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「さて・・・なんの話をしてたっけ?脱線させるなよな、ベル。」
「えーっと・・・話しが盛大に脱線したのはアキさんのせいなんですけど・・・?」
こめかみに薄っすらと青筋を浮かべ、頬を引き攣らせるベル。
「あ、もふもふ帝国の・・・」
「それはもういいです!いい加減真面目にしなさい!」
ベルの堪忍袋も限界のようだ。
ちょっと悪ふざけが過ぎたらしい。
「はい・・・じゃあベルよろしく・・・」
とりあえずベルに丸投げした。
「もぅ・・・わかりました。私が話します。それにこれ以上アキさんに任せると永遠に獣人の素晴らしさを語りそうですしね・・・」
「さすがベル。その通りだ。そもそも獣人の使用人が増える事を話すにあたり、俺が取り乱さないとでも思ったのか!そんなの無理に決まってるだろ!」
大体そのくらいは予想しておいて欲しい。
アキが落ち着いてそんな話を出来ると思っている時点で間違っているのだ。
「そのドヤ顔が果てしなくムカつくんですが・・・殴ってもいいですよね?」
ベルが怖い。
殴られる前に黙るとしよう。
「・・・リオナの尻尾をモフモフして静かにしておきます。」
「ええ、是非そうしてください。」
ベルが優しく微笑んでくる。目はまったく笑ってないけど。
「では、みなさん。今日ユキさんの所であった事を簡単に説明します。」
「・・・リオナ、モフモフさせて。」
「ま、まだモフるの?まあ別にいいけどさ・・・はい、尻尾。」
「えっと、まずユキさんは・・・」
「もふもふ・・・ねえ、リオナ?語尾にモフってつけて?」
「な、なんで!?意味わかんないよ!」
「爵位をアキさんに・・・ですね・・・」
「だってなんか可愛いから。あ、『ワン』でもいいよ?」
「私は犬じゃないよ!?狼だからね!?」
「だから・・・えっと・・・その・・・爵位をですね・・・」
「『犬じゃないワン、狼だワン』って言って?」
「やだよ!!言わないよ!?」
――スパーン!
「アキさん!!うるさい!!!」
ベルにおもいっきり頭を引っ叩かれた。
「ベル、痛い。俺はモフモフしてただけなのに・・・」
「どこか『だけ』ですか!うるさいんですよ!人が大事な話をしようとしているんです!!なんで静かに出来ないんですか!!!」
――バシッ!ベシッ!
おい、ボコスカ人の頭を叩くのをやめろ。意外に痛いんだぞ。
「この暴力王女・・・」
「今なんて言いました!?屋敷から叩き出しますよ!?」
「え、いや、ここ俺の屋敷・・・」
「あ!?」
うちの王女様、何時の間にこんな暴力的になったんだ。
あのお淑やかなベルを返して欲しい。
「リオナ・・・ベルが怖い・・・もふもふ・・・」
「え?いや、うん、アキが悪いよね?反省しようね?」
「する・・・もふ。」
「あのね、反省するなら尻尾は離そうね?」
「やだ。」
「もう・・・じゃあ静かにしようね?」
「ん、する。」
リオナに抱き着いておもいっきり甘えてみる。
「えへへ、アキ子供みたいで可愛い。」
それが嬉しかったのか、リオナはよしよしとベルに引っ叩かれたところを撫でてくれた。
「リオナ優しい。どこかの王女とは違う。」
――スパーン!
うん、悪かった。悪かったからもう殴らないでもらえませんか。
「すいません。ベルさん、続きをお願いします。」
「よろしい。静かにしてるのであれば文句は言いません。」
――スパーン!
「おい・・・今なんで余分に1発殴ったんだ。」
「『ベルさん』と呼んだからです。ベルです。」
それはただの八つ当たりでは・・・っていうか理不尽だ。
うん、もういいや。
口答えしたら際限なく殴られそうだし、黙ってリオナをモフっておこう。