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「痛い・・・」
ベルに引っ叩かれた頬がまだ痛い。
「いや、さすがにあれはあんたが悪いわよ?」
隣を歩いているエレンが呆れ顔だ。
「そうか?」
「そうよ。ベル王女の下着ばら撒いておいて早く片付けろって・・・鬼畜の所業じゃない。っていうかあんたじゃなきゃとっくに不敬罪で極刑になってるわよ。」
「ふふん、俺だけに許された特権だな。」
「なんでドヤ顔なのよ・・・でもまあそうね。アキがやる分には許されるわ。ベル王女もミルナ達もアキが大好きだから・・・わ、私を含めてね。って何言わすよのよ!!!」
何も言わせてない。不評被害も甚だしい。まあとりあえずエレンのツンデレ語を翻訳すると、「アキがやりたいならやってもいいけど、程々にしてよね。恥ずかしいんだから」ってことだな。
「はいはい。」
ちなみに今はエレンとガランの工房へ向かってミスミルドの街を歩いているところだ。ミルナやベル達も一緒に行くとうるさかったのだが、留守番させた。連れてきたのはエレンだけ。つまりエレンと2人きり。
これに特に理由はない。単純に偶には水入らずでデートしたかっただけだ。勿論ミルナやベルでもよかったのだが、最近はエレンと過ごす時間が少なかった気がしたのでエレンにお願いした。
「何ぼーっとしてるのよ。」
そう言ってアキの手を握ってくるエレン。
「エレン」
「なによ。」
「エレンとデートできて嬉しいぞ?」
「ば、ばっかじゃないの!街中で何言ってるのよ!!」
顔を真っ赤にしながら文句を言ってくるエレン。
「そ、それより早くいくわよ!」
そうは言いつつも、エレンは急ぎ足になるわけでもない。
むしろ遅くなったくらいだ。
「ふふ~ん♪」
そして鼻歌まで歌い始めた。
なんというか・・・相変わらずわかりやすくて可愛い。
「そんなに急がなくても大丈夫だよ。少し寄り道してく?」
「へ?ま、まあアキがそう言うならいいけど・・・あ、でも仕方なくなんだからね!本当はめんどくさくて嫌なんだから!!!」
必死に意地を張るツンデレエレンが微笑ましい。
「エレン。」
アキはそんなエレンをぽんぽんと撫でてやる。いい加減素直になれという意味だ。意地っ張りなエレンも悪くないが、2人でデートしている時くらいは素直になって欲しい。
「・・・うん、その、いっぱいデートしたい。」
顔を真っ赤にして、目をギュッと瞑りながら小声で呟くエレン。
「それでいい。エレンの行きたいとこへ行こう。どこへ行きたい?」
「えっと・・・お買い物。あ、でも洋服は嫌よ。こ、小物とか見に行きたい。」
「アクセサリー?」
「それでもいいけど・・・新しいぬいぐるみ欲しい。アキに選んでもらいたい。」
そういえばエレンの部屋には可愛いぬいぐるみがいっぱいおいてあったな。
「俺が選ぶのか?」
「うん。だってアキに選んでもらったやつないもん。」
「わかった。」
「ちゃ、ちゃんと私が気に入るの選びなさいよね。」
エレンがぷいっとそっぽを向く。
「んー・・・俺が選ぶのはやめておくよ。」
「な、なんでよ!選びなさいよ!!!」
「エレンと一緒に選びたいからね。」
アキがそう言うと、エレンの顔が一瞬で茹蛸のようになる。漫画でいうボフって効果音が聞こえてきそうだ。
「な、なによそれ・・・ばかじゃないの・・・」
いつまでたっても初々しいエレン。さっきから顔を真っ赤にしてばかりだ。
「駄目か?」
「だ、だめじゃない・・・うん、だめじゃない・・・」
そう呟くとエレンは何かを決心した目でアキを真っ直ぐ見つめてくる。
「どうした?」
「ごめん、素直になれなくて。でももう大丈夫。今日はアキにいっぱい甘えるわ。」
一通り照れて恥ずかしがってどうやら色々と吹っ切れたようだ。
「じゃあエレンはどこ行きたい?」
「一緒にお昼食べたい!あとは冒険者協会の訓練場でアキと模擬戦したい!あとはあとは・・・」
一度吹っ切れるとエレンはもう止まらない。もの凄く素直で、デレデレになる。なんというかエレンはツンとデレで両極端だ。開けてはいけないパンドラの箱を開けた気分になる。まあとりえあえずエレンが行きたい事、やりたい事を片っ端からやるとしよう。
「アキ?どうしたの?」
「ん、いや。それ、全部やろうか。」
「い、いいの!?」
「ああ、もちろん。」
「やった!じゃあいきましょ!」
エレンはアキの手をギュッと握り直し、嬉しそうに歩き出す。