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さてナギ達の話は終わり。次はユキについてだ。
「ユキ、お待たせ。」
「平気よ。それで何?」
ユキに話したい事は色々ある。今後どうするのか、アキは何をすればいいのか。ある程度手伝うという事は以前決めたが、ユキが王女をちゃんとすると決意したのはついさっき。そうなると話は少し変わってくる。
「ユキがやる気をだして王女するなら手伝う事も変わってくるだろ。その辺の話をしておきたい。それに今日襲われた事情も聞きたい。」
「ああ、そうね。じゃあ・・・」
ユキが何か言おうとしたが、ジーヴスがすいませんとユキを遮る。
「エヴァグリーン王国ユーリロキサーヌ第一王女殿下、話を遮って申し訳ございません。私やナギさんは席を外すべきではないでしょうか。奥方様は問題ないとは思いますが、私達は使用人ですので、聞いていい話ではないと思いますが・・・」
確かにジーヴスの言う事は一理ある。
だが恐らくユキは問題ないと言うだろう。
「本来ならそうだな。でも大丈夫だろう。なあユキ?」
「そうね・・・其方達には迷惑をかけた。今日襲われたのも私のせい。アキが其方達をこちらに住まわせるって言ったのにはそういう理由もあるはず。あちらの屋敷にいたらいつ襲われるかわからないもの。私が出入りしている場所ってバレちゃったから・・・全部私のせい。だから今から話す事は其方達にも少なからず関係ある。だからここにいてもいい。」
ユキが重い口調で静かに告げる。
「ユキ、そんなに自分を卑下するな。」
「だ、だって・・・」
「これからエヴァグリーンをなんとかしようとしている王女が暗くてどうする。俺も手伝うから心配するな。いつかナギ達に『住むならユキの国がいい!』って言わせてやろうよ。」
「う、うん。そうね・・・頑張るわ。」
ユキがやる気を出してくれないとあの国は変わらない。彼女自身笑ってられなければ意味がない。これからは「氷姫」のままでは困るのだ。
「氷姫は今日で卒業だな。ユキは国民に何て呼ばれたい?」
「え?そ、そんないきなり聞かれても・・・其方は何が良いと思う?」
「俺?そうだなぁ・・・ユキでいいんじゃない?俺達の間ではすっかりユキで浸透しているし・・・」
「それは嫌。ユキは其方だから許したんだもん。」
速攻で却下された。
「アキさん・・・相変わらず女心とうものがわかっていませんね。」
そしてベルに深い溜息を吐かれた。何故だ。
とりあえずなんかムカついたのでベルの事は引っ叩いておく。
「ちょっとアキさん!すぐ叩かないでください!!!」
「はいはい、ごめんね。よしよし。」
ベルの頭をポンポンと撫でておく。
それにしてもユキの別の呼び方か。何かいい渾名はないだろうか。
「えへへ、アキさん。」
「どうした、ベル?」
「美姫とかはどうでしょう。王女ですから姫とかついたほうが可愛いと思います。」
なるほど、それは悪くない。しかしベルはもう機嫌が直ったらしい。頭を撫でるだけでいいのだからベルの渾名はお手軽王女とかで良い気がする。
「いい案だ。さすがベル。」
ただお手軽なんて言ったらまた拗ねて面倒臭そうなので、ここは褒めておこう。
「えへへ!王女ですから!」
「ただ美姫か・・・間違ってはないけど、ちょっと弱い気がするな。」
「そうですか?」
「美姫なら他の国にもいそうだろ?」
「ああ・・・そうかもですね。」
「んー・・・じゃあ姫を使うとして・・・エヴァグリーンという国に光をもたらす王女ってことで『光姫』とかはどうだ?」
「あ、それいいですね!」
いまいちなネーミングな気はしたが、ベルは絶賛してくれた。まあベルならなんでも絶賛してくれそうだが。
「どうだ、ユキ。」
「う、うん・・・悪くはない・・・かな?」
「まあ恥ずかしいかもしれないけど、いつかそう呼ばれるように頑張ろうか。結局その名前が民に浸透するかどうかはユキ次第だし。」
とは言っても、二つ名を決めるのはアキではなくエヴァグリーンの国民だ。光姫を浸透させるにはある程度情報操作も必要になってくるだろう。ユキの功績がエヴァグリーンで認知され始めたら、ルティアを使ってその二つ名を広めてもいいかもしれない。
「まあユキの呼び名はおいておいて、俺はどの程度ユキを手伝えばいい?数日おきに会いに来いって話だったと思うけど・・・城に行ってゆっくり話しが出来る?今日襲われたから、変な邪魔入りそうな気がしなくもないんだよね。俺の屋敷に来るのが一番かもだけど、それも今の状況下じゃ気軽に来れないだろ。」
城に出向いて、変な邪魔が入るのは面倒。毎回毎回襲撃者を撃退させられるのも面倒。一番手っ取り早いのはユキの敵を全て排除してしまう事だが・・・正直そこまでユーフレインの内情に関わっていいものか。
ただそんな我儘を言ってられなくなってきているのも事実。おそらくユキに全面協力する方がお互いにとって一番メリットがある。
「そうなのよね。どうしようかしら・・・ね?」
ユキがそう呟きながらチラチラとアキの方を見てくる。
「・・・言ってみろ。案があるんだろ。」
「うん、あるわ。・・・其方、私の私室へ直接会いに来なさい!」