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「とりあえずシズ、そろそろ剣の代金を貰ってもいいか?」
「あ、うん!ちょっと待ってて、すぐ取ってくるね!」
そう言って駆けだそうとするシズを止める。
「待って、シズ、鉄のインゴッドも5本くらい貰えないかな?」
「え?うん、そのくらい別にいいけど・・・なんで?」
「いや剣に使った素材を補充しておきたくて。15万金も請求しておいて図々しいかもしれないけど・・・お願い出来るか?」
理由は適当に誤魔化す。
「なるほどね!全然いいよ!じゃあちょっと待ってて!」
そう言ってシズは屋敷の中へ入っていった。
しかしあっさりと承諾してくれてよかった。しかもインゴッドも今日貰えるらしい。てっきり後日になると思ったのに、屋敷に在庫があるのだろうか。というか希少金属でもないのになんでそんなもの屋敷においてあるんだ?なんか貴族って凄い。
「ユキに返す金、何とかなりそうだな。」
「そうね。でもさすが貴族様よ。アキ君が提示した金額をあっさり払えるんだもん。」
お金持ちはやっぱり違うわねとエリザ。
「まあ俺達も金持ちだと思うんだけど。」
ユーフレインでは貧乏だが、ベルフィオーレでは間違いなく金持ちの部類に入るだろう。
「まあそうね。アキ君からもらったお金だけで人生数回は遊んで暮らせるもの。」
ミルナ達同様、当然エリザにもベルフィオーレ通貨で5000金渡してある。ユーフレインの貨幣価値に換算するなら約5万金だ。
「でもあれがなくてもエリザは高給取りだろ。」
エリザは魔法学園の学園長だし、魔法協会ミレー王国レスミア支部の支部長もやっている。間違いなくそこそこの給与は貰っているはずだ。生活に苦しいどころか、ある程度裕福な生活を送っていたのではないだろうか。
「そうだけど・・・私だけ仲間外れなんて嫌。」
「わかってる。だから渡しただろ?」
ベルの時もそうだったが、エリザにもずるいと言われてお金を渡したのだ。
「そ、そうね・・・ありがと。」
ただアキは男の甲斐性を見せると言う意味でお金を渡しているわけではない。アキの嫁になると5000金貰えると言うルールがあるわけでもない。そもそもお金をあげた最初の切欠はミルナ、ソフィー、エレン、リオナがお金に困っていたからだ。そしてアリアやセシル、彼女達にはアキの従者をして貰う為、給金として渡した。あとはエリス。彼女はミルナ達同様、お金をだまし取られて貧乏だった。
そう言う意味でこの7人は仕方ない。
だがベルは王女だからお金に困っているわけがない。ルティアも普通にある程度の蓄えはあるようだった。だから正直この2人には渡す必要はなかった。ただもうここまでくるとベルやルティアにだけあげないのは不公平だという事になり、2人にも5000金。
そんな事をしていたら何時の間にか「婚約者になったら5000金」みたいな法則が出来てしまっていた。だからエリザにも当然渡した。さすがにイリアはまだだ。まあ近いうちに渡す事になりそうな気がするが。
お金を渡し始めた経緯はこんな感じだった気がする。
まあ経緯はともかく、そういうわけでうちの子達がお金に困っていると言う事はない。それにもし無駄遣いしても、アキは定期的に爺さんの商会から入金があるし、いくらでも渡すつもりではいる。大事な嫁の為だ、これくらいは当然の甲斐性だと思っている。
だがエリザを含め、うちの子達は全然お金を使わない。無駄遣いを全くしない。アキの為という大義名分があれば躊躇なく使うのに、自分の物欲を満たす為にはほとんど使わない。偶に自分の趣味のものを買ってくるくらいだ。今日のエレンのように。ただどれも1金もしない数十銀の買い物ばかりだが・・・
「あー・・・俺が渡したお金、もっと使ってもいいんだよ?」
「欲しい物があったらそうするわ。でもね、別に欲しい物はないのよ。だって私が一番欲しいもの・・・いえ人はここにいるもの。」
エリザが頬を染めながらそっと手を握ってくる。
この猫、急になに恥ずかしい事を・・・。まあ嬉しいけど。
「そっか、ありがと。」
「こちらこそよ。」
そう言えばミルナ達にも以前同じことを言われた覚えがある。自分達がお金を使わない理由は「欲しい物なんてないから」だと。その時はてっきり遠慮しているだけかと思ったのだが、どうやらあれは本当なのだろう。
「・・・えーっと・・・アキ?」
あれ、いつの間にかシズが戻って来ていた。
何故か苦笑いを浮かべている。
「あ、おかえり、シズ。」
「うん、ただいま!・・・じゃないよ!もう!目を離すとすぐお嫁さんとイチャイチャするんだから!見せつけないでよね!」
シズが頬を膨らませて拗ねる。
なるほど、苦笑いしていた理由はそれか。とはいえ別に見せつけてるつもりはないのだが・・・まあそう捉えられても仕方ない気もする。
「じゃあシズも俺のお嫁さんになる?」
「え!?き、急に何言ってるの!?べ、別にアキの事は嫌いじゃないけど・・・ほ、ほらアキはお友達だし!そういうのじゃないっていうか!!!」
両手をブンブンと振って慌てふためくシズ。
面白い。
ただ頬を染めているのがちょっと想定外だ。案外まんざらでもないらしい。これは本気で口説けば行けるかもしれない。口説かないけど。
というか・・・うん、不味い。何が不味いってシズがこんな反応するとアキがミルナ達に殺される。
「アキ君!!!何ですぐにそうやって女の子を口説くのかしら!!!」
ほら、エリザが冷たい目で睨みつけてくる。
怖い。
軽口叩いただけなのだから許して欲しい。それにシズには「あはは、何言ってるのさ!」と適当に流されると思っていたんだ。
ただ自分の軽口のせいで過去に何度も痛い目を見ているのはわかっている。そう言う意味で反省しろ自分自身に思わなくもないが・・・シズのような可愛い子をついつい苛めたくなるのは男の性という物ではないだろうか。
「うーん・・・エリザ、ハウス。」
「なんでよ!?私は犬じゃないわよ!!!」
「ああ、猫だったな。猫缶食うか?」
「いわないわよ!!私は猫獣人なの!!!フシャー!!!」
よし完璧だ。これで誤魔化せ・・・てないな。
エリスが不機嫌そうに頬を膨らませてこっちを見ている。どうせルティアも影で拗ねているのだろう。これは帰ったらまた説教に違いない。
まあとりあえず用事も済んだ事だし、引き上げるとしよう。
「シズ騒がしくて悪かった。そろそろ行くよ。」
「そ、そっか、お茶も出さないでごめんね?はい、これお金と鉄だよ。」
少しだけ寂しそうな表情でお金と鉄が入った袋を渡してくるシズ。
「シズ。」
「なに?」
「今度来た時はお茶御馳走してね?」
「う、うん!もちろん!いつでも来てね、まってる!」
「ああ、またな。」
ただ問題はミルナ達にどう言い訳してシズの屋敷に来るかだ。シズと2人きりでお茶するからとか言っても無駄なのはわかっている。あいつらは絶対について来ようとする。別に連れてきてもいいんだが、あの子達がいると騒がしくて仕方ない。




