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「狐!」
「・・・・・・は?」
間の抜けた声を出すベル。
予想外の答えが返って来て肩透かしを食らったようだ。
「うちには狐が足りない!」
アキはここぞとばかりに捲し立てる。
「獣人と言ったら狐だろうが!!!何故うちには狐がいなんだ!!」
「「「・・・」」」」
アキの発言に茫然自失と言った感じで立ち尽くすミルナ達。
「リオナ!狼!」
「え、あ、うん?」
「セシル!兎!」
「そ、そうですね?」
「エリザ!にゃんこ!」
「にゃんこいうな!猫人族よ!」
「そしてここにはいないが・・・ナギはわんこだ!狼、兎、犬、猫がいて狐がいないのはどう考えてもおかしいだろ!小動物系はルティアとエレンがいるから百歩譲ってよしとしよう。だが狐がいないのは納得いかない!」
狐と言えば獣人系で代表のもふもふ。それが居ない事にずっと納得がいってなかったのだ。街中では見かけるのに・・・何故うちにはいないのか。それが果てしなく納得がいかない。
「そもそも俺としては獣人系はフルコンプしたいんだよ!羊とか鼬とか!ついでにいうなら鳥人族!龍人族!妖精!その辺がいないのも納得いかない!!!わかったか!!!」
まあ龍や妖精は見かけた事ないので本当にそう言った種族がいるのかわからない。だがハーピィや鳥系の種族は稀に見かけるのでいるのはわかっている。
そもそも異世界と言えばモフモフの獣人だろう。それなのにフルコンプ出来ていないのには納得がいかない。別に嫁に欲しいと言っているわけではない。モフモフさせてくれる程度の知り合いが欲しいのだ。
「ふぅ・・・どうやらベルもわかってくれたようだな。」
言い切った。スッキリした。
「はぁ!?」
部屋に響き渡らんばかりの声でベルが叫ぶ。
元気だな。
「微塵もわからないですけど!?」
「・・・え?」
「なんで『こいつ頭おかしいの?』みたいな顔してるんですか!わかるわけないでしょう!馬鹿なんですか!!!」
人がせっかく懇切丁寧に獣人族のありがたみを説明してやったというのに・・・むしろ何故わからないのか。文句を言いたいのはアキの方だ。
「なあリオナ、普通わかるだろ?」
さすがに狼人族であるリオナなら狐の必要性はわかるだろう。
「え!?全然わからないよ!?」
おかしいな。わからないらしい。
「狐、必要だろ?」
「なんで!?しらないよ!?」
「リオナの故郷に狐の美少女はいないのか?」
「い・・・いないよ!」
一瞬口籠った。
そうか、いるのか。
「よし、今すぐいこう。」
「いかないよ!?」
「紹介・・・」
「しない!」
「頂戴?」
「あげないよ!!」
「黙って俺によこせ。」
「駄目!!!私は悲しいよ!!!」
絶対にアキには紹介しないという強い意志を感じる。だがこの程度で諦めるわけにはいかない。モフモフの狐さんはどうしても欲しいんだ。
その為になら・・・
「リオナさんお願いします。この通り私にモフモフ狐の美少女を紹介してください。」
今こそが人生で初めての土下座の使い時だろう。
「ちょっと!何してるの!」
「土下座です。」
「い、いやそれは見ればわかるけど!アキは今まで何があってもそう言う事しなかったじゃん!アキ凄いなって思ってたのに!どうしたのさ!」
どうしたもこうしたもない。
「狐様の為ならなんでもする。」
当然だ。
「プライド!アキはプライドないの!?」
「そんなものはミルナのおっぱいにくれてやった。」
「ちょっと!?そんなもの貰った覚えはありませんわ!!というかちょくちょく人の胸を貶すのやめて頂けません!?」
大事な話をしているんだ。会話に入ってくるな。
「ミルナうるさい。」
「ミル姉うるさいよ!」
どうやらリオナも同じ気持ちだったらしい。
「理不尽ですわあああ!!!」
うん、理不尽なのはわかっている。まあミルナの事はあとで甘やかしてやろう。だがとりあえず今は狐の方が大事なのだ。ミルナを慰めている暇はない。
「リオナさん!この通り!狐さんを嫁にください!」
「ダメだよ!大体お嫁さんはもういっぱいいるでしょ!!!」
「リオナ大好き!いっぱい大事にするから!!」
「えへへ・・・やった・・・じゃなくて!ダメ!!誤魔化されないんだからね!」
「じゃあとりあえず紹介!せめて紹介だけでも・・・!」
「え・・・う、うーん・・・ま、まあ紹介するくらいなら・・・?」
リオナが折れた。
よし、上手くいったようだ。最初に絶対に断るであろう要求をしておいて、次にハードルをさげた要求をする。最初に断ったという罪悪感から次は断りにくくするという詐欺師がよく使うあの譲歩的要請法だ。
「リオナさん!アキさんに騙されてますよ!」
「はっ!?」
「・・・ちっ。このKY王女め。」
せっかくこの狼を言い包められそうだったのに・・・寸前で邪魔しやがって。
だがこういうところはさすがベルだ。よく見ている。悔しいが認めよう。うちの王女は優秀だと。KYだけどな。
「KYが何かはわかりませんが・・・何故かもの凄く腹が立ちます!!!」
「空気が(K)読めない(Y)馬鹿王女・・・あ、違う違う、本当は『綺麗(K)な嫁(Y)』という意味だ。つまりベルは綺麗だ。素敵。最高。」
「嘘吐くつもりならちゃんと吐いてくださいません!?誰が空気読めない馬鹿ですか!バカー!!!」
――パーンッ!
ベルにおもいっきり平手打ちされた。暴力を振るうなんて酷い王女だ。
「とりあえずこれで話は纏まったな?よかったよかった。」
被害は赤く腫れたアキの頬だけ。
「今のどこに纏まった要素あったの!?アキが我儘言って暴言吐いて叩かれただけだよね!?ねえアキ?私は本当に、本当に悲しいよ!!」
くっ・・・この正論狼め・・・。いつも以上に「悲しいよ」を強調してくるなんて卑怯な奴だ。ベルやミルナなら「こうすればアキは弱い」っていうのをわかってやってくるから適当にあしらう事も出来るのに・・・この狼の場合は素でやってくるから質が悪い。余計に良心の呵責を感じるじゃないか。
「でも・・・俺には狐をモフるという使命が・・・」
「私じゃ駄目なの?」
「ダ、ダメじゃない・・・けど・・・多様性を・・・」
「ふーん?」
耳をペタっと折り、栗鼠のように頬を膨らませるリオナ。
うん、もう無理。
「ああ・・・もう可愛いな・・・!」
リオナをギュッと抱きしめる。
「ひゃあ!?き、急にどうしたのさ!」
急に抱きしめられて吃驚したらしく、リオナの尻尾がぶわっと広がり、耳がピーンと立つ。
うん、やっぱりうちの狼は全部が可愛い。
もふもふもふもふもふ。
とりあえずモフる。
「きゃっ・・・!も、もう!尻尾と耳は優しく!!」
「俺の狼可愛い。好き。」
「わ、私も好き・・・だけど・・・もー・・・アキはモフモフの事になるとすぐ子供っぽくなるんだから・・・まあアキの狼だからいいんだけど・・・ね・・・?」
結局満足するまでリオナの尻尾をもふもふした。ついでにセシルとエリザも巻き込んでモフモフ大会を開催しようとしたのだが・・・何故か知らないけど全員に「やめなさい!ばか!」と滅茶苦茶怒られた。
残念。