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「ちなみに国の改革の方は上手くいっているのか?」
アキが助言をしてからユキは色々な改善対策や法案を施工したりしてエヴァグリーンの治安改善、景気回復に取り組んでいる。ただまだ実地から日が浅い。目に見える効果はさすがにないだろうが・・・進捗具合は聞いておきたい。
「まあ一応上手くはいってるかしら?其方に言われた通り、公共事業を商人達に発注して雇用を作ってる。孤児院の設立も可決間近だし、騎士による街の見回りも強化した・・・まあ其方に提案された事は大体やってるわ。まだ目に見える効果はないけど・・・概ね問題はない。それよりも今は貴族達の反発を抑えるのが大変なのよ。」
「ああ、なるほど。まあ貴族からの反発はあるだろうな。」
財は有限だ。市民の生活が裕福になるような政策をうてば、当然その影響はどこかにでる。この場合は贅の限りを尽くしていた貴族達。今まで真面目に仕事もせず、税を巻き上げ、裕福な暮らしをしていたのに、ユキのせいで急に「貴族としての義務」を果たさなければいけなった。つまり民の為に真面目に仕事をしなければならなくなったのだ。
そんな貴族達から反発はあるのは当然。まあ民の税金で暮らしている以上、文句を言うのは筋違いなのだが・・・今まで碌に仕事もせず、裕福な暮らしをしていた彼らからしてみれば、ユキの改革はたまったものじゃないだろう。
「そうよ。でも民のお金で裕福な暮らしをするのだから重責を背負うのは当然でしょ。何故それがわからないのかしらね。」
「ユキの言う通りだね。じゃあ今はそれを容認できない連中を掃除してる感じか?」
「うん。適度に改革を進めながら貴族達の掃除。最初は警告だけにしてあげるけど・・・それでも改善がみられない連中は処分するわ。そしてある程度風通しがよくなったら一気に改革を進めるつもり。アキ、どうかしら?」
「それでいいと思う。というかそれしかないだろうね。」
まずは国の膿を完全に出し切る。改革はそれからの方が良いだろう。その方が変な邪魔が入る事もないし、色々と円滑に進むはずだ。というよりお膝元に敵がいるというのが一番厄介だからな。
「貴族達の説得は上手くいってる?」
「ん?ええ、まあね。」
面倒だけど問題はないわとユキ。一番問題が起こりそうなところなのに、大丈夫と言い切れるユキが凄い。一体どうやってるんだろう?
「さすがだな。どうやってるんだ?」
「え?・・・あー・・・あれよ、その・・・」
言い辛そうに口籠るユキ。
「え?どういうこと?」
何か後ろめたい事をやっているのだろうか。
「だから・・・えっと・・・コホン。」
やっと言う決心をしてくれたのか、ユキは軽く咳払いをする。
そしてゴミを見るような鋭い目でアキを睨みつけてくる。
「私が決めた事に文句ある?黙って従いなさい。」
「おお・・・なるほど。」
そう言う事か。
これはあれだな、「氷姫」の方のユキだ。
「なんかこう背中がゾクゾクするな。変な性癖に目覚めそうだ。」
マゾ属性はないが、美少女であるユキにそんな目を向けられるとどこか変な気分になる。というかさすがに氷姫と呼ばれているだけはあるな。この冷たい目というかゴミを見るような目が堂に入っている。
「ば、ばかじゃないの!?へ、変な目でみないでよね!ばかっ!」
アキが指摘した途端、「氷姫様」は一転して頬を染め、そっぽを向いてしまう。
うん、可愛い。
氷姫のユキは無表情無口系王女。それも嫌いではないが、アキとしては素のユキの方が好きだ。
「冗談だ。でも『氷姫』の有効活用だな。」
「そうね・・・この顔にこんな使い道があるとは思わなかったわ。」
氷姫のユキに「黙れ」とか言われたら大抵の人間は黙って従うだろう。あれには有無を言わさぬ力がある。全てを見通しているかのような冷めた目、逆らったら許さないという無言の圧力。まあ当の本人はただ興味がないというか無表情を装っているだけなのだが・・・言われてる方からしてみれば相当なプレッシャーに違いない。
「その顔は効果的だろ?」
「ふふ、そうね。今後もちょくちょく使う事にするわ。」
「そうだな、暫くは『氷姫』のままの方がよさそうだ。」
ある程度国内の風通しがよくなったら素のユキを出して「親しみやすい王女」に切り替えればいいと思うが、それはまだ時期早々だろう。暫くはユキによる恐怖政治で良いと思う。
「そうする。」
「でも俺の前では『氷姫』はやめてね。」
「わかってる。だって其方はこっちの私の方が好きなのよね。」
ユキがくすくすと楽しそうに笑う。
「そうだな。でもまあ上手くやってるようならいいけど・・・気を付けろよ?」
ただでさえ貴族達の不興を買うような事をやっているのだ。下手に圧力をかけすぎて、いつ背後からグサッとやられてもおかしくはない。まあアキが側にいる時ならいくらでも守るが、そうでない時の方が多いのだから、ユキには気を付けて欲しい。先日も暗殺者が送り込まれたくらいだからちょっと心配だ。
「ええ、それはわかってるわ。不用意に出歩かないようにしてるし、其方がいない時は特に注意してる。」
「そっか、それならいい。」
「・・・私の心配をしてくれてるの?」
「うん?そんなの当然だろ?」
「そ、そう・・・」
ユキが小さく微笑む。どこか嬉しそうだ。
ただそれと反比例してベルが果てしなく不機嫌そうだが。
まあそれはさておき、大分話が逸れた。
「何の話をしてたんだっけ?」
「爵位でしょ?」
「あ、そうそう。爵位をくれるんだったな。ユキ、本当にいいのか?」