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「甚だ遺憾ですが・・・使用人は増やす事になるでしょう。そしてどうせアキさんの事ですから獣人の使用人を増やすに決まっています。はぁ・・・」
溜息を吐くな。獣人が好きなんだから仕方ないだろ。
「アキ君だものね・・・」
「アキさんですもんね・・・」
「アキだもんね・・・」
おい、そこのモフモフ3人組、諦めたよう表情をするのはやめろ。
「それで結局のところ・・・皆さんは認めますか?正直私はアキさんが望むなら構いません。」
まさかベルが真っ先に許してくれるとは思わなかった。しかもミルナ達の説得をしようとしてくれている。
信じてたぞ、ベル。愛してる。
「ベル王女様は・・・それでいいんですの?」
「ええ。だって私はアキさんにお願いされたら断れないんですもの。それはミルナさんもそうでしょう?」
「ふふ・・・まあ、そうですわね。」
なるほど。優しく「お願い」すればミルナ達は許してくれるらしい。
チョロいって素晴らしいな。
だがもし立場が逆で、ミルナ達に「お願い」されたらアキも断れないだろう。そう言う意味ではアキもチョロい。まあお互い様だな。
「でしょう?なのでアキさんが獣人の使用人を増やす事、許しませんか?当然しばきますけど。」
・・・ん?
今なんか不穏な言葉が聞こえた気がする。
「そうですわね。私は許しますわ。勿論存分にしばきまわした後に。」
ああ・・・気のせいではなかったらしい。
ミルナとベルが不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ている。
「リオナ・・・」
「どうしたの?大丈夫だよ、私も許すからね?」
「しばかない?」
「えへへ・・・」
この狼、笑って誤魔化しやがった。
「アキさんー!覚悟ですー!」
そしてソフィーは満面の笑顔だ。
うん、駄エルフは少しは誤魔化す努力しろ。
「大丈夫よ、アキ君。死にはしないわ。」
エリザ、それは全然大丈夫じゃない。
「そうよ、ちょーっと痛い目に遭うだけよ!」
なんの慰めにもなってないぞ、エレン。
あとセシルやエリス達もやたらと晴れやかな笑顔なのはなぜだ?そんなにアキをしばくのが楽しみなのか?アキとしては叩かれて喜ぶ趣味はないんだからやめて欲しい。
「アキさん、そう悲観しないでください。虐められる喜びがわかるようになるかもしれません。私と同類になれますよ?」
アリアが嬉しそうに言ってくるが・・・そんな世界、一生足を踏み入れたくない。
「黙れ、このど変態メイド。」
「ありがとうございます。」
「うん、褒めてないぞ。」
「ではこうお考えください。私達にちょっと虐められるだけでモフモフが増えるのです。悪くないでしょう?」
「それは・・・確かに。」
ちょっとしばかれるのを我慢すればいいだけ・・・でもイマイチ納得がいかない。そもそも使用人が不足しているのだから、新しい使用人を雇うのは当然だろう。そこまで突拍子もない我儘を言っているわけじゃないのに、何故アキだけがしばかれないといけないのか。まあ可愛い獣人の使用人がいいというのは完全にアキの私利私欲だが。
「一応聞くけど・・・男の使用人にするって言うのは?」
「却下です。ジーヴスさんの事は認めましたが、これ以上アキさん以外の男性をお屋敷にいれるのは反対です。節操のないアキさんのせいでただでさえこのお屋敷には女性が多いんですよ?男性の使用人だと色々と問題があります。そもそもアキさんは私達が男性の使用人にお世話されるのは気にしないんですか。」
やれやれと首を振るベル。
悔しい。言い返す言葉がない。ただこれだけは言わせて欲しい。アキとて別に意図して嫁を増やしたつもりはないのだ。気付いたら増えていただけだ。とはいえ今更言い訳はしない。ここまで増えたのはアキの責任でもあるしな。
そしてベルの言う通り、彼女達が男の使用人にお世話されるのはいいのかと聞かれると・・・嫌だ。
「嫌です。」
「はい。ですから黙って私達にしばかれてください。」
どうやらアキには最初からしばかれる未来しかなかったらしい。
いいだろう。腹を括るとしよう。
その代わり最大のリターンを貰うがな。
「よし、いくらでもしばくがいい!」
「さすがアキさん、潔いです。」
「その分最高のモフモフを雇うからな!!!狐に羊に鼬娘!」
「なるほど。では・・・お仕置き5倍で手を打ちましょう。」
何故増やす。というかそもそもお仕置きって何されるんだろうか。ベルが頭を引っ叩いてくる程度ならいくらでも受けて立つが・・・彼女達の折檻がそんな生ぬるいはずがない。酷い目に遭うのであれば、ここはもっと要求しておくべきかもしれない。
「ならおかわりで兎や狼も追加だ!」
「ちょっとアキ!?狼はもうここにいる!いるよね!?」
「そうです!兎も1匹で十分じゃないですか!!!」
リオナとセシルがそれは絶対駄目と叫ぶ。
セシル・・・必死なのはわかるけど、自分の事を「匹」とか数えるのはやめような。ちょっと自虐が過ぎるぞ?
「お仕置きを増やしてもかまわん!兎と狼が追加で欲しい!」
「「ダメ!!!」」
どうやら同族が増えるのは駄目らしい。
「わかった、じゃあ狼、兎・・・あと猫、犬人族も増やさないと約束する。」
それならいいとリオナやセシルが満足そうに頷く。しかし獣人が増えるのは許せるのに、何故同族は駄目なのだろう。獣人族の特有の矜持的な物があるのか?まあ2人がそこまで嫌だと言うなら無理に増やそうとは思わないが。
「では皆さん、そう言う事でいいですね?」
ベルが念を押すように確認する。
「アキさんもそれでいいですか?」
「うむ、よきにはからえ。」
とりあえず何とかなったようだ。果てしなくくだらない事に時間を使った気がするが・・・まあいいだろう。無事獣人の使用人を雇う許可が出た事だし、終わり良ければ総て良しだ。