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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第二十八章 国家会議に向けて②
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25

「それでベルを襲った奴の領地をくれるの?」

「はい。」


 確か公爵家だった気がする。名前は・・・忘れた。


「誰だっけ。」

「ブレスレルド公爵ですね。」

「あ、それそれ。」


 確かそんな名前だった。まあベルを殺そうとした奴の事なんて覚えておく価値なんてないしな。むしろ記憶領域の無駄使いだ。


「ちなみにあの後どうなったの?」

「はい、アキさんが公爵を始末した後、公爵家は取り潰しになりました。家族は処刑していませんが・・・爵位は剥奪。平民に落としました。」


 なるほど、そんな事になっていたのか。あの時の後始末は全部ベルが引き受けてくれたので何も知らなかった。


「手間かけてごめんね。」

「いえ、むしろ命を救って貰ったんですからお礼を言うのは私です。それに私の国の貴族がした事ですので私で対応するのが当然です。」


 それが国を統べる者としての義務だとベルが言い放つ。


 確かに正論だ。国民が安心して暮らせる国を作るのが税金で生活している王族としての義務。反乱分子の鎮圧や粛清も当然それに含まれる。アキが変に気にしたり謝ったりする方がお門違いと言う訳か。


「でも取り潰しか・・・禍根は残ってないの?ベルが恨まれるのは嫌だよ?」

「ふふ、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。そのあたりはお父様が上手くやってくださっているので安心してください。」


 まあベルが大丈夫だと言うのならこれ以上心配する必要もないのだろう。


「それにアキさんはまだ貴族じゃないです。だから『今は』何も知らなくていいんですよ?」

「あ、確かにそうだな。」


 ベルの言う通り、アキはまだ正式に爵位は授与されていない。そもそもこの事件があった時なんてベルの婚約者ですらなかった。それこそ本当にただの平民だ。貴族でもないのに王家や公爵家のお家騒動に首を突っ込む方がおかしい。


「ふふ、そう言う事です。」


 ただ明日明後日にはおそらく貴族になるし、ベルと結婚した暁にはそんな事は言っていられなくなりそうだ・・・まあそれについては追々考えるとしよう。


「じゃあこれについては気にしない事にするよ。それより爵位の件、よろしくね。」

「はい!むしろ国家会議の前に気付いてよかったです・・・明日にでもお父様に打診して即日授与してもらいます。領地の話は・・・また後でいいですか?」

「うん、授与して貰った後にみんなで話そう。」


 しかしいよいよアキも貴族になるのか。そう思うとなんか感慨深い。まあいよいよと言っても、ベルフィオーレに来てからまだ1年も経っていないんだけど。それに正直自分に貴族の器があるかと言われると疑問が残る。だがベルの隣に立つのに必要な事なら断る理由はない。甘んじて受け入れるだけだ。


 さて、ベルフィオーレの方はこれで良いとして、問題はユーフレインの方だ。


「話は終わった?まったく、其方達はすぐイチャつくんだから・・・」


 ユキがやれやれと言った表情で呟く。


 アキとしてはイチャついていた気はさらさらないんだが・・・反論したところで勝てる気はしないし、やめておこう。


「でもユキのおかげで助かった。問題が起きる前に爵位の事に気付けたしね。」


 ユキが爵位云々言わなければ、ベルも忘れたままだっただろうし、もっと後回しになっていたに違いない。


「別にいいわよ。でもそっちは羨ましいわ。馬鹿貴族が少なそうで。」


 ユキが心底疲れた顔で溜息を吐く。どうやらその「馬鹿貴族」とやらに相当苦労しているようだ。


「やっぱ多いのか?」

「それはもう。私が王女を辞めたい理由の1つよ。」


 エヴァグリーン王国の治安は決して良くない。ユーフレインにある他の国も似たり寄ったりで、ベルフィオーレと比べると雲泥の差なのは明らかだ。


 そしてそれと比例するように、愚王や馬鹿貴族の数も多いらしい。まあまともな統治者ばかりだったら戦争なんてする前に自国の問題に取り組むだろう。経済はガタガタ、市民の幸福度も低い、犯罪も蔓延しているし、失業者数も多い。そんな状況を改善しようともせず、堕落した生活をしている貴族、領土を広げる事にしか興味のない大臣や国の重鎮。


 うん、これは嫌気がさすのも頷けるな。


「真面目に『王女』するのが馬鹿らしくなるな。」

「ほんとにそうよ。民の生活を改善しようとすると自国の貴族達からの反発が凄い。逆に貴族を優遇すると市民を敵に回す。そして自国にばかり目を向けていたら隣国が戦争を仕掛けてくる。もうこんな国、潰れた方が良いと思うもの。」


 これはさすがに同情する。自分もこんな世界の王族ならとっくに逃げ出しているだろう。最初ユキに会った時は「やる気のない王女だ」と酷評したが、今ではこんなどうしようもない「詰み」のような状況でよく逃げずに王女をしていたとむしろ尊敬するくらいだ。


「ねえ、其方の神器の力を使えば・・・この世界くらい潰せるわよね?」

「まあ・・・出来るか出来ないかで言えば出来るけど。」


 やるつもりは毛頭ないが。


「やってと言ってるわけではないわ。でもそれを其方がやっても私は其方を責めない。それくらいこの国には辟易してるんだもの。」

「でも今は頑張ってるじゃないか。凄いと思うぞ?」

「そ、そう?まあ其方が来てくれたおかげよ。あとベルさんの国を見れたのは大きいわね。」


 どうやらユキは精神的に結構ぎりぎりだったのかもしれない。幸いにもアキと出会って今は踏みとどまってくれているが・・・もう少しユーフレインに来るのが遅かったら、ユキに接触するのが遅かったら、彼女は王女を辞めてしまっていたかもしれない。


「そうか、それならよかった。無理してユキに会った甲斐があったよ。ちなみに今はどんな感じ?国の改革の方は上手くいっているのか?」

挿絵(By みてみん)

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