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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第四章 殺意
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6

 ミルナ達は順調に依頼をこなしている。いや順調どころかいつもよりかなりハイペースだ。この調子でいけば午後3時頃には余裕で終わるだろう。だが彼女達にとってそれでは遅い。


「やっぱりお昼までには無理ね……。」


 エレンが呟く。彼女達はアキが一度屋敷に戻ると言ったので、それまでに依頼を終わらせて午後は同行しようと考えていたのだ。たださすがに午前中でBランクの依頼3件はきつい。物理的な移動にどうしても時間が掛かるからだ。


「午後3時くらいまでには……少しでも早く戻れるように頑張りましょう。」


 ミルナの言葉に頷くソフィー達。全神経を依頼に集中する。





 午後4時。無事依頼を完遂した彼女達は冒険者協会への報告は後回しにして屋敷へ戻った。普段であれば依頼報告を優先して行うのだが、協会へ寄り道していたのではアキが帰って来る午後5時に間に合わない可能性があったからだ。彼女達はどうしてもアキにおかえりと言いたかった。


「さすがにまだ戻ってませんわね。」


 玄関を開けてミルナが呟く。帰っているならアキはきっと玄関まで迎えに来てくれる。


「まだ1時間くらいありますし、とりあえずリビングで待ちましょう。」


 玄関に突っ立っていてもしょうがないのでみんなでリビングへと向かう。扉を開けるとテーブルの上にいくつかの武器が置いてあるのが目に入る。


「アキさん、ちゃんと1回戻ってきたんですねー。」


 ソフィーも武器に気づいたようだ。


「予定通りなのかな?でもなんであんなに武器があるんだろう。」


 レオも気になったようで部屋の中央にあるテーブルに近づく。大剣が1本、対の短剣が2セット、矢が10本程度束ねて置かれていた。そして一緒に手紙が添えてある。ミルナは手紙を拾い上げると中身を確認する。


「アキさんからですわ。」


 覚えたてのような字で文字が書かれている。最近毎日練習していて、ある程度は読み書き出来るようになったとアキは言っていた。


「ミルナ、なんて書いてるの?」


 エレンが読むように促す。



 皆へ、武器を取ってきたので置いておきます。今使っている武器に愛着はあると思うけど、俺の持っている知識を使って新しい武器を用意しました。イリアの元へ辿り着くのに必ず役に立つ日が来ると思うので使ってください。 アキ。



「だそうですわ。」


 ミルナがアキからの手紙を読み上げる。それぞれの武器の前にも小さい紙が置いてあり、各自の名前が書かれている。


「アキらしいわ……これが私の短剣?」


 エレンはアキが用意してくれたという短剣を鞘から抜く。すると全てを反射するような光り輝く刀身が現れる。黒ずみや陰りなどが一辺もない美しい刃。エレンはつい見惚れてしまう。


「なにこれ綺麗……。」


 ミルナも自分に用意された短剣を抜く。エレンのとは少し大きさや形状は違うが同じように光輝いている。刀身に自分の姿が映るほどに。


「美しいですわ。」


 レオも大剣を抜いて、眺める。さすがに大剣なのでエレンの短剣程の輝きはないが、それでも今使っている物に比べて雲泥の差だ。


「しかも軽い。刀身が薄いから……?」


 レオが使っている大剣は結構な重量がある。大剣の強度を保つにはどうしても刀身を厚く作る必要があったからだ。だがアキが用意した大剣は今までの物に比べると刀身が格段に薄く、重量も半分くらいだ。おそらく強度や切れ味も格段にあがっているのだろう。


「私の矢も凄く軽いです!それでいて矢先が凄く綺麗。」


 ソフィーの矢には軽くて丈夫な木材が使ってあり、矢先にはアキの知識で作っであろう金属がついている。この金属がどれ程凄いのかソフィーにはわからないが、おそらくこの矢を射ったら今までの倍以上の速度で飛ぶし、威力も段違いになるだろう。


「こんなレベルの武器見た事ないですわ。」

「いいのかな……こんなの貰っても。」


 ミルナもレオも想像以上の武器に戸惑いを隠せないようだ。


「あ、名前が書いてある紙の後ろにもメッセージがあります。『大事にするな、使え』って書いてあります。バレてます……。」


 苦笑するソフィー。アキがあげたものだから使わないで大事にすると読まれていたようだ。


「えーっと、僕のは『軽さに驚くと思うけど、切れ味と強度は前以上。頑張って使いこなせ』だって。頑張って訓練しないとだね。」


 尻尾を千切れんばかりに揺らしながらレオは大剣を両手で抱えて喜んでいる。


「私には『ミルナは魔法中心だけど防御武器もいるだろう。ついでに持っておけ。』だそうですわ。ついでで持たすレベルの武器じゃないでしょうに……。」


 ミルナもなんだかんだ凄く嬉しそうだ。もう既に今まで使っていた短剣と入れ替えて早速装備している。


「最後は私ね。『断崖絶壁……ドンマイ』……・はああああ!?なんで私だけそれなのよ!アキ、ぶっころす!」


 エレンは紙を床に叩きつけて踏みつけている。それを見たミルナが付け加える。


「エレン、伝言ですわ。『とエレンが怒っていると思う。冗談だ。エレンなら問題なく使えるだろう。切れ味が格段に上がっているので何を斬るのか、考えて使え。試しに外にある木を切ってみろ』と私のほうに書いてありますわ。エレンの文句も一字一句あっていますわ。」


 ミルナが笑いを堪えながら伝える。


「あいつ!いちいち私で遊んでからに!許さないんだから!」


 口ではそう言いつつも、素直に外に出て試し切りをしようとするエレン。素直じゃないんだからと心の中で思いつつミルナ達もエレンに続く。


「いくわ。」


 そう言ってエレンは短剣を構える。的は直径10㎝程の細い庭木だ。


「はっ。」


 エレンが短剣を水平に振り抜いた。


 今までのエレンの短剣であれば振り抜けずに幹の途中で抵抗を感じて引き抜く動きになっていた。つまり切り刻むようなイメージだ。だがこの短剣では何の違和感もなく振り抜けた。


「あれ、エレン失敗?」


 ソフィーがそう尋ねた瞬間、庭木が水平に真っ二つに切断される。


「なにこれ、斬った感触なかったわ……。」


 エレンが改めて短剣を見つめる。


「凄いですわ。潰れた跡がほとんどありません。」


 ミルナが庭木の切断面を確認する。完全に一閃で斬ったという感じだ。


「確かに、斬れ味のレベルが違う。今までは『切った』だった。でもこれは本当に『斬った』って感じよ。」


 今までの短剣の「切り刻む」という攻撃が、この短剣を使うと「斬って」しまう。アキが言いたいのはそういう事だろう。使い方、使いどころに気をつけろと。


「でも、アキありがとう。大事にするわ。」


 エレンもみんなと同様に嬉しそうに短剣を両手で握りしめて、太もものホルスターにしまう。せっかく庭に出たので、各自思い思いに武器の感触を確かめ始める。すっかり武器の虜になってしまい時間が経つのもを忘れる。


 気づけばもうすぐ午後5時だ。


「一旦中に戻りましょうか。アキさんをお出迎えしたいですわ。お礼も言いたいですし。」


 誰もミルナの意見に異論はないようで、みんなで玄関へと向かう。リビングで待ってなんかいられない。玄関の扉が開くのを今か今かと待つ4人。


 だが午後5時を回っても扉が開く事はなかった。





「ミルナさん、今何時ですか!」


 ソフィーが叫ぶ。


「午後5時を少し回ったところですわ。」

「探しに行きましょう、今すぐに!」


 ソフィーは今にも飛び出しそうだ。


「ちょっと遅れているだけじゃないの?す、すぐに帰ってくるわよ。」


 エレンも不安なのか言葉に戸惑いが感じられる。


「だ、だよね、すぐに帰ってくるよね!」


 レオはエレンに同意する。だがやはり不安そうだ。


 しかし本当にそうなのだろうか。ミルナは考える。あのアキが細かい時間まで指定したのだ。午後5時くらいじゃない午後5時迄にと彼は言った。


「探しにいきましょう。アキさんは午後5時迄に帰ってこなければ探してくれと言いましたわ。あのアキさんがその時間を違えると思います?」

「そうね、アキが読み間違えるとか考えにくいわ。」


 エレンもミルナの考えに同意する。


「でもどこに行けば……?」


 ソフィーが今にも泣きだしそうな表情でミルナを見つめる。


「エスタートさんの屋敷とか?」


 レオが提案する。


「行きましょう!」


 ソフィーが玄関を開けようとするがミルナが止める。


「待ちなさい、ソフィー。」

「どうして止めるんですか!」


 ミルナは皆に説明する。おそらくエスタートの屋敷に行っても意味がない事を。まず、武器が置いてある時点でガランのところで用事を済ませて一旦ちゃんと帰宅している。つまりガランのところではない。そしてもしエスタートの屋敷にアキがいるのであれば彼は必ず使いの連絡を寄越すはず。それが無いという事はアキはエスタートの屋敷を出た後に自ら寄り道をした可能性が高い。


「そう考えるとアキさんがこの街で行く場所は絞られますわ。」

「確かにそうね。ガランとエスタートには既に会ったと考えると、アキの知り合いが他にいる場所といえば……。」


 エレンが必死に考える。その考えを受け、レオが答えを導き出す。


「セシルと支部長だね、冒険者協会。」

「いきましょう!」


 ソフィーが今度こそ飛び出す。ミルナ達もそれに続く。


「お願い、予想あたらないで……。」


 ミルナは走りながら呟く。勿論冒険者協会についたらセシルとアキがいつものようにくだらない話をしている可能性だってある。ただミルナの予想は違う。アキの身に何かあった。あのアキがわざわざ探しに来てと言い切ったのだ。午後5時迄に帰らなければ探しに来てと。それなら時間を気にせずセシルと雑談なんかしているわけがない。ミルナは予想が外れててと祈る。外れてたら協会には楽しそうにセシルと話をしているアキが居るだろう。そしたら思いっきり文句を言ってやりたい。心配かけてどういうつもりなんですかといっぱい文句を言ってやりたい。お願いだから文句を言わせてと願いつつミルナは必死に走る。

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