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「ベル、やばい、大変だ。」
ベルだけでなくミルナ達全員をリビングに集め、アキは話を切り出す。
「ど、どうしたんですか!?」
アキの真剣な声色に緊張の色を隠せない様子のベル。
「じ、実はな・・・」
「は、はい・・・」
「ユーフレインで活動する資金が必要だからと言う事で・・・国庫から金を拝借しただろ?それがどうやら軍事予算の一部だったらしくてな。資金が行方不明だってユキに相談されてたんだよ。その犯人を捜したいって言われたのを今思い出した。」
すっかり忘れていた。危ない危ない。
「どうしよう。」
「ば、ばかですかああああああ!!!今すぐ!今すぐ返してきなさい!!!」
ベルが立ち上がり、大声で叫ぶ。
「おお・・・朝から元気だな、ベル。」
「『はは、元気だな。』ではありません!!!アキさん!!!」
胸倉を掴み、首を絞め上げてくるベル。
「いつ!いつ言われたんですか!それ!」
「えー・・・1~2週間前かな?」
「何でそんな大事な事すぐ言わないんですか!!!」
「忘れてた。」
「忘れるなああああ!!!」
ベル、御乱心。ちょっと面白い。
「ベル、苦しいんだけど・・・」
「うるさい!!!」
どうやら国家資金を勝手に使ったのに、忘れてた事が王女として許せないらしい。まあ以前資金調達の相談した時もベルはあまり納得してなかったしな。
「あはは、ベル怒ってる。」
「こら!!!笑いごとではありません!!!」
「怒ってるベルも可愛いよ?」
「えへへ・・・って誤魔化さないでください!!!」
駄目か。誤魔化せそうだったのに。
「ごめんごめん、とりあえず首を絞め上げるのやめて?膝の上に座る?」
「わ、わかりました・・・もちろんお膝には座ります。」
しかし怒っていても甘える事だけは忘れないのが凄い。
「反省はしてる。」
実際忘れていたのはアキの落ち度だしな。本来であればユキに相談された日に金を工面して国庫へ返還すべきだっただろう。
「むー・・・ほんとですか?」
「うん、ごめんなさい。」
言い訳にはなるが、ユキをベルフィオーレへ連れてくる事で頭がいっぱいで、お金の事にまで気を回す余裕がなかったのだ。すっかり頭から抜け落ちていた。
「べ、別に本気で怒ってるわけではありません・・・その、ちょっとだけです・・・」
気まずそうにスッとアキから目を逸らすベル。
ベルが嘘を吐くときの仕草だ。まあどう考えても本気で怒ってたしな。ずっとベルといるんだからさすがにそれくらいはわかる。ただアキが少しでも落ち込むとすぐに日和るけど。
「怒ってもいいんだよ?」
「わ、わかってます!でも・・・その・・・だってー・・・」
ベルが目を潤ませてるのでそっと頭を撫でてやる。
多分「怒ってアキさんに嫌われるのはやだ」と言う事なのだろう。そんな事で嫌いになる訳はないのだが・・・ベルの気持ちはわかる。
「そんな事で嫌いになったりしないから俺が間違った事したら怒っていいよ。俺を叱れるのってベルやミルナ達だけなんだから。」
赤の他人に怒られたところで何も心に響かない。ずっと側にいる彼女達だからこそ出来る事だ。それにその程度で嫌いになるような浅い関係でもない。だからアキが何か間違いを犯したら遠慮なく言って欲しい。
「わ、わかってます・・・!アキさん!メッ!です!」
メッとか言っちゃうベル可愛い。
とりあえず膝の上に座っているベルをそっと抱きしめる。
「な、なんで抱きしめるんですか!?私は怒ってるんですよ!!!」
「可愛かったからつい。」
「も、もう・・・」
えへへと嬉しそうに頬を染めるベル。
さっきまで怒っていたのが嘘のようにご機嫌だ。
「・・・アキさん、その茶番、いつ終わります?アキさんの悪い癖ですよ、それ。」
アリアが溜息を吐きながら小言を言ってくる。
「ごめんごめん。アリアの事も後で甘やかすから。」
「違います。私は話が脱線した事を言ってるんです。本題はどうやってお金を返すかですよね。早くその話を進めてください。」
そんな事を言っているのではありませんと氷ののような目で睨んでくるアリア。
「はい。すぐに進めます。」
「で、でも甘やかされるのは・・・あとで所望します。」
「おう、任せとけ。それでお金の事だけど・・・」
とりあえずはこの件をどうするかだ。