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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第四章 殺意
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2

 実は彼女達が文句を言わないのにはもう1つ理由があった。


 無事4日目の予定依頼を終わらせ、Aランクになった彼女達は冒険者協会の食事処で一休みしている。アキが支部長に呼ばれたので待っているのだ。


「アキさん遅いですねー。」


 時間を持て余していて暇なのか、ソフィーがつまらなさそうに呟く。


「まあ、アキは先に帰っていいっていつも言うけど、帰れるわけないのにね。」


 レオが苦笑しつつさりげなく周りを見渡す。


 彼女達に向けられる視線は日に日に酷いものになっていた。彼女達というよりはここに居ないアキに対してだ。アキは予定通り順調にヘイトを稼ぎまくっているようで、冒険者連中は口を開けばアキの悪口を言うようになっているくらいだ。


 アキが嫌われる理由は3つある。ミルナ達に慕われている事での嫉妬が1つ。もう1つはAランクとなった彼女達にくっつくようにEランクのアキが入っているからだ。今ではもうDランクにあがったし、もうすぐCランクにあがるだろう。周りから見ると完全にミルナ達の金魚の糞で、何も苦労しないでランクを上げているように見えるので不愉快らしい。


 最後の1つはここ数日で起ったメルシー面々の変化だ。メルシーの変化は冒険者達や街に大きな波紋を呼んでいた。街というか主に彼女達に想いを寄せる連中を中心にだけだが。


 まず彼女達は指名依頼を一切受けなくなった。今まで指名依頼を通してメルシーと会ったり話したりできると思っていたのにそれが今後出来なくなる。アキが受ける必要を無くした事はすぐに知れ渡り、彼らはそれが気に入らなかった。


 次にメルシーを街中でほとんど見かけなくなった。朝、冒険者協会にきて協会依頼を受け、夕方に一度報告の為に協会に顔を出すだけだ。買い物や食事などで今までは街中で見かける事もあったのに、ここ数日は一切ない。彼女達を物色したり声を掛けたりしていた冒険者連中はそれも気に入らなかった。実は見掛けなくなったのは当然で、アキ達は朝から夕刻にかけて依頼をこなし、夜は屋敷で打ち合わせや各自の個人訓練をしているからだ。そしてアキは極力無駄を省き時間を有効に使う為、買い物などはエスタート経由で行い、全て屋敷まで届けてもらうよう手配していたし、食事についてはアキが作る。つまり街中に行く必要がなくなったのだ。それに彼女達も別に行きたいとも思っていない。


 そしてメルシーの一番の変化は周囲への対応だった。今までは声を掛けたりしたらある程度の対応をしてくれたのに今は全く相手にしてくれない。それが彼らには耐えられないようだ。


 冒険者協会にいる今も声を掛けてくる連中は多い。


「ミルナミア、Aランクおめでとう。」


 レンジャー風の男がミルナに声をかける。


「ありがとうございます。」

「どう?お祝いに食事でも?」

「ご遠慮いたしますわ。」


 今までのミルナであれば微笑みながら「検討しますわ、お誘いありがとうございます」くらいは言っただろう。だが今はそれが全くない。


 特にソフィーの変化は顕著だ。


「ソフィアルナちゃん、今日も可愛いね!」


 戦士風の男が声をかける。


「あ、はい。ありがとうございます。」

「よかったら今度……。」

「いえ、興味ないので。それに忙しいので結構です。」


 男が言葉を終わらす前にばっさりと断るソフィー。笑ってはいるが明らかに愛想笑いだし、はっきりと拒絶するようになった。彼女の特徴であった花のような笑顔を見せる事がなくなった。いや、見せるのだがアキに対してだけだ。アキが居ない今もつまらなさそうな顔をしている。


「ほんとめんどくさいです。」

「ソフィー、すっかり対応が冷淡になってますわよ?」

「それを言うならミルナさんだってそうです。」


 それを見たエレンはしょうがないという表情だ。


「この2人がこんなんだから、アキを1人に出来ないのよ。」


 レオもエレンに同意する。レオは相変わらず男で通しているし、エレンは元々すぐに食って掛かる性格なのであまり声は掛けられない。だがミルナとソフィーは日常的に声を掛けられていたから対応の変化に周りが敏感に反応するのだ。


「まあ、アキ本人が気にしてないから僕たちは何も出来ないんだけどね。」

「アキが嫌がってるならとっくに暴れてるわよ。」


 彼女達はアキを本気で心配している。だがアキは彼女達に気にするな、何もするなと言う。だから彼女達は何もしない。でもそれだと心配で何も手につかなくなりそうだったので、常にアキの側に居ようとみんなで決めた。それくらいはしようと。今アキを1人にすると多分襲われると彼女達は考えており、アキを1人で街を歩かせることを絶対にさせたくなかった。基本4人全員、最低でも2人以上は必ずアキの側についているようにした。


「でもアキさん本当に大丈夫なんですかね……?」

「本人が大丈夫というならそれ以上言えないもんね。」


 ソフィーとレオが心配そうに話す。ミルナは何も言わず少し悲しそうな顔をして静かに目を伏せる。


「私達がやってること逆効果じゃないわよね?」


 エレンが言うように、彼女達が決めた「側にいる」という事によりアキへのヘイト値が加速しているのは明白だっだ。だがアキに何もするなと言われている以上、他に良案を思いつかない。彼女達はアキがバカにされている事に納得がいってるわけではない。アキが我慢しろと言うから我慢しているだけだ。


「ミルナさんはどう思うんですか?」

「私は……大丈夫だとアキさんが言うのであれば大丈夫だと思います……よ?」


 ソフィーが尋ねるとミルナは少し歯切れが悪そうに返事をする。ミルナはアキの考えている事を多分ここの誰よりわかっているはずなので、彼女がそう言うのならそれが正しいのだろう。ただミルナの表情に何か引っかかりを覚えたソフィー達だった。


「体力的にも心配なんだけど。アキ倒れたりしないよね……?」


 レオが言うように、風当たりの問題だけではなく、アキの生活にも心配する要素があった。日中依頼して、夜に訓練をするのは皆と一緒なのだが、アキは全員の訓練に付き合っている。ソフィー、エレン、レオに癖などを指摘してくれる。ミルナには詠唱破棄の為に必要な魔素使用の現象の講義。だから彼自身の訓練は皆が終わってからやっているようだった。そしてその後もアキはミルナから教わった文字の練習やこの世界についての勉強をずっとしている。いつ寝ているかわからないほどに。


「朝も私達より早く起きてますよ。」

「夜は私達のより寝るの遅いわよ。でもアキが先に寝ろっていうんだもん。」


 もっと力になりたいと考えている彼女達だったが、アキは彼女達の申し出を全て断った。だからミルナ達は一切文句を言わないようにしている。


 それが彼女達が文句や愚痴を言わない1番の理由だった。


 既にいっぱいアキに負担をかけているからこそ、アキの負担を増やしたくないからこそ、文句も愚痴も言わないでアキの言う通りにしている。それが彼女達の間で交わした決め事だった。


 ちょうど彼女達の会話が途切れた時、アキが姿が見せる。セシルに連れられて支部長室から戻ってきた。


「お待たせ。帰ろうか。」

「はい!早く帰りましょうー!」


 アキが戻ってきた瞬間ソフィーが最高の笑顔を見せる。他の3人もどこか嬉しそうだ。もう冒険者協会にいる意味はないので、彼女達はアキを連れ足早に岐路へ着く。






 アキ達が去った後、セシルは受付に戻り事務処理の続きを行っていた。カウンターの向こう側にいる冒険者達の雰囲気を確認しながら。セシルはアキに頼まれていた。冒険者の自分に対する温度感をこっそり確認して報告して欲しいと。セシルは喜んで引き受けた、自分に出来る事ならと。


「正直メルシーの皆さんには同情していましたしね。」


 彼女達への指名依頼の内容には辟易していた。でもただの受付嬢である彼女に出来る事などない。そこへアキが加入し、翌日には全て解決して指名依頼を全て断るようセシルに指示。それに言われた通り本当に2万金貨近い入金があった時は驚いた。


「皆さんが慕うわけです。」


 その分アキへの風当たりが酷いことになっているのはセシルもわかっている。カウンターの向こう側で今も繰り広げられているのだからわからない方がおかしい。



「もうやっちまおうぜ、マジむかつく。」

「でも常にあの4人が周りにいるんだよな。さすがにAランク4人は無理だぞ。」

「いつかは1人になるだろ、その時に拉致るか?」

「一応こっちも高ランク1人くらい欲しいな。」

「じっくり嬲ってからな?」



「アキさん、温度感は結構やばいかもしれません。」


 セシルは冒険者たちの会話を聞きながら呟く。冒険者協会として何かしてあげられるならいいが、具体的な殺害計画などを話しているわけではない。彼らは酒を飲みながら話しているだけ。それに冒険者同士の揉め事はよくあることだし、協会としてはこれ以上関与出来ない。


「それに今日のアキさんへのお客さん、あれはなんだったんでしょう?」


 変な事に巻き込まれないといいんだけどと思う。そんな思いもあってセシルはアキの頼みを引き受けた。彼に危険な目にあって欲しくないから。それに何よりセシル自身がアキを気に入っているのもあったから。


「あの人多分本気で2万金で私の耳触ろうとしてましたよね……。」


 セシルは思い出したように小さく笑う。しょうがない人と。


「でも、そろそろいいよって言っちゃいそうです……。」

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