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その後暫くしてメイドが食事の準備が出来たと呼びに来たので、みんなで大広間まで移動する。それとほぼ同じくらいのタイミングでエスタートも姿を見せる。
「待たせたの。それでは食事にしようかの。」
「爺ちゃんも仕事おつかれ。」
「孫に労ってもらえるとはいつ死んでもいいわい。」
「大袈裟な。」
「半分は本気じゃがな。おお、そういえばそこの嬢ちゃん、やはりそういう女の子らしい格好の方がいいと思うぞ。しかし何故男の格好をしてたんじゃ?」
やはりアキの言う通りエスタートはレオが女性だと気づいていた。予めアキから聞かされてなければ焦っただろうが、レオは慌てる事なく落ち着いて返事をする。
「は、はい。ありがとうございます。」
落ち着いてはいるがどこか恥ずかしそうだ。
「理由は彼女達の目的の為にって感じかな。直接的な関係はないけどね。俺としてもレオにはこういう格好をしてほしいんだけどな。」
エスタートにはレオとしか紹介していないので呼び名はレオで通す。レオが改めて自己紹介しない限りアキから言うつもりはない。
「その目的は教えてくれんのか?」
「俺は別に爺ちゃんには言ってもいいと思うけど。皆次第かな。」
アキはミルナ達を見る。するとみんなアキの思うようにしてと目で伝えてくる。
「言っていいみたいだから説明するね。」
「ははは、おぬしらは本当に仲がいいの。」
さすがは商会長をしているだけあって観察眼はしっかりしている。アキ達がさり気なく視線でやり取りした事を見抜いている。とりあえず許可は貰ったのでエスタートに彼女達の目的を説明する。爺さんは時折眉を動かす程度で特に口を挟むことなく静かに聞いていた。アキがこれからの予定も含めて説明し終えるとエスタートはようやく口を開く。
「なるほどの。まあアキがついているんじゃ、大抵の事はなんとかなるじゃろう。」
「はい、アキさんを信用しておりますので、何も心配しておりません。」
ミルナが答える。アキはチラッとその姿を横目で確認する。
「困ったことがあったら相談するかも。」
「何でも言うと良い、わしに出来る事なら協力しよう。」
「じゃあ王都で屋敷を借りれるよう手配して欲しいかな。探している時間が惜しい。」
「そんなんでいいのか?わしの本宅を使ってもいいぞ?」
「それはデカすぎるから俺たちが今住んでる屋敷くらいのがいい。」
アキは屋敷の条件を簡単に説明する。しかし屋敷を手配してもらえるのであればかなり助かる。ミルナ達も王都に伝手はないらしいのでこの手間が省けるのは大きい。
「ふむ、なら1軒心当たりがあるから手配しておこう。詳細は追って使いをだすでの。」
「助かるよ。あと闘技大会参加者やイリアについて情報が何か入って来たら教えて。別に調べなくていい、爺ちゃんの耳に入ったことがあったら教えてくれる程度で構わない。」
調べてもらうとなると爺さんの商会に迷惑がかかるかもしれない。だが勝手に入ってきた情報を流してもらうくらいなら問題ないだろうとアキは考えた。ミレンドほど大きい商会であれば出入りする情報も桁違いのはずだし、何かは引っかかるだろう。
「それなら構わんよ。勝手に耳に入ってきたものであれば問題はないしの。だが気を使い過ぎじゃ、もう少し我儘いってもわしは構わんのに。まあ、それがアキのいいとこかもしれんの。」
さすがにエスタートにはバレている。
「可愛い孫でしょ。」
「ふふふ、そうじゃの。とりあえず食事にしよう。」
豪華な食事が終わり、アキはエスタートの書斎に来ている。何でも2人で少し商談したいとのことだ。ミルナ達には悪いが大広間で待ってもらっている。
「爺ちゃん、商談じゃないでしょ。何が聞きたいの?」
「さすがにわかるかの。」
「商談ならミルナ達が居ても問題ない、この前もいたわけだしね。」
「まあそうじゃの。それなら単刀直入に聞くぞい。アキよ、先ほどの話には彼女達に隠してる部分があるじゃろ。」
エスタートが鋭い眼光でアキを見る。アキもエスタートに探るような視線を返しながら答える。
「なんでそう思うの?」
「強いて言うならば、ミルナの嬢ちゃんがわしに返事をした時、おぬしが彼女達に向けた目じゃな。少し視線に贖罪みたいなものを感じた。あとは勘じゃ。おぬしの計画にしては見通しが少し足らない気がしての。それを見落とすおぬしじゃない事はわかっておる。」
アキはエスタートから目を逸らさない。だが暫くしてからアキは視線を外し、溜息を吐く。爺さんの観察眼は確かだ。見抜かれているのがわかったのでアキは観念した。やはりこの爺さんに隠し事は難しい。
「俺もまだまだだね。」
「その年齢で考えたら十分じゃろ。それにわしもまだまだ負けてられんわい。」
「はいはい、まあ爺ちゃんには話してもいいか。」
アキは話す。彼女達に足らない事、そしてその為の計画を。今まで何をして来てこれから何をする予定かを伝える。それを聞いたエスタートは苦笑しながらもアキに告げる。
「おぬしの考えは間違っておらん。だが酷い男じゃの。」
「わかってる。」
「でもそれほどあの子らが好きなんじゃな。」
「まあね。」
アキは少し照れ臭かったので視線を逸らす。
「茨の道じゃがおぬしなら大丈夫だと信じておる。まあ、もしあの子らに捨てられたらうちで働け。」
「その時はそうするのもいいかもね。」
アキも苦笑しつつエスタートに答える。
だが爺さんは急に心配そうな表情をアキに向ける。
「でもな、わしはおぬしを気に入っておる。あんまり無理するんじゃないぞ。何かあったら言え、少しくらいは孫孝行させてほしいんじゃ。」
「ありがとう、爺ちゃん。頼りにしてるから。」
本当の孫でもないのに真剣にアキの事を気にかけてくれるのが嬉しかった。
「がんばるんじゃぞ、アキ。」
アキとエスタートはミルナ達が待っている大広間へと戻った。
「お待たせ。ごめんね。」
「すまんの、アキがどうしてもメイドを持って帰るというもんじゃから。どのメイドにするかを話していたら長くなってしまっての。」
次の瞬間、何かピキッというガラスにヒビが入る音が聞こえた気がする。アキが部屋を見渡すと、ソフィーが水の入ったコップを握り締めた状態でアキを笑顔で見つめている。もしかしてさっきの音はソフィーが持っているコップにひびが入る音か?
「アキさん?少しお話があります。」
ソフィーが笑顔のまま迫ってくる。これはいい加減行き過ぎなので注意しておいた方がいいだろう。アキもソフィーに話しがあるから帰ったら話そうと彼女に告げる。
「は、はい……。」
素直にアキが応じると思っていなかったのかソフィーが少し戸惑う。
それよりこの原因を作ったジジイだ。
「おいジジイ、火種落とすなって言わなかったか。」
アキがエスタートを睨む。そんなこと言うと暴走するエルフがうちにはいるんだから辞めて欲しい。ちなみにミルナ、レオ、エレンも不服そうにしてはいるが、エスタートの冗談だとわかっているので少し拗ねているくらいだ。
「ふはは、孫が不良になってしまったわい。悲しいの。」
「自業自得だろうが。」




