17
ミレンド商会で選んだ服は自宅まで届けてくれるらしい。エスタートがご飯の誘いに来たついでにそのように取り計らってくれた。おかげで荷物を持たずに済んでいる。全員が数着ずつ服を買ったというか貰ったので、持って帰るとなったらかなりの量になるところだった。
「アキさん、この後の予定はどうしますの?」
ミルナがアキに確認する。
「生活用品を買いつつ冒険者協会に向かう。そこで少しやるべきことがあるしね。」
「わかりましたわ。」
「だからもう少し買い物に付き合ってね。」
「頼むから今度は普通の買い物にしてよね……。」
エレンが珍しく懇願してくる。
「ごめんな、今からは普通の買い物だから。皆も必要なものは買うように。無駄遣いはダメだけど、贅沢は今までしてこなかった分していいからね?」
「やったー!アキありがと!」
レオが喜ぶ。他の3人も買い物を楽しむ気満々のようだ。
その後アキ達は2時間程買い物をして冒険者協会に到着した。アキを先頭に中に入ると昨日と同じように協会内が静まる。ミルナ達は多少居心地が悪そうだが、アキは特に気にする事なく受付にいるセシルを見つけて話しかける。
「セシル、こんにちは。」
「アキさん!ごきげんよう。今日はどうされましたか?」
昨日に比べて少しセシルの表情が柔らかくなっている。肩の力も抜けているし良い傾向だとアキは思う。
「耳を触りにきたんだけど?」
「だ、だめです!耳はダメ!」
「冗談。支部長に会いに来たんだよね。取り次いでもらえる?」
「もぅ……はい、少々お待ちください。」
セシルは楽しそうな表情で支部長の部屋に確認しに行った。レオの尻尾のように彼女の耳がぴくぴく動いていたのでわかりやすい。
「アキさん、火遊びはダメです。」
ソフィーが横で拗ねている。しかも火遊びって……。どれだけ「俺の女」宣言が気にいったんだろうか。ちょっとソフィーには効果がありすぎたようだ。計画に支障はないがソフィーが暴走しないといいんだが。ちなみに昨日よりソフィーがアキにべったりなのを見た周りが死屍累々としているのは当然言うまでもないだろう。本当に人気があるんだな、男限定だけど。皆に好かれるという事はそれだけ優しい子なんだがなとアキは思いつつソフィーの頭を撫でてやる。
「殺す、あいつころしてやるうううう。」
敢えて火に油を注いだので血の涙を流している連中もさらに増えたようだ。だがまだ足らない。もう少し。あと10日くらいで何とかしたい。そんなことを考えているとセシルが戻ってくる。
「お待たせしましたー。大丈夫そうなのでご案内します。私も同席しますね。」
「いいよ、じゃあ行こうか。」
アキはミルナ達に声をかけてセシルに支部長室にまで案内してもらう。昨日も来たので場所は知っているがさすがに勝手に行くわけにはいかないだろう。
「ではどうぞ。」
セシルが支部長室の扉を開けて中に入るようにアキ達を促す。
支部長室に入ると正面には大きめの執務机があり、そこに支部長である女性が座っている。支部長の種族は人間で年齢はおそらく50代中盤。名前はレイア。長い髪を後ろでまとめており、服装は扇情的な水着のような物に外套を羽織っている。仕事ができるお局的な雰囲気の女性だ。少し高圧的な人だが話せば意外に悪い人ではないというのがわかる。というのもアキは昨日話したからわかるだけだが。
「おい、きたぞババア。」
「ババアいうんじゃないよ!」
とりあえず日常的な挨拶から始める。
するとミルナが焦ったように隣から口を挟んでくる。
「ア、アキさん……支部長にババアって……。」
「だって昨日いきなりこの餓鬼が!って言われたからババアって言い返したら嬉しそうだったからそう呼んでる。」
「誰が喜んでるって!」
「あと昨日も言ったが50にもなってその格好は公害だ。やめろ。さっさと捕まれ。」
「余計なお世話だよ!おいミナルミア、自分の男くらいちゃんと躾けるんだね。」
「わ、私の男……し、躾け……。」
ミルナは恥ずかしそうに何かを考えている。
「おい、やめろババア。ミルナに余計な性癖あたえるんじゃねえ。」
「全く、あんたは……ああもういい、で何の用なんだい。」
レイアはさっさと本題に入れと急かす。
「そう生き急ぐな。まあ本題はこれだよ。」
アキは新しく買った服のポケットから袋を取り出し、レイアに投げる。
ちなみに今のアキの服装は黒のシャツにカーキ色のズボン、それに茶色のブーツを履いている。ソフィーが選んでくれた服だ。誰が選んだ服を着るかで揉めたのは割愛する。結局最終的にはアキ自身が動きやすそうなのを彼女達が選らんだ服の中から適当に決めた事で決着がついた。
「なんだい……ってもう金作ったのかい。」
「ああ、色を付けて30金、納めてくれ。」
「ったく、1日で返すんじゃないよ、しかも利子までつけて。文句も言えないじゃないか。」
昨日レイアと話したときに20金借りた。個人認証魔法について黙っている事を条件に貸し付けてもらったわけだ。ついでに指紋認証以外の個人識別の存在なども教えておいた。貸付金に対して利子は特に要求されなかったが、礼儀として勝手につけておいた。
「借金ってのは好きじゃなくてね。」
「で、どうやったんだい。」
「言う必要はないと思うが、まあいいだろ。ミレンド商会と契約した。ついでに支援してもらうことになった。」
「ふん、そうかい。」
レイアはアキならそれくらいやるだろうという感じで驚きもしない。昨日相当やり合ったし、アキの調子にもすっかり慣れたのだろう。
「あ、そうそうセシル。大事な用事があるんだった。」
「は、はい!」
急に話を振られたセシルは兎耳をピンっと立て、慌てて返事をする。
「メルシーはもう指名依頼を一切受けないから協会側で全て断って欲しい。どうしてもという場合はセシル側で確認して問題なさそうな物を俺宛に回して。でも基本は全部却下だから。手配をお願いね。」
「え、いいんですか?」
「構わない。」
ミルナ達が異論を唱えないのを確認したセシルはアキに了承の返事をする。
「では、そのように。」
「あと、近々ミレンド商会のエスタートさんからメルシーの4人宛に1人当たり4750金の送金があるから対応よろしく。」
「はい、わかりまし……た?え?4750?え……全部で……。」
「全部で19000金。ミレンド商会との契約金だな。」
セシルは金額に唖然としている。
「やれやれ、1日で稼ぐ金額じゃないだろうが。だから指名依頼も受けないというわけだね。」
レイアが呆れてアキに突っ込む。
「頑張っちゃいました。」
「やめんか、気持ち悪い。」
「殺すぞババア。」
レイアとはこのくらいのやり取りがちょうどいい。昨日話した感じ、軽口でやり取りするのが好きな性格のようだった。
「アキさん……冒険者より向いている職業がありそうですね……。」
茫然自失状態から復活したセシルがアキに話しかける。
「そう?でもこれだけあればセシルの耳触れる?」
「え、え、え、……・あの……だ、ダメ……。」
「足らないか……あといくらあればいい?」
「お、おかねじゃないもん……。」
セシルは少し恥ずかしそうに俯く。
「冗談だ。」
「あんたね!うちのセシルいじめんじゃないよ!」
セシルとのやり取りが気に入らなかったのか、レイアがアキに罵声を浴びせる。
「うっせぇババア!セシルの耳触らせてやらんぞ!」
「なんだとこの餓鬼!セシルの耳はあたしも触りたいんだ!」
「セシルの耳は俺のもんだ!」
「いいや違うね、あたしのもんだ!」
「俺!」
「あたし!」
「違うの!私の耳は私のなのー!」
セシルが叫ぶ。それを聞いてレイアとアキはフッっと笑う。
「全く、セシルのこの表情を引き出せるのは感謝するけどね。この子は融通が利かなくてね、もう少し柔軟になってくれたらと思ってたのさ。」
レイアがセシルを優しい目で見つめる。
「俺はなんもしてない。」
「そうかい。」
セシルは驚いたように2人のやり取りを見守る。
「それに自分の娘くらいちゃんと自分で面倒みろよ。」
「はん、バレてたか。」
「全く似てないけどババアがセシルを見る目でなんとくなく。」
「忙しくてね、悪いとは思ってるのさ……。」
急にしんみりするレイア。似合わない。
「おい、ババアが感傷に浸っても可愛くないぞ。」
「もっと他に言う事ないのかい!」
「セシルは可愛くてお淑やかなのに……ババアの娘とか突然変異じゃないのか?」
「そういう他にではないわ、この餓鬼!」
その後もレイアと多少の情報交換をしつつ適当なタイミングで会話を切り上げる。周りには言い合っているようにしか見えなかっただろうが必要な情報はお互い得たし問題ない。レイアも納得しているようなのでここにいる必要はなくなった。
「またそのうち来てやるから茶菓子でも次は用意しとけ。」
「二度とくんじゃないよ!それに来るんならもっと早めにいいな!」
なんだかんだ歓迎してくれるレイア。面倒見のいい性格なんだろう。
「ババアのツンデレは気持ち悪いぞ。」
「さっさと出てけ、このくそ餓鬼。」
部屋を後にしてセシルやミルナ達と協会の受付へ一旦戻る。
「うちのお母さんとあの態度で話すのアキさんだけですよ?」
セシルが呆れたように言う。
「でもあれ、楽しんでるでしょ。」
「そうなんです。本気で楽しんでるお母さん見るの珍しいから。アキさんこれからもよろしくお願いします。」
「いい親子だな。」
「そ、そうですか?」
「うん。」
「ありがとうございます!」
セシルが花の様な笑顔を見せる。
「次こそはセシルの耳の所有権を勝ち取らねばならん。」
「な、なんで、そうなるんですか!」
セシルが自分の耳を守るように両手で抑える。その時背後に殺気を感じた。振り返るとソフィーがハイライトの消えた目で立っている。
「アキさん?私さっき言いましたよね?」
ソフィーが間違いなくヤンデレ化し始めている。本当に何とかしないといけない気がしてきた。エレンとレオも何か言おうとしてたみたいだが、ソフィーの迫力に委縮してしまっているようだ。アキはミルナに耳打ちする。
「ソフィーってこんな面あったっけ?」
「いえ……私も知りませんでしたわ……。」
ミルナもどうしましょうという感じの表情を浮かべている。




