようにしているのだが、やはり譲歩する気は0らしい。
「はいはい、まあそれはとりあえず置いといて・・・屋敷から出てないというのも嘘なんだよな?」
無駄な説得をするよりアリアがどうやって正礼装を準備したのかの方が気になる。
先程アリアは出掛けていないと断言したが、やっぱり実はこっそりと抜け出して服を仕立ててくれたのだろうか。
「あ、いえ、そこは本当です。」
「ええ・・・」
なんでそこは本当なんだよ。
「本当に出掛けてないのか?」
「当然です。」
「こっそり抜け出したり・・・」
「ありえません。アキさんが留守の時、お屋敷を守るのは専属メイドである私の務めです。勝手に出かけたりは許されません。」
「いや出掛けてもいいんだよ?」
「嫌です。絶対嫌です。アキさんは私に死ねというのですか。」
そこまでなのか?まあ気持ちは嬉しい。嬉しいが・・・アキに対するアリアの忠誠心が重い。
しかしじゃあアリアは一体どうやって服を仕立てたというのだ。
「どうやって用意したんだ?」
「ふふ、では仕方ないので教えて差し上げます。」