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「あの、アキ様。さすがにユミーナだけは連れて帰りたいのですが・・・」
この場を立ち去ろうとしたアキをジーヴスがすかさず止めてくる。
「わかってる。冗談だ。」
ユミーナは勿論、あの犬もうちの大事なメイドだ。ちゃんと連れて帰る。それに犬を捨てたら野犬になるしな。街を汚すのはよくない。
「さてどうやって止めるか・・・」
犬には犬・・・それがいいか?
アキはチラッとエレンの方を見る。
「ちょっと!何見てんのよ!!!」
「ナンデモナイヨ?」
「嘘つくな!どうせ『犬を止めるには犬だな。うちの猛犬を行かせるか。』とか思ったんでしょうが!!アキの考える事なんてわかるのよ!!!」
凄いな、その通りだ。さすがエレン。
「よし、じゃあ行け、エレン。」
「行くわけないでしょうが!!噛むわよ!!!」
ガルルと犬のように呻くエレン。
エレンは正真正銘の人族のはずなんだが・・・おかしい。
とりあえず不機嫌そうに睨んでくるエレンを後ろからそっと抱きしめる。
「ごめんごめん。」
「べ、別にいいけど・・・でも・・・アキ、最近よくこうして抱きしめてくるわよね。今日は・・・その・・・許すけど、いつもこれで機嫌が直ると思わないことね。私、そんな簡単な女じゃないわ!」
エレンの言う通り、最近はいつもこうしてエレンを腕の中に収めている気がする。なんというかこの子は収まりがいいのだ。あとなんか落ち着く。これをしたいが為に、エレンで遊んでいる部分は正直ある。彼女を不機嫌にすれば、甘えてくるのを知っているから。
「嫌ならこれからはリオナを・・・」
「だ、だめ!私にして!」
いつものツンデレも絶好調のようだ。
「はぁ・・・其方達は本当に隙あらば・・・」
そしてユキにもの凄く深い溜息を吐かれた。
「なんというか、すまん。」
「別にいいわよ。それよりアレは結局どうするの?彼女達は私の国の人間。他国で粗相をするのは見過ごせないんだけど。」
なるほど、ユキはそんな事を気にしていたのか。
「意外と律儀なんだな。」
「お、王女なのよ。当然でしょ。」
兎にも角にもあの2人を回収してこない事には食事に行けない。だがよくよく考えるとあの状況は少しおかしい。ナギとユミーナが美味しそうなスイーツを見つけてテンションが上がった。ここまではいい。だが何故そこから「美味しそう!」「食べたい!」と大騒ぎする展開になっているのだろう。
「シャルちゃん、お小遣いは?買ってあげればよかったんじゃないのか?」
そうすればあんな状況にはなってないはず。大体シャルにはかなり大目に金を渡している。あの店に並んでいる商品全て買ってもお釣りがくるくらいには。
「はい!そうですね!でもこうした方が面白そうだったので!」
なるほど・・・全ての黒幕はこの子だったか。そう言えば久しく忘れていたが、シャルは初対面でミルナ達全員を精神的に参らせた過去がある。この子はアキには忠実だが、他の子には厳しい。
「シャルちゃん?」
「えへへ、ごめんなさい!」
いや、そんな満面の笑顔で謝られても困る。しかも絶対微塵も悪いとは思ってない顔だ。うん、やっぱりアリアの妹だけはあるな。
「一応聞くけどなんで?」
「こういうのは最初が肝心なのです!最初にわからせないといけません!」
一体何をわからせる気なのだろうか。
怖いからこれ以上は聞かないけど。
「よし、アリア。妹のしでかした事だ。責任もってアリアが止めて来い。」
「え、嫌ですけど。」
真顔で即答するアリア。
・・・おかしい。うちのメイドが反抗期だ。いつもなら「アキさんの頼みなら」と従順なのに。
「アリアが酷い。これが倦怠期というやつか・・・」
「ひ、酷くありません!変な事言わないでください!私は・・・その・・・ア、アキさん一筋です!」
アリアが「違うんです」と必死に弁解してくるが、何も違くないと思う。今真顔で真っ向から拒否られたのは事実だ。
「俺は深く傷ついたぞ、アリア。」
「それについてはごめんなさい!謝ります!でもあれはアキさんが止めた方がいいんです!本当です!信じてください!」
よくわからないが、アリア曰く、あれはアキの仕事らしい。まあ実際には雇い主であるアキがすべき事だから間違ってはいない。いないが・・・アリアの真意がよくわからない。アキが止めた方が良いとはどういう事だろう。
「ねえ、もう何でもいいから早くして頂戴?其方達の茶番にも飽きたのだけれど。」
そしてユキに怒られた。
「わかったよ、ちょっと行ってくるわ。」
だが確かにユキの言う通り、いい加減収集つけた方が良いだろう。ナギ達は未だに騒ぎ続けているし、あれがこちらに飛び火する前になんとかしよう。あの人混みの中に飛び込んでいくのはもの凄く嫌だが、仕方ない。