20
「アリステール出立まで10日か。」
今日の訓練を終えてアキは自室のベッドに寝転がり、呟く。
ミルナ達がアキに全ての指示を出してと頼って来てくれたのは助かった。元々そういう日数で予定を考えていたのでミルナにお願いしなくて済んだ。さっき彼女達に説明した部分にはちょっと嘘がある。10日でやる事を終わらせて出立するのではない。アリステールを10日で出なくてはいけなくなるので、それまでに必要依頼数を終わらせる必要があるのだ。
ミルナ達には闘技大会を勝ち抜く為の実力以外にもっと必要なことがある。
「まだ足りない、あと一歩。」
本当に順調に懐いてくれいている。ソフィーなんかは完璧だ。気持ちを利用しているようで悪いとは思う。だが先ほどミルナ達に言ったように「汚くてもいいから何でもすべき」だと思うからアキはやる。
必要な味方は作った、布石もある程度巻いた。それにソフィーの懐き具合がいい感じに計画を後押ししてくれる。あとはこのまま依頼をこなして数日過ごせば全てが予定通り進むはずだ。
「許せとは言わない。だがこれでSに届くかもしれない。」
明後日からは駆け抜ける。だからこそ明日は休む。皆で思いっきり楽しむことにしよう。アキはそんなことを考えながら夢の世界へと意識を飛び立たせる。
翌日の夕刻、アキ達はエスタートが寄越した馬車に乗り、ミレンド邸に向かっている。いきなり豪華な馬車が迎えに来た時はちょっと焦った。だが誰にも見られずに移動できるのは助かる。爺さんの屋敷に到着するまでは少しかかるらしいのでアキ達は適当に雑談でもして時間を潰す。ちなみにミルナ達は昨日アキが選んだ服はまだ来ていない。アキがミレンド邸についてから着替えてと言ったからだ。
「今日結局ずっと屋敷にいたけどよかったの?」
アキが尋ねる。朝どこかに出かけようかと提案したのだが、皆屋敷に居たいというのだ。5人だけでのんびりお話したりして過ごしたいと。彼女達がそれでいいならアキは構わなかったが、やはりどこか出かてもよかったのではと思ってしまう。
「ええ、アキさんとゆっくりお話したかったですし。最高の休日ですわ。」
「僕もー!」
ミルナとレオが答える。
「ゆっくりとアキさんと過ごす方が外にでるよりずっと楽しいです!」
「そうね、アキは自分への罵詈雑言は気にしないかもだけど……やっぱり私が気にしちゃうから。」
ソフィーとエレンも楽しい1日だったと言ってくれる。きっと彼女達はアキの悪口を聞きたくなかったのだろう。だから屋敷に居ようと提案してくれた。彼女達のその気持ちだけで本当に嬉しい。
「エレンでも罵詈雑言って難しい言葉知ってたんだな……。」
「バカにしてんの!しってるわよ!」
「ごめん……エレンは本当に無知蒙昧なんだな。」
「む、むちもうまい・・ってなによ……。」
「え、馬鹿ってことだけど。」
「アキのバカ!今すぐ死ね!」
くだらない雑談をしていたら到着したようで、馬車が停車する。
「あのじじい、でかすぎだろ。」
目の前にあるエスタートの屋敷はミルナ達が借りている家の10倍くらいはありそうだ。しかもこれは別邸らしい。爺さんの出身はこのエスペラルドではあるらしいが本宅は王都にある。
「金持ちめ、屋敷燃やすか?」
どうせ爺さんの事だから各国にこのくらいの別邸を山ほど持っているのだろう。
「到着早々人の屋敷を燃やすとはひどい孫じゃの。」
いつの間にか姿を見せたエスタートが笑いながら言う。わざわざ自ら出迎えに来てくれたようだ。
「様式美みたいなもんだよ、それより爺ちゃん。お招きありがとう。」
「なになに、わしも楽しみだったのじゃ。それでは案内しよう。」
そう言ってエスタートはついてこいという。メイドたちが周りでアタフタしているのだが、メイドを困らすなよとアキはため息をつく。
「爺ちゃん、メイドさん達が困ってるから主人らしくしてろよ。案内はメイドさん達の仕事なんだろ。」
「むぅ……そう言うなら任せよう。同行はするがの。」
「それは好きにすればいいんじゃない。」
エスタートはメイドに声をかけ案内するように言って先導役を譲る。メイド全員がアキに凄く感謝しているようで深々とお辞儀してくる。
「普段からどんだけ迷惑かけてるのさ。」
「ふはは、大事にしておるぞ?みんな良きメイドだからな!しかも美人じゃ!」
「それは認めるよ。」
エスタートの屋敷は大きいだけあってそれなりのメイドの数もいる。やはり爺さんくらいの金持ちになるとメイドくらいはいて当然なのだろう。しかしさっきから10人程見かけたがみんな凄い美人だった。多分爺さんの趣味だ。
「1人くらい持ってくか?」
「物みたいに言ったらだめでしょ。」
適当にエスタートの冗談を聞き流すアキ。だが冗談と受け取らなかった子達が4人程いるようで、アキの肩にそっと手が置かれる。
「アキさん、持っていくとかいいませんよね?」
ソフィーだ。
「言いませんわよね?」
「言ったら殺す。」
「言わないよね?」
ミルナ、エレン、レオもソフィーに同調するように言葉をかぶせる。ただソフィーの笑顔が一番怖い。
「あれは爺ちゃんの冗談だよ?」
「アキさんはメイドさんが好きなんですか?そうなんですか?私もメイド服着た方がいいですか?」
ソフィーが全く話を聞かない。
「持って帰らないから安心しろ。メイドさんは別に普通かな?でもソフィーは可愛いからメイド服似合うだろうね。」
ソフィーを宥める言葉を探して伝えるが、それがよくなかった。
「メイド服いっぱい買わなきゃ……。」
ソフィーの頭に軽く手刀を入れる。そんなもの買う為に金を稼いだわけじゃない。ソフィーは「痛いです」と抗議の声をあげるが無視する。
「ふはは、アキは慕われておるの。」
「ありがたいことにね。爺ちゃんも余計な火種を落とさないように。」
その後は雑談しつつ屋敷を案内してもらう。一通りの案内が終わったところで、アキ達は客室へと通された。
「食事はこの部屋の近くにある大広間に今用意させておる。それまでここでゆっくりするといい。わしはもう少し片付けねばならぬ仕事があるのでな、一旦書斎に戻るが食事の時までには終わらせるからの。」
「先日爺ちゃんの店から貰った服に着替えたいんだけど使える部屋ある?」
「ふむ、なら隣の部屋を使うとよい。」
ではまた後程とエスタートは部屋から出て行った。アキはミルナ達の服が入った箱を取り出し彼女達に手渡して、着替えるようにと催促する。
「ちょっとしたドレスっぽいのを選んだんだよね、似合うといいんだけど。」
ミルナ達は喜んでと隣の部屋に着替えにいってくれたので、アキは部屋の中央にあるソファーに腰かけて一息つく。
暫くするとソフィーが隣の部屋から顔を覗かす。
「着ましたー!見てくれます?」
「うん、はいっておいで。」
まずはソフィーが入ってくる。ソフィーのドレスは白を基調としており、胸元が開いていないワンピースのノースリーブ。下はアシンメトリーのフィッシュテールタイプで丈は膝元くらいまでの高さになっている。ソフィーの綺麗な足が色気を出しつつも適度な露出で全体的に清楚な雰囲気だ。それに純白の服がソフィーの綺麗な金色の髪を引き立てている。
「ソフィー綺麗だよ。凄く可愛い。」
「えへへ、やった。それにこれ可愛いです。気に入りましたー!」
ソフィーが可愛い笑顔で喜ぶ。
「わ、私も着替えたわよ、今から入るからみなさいよね。」
次はエレンが入ってくる。エレンの銀髪とオッドアイが映えるように、彼女には青のロングドレスを選んだ。ベアトップになっており肩から胸元まで大胆に露出させるタイプ。スカート部分は薄くなっていてうっすらと足が透けて見えてとてもセクシーだ。さらにサイドスリットもあり、大人の女性を演出している。
「凄く大人の女性だね。綺麗だよ。」
「そ、そう?アキのセンスがいいからよ。特別に褒めてあげるわ。」
エレンが照れながらも嬉しそうにしているので気に入って貰えたのだろう。
「では次は私の番ですわ。」
ミルナがそう言って姿を現す。ミルナには白と水色のロングドレスを選んだ。綺麗なアクアブルーの髪を邪魔しないようにトップは白が基調になっており、スカートに行くにつれて水色の割合が増す。腰の部分にはワンポイントで薔薇のコサージュをあしらえてある。露出は少ないものを敢えて選んだ。ノースリーブになっている以外は肌も見えないし、胸元も一切開いていない。ミルナは元から十分に色気があるし、余計な露出させない事で彼女の可愛いさを引き立てられたらと思った。想像通りとても美しく、それでいて可愛い。
「ミルナも可愛いね。いつもは綺麗だから可愛いドレスを選んでみたんだけど。」
「そ、そうですの?確かに自分では選ばない……かも。それに可愛いって言われるのも新鮮で嬉しい……。」
褒められたミルナは頬を染め、素の口調に戻ってしまっている。
最後はレオだが、なかなか出てこない。
「遅いですわね。」
ミルナが不思議にそうに首を傾げる。ちょうどその時少しだけ扉が開いてレオが顔を出す。
「アキ……なんで?」
「いいから、着たんでしょ?」
「一応着たけど……でも……。」
「いいからおいで。」
レオが意を決したのか恥ずかしそうに部屋に入ってくる。ミルナ達には何故レオが戸惑っているのかわからないようだったが、彼女を見た瞬間全てを理解した表情になる。
「あらあら……。」
「レオ……!ふふ、でもいいと思うわよ?」
「私はいいと思いますー!」
レオに選んだのは男物の服ではなく皆と同じドレス。レオの紫髪にマッチするような黒と紫色のショートドレスで、胸元を開けて色気を、フリルスカートで可愛さを演出している。さらにリボンが色んなところに配置してあり、とても「女の子」なドレス。いつも男の格好をしているレオだからこそとても新鮮で、とても可愛くて、とても綺麗な女性に見える。
「ほらこっちにおいで。」
そう言ってレオを近くまで来させて撫でる。
「レオ……じゃないリオナ。そっちの格好のほうがずっとずっと似合う。凄く可愛いよ。」
「ほんとに?ぼ……私可愛い?綺麗?」
「うん、リオナは凄く可愛くて綺麗な女の子だよ。」
レオは涙を浮かべながらも凄く幸せそうに微笑む。
「で、でも!外でこの格好は!」
今はアキ達しかいないら一応着たが、夕食までにはドレスを脱いだほうがいいんじゃないかと心配している。
「なんで俺がわざわざドレスを持ってきたと思っているんだ。あの爺ちゃんならとっくにリオナが女だって気付いているよ。」
「え!うそ!」
レオが驚きの声をあげる。ミルナ達も驚いたのか目を丸くしている。
「商談の時、爺ちゃんはずっと嬢ちゃん達としか言わなかった。それに最初にも『こんな綺麗なお嬢さん達が同席』としか言ってない。1回もリオナの事を少年や男性としては表現していないのに気づかなかった?」
「確かに……そう言ってた。」
レオがその時の事を思い出しながら呟く。
「ミルナ、このくらいは見抜けないとだめだぞ。」
「ええ……情けないですわ。」
ミルナが素直に反省する。
「それにあの爺ちゃんなら信用できるし大丈夫。言い触らしたりしない。俺も口止めしておくしな。だから今日は『リオナ』でいいんだよ。」
「いいの?リオナでいいの?」
「ああ、いいよ。」
リオナで居ていいと言われたのが嬉しいのか、彼女は女の子らしい笑顔でアキに抱き着いてくる。
「アキ、ありがと。嬉しい。」
レオのそんな姿がとても可愛いと思い、優しく撫でてやる。抱き着かれているので彼女の表情は見えないがとても嬉しそうに尻尾を振っている。




