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エレンがアキを視認する少し前、アキはやばいなと感じていた。
「へえ、確かにしぶといじゃねーか。」
Aランクの禿の攻撃を何度かいなして回避には成功していたが、やはり高ランク相手だと体力が持たない。それに集中力もそろそろ不味い。あと数回、多くて3回くらしか躱せないだろう。それまでにミルナ達が来ないとゲームオーバーかも……と苦笑する。
「いい加減、Aランクの面子もあるしな。本気でいくぜ。」
禿は上段から切りかかってくる、アキは全力で水弾を飛ばし攻撃の軌道を出来るだけ左に逸らす。そしてアキ自身は思いっきり右に飛ぶ。地面を転がるがすぐに体制を整え、禿に向き直す。幸いにもCランクの長髪はAランクに任せると決めたようで追撃には来ない。
「あと2回……。」
アキが呟くと同時に次の斬撃がくる。今度は横薙ぎなので軌道をずらす効果はあまり無い。再度水弾を撃ち込み今度は攻撃速度を阻害する。短剣を両手で構え、魔法で風を圧縮させて短剣の周りに壁を作る。攻撃は無事短剣に当たるが、激しい衝撃がアキの腕を襲う。攻撃を受けきれずアキの体が飛ぶ。しかし斬撃自体は防いだので致命傷ではない。ただ腕が痺れているし、足も動かなくなってきた。もう魔法の発動くらいしかできない。
「次で決めるぜ。いい加減死ねやー!」
禿が上段に剣を構えて振り下ろしてくる。
「……アキ……」
エレンの声が聞こえる気がする。冒険者たちの背後をチラッと見ると銀髪のツインテールが見えた。来たか。だがこの1撃耐えられるか。足は動かないから避けられない。受けるしかない。だが腕も痺れている。アキは最後の力を振り絞り自分の短剣を禿の剣の軌道に入れる。さらに視力強化等の身体強化魔法も解除し、自分の魔素を全て風魔法に注ぎ込み壁を展開する。
「くっ……」
アキは両手で禿の剣を受け止める。全身に衝撃が走るが必死に持ち堪える。
「防ぐか、だが今回はここからだ!」
そう言って禿は剣を手放す。そして短剣に持ち替え、刺突を放つ。
アキの腹部に短剣が突き刺さる。
「アキー!」
禿を背後から思いっきり蹴飛ばして、アキとの間にエレンが割って入る。アキの腹部には剣が刺さっている。エレンは泣きそうになるの必死に堪えてアキに呼びかける。
「アキ、大丈夫?アキ!生きてるの!返事しなさい!」
「なんとかね……?」
弱々しい声でアキが答える。
禿が短剣を一切使ってない時点で、最後に短剣での攻撃が来る事は予測していた。だが避けられないだろう事もわかっていた。だから刺されるにしても致命傷にならない場所で受けようと考えていた。おかげで咄嗟に体が動いた。アキは必死に体を捻って致命傷にならない腹部で剣を受けた。もちろん早く処置をしないと命に係わることは間違いない。だがエレンが来てくれた。
「でもちょっと疲れたよ……もう休んでいい?」
「ええ、すぐ終わらせるから。待っててね、アキ。」
エレンが優しく微笑む。目の前にあの綺麗なオッドアイがある。安心する。もうアキは何もしなくていい。アキは倒れたまま目を閉じる。
エレンは涙を拭い、短剣を構えて振り返る。
「許さないから。」
「エレイナか、邪魔するなよ。弱っちいそいつなんかいらないだろ?」
「黙りなさい、アキは弱くないわ。彼は強い。あなたたちの誰よりも。」
「はあ、頭は大丈夫か?みろよ、どこが強いんだよ。」
そう言って冒険者達は笑う。
エレンは静かに落ち着いた口調で答える。
「戦闘では弱いわ。ほんとにね。」
「だろ!やっぱ、弱いんじゃん!」
「でも強いわ。誰よりも。それがわからないからあんたたちは弱いのよ。理解する必要なんてないわ。してほしくない。」
「意味わかんねーこといってじゃねーぞ!」
「別にわかって貰おうと思わないもの。彼の剣が弱いというのならこの私が彼の最強の刃になるわ。だから覚悟しなさい。あんた達は殺す。本当に殺す。」
エレンは今までにない殺気をその一言に込める。
その殺気を受けて禿が剣を振りかぶる。エレンも短剣を構える。だが次の瞬間、2人の間に矢が一本突き刺さる。
「エレン、おいてかないで。」
ソフィー、ミルナ、レオも追いついたようだ。
「ソフィアルナちゃん!弱えやつならもう倒したぜ!」
Dランク冒険者の1人が叫ぶ。
「そうそう、弱いやつなんか放っておいて俺たちと組もうぜ。」
「俺たちの方が絶対いいって!みろよ、だせーだろ。」
他のDランク連中も笑いながら言う。彼らはミルナやソフィーが自分達に感謝すると疑ってないようだ。
「馬鹿な連中。そんなこと言っちゃったらもう私じゃ止められないわよ。」
エレンが呟く。とは言ってもエレンに止める気なんてさらさらない。
「うるさい、黙れ。」
ソフィーが呟く。いつもの口調とは違う端的で乱暴な言葉だ。
「え、ソフィアルナちゃん?」
「私の名前を呼ぶな、気持ち悪い。」
「そんな!せっかくソフィアルナちゃんの為に!」
冒険者連中がソフィーの変化に驚いていると、いつの間にかアキの側まで移動していたミルナが口を開く。
「それが間違っていらっしゃるんですわ。私達がいつお願いしましたの?」
「え、だって困ってるだろ、弱いやつに付きまとわれて。」
「私達が好んで一緒にいるんですわ。何か問題でも?」
「なんでだよ!弱いんだぜ、男は強いほうがいいだろ!」
ミルナはわざとらしく溜息を吐く。
「そんなこともわからないあなた達とは話すことはもう何もありませんわ。ただ一つだけ教えてあげます。」
そう言ってミルナはアキを優しく抱き寄せる。
「あなた達が何十人いても、彼には絶対敵いません。私達はそれくらい彼が大好きですから。もし彼を傷つけるというのであれば、私は彼を癒す光となりましょう。」
ミルナはアキを優しく愛おしそうに抱きしめながら治癒魔法をかける。
「ソフィアルナちゃんは違うよな?」
まだ諦めていないのかソフィーに絡む低ランクの冒険者。
「しゃべるな。あなたの声なんか聞きたくない。」
ソフィーは微かに目に涙を浮かべながら見た事のないくらい怒った表情をしている。
「私は今まで人を殺したいと思ったことはありませんでした。ごめんなさい、お母さん。今日私は人を殺します。でも後悔はありません。だからいいですよね?」
「そんな!ソフィアルナ!待てって!」
「ゴミが私を呼ぶなあああ!」
ソフィーが激高する。彼女の激変ぶりに冒険者達は驚愕する。
「ふぅ……取り乱しました。エレンが刃、ミルナさんが光となるなら私は全てを射抜く彼の弓となります。覚悟してください、許しませんから。殺す、絶対殺す。」
ソフィーがいつもの笑顔を見せる。ただし何の心も籠っていない笑顔。
「やれやれ、僕だけ蚊帳の外だよ。別にいいけどね、貴方達に好かれたいとも思わないし。エレンが刃、ミル姉が光、ソフィーが弓だっけ。じゃあ僕は盾かな。彼からもらったこの大剣で彼を守る盾になる。」
レオが静かに語る。
「僕も許せないからね、殺すよ?」
エレンとミルナが短剣を構える。ソフィーが弓を、レオが大剣を。
そして彼女達は生まれて初めて人を殺した。




