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「今ユキがいないから聞くけど・・・みんな俺の事滅茶苦茶慕ってくれてるよね。この世界の女性ってこんなに一途なのが普通なのか?俺がいた世界だとここまでは中々なかったぞ・・・?」
この際せっかくなので聞いてみよう。
「え?一途なのは当然ではないですの・・・?」
ミルナが不思議そうに首を傾げる。
どうやらミルナはそう言う認識らしい。
心変わりされる心配がないと言う意味では安心だが、不思議な感覚だ。人間というのはふとした切欠で心変わりするもの。地球にいた時はそうだと思っていたし、異世界にきても根本的な部分は変わらないと思っていた。
「そうよね、何もおかしくないわよ、アキ君。」
「ですー!当然ですー!」
エリザとソフィーがミルナに同意する。
彼女達はうら若き乙女だ。可愛い物や美味しい物には目がないし、どこにでもいるような普通の女の子。そんな彼女達がこうなのだから、やはりベルフィオーレの女性達もこれがデフォルトなのかもしれない。
「アキさん、アキさん、心変わりや目移りは普通にしますよ。彼女達が例外なだけです。受付嬢やっていた時、結構見ましたもん。」
セシルがあの3人は特殊ですと教えてくれた。
まあそうだろうな。無理矢理納得しようとしたけど、やはり違うよな。そもそもベルフィオーレの男達は地球の男達のなんら変わりはない。それなのに女性だけ違うというのも変な話だ。
「綺麗な女性がいたら男は自然と目で追う。女性もやっぱりそういう事だよな?」
「はい、簡単に言えばまあそう言う事です。」
「よかった。じゃあセシルもそうって事だよね?」
「ち、違います!!私はアキさん一途です!あんな尻軽達と一緒にしないでください!!!」
セシルが兎耳をピクピクさせながら必死に説明してくる。
「・・・なんだそれ。」
支離滅裂じゃないか。ミルナ達は例外だとか言っておきながら、自分も一途だと主張してくる。しかしこの兎、何故こんなに必死に弁解しているんだ。あと一般女性を尻軽って言わないように。お口が悪いぞ。
「私はアキさん以外に興味がないんです!でも心変わりするのは普通なんです!つまりですね!その!あの!あれです!アキさんは黙って私の耳を愛でていればいいんです!!!わかりましたか!!!はいどうぞ!!!」
そう言って兎耳を無理矢理握らせてくるセシル。何か必死に誤魔化そうとしてるのが丸分かりだ。まあ兎耳は撫でるけど。
「うん、兎耳最高だしもうなんでもいいや。」
「アキさん、ここは私が説明しましょう。」
夢見心地でセシルの耳を愛でていたら、ベルがドヤ顔で会話に入ってきた。
「あ、今忙しいから。」
もう何でもいいと言っただろうが。ベルの話より兎耳を堪能する方が大事なんだよ。そしてセシルもアキの膝の上で気持ちよさそうに目を細めている。うちの兎、可愛い。
「はい!?」
「いやもういいかなって?兎耳のが大事だし。」
「なんで!?おかしいですよ!?っていうか聞いてください!私が説明しますから!ねえ!アキさん!ねえってばああああ!」
スルーされるとは思わなかったのか、ベルが涙目だ。まああれだけ得意気に出てきてあっさり肩透かしを食らったのだから、引き下がるに引き下がれないのだろう。
「はいはい、どうした?」
「うー・・・」
「ごめんって。そんな睨むなって。」
「・・・べ、別にへーきです。ちょっと取り乱しただけです。コホン。」
ベルは姿勢を正し、咳払いする。
ただ今更体裁を取り繕ったところで意味はない。大体一国の王女が涙目で喚いているのを「ちょっと」とは言わない。それに何故1回いちしひ意地を張るのか。まあそれがベルらしいけど。
「まあいいや、それで?」
「はい、セシルさんが言いたいのは多分こう言う事です。女性も男性と同じように良い男がいれば目移りします。心変わりも浮気もするでしょう。でも良い男がいなければしません。つまりアキさん以上に良い男なんていないんですよ?だからみんなアキさん一途なんです。」
「なるほど?」
一応筋は通っている。ベルの言いたい事はなんとなくわかる。だがアキより良い男なんていくらでもいるはずだ。そもそもアキは二枚目ではない。世界が絶賛するような美男では断じてない。ミレー王国の女王、アイリスの夫であるジルだったらそう言われてもおかしくないが、アキは絶対に違う。
「ふふ、そんなに首を傾げないでください。どうせアキさんは『俺は別に良い男じゃない』とか言いたいんでしょう?いつも言ってますものね。」
「まあな。」
「確かにアキさんはその・・・滅茶苦茶美形というわけではないですけど・・・」
ベルが言い辛そうに言葉を紡ぐ。
「そんなに気を遣わなくていいぞ。そんな事は重々承知だしな。」
「でも!優しいですし、私を大事にしてくれます!ちょっと意地悪ですけど・・・それもアキさんの愛情表現の一つだとわかります。あと知識量も豊富です。アキさんは『異世界の出身だから~』と言うかもしれませんが、それでも私達にとっては凄いと思えるんです。あと私達全員を養う甲斐性があります。」
ベルがアキの良いところを身振り手振り必死に説明してくれる。ただここまで褒められるとさすがに少しむず痒い。
「最初、アキさんは下心なく私と接してくれました。そう言う人は少なかったんですよ?ミルナさん達もきっとそうです。」
それはミルナ達も言っていた。特にミルナやソフィーは言い寄られる事が多く、辟易しているというのは以前聞いた。セシルも受付嬢をしていたのだから例外ではないだろう。だがアキだって下心がゼロだったとはさすがに言い切れない。
「でも俺だってベル達が可愛いから優しくしただけかもしれないだろ?それはいわゆる下心じゃないか?」
可愛い子には優しくしたくなる。アキだって男なのだから仕方ない事だ。
「んー・・・そうかもしれません。でも私はそれを不快だと感じませんでした。だから別にいいんです。」
そんな理論でいいのか。
だがベルの言葉にミルナ達もうんうんと頷いている。
「納得いってない顔ですわね。でもそう言う事ですわよ。」
「ですー!アキさんと出会ってから余計そう思うようになりました!」
「だねー、アキは不快じゃないんだよね。他の男はなんか・・・こうイヤだもん。」
「うんうん、その通りよ。」
そして隣に座っていたエレンが甘えるようにアキにもたれかかってくる。
「それに言い寄ってくる連中とアキを見比べると一目両全だわ。自信持ちなさい?私が惚れた人なんだから・・・アキはかっこいいのよ?」
ここまでエレンに言わると何か照れ臭い。
でも改めて分かった気がする。ミルナ達は自分の容姿ではなく、内面に惚れてくれたのだろう。地球で育ったアキはベルフィオーレの男性とは色々と違う。彼女達にとってそれがしっくり来たのかもしれない。
「これで納得したわよね?」
「納得は出来ないけど、理由はわかったよ。」
「頑固ね。」
エレンがくすくすと笑う。
「自分が凄いとは別に思わないしな。エレンのような美少女に釣り合うともね。」
「ば、ばかね・・・でもアキがそう言うならそれでいいわ。私がアキをもっといい男にしてやるだけだしね。ふふ、覚悟しなさい?」
そう言われると何も言い返せない。
まあこれ以上否定するのは無粋だろう。自分を好いてくれている彼女達に失礼な気もする。この話題はそろそろやめよう。当初の疑問もベルの説明によって解決したし、何よりアキが何を言っても恥ずかしい思いをする事になりそうだ。
だがそれはそれとして、さっきのエレンの発言で1つ気になる事があった。
「それよりエレン、今でも声をかけられるのか・・・?」