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ある程度商談の詳細をエスタートの爺さんと詰めて、覚書にサインをしたアキは1階の店内で服を見ている。先程1000金受け取ったのでどの服でも普通に買えるのだが、エスタートが好きなのを持って行けと言って聞かないので実質タダみたいなものだ。とりあえず対価交換として香水と服のスケッチは渡してきた。それにここで服を着替えて今着ている服も渡す予定だ。
「うーん、どれにしようかな?ソフィーやミルナも選びなよ。勿論エレンとレオもね。」
アキは店内を物色する。
「あの、アキさん。本当にいいんでしょうか……?」
ミルナがアキの袖口を掴んで申し訳なさそうに尋ねる。
「爺ちゃんがいいって言ってるんだから好きなの持って行けばいいんだよ。」
「いえ、そっちじゃなくて。2万金の方ですわ……」
「だってミルナ達が指名依頼受けなくていいようにするって約束したし。これで受けなくてもいいでしょ?」
「そうですけど……こんな大金……。」
「ほら、ソフィー達もミルナに言ってやれ。」
煮え切らないミルナに発破を掛けろとソフィー達に話を振る。
「いやいや、僕どちらかというとミル姉側なんだけど……。」
「そうね、さすがにアキに悪いわ……。」
「こんな大金うけとれませんよー。」
レオ、エレン、ソフィーもあまり嬉しくない様子だ。
「喜んで貰えてないって事は余計なお世話だったかな?」
「ううん、嬉しいんだけどね……なんていうのかな……。」
そう言ってレオが口籠る。
「でも1人5000金あれば当分お金の心配しなくていいだろ。心置きなくイリアの為だけに動ける。俺はそうしてあげたかったんだけど?」
「当分どころかもう一生働かなくてもいいわよ!う、うれしいけど……!」
むしろ一生どころか人生数百回は遊んで暮らせる金額だと頭を抱えるエレン。
「お金なんてあって困るものじゃないしとっとけ。」
「でもアキさんの分がないです!」
ソフィーがアキの肩を掴んで揺する。
「でもソフィー達が養ってくれるんでしょ?じゃあいいじゃん。」
「むー、そうですけどー……。」
納得のいってない様子のソフィー。だがアキとしてはこれで安心して彼女達のヒモになれる。
「そうだな、じゃあお礼に服でも選んでよ。4着、1人1着ずつ。」
「そんなんでいいんですの?」
「ミルナが好きな服屋だよ、選んでよ。じゃあ俺も皆の分選ぶよ。」
「もうそれお礼でもなんでもないような……わかりましたわ。この恩は必ずいつかお返しします。一生かけてでも。皆同じ気持ちでしょう?」
レオ、エレン、ソフィーは当然ですと頷いてミルナに同意する。
「勿論だよ、目的達成したら今度は僕がアキを助ける。」
「そうね、必ず返すわ、アキ覚悟しなさい!」
「勿論です。一生尽くします!」
みんなの気持ちは十分に伝わって来た。ただソフィーだけ貴族の屋敷での件以降、思考がぶっ飛んでいるのが悩みの種だ。
アキ達が服を見ている頃、エスタートとレインは先ほどの商談について話していた。
「おぬし、アキをどう見る?」
「捕まえておくべき人材、というより仲良くしておいて損はないかな。」
「うむ、わしもそう思う。しかしあの若さでようやるわ。普通18やそこらで出来る目ではないぞあれは。」
エスタートは思い出す、アキの自分を見つめる視線を。落ち着いていて、冷静冷淡。全てを観察するような鋭い目線。
「勝てると思うか?」
「無理ですね。」
レインは答える。エスタート自身も勝てるとは思わなかった。何より自分達の店の営業方法を見抜いたのだ。それを他の商会に持って行くというカードもアキは持っていた事になる。それをアキは切りはしなかったが。
「見た感じ全員に慕われておったの。あの、メルシーだったか?」
「そうだね、羨ましい限りだよ。」
「あのレベルの男ならいくらでも女はついていくだろう。頼りになるしな。」
交渉も上手かった。特に話の仕方。彼のように結論から話しをする事により以降の内容に集中できる。だらだらと話され最後に結論を言われても話がぼやける。それにきっちり自分のカードを切るタイミングを理解していた。
「末恐ろしい男よ。だが気に入った。」
「だから支援すると?」
「伸びるぞ。わしの商会はアキが来たことによりさらに大きくなる。」
「そうですね。」
「あとはわしを爺ちゃんと呼んでくれたからの!待望の孫じゃ!」
「……・はぁ。」
レインは呆れる。結局そこが一番嬉しかったのかと。
「まあ、あいつはそこも理解してわしを喜ばせてくれたんじゃがな……でもそんな孫も悪くない。爺ちゃんの望みを叶えてくれる良い孫じゃないか。」
エスタートはそう言うと何かを思い出したかのように立ち上がる。
「どうした父さん?」
「アキを飯に誘うのを忘れておったわ!いってくるぞ!」
部屋から飛び出していく父親をさらなる深い溜息で見送るレインだった。




