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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三章 アリステール
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19

 アキ達が屋敷に到着したとほぼ同時にミレンド商会で買った服が届けられた。まさか今日届くとはさすがに思っていなかったのでアキは少々驚く。お急ぎ便にも程があるだろう。


「エスタート様からご伝言です。本日お誘いをしたお食事ですが、明日の夜にエスタート様のお屋敷でいかがでしょうとのことです。」

「ありがとうございます、大丈夫だとお伝えください。」


 多分爺さんが食事の誘いを一早くアキに伝えたいが為に服を即時配送させたのだろう。そんな事の為に商会長としての権力を使うなと呆れる。


「それでは明日の夕刻、エスタート様の家の者がお迎えに上がります。よろしければお嬢様方もお連れください。」





 服を受け取ったアキ達は屋敷へと入り、とりあえずリビングで寛ぐ事にする。一日ずっと出歩いていたし、夕飯の準備や戦闘訓練をする前にまずは小休止だ。ミルナ達も同じ考えのようで、みんなリビングでごろごろしている。だがある意味丁度いい。せっかく全員揃っているのだから今の内にミルナ達に明日の予定を聞いておく。もし空いているなら店員の伝言通り彼女達を爺さんとの食事に誘う予定だ。彼女達も先ほどアキの隣でこの話を聞いていたのだから、アキが何を尋ねるつもりかは当然わかっているだろう。


「みんな明日の予定はあったりするの?」

「いえ、そのことについてアキさんにご相談がありまして……明日以降の行動も全てアキさんにお任せしたいのですわ。」


 だがアキの予想とは反し、食事云々ではない壮大な規模の返事が返ってきた。


「一応、理由を教えて。」


 今日は偶々アキの用事が多かったので、アキが予定を決めただけだ。基本的にはずっとミルナがチームリーダとしてメルシーの行動方針を決めていた。アキが彼女達の仲間に加わる前もそうだったらしい。それなのに急にアキに全てを任せたいというのはどういう心境の変化なのだろうか。しかもミルナだけではなく、ソフィー達もその意見に全面的に同意している。どうやら既に彼女達の間で話はついていて、後はアキが了承するだけらしい。


「はい。私が指針を決めるよりも遥かにいいと思ったからですわ。」


 アキのおかげで指名依頼はもう受けなくてもいい。お金の心配もいらなくなり、100%イリアの事だけに集中出来るようになった。そしてその為の第一目標である「闘技大会に出てSランクになる。」を達成するにあたり、アキにメルシーの指針を示して欲しいのだとミルナが言う。


「ミルナじゃだめなの?」

「私よりも効率的で最短な道筋をアキさんなら考えてくださると思いました。勿論この世界でわからない事があれば私達が何でも教えますので。どうかお願いします。」


 敢えて他にも理由を付け加えるなら、闘技大会に出るにあたり、アキの戦闘能力向上は急務だ。だからこそ自分で自分に必要な訓練や行動を考えて欲しいらしい。そしてその希望に沿ってミルナ達がアキの戦闘指導をしてくれるとの事だ。なんでも異世界から来たアキに何が必要か彼女達では判断がつかないから、アキ自身が決めるべきだとミルナは言う。


「それは一理あるね。みんながそれでいいなら。頑張るよ。」

「さっき鍛冶屋での待ち時間に話しましたの。皆それがいいと。」

「本当にいいのか?」


 アキはソフィー、レオ、エレンを見る。


「はい。アキさんがいいんです。」

「僕もそれがいい。」

「私もよ。アキになら任せられるもの。」

「わかった、それなら明日以降の話を少ししようか。」


 爺さんとの食事の話は一先ず後回しだ。彼女達はアキを信頼して全てを任せると言ってくれたのだからアキとしても全力でそれに応えてあげたい。


 ちなみに今年の闘技大会は2ヵ月後だ。開催場所は王都。以前ミルナに確認しておいた。つまりミルナ達をそれまでにAランクに昇格させ、王都に拠点を移す必要がある。4人がAランクにさえなれば、アキのランクはEでもチームランクはAになるので闘技大会参加条件に影響はない。まずは彼女達のランク上げを優先する。


「闘技大会は1年1回で2ヵ月後。これは決まっている事でずらせない。」


 ミルナ達はこの闘技大会で優勝してSランクになるしかない。これを逃すと1年間イリアを追えなくなる。1年は長い。だから必ずここでSに昇格して、自由に国外へ出る権利を得なければならない。その為に必要な事であれば何を犠牲にしてでもするべきだとアキは説明する。


「ミルナ、今回のブランの指名依頼未達成で達成率はどうなる?」

「はい、指名依頼失敗前の数値は83%です。依頼達成数としては地竜討伐を入れて29依頼中24依頼を達成しておりました。今回の失敗で30回中24回達成になり、達成率はちょうど80%になります。」

「Aランク連続は9回だったか?地竜はAなのか?」

「はい、あれがAでちょうど10連続達成しました。」


 アリステールに向かう道中、アキは冒険者関連の説明を一通りミルナから受けている。その時に聞いた彼女達の依頼達成率は82%でAランク依頼連続達成9回だと言っていた。つまりアリステールに到着して地竜討伐を報告したことで依頼達成数は24回/29回となり、達成率は82.7%に上昇する。そしてAランク依頼を10回連続達成した事になる。だがブランの指名依頼の失敗で達成率を80%まで落とす羽目になってしまった。


 Aランクの昇段条件は「Aランク依頼10連続達成と依頼達成率85%以上」だ。つまりAランク依頼連続達成については既に条件を満たしている。残る問題は依頼達成率だ。ミルナ達Bランクが受託可能なA~Cの依頼をあと10回連続で成功させれば40回中34回達成でちょうど85%になる。それでAランクへの昇段条件は全て満たせるので彼女達はAになれる。


 勿論ただAランクになって終わりではない。その次は闘技大会参加条件を満たす必要がある。条件は「Aランクで依頼を10回以上達成」している事だ。これは単純に10回依頼を成功させれば条件を満たすことが出来るのでさほど難しい事ではない。この段階になれば依頼を失敗したとしても大きな問題ではないが、時間のロスに繋がるのでそれは避けたい。


「つまり最短で依頼20回だ。最速で闘技大会を目指すのであれば、これ以上依頼は失敗出来ない。」


 アキがそう説明をするとみんなが少し不安そうな顔をする。


「そうは言っても心配する必要はない、むしろかなり余裕だと思うよ?」

「え、そうなの?」


 レオが尋ねる。


「俺をいれたチームランクは現在B。つまりCランクの依頼が受けられる。Cランクの依頼を10回受ければミルナ達の依頼達成率は85%になり、Aランクに上がれる。4人がAならチームランクもA。そしたらBランク依頼を10回受けて闘技大会参加条件を満たせばいい。地竜がA難易度なら正直余裕だと思う。」


 集中して依頼をこなせば1~2週間で終わるだろう。それよりも一番の問題はアキ自身の実力、そしてミルナ達の実力の方だ。闘技大会で通用するレベルなのかを調査する必要がある。闘技大会に参加出来ても勝ち抜けないのであれば意味はない。


「だからまずは出来るだけ早く闘技大会の参加条件を満たす。その後すぐにアリステールを引き払い、王都に拠点を移して情報取集が急務だ。」

「参加条件をさっさとクリアして闘技大会に備えるということですわね?」


 ミルナが確認する。


「うん、今のみんなの実力で優勝できるのか、それとも全く足らないのかを確認しないといけない。なるんだろ?Sランク。」

「はい。」


 ミルナが力強く頷く。他の3人も当然ですと言った表情だ。


「なら明後日から依頼を1日3つは受ける。4日で10回受けてミルナ達をAにあげる。そしてそこからさらに4日で10回依頼を受けて闘技大会参加条件も満たす。目標は10日後にアリステールを出立だ。俺の武器次第でもあるが、10日もあればガランは完成させるだろう。ミルナ、王都までの道のりは?」

「徒歩で5日ですわ。」

「なら15日後に王都に到着、その後45日使って闘技大会の情報収集と戦闘訓練。細かい部分についてはその都度決めていくってことで。忙しくなるぞ。覚悟しろ。」

「望むところよ!」


 エレンはやる気満々だ。アキに任せた以上、どんなハードスケジュールでも文句はないといった表情をしている。


「あの……大丈夫でしょうか?」


 ソフィーは逆に少し不安そうだ。


「大丈夫とは言わない。ただ俺が全力で力になるから。今はそれで許して?」


 アキがそう告げると、ソフィーは安心したようでいつもの可愛い笑顔を見せてくれる。すっかり信頼されたもんだなとアキは思う。


「僕も質問!アキのランクは上げなくていいの?チーム的な意味で上げる必要がないのはわかってるけど低いと闘技大会で舐められるよ?」

「いい質問だね、さすがリオナ。」

「そ、そんなことないよ……。」


 もう屋敷の中なのでレオである必要はない。レオは褒められたのが照れ臭いのか、リオナと呼ばれるのが恥ずかしいのかはわからないが、顔を赤くして下を向く。


「リオナの言う通りランクが低いと舐められると思う、だが俺はそれがいい。だからランクはあげない。ただミルナ達と一緒に依頼をこなすからCには上がりそうだけどね。」


 EからDランクへの昇格条件は「Dランクの依頼を3回達成、依頼達成率70%以上」なので間違いなくDにはあがる。DからCランクに上がる条件は聞いていなかったのでミルナに確認すると「Cランクの依頼を10回達成で依頼達成率75%以上」らしい。つまりCにも確実に上がる計算になる。CからBは「Bランク依頼を20回達成、依頼達成率80%以上」らしいのでBまではあがらないだろう。


「いいの?あんた舐められるのよ?」


 エレンが再度レオと同じことを聞いてくる。


「むしろそっちの方が都合がいい。」


 アキは戦闘に自信がない。そもそも今は全く出来ないと言っても過言ではない。つまりミルナ達と依頼をこなすので闘技大会までには勝手にCランクにあがるが、Cランクの実力があるはずもない。


「そんなことないわよ!私の剣止めたじゃない!」


 エレンと手合わせした時のことだろう。そう言ってもらえるのは光栄だが、それは魔素の使い方が特殊だからだと説明する。それ以外は平均以下。言い換えれば、唯一有利なのがそこだけだ。戦闘訓練はあと2か月出来るので多少はましにはなるだろうが、それでもCランクの実力には到底届かないと思っている。だからアキは出来るだけ魔法を隠したい。自分は本当に何もできない、弱い、数合わせだと周りに勘違いさせたい。どんなに罵られて屑扱いされたとしても、闘技大会までは自分が出来る事を絶対に隠しておきたいのだ。


「そこに俺の情報収集と観察を加えれば、いざという時なんとかなるかもしれない。周りを油断させて拾える勝ちは拾う。汚くてもいい、目的の為なら何でもするべきだ。その為だったら俺はそれで構わない。」

「そんな!アキがそんな扱いされるの見てるなんて私はいや!」


 エレンが叫ぶ。なんだかんだ彼女は自分の事を心配してくれている。アキにはそれが嬉しい。エレンを優しく見つめてアキは答える。


「ありがとう。でもエレン達がわかってくれてるから。俺はそれでいいんだ。」

「ずるい……そんなの言われたら何も言えないじゃない。」


 エレンをそっと撫でてやる。


「ミルナは質問ある?」

「特にありませんわ。あ、ところで明日からではないんですか?」


 ミルナが思い出したかのように質問する。


「うん。根詰めてもよくないし、明日はゆっくりしよう。休息日。明後日からは駆け足だしね。今日みたいな用事もないし、みんなで遊ぼう。」

「なるほど、休息は大事ですし、それはいいですわね。」


 ミルナが両手を合わせて嬉しそうに笑う。


「後、夜なんだけどエスタートの自宅に食事に誘われてるから皆も行こう。せっかくだし今日俺が選んだ服着てよ。」

 

 爺さんの食事会に彼女達を誘うという当初の目的を失念していた。まあ、彼女達はアキに全ての行動方針を任せるとさっき言ってくれたのだから、食事会にも快く来てくれるだろう。


「はい!あ、でもまだ服を見てないです、見せてくださいー!」


 ソフィーが元気よく返事をしてアキの隣に置いてある服が入った箱を取ろうとする。彼女達がアキの服を選んでくれたお返しに、アキも1着ずつみんなに選んでいた。ただそれはまだ彼女達に見せていない。彼女達が持っている衣服の箱は彼女達自身で選んだものだけで、アキが彼女達に選んだ服は入っていない。


「待って、明日のお楽しみってことで。ね?」

「えー……。うーん、わかりました。じゃあ我慢します。」


 ソフィーは頬を膨らませて不満そうにしているが、アキが頼むと渋々引き下がってくれた。別に今見せても構わないのだが、せっかくだから明日のサプライズに取っておきたい。


「じゃあそろそろ俺は訓練しようかな。闘技大会までに出来るだけ強くならないといけないからね。疲れたからとさぼるわけにもいかない。エレンとリオナ、悪いけど今日もお願い。」


 アキは「やるか」と自分自身に気合を入れ、訓練用の剣を持って庭へ出る。

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