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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第四章 殺意
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4

 ミルナ達がAランクに上がって3日目、明日で闘技大会参加の条件を満たせる。そしてその翌日にアリステールを出立予定だ。


 現在アキ達は本日受けた依頼であるファイヤーホーンの討伐を近隣の森で行っている。依頼達成まで残り2体。これで今日の依頼は全て終わりだ。


「一応あと2体で俺のアリステールでの依頼は最後になる。通しで最後確認したいけどいい?」

「はい、構いませんわ。」


 ミルナが代表して答える。他3人も異論はないようだ。ミルナ達は明日も依頼があるが、アキは別行動なので今日の依頼がアリステールで最後になる。


「じゃあまず1体目、これは俺一人でやる。というか多分倒せないからどれだけ持つか試したい。やばくなったらみんなの判断で処理して。」

「わかりました、でも無理はしないでくださいね。」


 ソフィーが心配そうに言う。


「うん、ありがとう。それで最後の1体は俺が事前に動きを指示し、戦闘中は全力で魔法攻撃もする。それに合わせてみんなも全力で攻撃してみてくれ。」

「わかったわ。」


 今度はエレンが返事をする。


「じゃあ1体目探してくる。アキお願いね。」


 レオがそう言って森の中に消える。


 おそらく5分程でレオは1体ひいてくるだろう。それまでに準備をしておく必要がある。視覚強化を発動させ、ファイヤーホーンの弱点である氷属性を剣に付与する。まだ武器が完成しないので今日はエレンの予備の短剣を借りている。レオの大剣だと大きすぎてアキには扱いきれないのでエレンに借りた。本当なら日本刀で練習したいところだが、今はこれで我慢するとしよう。


「ミルナ、時間計っておいて。」

「はい。」


 ちょうどその時、レオの姿を視界に捉える。彼女の背後に1体のファイヤーホーンがいるのが確認できる。ファイヤーホーンは巨大な猪のような魔獣で、名前にある通り炎を体に纏っている不思議な生物だ。既にミルナ達が何体か討伐しているので、行動パターンは全て頭に入っている。彼女達は容易く討伐していたが、それはAランクの実力があるからであって、決して弱い魔獣ではない。


 アキは皆から離れて立ち、短剣を構える。油断はできない。ミルナ達は居ないものだと思うべきだ。間違えたら死ぬと自分に思い込ませる。


「アキ、じゃあ頑張ってね!」


 レオはファイヤーホーンの前から瞬時に姿を消し、ミルナ達の元へと合流する。残されたのはアキと巨大なイノシシ。アキの姿を視認すると突進してくる。


 アキは一呼吸入れて水弾を魔獣の顔にめがけて放ち、横へ回避行動を取る。水弾を受けた魔獣は一瞬怯んだが、構わず突進してくる。だがその怯みのおかげで突進がわずかに遅れ、無事初撃を回避。そしてアキは回避と同時に猪の側面に斬撃をいれる。あまりダメージはないようで、猪は何事もなかったかのように反転する。アキも体制を整えて次の行動を予測する。おそらく火を吐くか跳躍して飛びかかってくるはずだ。その2つに絞って攻撃の予備動作を観察する。


 猪の目線が少し下がる。


「炎攻撃。」


 アキはそう確信して、短剣の氷付与魔法と視覚強化を解き、魔素で地面から土を盛り上げ壁にする。さらに水で覆い、瞬時に凍らせる。同時発動ではなく連続発動なので魔素の量に問題ない。呼吸も忘れずに一定間隔でしっかりと行い、魔素を補充。その後に視覚強化を再発動。猪が予測通り炎を吐く。氷の壁で無事相殺。この間約1秒と少し。壁の構築が速いと炎を撃ってこないので、絶妙のタイミングで壁を構築する必要がある。


 次は間違いなく突進が来るのでアキは左へ跳躍する準備をする。そして予測通り突進してきたので、短剣を構え回避と同時に斬撃を叩き込む。


「きついが何とかなってるか。あとは集中力と体力がどれくらい持つか。」


 その後もアキは猪の攻撃をきっちり防御又は回避し続ける。ミルナ達も決して目を逸らさず1人と1匹の攻防を見守る。アキの限界がきたらすぐにでも介入できるように備える。


 どれくらい経ったかはわからないが、猪の炎攻撃に反応が一瞬遅れた。攻撃自体は回避したので問題ないが少し服が焦げ臭い。


「あと、1回か2回くらいかな……。」


 アキがそう呟くと同時に猪が突進してくる。疲労が蓄積してきたのか、自分の体が思うように反応しない。アキはそれでも必死に横へと回避する。だがバランスを保てず地面に転がる。反転した猪が跳躍して飛び掛かって来るのを確認するが、地面に転がってるアキに避ける術はない。


「ここまでか……あとは頼んだよ。」


 アキがそう言うと同時にソフィーの弓が猪に命中する。エレンとレオは既に跳躍して斬撃の体制に入っている。それを寝転がったまま見上げるアキ。


「さすが頼りになるな、うちの子達は。」

「うふふ、当然ですわ。」


 ミルナが隣に立っている。


「お疲れ様です、アキさん。」


 ミルナはアキの横にしゃがむとアキの体に手を置く。彼女の魔素がアキの体に流れてくるのを感じる。ミルナの治癒魔法だ。治癒というより細胞活性化による回復促進と言う方が正しいが、今はどっちでもいいやと目を閉じるアキ。


「疲れた、ミルナありがとう。」

「いつでもですわ。」

「時間は?」

「そうですわね、30分と少しといったところでしょうか。」

「まあ、上出来かな……。」


 そんな話をしていたら何時の間にかソフィー、レオ、エレンもアキの側でしゃがみこんでいる。無事ファイヤーホーンの討伐は終わったようだ。さすがAランクの実力者。アキが手こずった相手を瞬殺だ。


「アキさん、がんばってましたよー。」


 そう言ってアキを撫でるソフィー。撫でられるのも悪くない。


「そうそう、十分だと思うよ。」

「そうね、上出来よ?」


 レオとエレンも及第点をくれているのでよしとしよう。






 しばらく休憩してアキは起き上がる。まだ終わってない、依頼達成にはあと1体討伐する必要がある。


「じゃあ最後の1体……だけど練習は2体同時にやろう。全員でやるから1体じゃ足りない。今のうちに指示だけ出しておくね。」


 それにエレンやレオが本気をだせば、恐らく余裕で単独撃破できてしまう。それだと練習にならないので、最初は攻撃をしないで回避と防御に専念してもらう事にする。ファイヤーホーンの攻撃パターンの傾向や予備動作を伝える。


「今の情報をもとにレオとエレンは適宜行動を読んで回避すること。ただソフィーとミルナは、俺と一緒に牽制攻撃を行うからホーン2体の攻撃がこっちに来ない様にだけしっかり1体ずつ管理して欲しい。」

「オッケー。やってみる。」

「わかったわ。」

「ミルナ、俺と一緒に水弾を飛ばしつつ、ホーンの攻撃を阻害。隙を見てダメージを与えられる氷魔法を撃て。お互い1体ずつ担当する。」


 氷は矢のように形成して飛ばす。ちなみにミルナは燃焼や液化の原理などは理解し始めており、多少の詠唱破棄が出来るようになっていた。


「わかりました、攻撃のタイミングは私の判断で大丈夫ですの?」

「それでいいよ。じゃあソフィー。ホーンの攻撃のタイミングに合わせて弓を側面に射って。ダメージが蓄積して動きが鈍くなってくるまで続けて欲しい。ソフィーには2体ともお願いちゃうけどいい?」

「はい!頑張ります!」


 ソフィーが可愛くガッツポーズする。


「動きが鈍くなったら指示出すからレオとエレンは1撃で仕留めてね。無駄に思えるかもしれないけど連携の確認だと思って頼む。」


 皆素直に頷いてくれる。


「じゃあレオとエレン、1体ずつ連れてきてくれる?」


 了解といってレオとエレンが森に入っていく。程なくして2人が別方向からファイヤーホーンを1体ずつひいてきた。


「レオ、エレン。お互いが邪魔にならない位置で戦闘開始。」


 2人に指示を飛ばす。戦闘中はアキの声が届きにくいと考え、魔素で声に指向性を持たせ、増幅させて2人に飛ばしている。いわゆる指向性スピーカーの原理だ。今日までの検証で指示するのに効果的だとわかったので取り入れることにした。


「ミルナがレオ、俺がエレン側のホーンを担当。ソフィーは中間に立って自分の判断で弓を射って。」


 全員無言だが、視線でしっかりと返事をしてくれている。


 エレンとレオが予定通り戦闘にはいる。アキはエレンの方の猪の攻撃に合わせて水弾を飛ばす。猪の攻撃が阻害されてエレンが難なく攻撃を回避する。同時にソフィーの矢も命中。それを繰り返して猪の動きを鈍らせていく。アキも隙を見て氷魔法の攻撃を叩き込む。


 レオの方の確認も適宜行っているが、特に問題はないようだ。レオ側の猪もミルナがきっちり攻撃阻害をしているし、ソフィーの矢も何本か刺さっている。


「氷よ、大気を貫け。」


 ミルナの詠唱も聞こえる。まだ氷魔法は詠唱を完全に破棄出来ないようだ。ただ出会った頃に比べて詠唱が短くなった。確実に成長しているミルナ。教えた甲斐があると嬉しくなる。


 大体5分くらい続けたところ、2体の猪の動きが目に見えて鈍ってきたのがわかる。そろそろか……エレンとレオに攻撃を指示する。


「次の攻撃を躱して、仕留めろ。」


 エレンとレオがアキの指示通り攻撃を躱し、斬撃の体制に入る。


「はっ。」


 エレンが短い呼吸をすると同時に鋭い斬撃で猪の弱点を切り裂く。


「やああああ!」


 レオも大剣を豪快に振り下ろして、力任せに叩き潰す。


 弱っていた2体の猪にとって十分なダメージがあったらしく、断末魔のような咆哮をあげて倒れる。無事絶命したのか、ピクリとも動かない。


「お疲れ、特に問題ないね。さすがAランク、頼りになるよ。」

「ふふん、どうよ!」


 エレンは褒められたのが嬉しいのか、誇らしげな表情だ。


「でも大分慣れたと思う!」


 レオの言う通り、初めに比べて皆の動きが大分スムーズになっている。アキと彼女達の連携が上達したのもあるが、単純に皆がアキの指示に慣れてくれたからかもしれない。


「攻撃阻害の魔法はどう?役に立ってる?」


 エレンとレオに確認する。


「正直このレベルだとあってもなくても変わらないのよね。でも回避に余裕持てるし、考える時間が増えるのは助かるわ。」

「そうだね、もっと高位の魔獣とかだともっと効果的だと思う。最初はちょっとやりにくかったけど慣れれば気にならないし、むしろ助かる方が大きいかな。」


 特に問題はなさそうだ。


 これで一先ずアキとミルナ達の連携練習は終了だ。後は闘技大会までにこの精度をどれだけ高められるかが重要になる。まあ、その訓練は王都についてからでも問題ないだろう。


「よし、じゃあ帰ろうか。」

「はい、あと1日がんばりましょー!」


 ソフィーがいつものように元気よく答えてくれる。


「でもちょっとだけ気になる事があるんだよね。」

「どうしたんですの?」


 ミルナが不思議そうに尋ねる。


「ミルナの詠唱が日に日に少なくなってきてる。」

「それに問題が?」

「つまらない。たいきをもやせー!が聞きたい。」

「やめて!言わないで!」


 あの立派な詠唱を聞くと楽しい気持ちになるのは事実だ。何故かわからないけど楽しい。やっぱり魔法を使っているって感じがするからかもしれない。絶対自分ではやらないけど。


「ミルナの詠唱が無くなるのは寂しい……。もう教えるのやめようかな。」

「いいこと!いいことなんですから!やめないで!」


 ミルナがアキの体を揺する。相変わらず詠唱が相当嫌らしい。


「アキが自分で言えば?」


 隣で話を聞いていたエレンが綺麗なオッドアイで見つめてくる。


「え、やだよ。あんな恥ずかしいの。」

「ちょっと!アキさん!恥ずかしいって言わないで!それにそう思ってるなら私にやらせないで!」


 必死に抗議するミルナ。彼女の言う事はもっともなんだけど、ミルナがやるからいいんじゃないかとアキは思う。


「冗談だ。よし帰ろうか。……の前に、1つあるんだった。」

「なんですかー?」


 ソフィーが不思議そうに首を傾げながら尋ねてくる。


「全力の手合わせをお願いしたい。」

「え、私とですか?」

「ソフィーだけじゃない、4人全員。同時に。」


 そういうと皆驚いた顔でアキを見る。


「さすがに今のアキだと相手にならないわよ?」


 エレンは最近はあまり食ってかかって来なくなった。優しく声を掛けてくれる。そんなエレンを少し撫でてやると嬉しそうにしている。


「わかってるけど、ちょっとやってみたい。本気でお願いできる?」

「アキがそう言うなら別にいいわよ。でも練習用の武器とかないわ。」

「真剣でお願いしたい。」

「そんなのダメよ!」


 アキの言葉に激しく反論するエレン。ソフィーも異論しかないようでアキを叱責する。


「怪我したらどうするんですか!ダメです!ダメ!」

「治癒で治す。俺がミルナ達相手に1人でどこまでできるか試してみたい。お願い。」


 ミルナ達はアキが本気で頼んでいるのが分かり、断るに断れないようだ。アキが怪我をするかもしれないから駄目と言いたいけど、アキの頼みは断りたくない。そんな表情をしている。


「じゃあこうしよう。エレン達が俺にかすり傷でも負わせたらそこで終了。そしてお互い致命傷になるような攻撃はしない。」

「わかりましたわ……アキさんがお望みなら。」

「僕アキを傷つけたくないよ……。」


 レオが尻尾を垂れ下げてシュンとした表情で呟く。


「気にするな。俺がやりたいんだ。今の自分を確認したい。」


 アキはそう言って4人から少し離れて立つ。


「でも俺も本気で行くから。覚悟するんだな。」






 自分の実力を確認したい。半分だけ本当だ。もう半分は違う。アキはそう思いつつ短剣を取り出して構える。さぁやるかと気合をいれるが、彼女達に伝え忘れた事があったのを思い出し、みんなに声を掛ける。


「そうだ、もう1つルール追加。俺が体を触った人はその時点で脱落ね。」


 そう言ってソフィーに近づき肩に手を置く。


「こうやって俺が触るってことは魔素送り込んで燃やしたり出来るってことだから、脱落扱い。それでいい?」

「わかりましたー!」


 ソフィーが答える。


「ふふ、変なとこ触らないでくださいね?」


 わざとらしく胸を両手で隠す仕草をするミルナ。


「そう言われると触れと言われてる気がする。」

「触ったら殺すわよ!」


 それを聞いたエレンが吠える。


「大丈夫だ、そもそもエレンは触る物がない。」

「今すぐぶっころす!」


 さて、仕切り直しだ。アキは改めて皆から距離を取り、短剣を左手のみに構える。右手は魔法中心でいくので今回はこのスタイルだ。


「ミルナ、合図。」

「はい、でははじめ!」


 ミルナが合図すると同時にアキは地面を蹴る。魔素を使い背後に追い風を発生させ加速する。体に対する強化ではなく風で体を押しているだけなので負担はない。一気にソフィの元に迫る。


「後衛から潰すのは基本だからね。ソフィー、いくよ。」


 急にアキが迫ってきて焦るソフィー。弓を構える。だが射る瞬間、一瞬躊躇する。おそらくアキに対して射るのが嫌だったんだろう。その隙に水弾を飛ばし、弓を軽く弾く。同時に地面に対して魔素を放ち土埃をあげて彼女の視界を奪う。そして背後に回り込み、ソフィーの頭に手を置く。


「はい、ソフィー脱落。」

「むー、失敗しました……。」


 少し悔しそうにするソフィーだがどこか嬉しそうだ。


 エレンとレオは何が起こったのか理解できず、初期位置から一歩も動いていない。ミルナもフォローが遅れたようで何も出来なかったようだ。


「次いくよ?」


 そう言うとエレンとレオに炎弾を視認出来るくらいの大きさにして数十発ずつ放つ。温度は抑えてあるので問題ないだろう。2人は即座に回避行動に移る。だがアキの標的はエレンとレオではない。先ほどと同じように風を使って加速し、ミルナに迫る。ミルナはエレン達に放った火弾の方に気を取られたようで、アキの接近に気づくのが遅れた。その隙にアキは土埃をあげて再び視界を奪う。


「風よ、大地を駆け巡れ!」


 ミルナが魔法詠唱で風を起こし、土埃を吹き飛ばす。背後に回られたと思い彼女はすぐさま後ろを振り返るが、そこにアキはいない。寧ろ正面だ。先ほどソフィーの背後に回ったのが印象に残っているはずなので、アキはただ真っ直ぐにミルナに近づいて彼女の胸元の少し上あたりに触れる。


「ここなら変なとこじゃないよね?」

「もう……。はい。」


 ミルナは恥ずかしそうに照れる。


「よし、これでミルナも脱落。あとは前衛の2人だね。」


 そう言ってエレンとレオに向き合う。正直後衛2人は騙し討ちしただけ。だが前衛の2人はそうはいかない。


「ソフィーとミルナから狙ってたのね。」

「僕たちまでやられたらAランク名乗れないよ。」


 エレンとレオは気合を入れ直したようだ。


 さてここからが本番。だがすぐに終わるはずだ。アキはまずエレンに向かって先ほどの倍の火弾を散弾銃の様に放ち、レオとの距離が出来るように避ける方向を誘導する。エレンが回避行動に入ったのを確認するとアキはレオに向かって駆ける。当然風魔法で加速を加える。だが速度はさっきより落ちている。何故ならエレンとレオは敏捷性が高く、アキの目では追いきれないので視覚強化魔法を常時発動させているからだ。視覚強化を使っている分、魔素が枯渇しないよう風魔法の威力を調整しているので加速度は幾分か落ちてしまう。


 アキはレオに一気に近づくと、短剣を構えてレオの動きを観察する。彼女の癖から大剣を横薙ぎに払おうとしていると予測出来る。そしてレオはアキの読み通り剣を横薙ぎに振る……が当然空を切る。アキはしゃがんで攻撃を回避、レオの懐に潜り込む。レオは咄嗟にバックステップで触られるのを回避しようとする。


「耐えろ、手加減はする。」


 アキは圧縮した風を掌底でレオの腹に叩き込む。


「かはっ……。」


 後ろに飛ばされ地面に転がるレオ。アキはすぐさま振り向きエレンの位置を確認するが……エレンの刃が目前に迫るところだった。さすがエレン。もうこの位置まで詰めている。アキはここまでかなと思いつつも最後のあがきとして水弾を飛ばし、エレンの攻撃の軌道を無理矢理変える。だが努力空しく、エレンの刃がアキの頬を掠め、かすり傷を作る。


「ここまでだね。さすがに前衛職2人の速度にはついていけない。」


 アキはそう言ってレオに近づき大丈夫?と確認する。


「ちょっと痛かったけど手加減してくれたでしょ?ダメージはないよ。」


 とりあえず手を差し伸べて起こしてやる。同時に細胞を活性化させて回復を促進させておく。レオは大丈夫だというが念の為だ。


「えへへ、温かい。ありがとアキ。」


 アキが治癒魔法を発動させたのがわかったのか礼を言うレオ。


「ア、アキ……頬大丈夫?」


 エレンが心配そうに駆け寄ってきてアキに尋ねる。かすり傷だからそんなに心配する必要もないのだが、傷つけてしまった本人としては気になるのだろう。


「大丈夫だよ。それよりソフィーとミルナ……油断しすぎ。」


 前衛職のエレンとレオだったら奇襲に反応しただろう。ソフィーとミルナは接近されてどうしていいかわからなかったようで、あっけなくアキに触られてしまった。後衛職の2人は接近戦が弱点だ。今後の課題だな。


「ごめんなさい……。」

「すいません。言い訳できませんわ。」


 さすがの2人も凹んでいるようなのでお説教はこれくらいにしておく。ただ油断したお仕置きはしておこうかと思う。特にミルナ。


「ソフィー、俺の頭をぶち抜けばよかったのに。」

「無理ですー!そんなことできません!」


 ソフィーが絶対無理ですとぶんぶん首を振る。


「冗談だよ、よし今度こそ帰ろう。風が大地を駆け巡るような速度で。」

「やめて!油断したのは反省するから!言わないでください!」


 ミルナは顔を赤くしながら必死に懇願してくる。でもあまり詠唱の事を弄りすぎると本気で魔法を一切使わなくなりそうなので程々にしておこうと思うアキだった。

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