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「みなさん、貴族ですよ?アキさん貴族になるんですよ?」
ベルが念を押すように確認する。
「そうですわね!素晴らしいと思いますわ!」
「あの・・・領地経営でアキさんかなり忙しくなりますよ?相対的に皆さんがアキさんと過ごす時間も・・・それにアキさんの妻として貴族のパーティーなどに出て頂かないといけなくなりますよ?私が言うのもなんですが、相当面倒なんですよ?」
それは確かに面倒臭そうだ。貴族のパーティーなんて派手なだけで、堅苦しいイメージしかない。それに頭の悪い貴族に絡まれ、見た目麗しいミルナ達が言い寄られたりするんだろう?まああくまでアキの勝手な想像だが。ただ貴族筆頭のベルが面倒だと言い切る以上、間違いなくそうなのだろう。
「面倒なのはアキさんが全部なんとかしてくれるので大丈夫ですー!」
「そうね!アキがなんとかすればいいわね!」
おい、丸投げはやめろ。それに「アキなら大丈夫!」っていう根拠のない自信はどこから来るんだ。変なプレッシャーをかけるのは止めて欲しい。
「そんな事より大事な事がありますわ!パーティーに出る際の順位付け!アキさん!第一夫人は当然私ですわよね!?」
うん、全然大事な話じゃなかった。
あとその話題、うちの子達が言い争う悲しい未来しか見えないからやめて欲しいんだが。しかも王女であるベルがいるのに、第一夫人は当然自分だとか言えるミルナの根性が凄い。
「ミルナさん・・・そ、その話は後にしませんか?ええ、後にしましょう。」
ベルが引き攣った笑みを浮かべながら提案する。
「そうよ!大体あんたを第一夫人にするわけないでしょうが!」
「です!これは戦争ですー!」
エレンとソフィーも第一夫人の座を狙っているらしい。
好きに戦争でもなんでもしてくれ。
「なんでもいいけど・・・その話はベルの言う通り後にしろ。」
ただこのまま放っておくと今すぐにでも戦争を始めそうだったし、さすがに口を挟んだ。というかアキはミルナ達を順位付けなんてしたくない。体面上する必要はありそうだが・・・したくはない。
ちなみにリオナは「あはは、頑張ってねー?」と敬遠気味。アリアやセシルは「アキさんの側にいれるなら順番なんて些細な事です」と我関せずと言った感じ。エリスやエリザは「自分に第一夫人は相応しくない。」と現実指向で、ルティアは「アキの心の第一夫人はいつでも私。」と意味の分からない事をほざいている。
「そ、そうですわね。ちょっと先走り過ぎましたわ。おほほ・・・ベル王女様、一先ず話しの続きをお願いしますわ。」
「わ、私も余計な事を言ってすいません。うふふ、お話を続けますね。」
どこかぎこちないミルナとベル。何か無言でお互いを牽制し合っている。
触らぬ神に祟りなしだ。そっとしておこう。
「とりあえずアキさんがベルフィオーレとユーフレインで侯爵になる事はわかって頂けたと思います。そしてユキさんからはお屋敷とお金を貰いました。ただこれは今のお屋敷の代わりなのでお屋敷が増えるわけではありません。」
その通りだ。今の屋敷はユキが出入りしている事がバレているので安全とは言い難い。それにユーフレインに行く度に襲撃を気にしなければならないのは面倒。だから褒美にかこつけてユキは新しい屋敷をくれたのだ。
「はい、それは問題ないと思いますわ。私としてもその方が安心です。」
新しい屋敷に移る事についてはミルナ達も特に文句はなさそうだ。
「はい。ですが問題は使用人です。それも獣人の。」
「「「そう(ですね)(だね)ね。」」」
エリザ、セシル、リオナが照らし合わせたように口を揃えて頷く。
「そしてユキさんは間違いなくアキさんが好きそうな可愛い獣人の使用人を用意してくるでしょう。」
「「「して(きますね)(くるね)くるわね。」」」
3人とも仲良しで嬉しいぞ。でも何もそこまで声を揃えなくてもいいだろ・・・。
「私もアキさんの獣人趣味には呆れますが・・・正直使用人不足は否めません。何故なら私が領地をお渡しする際、領主としてのお屋敷もお渡しする事になるからです。」
だから獣人趣味って言うな。
だがベルの言う事はもっともで、アキは管理する領地に当然屋敷を持つ事になる。そうなると、エスぺラルドの本宅、ミレー王国の屋敷、温泉地の別荘、ユーフレインの屋敷に加え、領地の屋敷が増える。さすがにアリア、シャル、ナギ、ジーヴス、ユミーナの5人でそれらを全部管理するのは難しい。そもそもアリアは断固としてアキの世話しかしない。つまり実質の使用人数は4人だ。
「甚だ遺憾ですが・・・使用人は増やす事になるでしょう。そしてどうせアキさんの事ですから獣人の使用人を増やすに決まっています。はぁ・・・」
溜息を吐くな。獣人が好きなんだから仕方ないだろ。