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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三章 アリステール
48/1143

15

「ではもうこの口調やめていいですか?正直疲れるんですよね。」

「おぬしもか!わしもじゃ、もう気軽には話そうではないか、腹の探り合いは疲れるしの。」


 急に年相応の話し方になったエスタートにどこか親しみを感じる。ここまでくればあとは詳細を話して詰めるだけだ。向こうも腹を割って話してきたのであればこちらもそうする。


「あ、ちなみに隣のレインさんは会長の息子さんで?」

「なんじゃそれもわかっておったか!『レインさんはどうですか?』とか気持ち悪くて吐きそうだったわい。」

「父さん……それは言わない約束だよ。」


 レインの方も一息吐いて普通に会話に加わる。


「しかし、おぬしは恐ろしい。うちに欲しいの。どうじゃ働かんか?いくらでも出そう。」

「遠慮しますよ。俺には彼女達と達成したい目的があり、自分の夢もあるので。」


 適当な雑談を挟み緊張感をほぐす。アキの背後や隣からも緊張が解けるのを感じる。とりあえず彼女達を労ってあげるべきだろう。よく黙って見ていてくれたと思う。


「レオ、エレン、ソフィー、生きてるか?」

「なんとか……。」

「つかれたわ……。」

「アキさん成分が不足してます……。」


 ソフィーだけ何かおかしい。


「ミルナは?大丈夫?」


 隣にいたミルナの手に優しく触れる。


「ええ、大丈夫ですわ。」


 そう言って微笑むミルナ。

 とりあえずミルナ達の様子は確認したので改めてエスタートの方を見る。


「エスタートさん、それであの金額でどうでしょう?」

「丁寧に話さなくても別にいいぞ、わしも崩したんだしな。」

「そう?でも確かにエスタートさんって爺ちゃんぽくて、最初から話やすかったんですよね。俺元々爺ちゃん子だったので、すごく懐かしい気分になったよ。」


 アキもちょっとずつ言葉を崩す。むしろこの爺さん、馴れ馴れしく話して欲しいオーラがやばい。本人が望むならそれでもいいけど。


「そりゃいい!わしも早く孫が欲しいのだがレインがなかなか作らんのじゃ!」

「父さん……俺にはまだいい人がいなくて。相手は自分で見つけたいって言ったじゃないか。」


 レインもエスタートの会話に付き合う。支店長としても息子としても色々苦労してそうだと苦笑するアキ。


「まあ、おぬしの人生だし好きせい。それはそうと、アキと呼んでもいいかの?そしてアキよ、なんならわしの事は爺ちゃんと呼ぶがいい!」


 やはりこの爺さんはそれを望んでいたのか。途中からアキを見る目が孫を見る目に変わっている時があったからな。


「それもいいね、爺ちゃん。話の続きをしようか。」

「おおう……いい響きじゃ……。」


 ダメだこの爺さん。本当にただの孫好きの好々爺だ。


「レインさん、孫作ったら多分相当甘やかしますね、これ。」

「だからなかなか作れないってのもあるんだよね。」


 レインと周りに聞こえないように小声で話す。しょうがない父さんだよとレインは苦笑する。


「しかしわしを最初から話しやすかったというか。アキは面白いの。」

「まあ、話の分かる優秀な商会長なのは最初からわかってたし。」

「せっかくだしそこも教えてくれ。そして何故わしらを選んだのか。他にもほれ、2つほど大きい商会あるじゃろ。」


 当然聞かれると思っていた事だ。アキは説明する。まず他の2つの商会に関しては論外。店舗のセンスもなければ商品のセンスもない。価格設定も目先の利益しか追っていないような価格。さらには店員の教育がなっていない。客が責任者を出せと要求したら、確認しますと時間を空け責任者を出せるか確認する姿勢が大事だ。それなら断ったとしても客の印象は大分変る。即座に断るのは印象が悪い、営業努力もなにもない。店員の態度が悪いとその店のイメージダウンに繋がる。


「噂って広がるからね。」

「その通りじゃな、ではなぜこの商会なのか。」


 ミレンド商会は店員の教育もちゃんとしていた。どんな客が来ても普通に接客していた。アキがこの格好で店内をうろついたのもそれを確認したかったからだ。それに服屋に珍しい格好で行けば店側も興味を持つと考えた。責任者を出してとお願いした時、おそらくアキの格好も含めてエスタート達に報告したんだろう。


「服屋として服の情報に力をいれてないのはダメだよね。」


 次に店内の服のディスプレイや配置にもセンスがあった。売れ筋の商品や売りたい商品を目立つところに陳列していた。そして何より店全体で商品の配置がきちんと考えられていた。店の入り口にお得な服と合わせて店側が売り切ってしまいたい服を展示、店の中央には中堅の服、店の奥には人気商品や新作。そうする事により店の奥まで客が足を運ぶので店全体を見てもらえる。


「なんと、そこまでわかっておったか。そのとおりじゃ、わしが考えた!」

「さすが爺ちゃん。」


 明らかに褒めろと言っている感じなので適当に褒めておく。この好々爺は褒められてすごく幸せそうにしているのに呆れる。さっきまでの商会長としての顔はどこに飛んでったのだろうか。


「あと一番わかっているなって思ったのは、店員にこの店の服を着せているとこだね。ああいう細かいところは凄く大事だと思うよ。」

「あれは俺が考えたんだけど、わかる人にはやっぱりわかるのか。」


 どうやらレインの案のようだ。でも服屋の店員がその店の服を着ているのは地球では常識だ。その常識をこの世界で考えたのだから間違いなく商才はあるだろう。他の店では着ていなかったし。


「だからそれらを見た時点で爺ちゃん達が優秀な経営者であるのはすぐわかった。実際に話した時も俺みたいな若造相手に上から物を言わなかった。ちゃんと商談相手の『お客様』として対応してくれたからね。」

「まあ、おぬしも似たようなものじゃろ。」

「初対面の人には敬意を持ってが主義なので。」

「素晴らしいの、商会の10か条の1つに加えるかの。」


 10か条に1つ加えたら10じゃなくなるけどいいのかと思うアキ。まあそんなことはどうでもいいので適当に流す。


「好きにして。あと話してる時、爺ちゃんはちゃんと話を聞いてから商談の答えをだした。話を聞くのは大事だし、そしてそれをしっかり考察し検討してくれた。だから爺ちゃんの商会になら任せられるって思った。」

「なるほどの……。では本題じゃ。2万金。かまわんか。」

「いいよ。その代わり……には程遠いけど、俺が持って来た服をこの店のものと交換じゃなく無償で提供する。」

「そんなケチくさいことわしが言うと思うか?むしろ好きな服を持って行け。」

「そう?ミルナがここの服好きらしいから買ってあげたかったんだよね。丁度いいな。」

「それは光栄なことじゃな、譲さん達も遠慮せず持って行くといい。しかし2万金と聞いても表情崩さんとか可愛くない孫じゃの。」

「そもそも2万金の予定だったし。」

「ははは、だろうな。相手の提示金額の倍を出し懐のでかさを見せプレッシャーを与えるのも大事じゃ。」


 倍である必要はないが、今後も期待できる相手には多めに金を積む。期待しているという意味は勿論、プレッシャーを与えていい加減な仕事を出来なくする意味がある。「高い金払ってるんだからふざけたもの出したらわかっているな?」という意味合いも持っている。


「しかしそんな大金どうするんじゃ。」


 エスタートが不思議そうに訪ねる。


「まあ爺ちゃんになら言ってもいいから言うけど、さっき夢があるって言ったでしょ?多分2万金程度じゃ足りない。」

「どんな夢じゃ?」

「1つは海を渡りたい。海がどこに繋がっているのか知りたい、行ってみたい。地図の向こう側に。」


 アキは部屋に飾ってあるこの大陸の地図を指さして海の先へと向ける。ミルナに説明した海の先の話をエスタートに話す。海の先には必ず何かあるということを。


「なんと……この先があるなどと考えたことがなかったわ。面白い。やはり男としては未知に心が踊るわい。」

「なんなら爺ちゃんも来ればいい。」

「馬鹿言うな、こんな爺にそんな体力残ってるわけないわい。だがアキの夢は支援してやりたい。それくらいに面白い夢じゃ。ふむ、孫になれば全財産くれてやるぞ?」

「おい、息子の前でいう事じゃないだろ、レインさんの事をまず考えろよ。」

「アキ君、いいんだよ。父さんはこういう人間なのわかるだろ?」


 レインが諦めたような呆れた表情でエスタートを見る。


「まあ、それは冗談としてもミレンドが全面的に支援しよう。必要なときは相談せい。商売にもつながりそうじゃしの。あと海の向こうを見たら話をしにこい。」

「アキ君とはこれからも長い付き合いになりそうだしね、よろしく頼むよ。」


 エスタートとレインが手を差し出すので改めて握手する。無事契約成立ということだ。おまけとして支援して貰える約束もしてくれたし、大商会をスポンサーとして持てたのは嬉しい誤算だ。


「それは助かる。まあ、この2万金は俺の為じゃないけどね。」

「ふむ……譲ちゃん達か?」


 エスタートはミルナ達を見る。


「そうだね、力になると約束したし。爺ちゃん、細かい契約はまた後で詰めるとして、支払いは今即金で1000金貰える?残りの19000金は契約締結後4分割して彼女達名義で冒険者協会へ渡して。」


 冒険者協会にはお金を預けることも出来るらしく、どこの支部でも引き出すことが可能だ。冒険者証と協会の帳簿に金額が記録され、各支部に共有されているようだ。


「アキさん!そんな!」


 ミルナが声をあげるが、手で制す。


「ははは、男の甲斐性みたいなもんじゃ、受け取ってやれい。即金の1000も今用意させるわい。」

「そうそう。甲斐性ってことで受け取ってくれ。」


 エスタートがアキの代わりに答え、アキもそれに便乗するように同意する。


「いやー、買い物ってやっぱり楽しいね。」

「「「「こんな買い物あるかー!」」」」


 アキの言葉にミルナ達4人が全員で突っ込んだ。

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