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「かわいい!おいしそう!食べたい!」
「わかります!ユミーナもこれ食べたいです!!!」
「おかね!おかね!」
ユミーナとナギに近づくと、そんな2人の会話が聞こえてきた。
まあ・・・なんというか微笑ましい。だがそろそろナギあたりが「私奴隷だからお金ない!」とか言い出しそうな雰囲気だ。エスぺラルドには奴隷制度はないから不味い。しかもその後にアキが登場しナギが「あ、ご主人!」とか言おうものなら・・・社会的に死ぬ気がする。
「お嬢ちゃん可愛いね。俺とデートしてくれならごちそうしてあげるよ?」
そしてナギがナンパされている。
まあナギは可愛いし当然か。そしてナギを囲う人だかりもほとんどが男だ。全員声をかけるタイミングを見計らっているのだろう。
「だからあんた誰?別にいらない。それに私のご主人に買ってもうらし。」
ナギに振られた男が肩を落として去っていく。しかしナギ、ばっさりいったな。口ぶりからして何人かに声をかけられた後なのだろうが、それにしても容赦がない。
それよりそろそろ止めるか・・・
「おい、この駄犬。何してんだ。」
ナギの背後にそっと近づき、彼女の尻尾をギュっと握る。
「キャン・・・!ちょ、ちょっと何する・・・ってアキ!?」
「うん、アキだけど。」
「っていうかなんで尻尾掴むのよ!離してよ!」
キャンキャンうるさい駄犬だ。
「うちの駄犬が粗相してるって聞いて様子を見に来たんだが。」
「そ、粗相なんてしてないよ!?」
待て。違う。お漏らしという意味ではない。だからスカートを捲ろうとするのはやめろ。ここは公衆の面前だ。
「ここのお菓子はあとで買ってやるから騒ぐのをやめろってことだ。目立ってるだろ?」
「あ、うん・・・そういう事・・・ご、ごめん。」
犬耳をペタっと折り曲げ、クゥンとしおらしくなるナギ。
「いい時間だし、昼食にしないか?ユミーナちゃんもいい?」
「は、はい。はしゃいでごめんなさいです。」
「ユミーナちゃんはいいよ。だがこの駄犬は駄目だ。」
「だ、駄犬って言わないで!それになんで私は駄目なの!」
「ナギは俺の『メイド』だろうが。ナギが何か問題起こしたら責任取るのは俺なんだぞ。」
あとくれぐれも「奴隷」と言うなよと言う意味を込めてナギを睨んでおく。
「あ・・・ごめんなさい・・・」
ナギが半泣きになりながら、上目遣いで謝ってくる。ただそこまで反省しなくてもいい。なんか注意しているこっちが悪い事をしている気分になる。
「まあ次からは気を付けてくれればいいよ。気にするな。」
「う、うん!そうするね!」
とりあえず場を収める事は出来た。
周囲の連中もアキが来た事で「なんだ魔人の連れか・・・」と諦めて散っていった。納得の仕方がもの凄く納得いかないが、まあいいだろう。
店主にも騒いで悪かったと謝らなければ。
「うちの使用人が迷惑かけました。」
アキはスイーツ店の店主に頭を下げる。若い男だ。多分エリザくらいの年齢。彼がこの店のパティシエ的な人間なのだろうか。しかしこれだけ若いのにもう自分の店を持てると言う事は、相当な腕前に違いない。
「いいよいいよ、こんな可愛い子達に宣伝して貰えたんだからこっちとしてもありがたい。またいつでも来てくれ。」
「はい、あとで買いにきます。」
「よろしくね。」
大きな問題にならずによかった。ナギが奴隷と言う事もバレてないようだし、店主も笑って許してくれた。少々悪目立ちはしたが、問題ないだろう。
むしろ結果的にナギをアキの連れだと認識させられたのはよかったかもしれない。もしかしてアリアはそう言う意味で「アキさんが行った方がいいです」と言ったのだろうか。なるほど、さすがアリア。
「よし、ナギ。行くぞ。」
「う、うん・・・で、でも!尻尾!尻尾離してよ!!!恥ずかしいんだから!」
「ダメ。罰としてナギの尻尾は犠牲になったのだ。」
「犠牲ってなに!?キャン!ちょ、ちょっと!握りしめないで!そこ敏感なの!」
ナギが何か文句を言ってるが、無視してそのまま連れて行く。ユミーナも後ろから「ごめんなさい」と言いながら小走りでついて来る。
「よーし、終わったぞー」
遠巻きから様子を見ていたミルナやシャル達と合流する。
「さすがアキさんです!」
シャルが褒めてくれた。
「え、そこ・・・褒めるとこなのかしら・・・?」
ユキが怪訝な顔をしている。
「まあ解決したからいいだろ?それよりユキ、昼食にしよう。」
「ええ・・・それは構わないわ。でもその子はそのまま?」
本当に尻尾を握りしめたまま行く気なのとユキが呆れ顔だ。
「当然だ。俺の犬だからな。」
「そ、そう。まあ其方のメイドだし・・・好きにしなさい。」
ユキはもうアキの行動に文句をつけるのは諦めたらしい。
「違う!犬じゃないもん!犬獣人だもん!!!もう離してええええ!!!」
「駄目。」
離す気はない。ナギも諦めろ。