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とりあえずアキはミルナ達を連れ、ルティアが指差した方に歩いていく。どこへ行けばいいのか細かい説明はなかっただが、ルティアが何も言わなかったと言う事は、行けばわかると言う事だ。
「ああ・・・うん、なるほど。」
ルティアの指示した方向に進むこと数分・・・いた。
シャル達だ。
「なんというか滅茶苦茶目立ってないか?」
あれならルティアが速攻で見つけられたのも頷ける。
「そうですわね・・・アキさん、どうしますか?」
ミルナもどうしていいかわからないようで、目の前で繰り広げられている惨状を引き攣った笑みで見つめている。だがミルナがそうなるのも仕方ない。アキだってそうだ。ソフィーやベル達だって同じように困惑している。
まあ何が起こっていたのかというと・・・別にシャル達が問題を起こしていたわけではない。ただナギとユミーナがある店の前で騒いでおり、目立って人だかりが出来ているだけだ。あの状況を推測するに、おそらく2人はあの店で何かを見つけ、テンションがあがってしまったのだろう。何か問題を起こしているのなら速攻で止めに行くところだが、シャルとジーヴスが遠巻きに見ている事から察するに、ただ騒いでいるだけのようだ。
「とりあえずあそこにいるシャルとジーヴスと合流しようか。」
「そうですわね・・・」
しかしこんな事になっているとは思わなかった。多分ミスミルドを全力で楽しんでいるだけなのだろうが、ちょっと悪目立ちし過ぎだろう。
もちろんアキ達とて、一歩間違えれば、ナギ達と同じような状況になる。ミルナ達メルシアは美人だし、冒険者としても有名。エリスもそうだ。そしてベルに至ってはこの国の王女。普通に歩いているだけでも目立つ。
だからアキはこうしてみんなと出歩くときは対策を講じているのだ。メルシアの5人には軽く変装をさせ、別グループとして行動してもらっている。そしてベルとエリスでもう一組。こちらは貴族とその従者という設定だ。ベルには王女だとバレない程度の変装をお願いしている。最後にアキ、アリア、セシルとエリザで一組。
ただ、完全に別行動というわけではなく、少し距離をあけて歩いているというだけだ。何かあったらすぐに合流できる距離。会話も出来る。まああまり意味がないといえば意味がない。だがこうする事で割と目立たずに街を歩ける。
とは言ってもバレる時はバレる。なんせあのミルナ達だ。バレないわけがないだろう。何かあったらすぐに「アキさーん!」と駆け寄ってくるし、アキがアリアやセシルなんかといちゃつこうものなら鬼の形相で突進してくる。
だから本当に意味が無いと言えば無い。せめてもの悪あがき。そんなところだ。
そして幸いにも今日はまだバレていない。
「シャルちゃん、大丈夫?」
ナギとユミーナを中心に出来ている人だかりから少し離れたところにいたシャルに声をかける。
「あ、アキさん!」
どこかホッとした表情を浮かべるシャル。やはり少し困っていたのだろう。
「大丈夫か?」
「はい!大丈夫・・・とは言い切れませんが問題はないです!」
まあナギ達があの状態だしな。
「アキ様、ユミーナが申し訳ございません。」
シャルの隣にいたジーヴスが頭を下げる。
「いいよ。この国で騒いでも人だかりができるだけで、あの子に危険はないしね。」
それに本当にユミーナに危険が及んでいたらジーヴスはこんなのんびりしていない。ユミーナゾッコンラブのジーヴスの事だからとっくにあそこに突撃しているだろう。
「はい。正直ちょっと吃驚しております。」
「楽しんでるって事だろうし、ユミーナの事は怒ってあげるなよ。」
「わかりました。アキ様がそうおっしゃるなら。お気遣いありがとうございます。」
ユミーナのような子供がはしゃいでいる姿は微笑ましいからな。怒る事でもない。
だがナギ、あいつは駄目だ。
ユミーナがはしゃぐのはいい。アキの奴隷でもないし、使用人でもない。あくまでジーヴスの孫娘というだけだ。だがナギは違う。アキの奴隷で、メイド。オフの時間なら100歩譲って許すが、あの駄犬は今メイド服を着ている。つまり仕事中だと言う事だ。なのにあんなにキャンキャン騒ぎやがって。
「あの駄犬には躾が必要なようだな。」
まあメイド服を脱いでから出掛けろと言わなかったアキの落ち度もあるかもしれないが、あの犬はちょっとメイドとしての自覚が足りない。
「ナギさんは街を見て大興奮でしたので・・・」
仕方ない事かと思いますとジーヴス。
「でもジーヴスも吃驚しただろ?」
「それはもう。」
「だがジーヴスはここにいる。ナギはあそこ。そう言う事だ。」
「私はその・・・歳ですのであんなみっとも・・・あ、いえ。」
ジーヴスは何かを言いかけ、すぐに口を噤む。
間違いなく今「あんなみっともない真似」と言おうとしたな。
まあその通りだ。幼女と一緒になってはしゃぐ駄犬。非常にみっともない。
まあ・・・尻尾をぶんぶん振ってて可愛いけど。
「とりあえずシャルちゃん、何があったの?」
あそこに割って入るにしても、まずは状況を理解したい。
「あ、はい。あそこのお店のスイーツが美味しそうって。」
「ん?それだけ?」
「そ、そうですね。」
よし、あの駄犬は見捨てよう。