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「・・・というわけですまなかった。俺が犯人だ。」
「へー・・・?犯人は其方だったのね?」
そっかそっかといった感じでユキが素っ気ない返事を返してくる。
動揺した様子もない。
あれ?
「ああ、ごめんね。それでお金を・・・」
ユキに怒る様子が全くないのはどういう事だ。アキはとりあえず金貨が入った袋をテーブルの上に置く。
「んー・・・それはいいわ、其方にあげる。お金は私の私財から補填しておいたから大丈夫。それに其方もこっちでの活動資金はいるでしょ?だから持っておきなさい。あ、でも足らないならいつでも言ってね。用立ててあげる。」
怒るどころか、弁済すらいらない言い始めた。さらにはお小遣いまでくれるだと・・・?アキとしては非常に助かる。助かるが・・・さすがにそれは申し訳ない気がする。
「ちょっと!?ユキさん!!!なぜ怒らないんですか!今こそ極刑!極刑にしましょう!」
何故かユキではなくベルが騒ぎ出した。何やってんだうちの王女。
「おい、お前はどっちの味方だ。この馬鹿王女。」
しかも何故煽る。せっかくユキが穏便に済ませてくれようとしてるのに。
「アキさんは黙っててください!こっちはアキさんが怒られてしょんぼりするところが見られなくて憤慨してるんですよ!怒られたアキさんを慰めるまでが私のお仕事でしょうが!」
「うるさい、もう黙れ。」
ベルの頭をビシッと引っ叩く。
「いっ・・・った!アキさん!叩かないでよ!!!」
アキの膝の上に座っているベルが涙目で睨んでくる。
というか何故この子は当然のようにアキの膝の上に座っているのか。むしろこっちが色々と文句を言いたいくらいなんだが。
ちなみにユキの私室へ訪問するのはこれで4回目。1回目はエリザとルティアと初めて来た時の事で、その時は特筆すべき事は何もなかった。まああの時は部屋を訪問するのが目的だったから当然だろう。
ただ問題はその次、2回目からだ。ユキのところへはベルを連れて行く事にしたと決めたのは先に言った通りだが、その度にベルがユキに対抗心を燃やすので困っている。アキを自分のものだとマーキングするかのようにユキを威嚇する。さらにはアキの膝の上が自分の定位置と言わんばかりに当然のように座ってくるようになった。正直もうベルを連れて来るのはやめようかと思ってしまうレベルで鬱陶しい。同行者をアリアやセシルにしたほうが遥かによかった気さえする。
まあベルの変態行動は今に始まった事じゃないのでおいておこう。というより面倒なので現実逃避しておく。それよりユキがお金の事で怒らなかったのが予想外だった。少しくらいは嫌味を言われると思っていたのに、そう言った気配はまったくない。今も何食わぬ顔でお茶を淹れてくれている。なんでだろうか?
「むー・・・なんでユキさんは怒らないんですか。納得いきません。」
そのせいでベルが拗ねている。というか拗ねる意味がわからない。どんだけアキが説教されてるところ見たかったんだ。
「其方は本当に大変ね。どう?やっぱり私に乗り換えない?私も面倒な女だとは思うけど・・・多分その子よりはましよ?」
確かにユキも面倒だ。我儘だし、面倒臭がり屋だし・・・うちのベルといい勝負だろう。まあお互いに王女という重責を背負っている時点でそれはしょうがないとも言える。ただ「自分は面倒な女」だと理解している時点でベルよりはましかもしれない。
「ほう、魅力的な提案だな。」
「でしょう?」
「だ、だめ!!!アキさんは私の!私のだもん!!!」
絶対に渡さないからとベルが叫ぶ。
そんなベルの様子を見たユキがやれやれと言った顔で呟く。
「まったく・・・冗談よ、落ち着きなさい。そもそもアキはベルさんの事が大好きなのよ?私につけ込む隙なんてないのわかるでしょ?仲睦まじくて羨ましいから揶揄っただけ。そんな必死にならなくてもいいじゃない。」
「そうだぞベル。」
普段は優秀なのにアキの事が絡むとてんで駄目になるベル。まあそんな彼女だからこそ愛らしいと思ってしまうのだが。
「むー・・・それならいいんですけど。ねえ・・・アキさん、ほんとに私の事、好き?」
ベルが上目遣いで聞いて来る。
悔しいが可愛い。
「ああ、はいはい、好きだよ、大好き、ちゅっちゅ。」
ただそれを認めるのは何か癪だったので、適当にあしらっておく。
「なんでそんな適当なんですか!?やり直し!今すぐやり直しを要求します!!」
アキの態度が納得いかなかったらしく、胸倉を掴んでグワングワンと体を揺すってくるベル。
「ねえ・・・私の部屋でイチャイチャするのやめてくれないかしら・・・」
そして頬を引き攣らせているユキ。
「すまん。それよりユキ・・・お金の事、なんで怒らなかったんだ?」
とりあえず話しを戻す。
ユキに怒られたかったわけではないが、やはり理由は気になる。
「其方がやったんだろうなってなんとなくわかってたもの。」
「あれ?そうなのか?」