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あれから4日、アキ達は順調に冒険者協会の依頼をこなしている。今日の依頼を達成すればミルナ達は予定通りAランクに上がる。Cランクの依頼なのでミルナ達にとってはかなり余裕だ。正直4日もいらなかっただろう。ミルナ達だけに任せれば2日もあればCランク依頼を10件達成できたと思う。そこを敢えて4日かけたのには理由がある。
魔獣討伐依頼をアキ自身の戦闘経験やチームワークの向上に使いたかった。基本的にミルナ達にはアキの指示なしでは一切動かないで欲しいとお願いしてある。本当にアキが危険な時だけは守ってくれればいいとだけ伝えた。
ます最初の2日は出来るだけアキのみで魔獣討伐を行った。誰も見ていないのを確認してから魔法を全力で使いつつエレンやレオから借りた武器で討伐。最初は仕留めきれず反撃されて怪我をしたりもした。その時は瞬時にソフィーが弓で魔獣を怯ませてエレンやレオが止めを刺し、ミルナがアキを治癒してくれたので大事には至っていない。実践してわかったこと。防御や回避に専念すればアキはおそらくBランクやAランククラスの実力はある。それは魔法の使い方やアキの観察眼が特殊からだと思われる。だが攻撃となると一気に低レベルになる。攻撃にキレも威力もないので魔獣を仕留めきれない。そのせいで反撃されて怪我を負ったりする。一応ある程度慣れてからは、魔獣の癖や弱点を見抜いて仕留め損ねても反撃を躱せるようになり怪我はしなくなった。最終的にはなんとか時間をかければアキ1人でもCランクの魔獣を討伐をできるくらいには成長出来た。
そんなアキの様子をミルナ達は凄くハラハラしながら見ていた気がする。ソフィーなんか戦闘が終わるたびに「怪我は!怪我は!大丈夫ですか!」と慌てて確認しに来てくれていた。うちの子達過保護すぎるだろうと苦笑したが、心配して貰えるのは単純に嬉しかった。
それはさておき、課題が見えた。やはり攻撃が今後の課題だ。アキ専用の武器が完成すれば多少は変わるのかもしれないが、それでも圧倒的に攻撃技術が足りない。闘技大会までに攻撃を多少なりとも何とかするのがアキ自身の最優先課題だ。
後は対戦相手の情報収集も欠かせない。相手の情報さえあれば攻撃を事前に察知してかなりの確率で防御出来る自信がある。それに魔獣より人間の方が癖が多いしわかりやすいので情報収集さえ出来ればかなり優位に立てるのは間違いない。相手の情報さえ完璧に持っていればミルナ達へ的確な指示を飛ばす事も容易だ。
ただ指示の出し方やチームとしての動きにアキは慣れる必要がある。今まで誰にも頼らず、ずっと1人で生きてきた。誰かと協力体制を取る事などなかったので、チームワークなんて考えるのは生まれて初めてだ。だから次の2日間はそちらに専念した。今度はアキが後方待機で、ソフィーの弓に付与魔法などのサポートを行いつつ、エレンとレオに攻撃の指示を飛ばす。そしてミルナには攻撃魔法や付与魔法のタイミングを指示。最初は皆のスピードについていけず、指示が遅れたりタイミングが合わなかったりしたが、コツを掴んだ今となっては多少よくなってきたと思う。
コツというよりは個人の性格もある。例えばレオは少し早めに指示を受ける事を好むが、エレンは直前が良いという。レオの場合は指示を自分の中でかみ砕いて理解してから動くタイプ。エレンは条件反射で指示に反応するタイプ。勿論彼女達が好むタイミングで指示を出さなくてもその通り動いてはくれるが、一瞬反応が遅れたりするのでアキとしては本人達が100%を出せるように指示を出したい。ちなみに後衛職のソフィーとミルナは出来るだけ早めがいいらしい。ある意味みんな普段の性格が出ている。
「レオ、5秒後の攻撃を左に躱した後に即反撃。」
「了解。」
「エレン、攻撃左に躱してとどめを……今。」
「わかったわ!」
このような感じで、同じ指示でも個人によってタイミングを変える事が大事だ。ただしこれは魔獣相手に限る。人間相手になると直前の指示が多くなる可能性が高い。だからエレン以外の3人にも直前の指示に慣れる練習をしてもらった。
勿論その逆もやる必要がある。むしろこっちがメインだ。Cランク依頼受託最終日である今日はその練習だ。戦闘前に魔獣の情報から行動予測をして、彼女達に最初に指示を伝えるだけ。戦闘中は一切口出ししない。
「アキ、これ必要?ちょっと難しいよ。」
レオがアキに尋ねる。
「今のうちに練習したい。失敗しても大事に至らない余裕のあるCランクの魔獣で。今日でみんなはAランクになるでしょ?明日からはBランク依頼が中心になるから今よりは多少きつくなると思うんだ。」
ただレオ達の実力なら大して変わらないとは思うけど、と付け加える。むしろきつくなるのはアキ自身のほうだろう。
「そうね、私も考えながら戦うのはきついわね。」
エレンも少しばかりやり辛そうだ。理由もわからずやらせるのは不親切だったかとアキは反省し、みんなに理由を説明する。
「例えばエレンとレオが戦うとしよう。そこで俺がレオに『5秒後にエレンから横薙ぎの斬撃がくるから避けて反撃』って言ったらエレンは5秒後にその通りに行動する?」
「そ、それはしないわ……別の攻撃に切り替えるわね。あ……闘技大会は対人戦だからそれを見越しているのね……?」
「そう、魔獣なら言葉を理解してないからそれでいいけどね。対人だとそんな指示なんて出してられない。」
間違いなく細かい指示は戦闘前に出しておく事になる。相手の癖、弱点、攻撃内容など全部事前に頭に叩き込んで貰わなければならない。その練習も兼ねている。本番での指示は情報修正や合図程度になるとアキは考えている。
「だからむしろ今からが本番を想定した練習。それに慣れたら俺も攻撃に参加する。連携を高めておきたい。」
「あら、アキさんも攻撃に参加するんですの?」
話を聞いていたミルナが会話に入ってくる。ソフィーもアキの話を理解しようと一生懸命聞いているようだ。
「ちょっと前、エレンとの手合わせの時に使った水や火の魔法。水弾、火弾とでもしようか。あれをエレンやレオの攻撃に合わせて徐々に織り交ぜていく。」
アキの魔法により魔獣の攻撃軌道が変わったり、タイミングがずれたりで彼女達にはやりづらいとは思うが慣れたらかなり有利になることは間違いない。相手の攻撃に全神経を集中しなくてよくなるのでこちらの行動に余裕がでる。
「さらに慣れたら本気の攻撃魔法も混ぜたい。火や水以外でも色々考えているからね。単体だと意味ないけど、レオやエレンの攻撃に織り交ぜればすごく効果的になると思うよ。」
「なるほどね、じゃあ頑張らなきゃ!」
「そうね、少しずつ慣れればいいものね。」
レオとエレンが前向きに返事をしてくれる。
「ごめんね、面倒な事させて。」
アキは皆に難しい事を求めているのはわかっている。ただこれは必要な事でいつか必ず役に立つから続けさせて貰いたいと説明する。
「ううん、文句なんかないよ。その……理由を聞きたかっただけ。愚痴っぽく聞こえたらごめんね!」
「そうよ、愚痴なんかないわ、アキについてくと決めたんだもの。」
レオやエレンの言う通り、彼女達はここ数日一切文句を言わなかった。愚痴も言わなかった。アキの事を完全に信頼しているのか、アキの言葉に快く従ってくれる。
「ありがとう。ミルナとソフィーもありがとう。」
「私からお願いしたんですもの、喜んで従いますわ。」
「えへへ、どういたしましてです!」




