12
「お腹すいたな。」
アキがそう呟いたのが聞こえたのか、ミルナはソフィー達に指示を出す。
「ソフィー、エレン、レオ。アキさんにお食事を。あとエスタートさんとセシルにアキさんが目覚めた旨の連絡を。」
了解といって部屋を出ていく3人。ミルナとアキだけが部屋に残される。アキは少し動けるくらいには回復したので、窓を開けて窓辺にあるソファーに腰掛ける。
「いい風……。」
窓から心地の良い夜風が入ってきてアキの顔を撫でる。
「アキさん。」
ミルナが真剣な声色がアキを呼ぶ。目を閉じたまま返事をする。
「ん?」
「お話がありますの。」
「だから人払いを?」
「ええ……計画通りですの?」
ミルナが単刀直入に聞く。やはりミルナは察しているようだ。どこまで察しているかはわからないが大筋はわかっているのだろう。
「どうだろうね。」
適当にはぐらかすアキ。
「誤魔化さないで!ちゃんと答えてください!」
声を上げて叫ぶミルナ。アキは少しだけ目を開けて窓の外を眺める。
「何が聞きたい。」
「全てを。」
「質問してくれたら答えるよ。」
「……わかりました。」
納得は言ってないようだが、質問には答えるとアキが言ったのでミルナは渋々と引き下がる。
「おかしいと感じたのはアキさんを街中に運び込んだ時、エスタートさんが偶然通りかかったことです。こうなることをわかっていたような。」
そこから考えるとアキが今日1人で行動したのは襲われる為。エスタートの屋敷に行った後に冒険者協会へ立ち寄った事もおかしいし、ガランから受け取った武器を屋敷に置いていった事もおかしい。そして午後5時迄に戻らなければ自分を探せとミルナ達に伝えていた事が何よりの証拠だとミルナは言う。
「つまりアキさんが襲われたのは予定通りだったのではないですか?違いますか?」
「なんでそんなことをする必要あるの?」
ミルナの質問に質問で返す。
「あくまで私の想像で話します。アキさんの事ですからどうせ……その私達がアキさんの事を……す、好いている事なんてわかっていますよね。だから襲われても助けにくるとわかっていた。私達に助けさせて……人を殺させましたね?」
「そんなことさせる意味ないだろ、ミルナ達に。」
アキは淡々と返事をする。
「真意は私もわかりません。では何故そう思ったかお話します。先ほど聞いてしまったんですの。エスタートさんと『アリアさん』が話しているの。」
ミルナはずっとアキの側で看病をしていたのだが、アキがうなされていたので濡れタオルでもおでこにのせてあげようと思い、水を汲みに行く為に一度部屋を出た。その時に廊下を歩いていたら聞き覚えのある声がした。
「ありがとうございます、妹のことよろしくお願いします。」
そっと部屋を覗くとアリアがいた。ブランの屋敷で見たメイドだ。何故こんなとろに彼女が?気になってミルナはそのまま2人の話に耳を澄ませた。
「かまわん、アキの頼みだしの。おぬしもうちで雇ってもよいのじゃぞ?」
「いえ、私はアキさんに返せないほどの恩を頂きました。同時に大変な罪を背負って頂きました。」
ミルナは「どういうこと?」と小さく呟く。大変な罪とはなんなのだろう。だがアリアの次の言葉でそれが判明する。
「悪魔に魂を売りたくなったら来いとアキさんはおっしゃったのです。あの事件のあとのブランは酷いもので妹がいつ……されてもおかしくなかったのです。私がアキさんに相談したら……快く引き受けて下さいました。自分にも必要な事だからと。」
ブランに何かした。アキが何かをした。償いきれない罪。まさかアキはブランを殺した?そんな、まさか。
「私が彼の手を汚させました。だから私は一生かけて彼に尽くしたいと思います。」
ミルナは声を出しそうになる。間違いない。アキが今日わざわざ1人で行動したのはこのアリアの依頼を受ける為だ。おそらくエスタートも噛んでいる。何故そんなことを。自分にも必要なこと?どういう事?
「ふむ、おぬしがそういうなら止めんが。王都の彼らが住む予定の屋敷でメイドでもするのか?」
「そうですね。私に出来るのはそれくらいですので。彼が行くところに私は付き添い、従者として彼に恩を返していきたいのです。妹と離れるのは辛いですがエスタート様のところに置いて頂けるなら問題はないですし。」
「そうか。」
ミルナはそこまで聞くと足早に立ち去る。
エスタートは視線を扉の方に向ける。
「どうされましたか?」
「いや、アキはこれから少しばかし大変じゃなとおもっての。」
「ちっ。」
あのジジイ、わざとミルナに聞かせやがった。間違いないだろう。あの爺さんならそれくらい余裕でやる。
「それで考えました。アキさんはブランを殺めた。そしてそれは自分に必要な事だった。つまり私達に誰かを殺させる為にまずは自分が手を汚した。違いますか?」
「そんな事ないだろ、まず自分が汚す意味がない。」
アキがそう言うとミルナは少しだけ微笑む。
「アキさんはそういう人です。優しい人です。自分が慕っている人の事くらいわかりますわ。私達の手を汚させる前にまず自分でやるでしょう?アキさんなら。」
「俺は別に優しくない。酷いやつだよ。」
「そんなことないです!合ってるでしょ!ちゃんと説明して!」
ミルナが素の口調で叫ぶ。
「とりあえず……そこの扉の向こうにいる3人を中にいれてやれ。聞くなら盗み聞ぎしないでちゃんと中で聞け。」
ミルナが驚いたように扉の方に目をやる。すると扉が開いて気まずそうにソフィー、レオ、エレンが悲しそうな表情をして立っている。
「貴方達なんでいるんですの。」
「だってミル姉が僕たちを追い出したから気になって……。明らかに何か僕達に聞かせたくない話があるようだったもん。」
レオが辛そうな表情で呟く。
「アキさん、本当なんですか?どうなんですか?」
ソフィーは泣きそうになりながらアキに問いかける。エレンは珍しく黙ったままだ。無表情でじっとアキを見つめている。
「俺は酷い男ってだけだよ。皆の気持ちを知ってて利用したんだよ。」
「嘘です!アキさんはそんな人じゃないです!違うって言って!」
「そんな人だよ?絶望したか?」
ソフィーは何も言わない。エレンもミルナもレオも黙ったままで何も言わない。
「アキよ、説明くらいしてやったらどうじゃ。」
扉の方を見るとエスタートに連れ立ってアリアとセシルがいる。
「爺ちゃん、余計な事を。それにセシルやアリアさんもどうしてここに?」
「ほほほ、この2人がアキの様子を見たいといったからの。ほれ、言いたい事があるんじゃろ。遠慮せずに言いなさい。」
爺さんに促され、アリアが深々とアキにお辞儀をする。
「アキさん、ありがとうございました。」
「なにもしてないよ。」
「そうでしたね。でも私をアキさんの従者としてお側においてください。」
「うーん、それは嬉しいけど後で話そう。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
今する話ではないので一旦話を切る。
「で、セシルはどうしたの?」
「どうしたのじゃないです!心配したんです!」
一気にアキに詰め寄り捲し立てるセシル。
「俺は大丈夫だよ。耳触っていい?」
適当に軽口を叩いて話をはぐらかそうとするアキ。だが今日のセシルはいつもと違い、少し恥ずかしそうにした後、頭をアキのほうに向ける。
「ど、どうぞ……。」
「え、いいの?」
まさか本当に触らせて貰えるとは思わなかったのでちょっと驚いた。
「アキさん、頑張ったから……ご褒美。」
アキは優しくセシルの耳に触れる。とても柔らかくてフワフワで気持ちがいい。
「俺の耳最高。落ち着くわー。」
「アキさんの耳じゃないから……私のだもん!」
「ミルナ、これ持って帰っていい?いいよね?」
「だ、だめ……いまはだめ……。」
いつかはいいという事なのだろうか?
「アキさん……あの……今すごく、ものすごく真面目な話をしているんです。斜め上の事を急に挟むのやめて頂けませんか……?」
さすがのミルナも呆れを通り越して引いている。ソフィー、レオ、エレンもアキの急な脱線に呆れて、すっかり話の緊張感が切れてしまっていた。
「アキさん、私も兎耳を付けたほうがよろしいのでしょうか?」
アリアがさらっと凄い事を言ってくる。真面目すぎるとそういう発想になるのか。
「緊張感なくなったなー。」
「誰のせいだと思ってるんですの?」
話の腰を折られたミルナが複雑な表情でアキに話しかける。
「え、セシル。」
「な、なんで私!」
「嘘、嘘、ごめんね。ありがとう。」
アキはセシルの耳と頭を優しく撫でてお礼を言う。




