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「な、なんで泣くんだ。」
さすがに泣くとは思わなかったので、予想外の展開過ぎてさすがのアキも慌てる。
「わ、わかりません・・・ぐすんっ・・・」
「ご、ごめん、えっと・・・なんだ・・・気を悪くさせたなら謝る。」
「ち、違う・・・違うの!」
ベルが抱き着いて来る。胸に顔を埋めながら静かに泣いているのでそっと彼女の頭を撫でてやる。
嬉し泣きかな?改めてアキに好きだとか綺麗だとか言われたのが嬉しかったのかもしれない。
「やっぱり俺のベルは可愛いな。」
「うん・・・」
それからベルが落ち着くまで数十分、アキは彼女の頭を撫で続けた。
「少しは落ち着いた?」
「うん。ごめんなさい。」
「謝る事じゃないだろ。」
「そ、そうですね。」
まだ本調子じゃないな。いつものベルに戻るまでもう少し時間がかかりそうだ。
「少し話でもしようか。このままぎゅってしてていい?」
「うん、このままがいい。」
さて何の話をしよう。
ベルに話したい事、相談したい事は沢山ある。
でも空気を読まずにそんな話をしていいのかどうか正直迷うところだ。
「アキさん、なんでもいいよ。アキさんがしたい話をして?」
アキが迷ってるのに気付いたのか、ベルがなんでもいいと言ってくれた。こんな状況なのにアキの事を気遣ってくれるベルはやっぱり優しい。
「そう?悪いな。」
「ううん、声聞いてるだけで安心するから。」
そう言われるとなんか照れる。
「ベルには色々話したい事があってね・・・最近はユーフレインの事にかかりっきりだろ?それが申し訳なくてさ。ずっとユキの事ばっかりだし。」
「ううん、いい。ちゃんとわかってるから。」
「俺にとっての王女様はベルだけ。そこは安心してね。」
「うん、それも知ってる。」
だから大丈夫ですとベルが小さく微笑む。
「わかってるならなんでいつも拗ねるんだよ・・・」
「えへへ、だって拗ねたらアキさんに構ってもらえるもん。ごめんね。」
「なるほどね。まあ別にいいけど。でもそれなら普通に言ってくれ。」
ベルはアキに構って貰う為に拗ねたり、いじけたりする。ミルナ達もだ。そんな事は聞くまでもなくわかっている。
「やだ。アキさんがそんな私を見て慌てて構ってくれるのが好きなんだもん。」
「趣味悪いぞ?」
「お互い様でしょ?アキさんだって私にいっぱい意地悪するし。」
「まあそうだな・・・」
それを言われると立つ瀬がない。
「だから今のままでいいの。そういうやり取りが楽しい。」
うん、ベルの言う通りだ。ベルに意地悪をして拗ねさせるのは楽しい。その後のご機嫌取りも面倒ではあるが、なんだかんだで楽しい。自分達にとってはこのままが一番だろう。無理に変える必要はないか。
「なあベル。真面目な相談なんだけど・・・」
「なあに、アキさん?」
「ユーフレインの事、これでいいのかな?」
ここ最近、ユーフレインの事に少々口を出し過ぎ、手を出し過ぎではないかと思ってしまう。他にもっといい方法があるのではと考えてしまっていた。
「いいんじゃないです?何か駄目なの?」
「ミルナ達は『アキさんのすることなら正しいです!』としか言わないだろ?でも本当にいいのかなって。余計な事してるんじゃないかって心配になるんだよね。」
ベルフィオーレの人間であるアキやミルナ達がユーフレインの事にここまで首を突っ込んでもいいのだろうか。部外者が他国の政治に口を出していい事なんてない。
「私の率直な意見言ってもいい?」
「うん、いいよ。」
「確かに介入し過ぎかな・・・とは思わなくもない。でもオリハルコンの事を調べてこっちの世界との関係性を断つのがアキさんの最終目標でしょ?それにはある程度ユーフレインで動く必要があると思うの。それにイリアさんの『お願い』もある。それを叶えるにはやっぱり向こうの国政に介入しないとどうしようもない。だからアキさんのやってる事は間違ってないよ。」
アキも同じ考えだ。それはわかっている。ただこうしてちゃんと誰かにそう言って貰えると安心する。ずっと悩んでいた事だから、誰かに「間違ってないよ」と言って欲しかった。
「そっか・・・なら俺がやってる事は余計なお世話じゃないんだよね?」
「うん。ユキさん、笑ってるよね?笑うようになったよね?だから大丈夫。何も間違ってないよ。」
「ありがと、ベル。」
――チュッ
ベルがいきなり頬にキスしてきた。
「急にどうしたの・・・?」
「ふふ、アキさんが弱音吐くのは珍しいので・・・可愛いなって思ったんです。」
くすくすと笑うベル。
しかしこういうのはなんか恥ずかしい。
「・・・エッチな格好してる癖に。」
「ちょ、ちょっと!?何でいい雰囲気なのにそう言う事言うんですか!また泣きますよ!私泣きますからね!?」
「ごめんごめん、恥ずかしくてつい。」
「もう!ついじゃありません!私だって恥ずかしいんですからね!」
文句をいいつつも、ベルは嬉しそうに笑っている。どうやらいつもの調子が戻ったらしい。すっかり平常運転だ。




