10
ミルナが玄関で呼び鈴を鳴らしてメイドを呼び出す。しばらくすると扉が空いて目つきの鋭い仏頂面のメイドが姿を現す。
「ミルナミア様でございますね。依頼のご報告ということでよろしいでしょうか。」
「はい。」
「そちらは同行者のソフィアルナ様と……そちらはどちら様でございますか。」
「こちらは私達冒険者チームのメンバーの1人でアキさんです。」
そこは敬称つけたらダメだろとアキは思うが、こちらの文化は違うかもしれないので黙っておく。ミルナに紹介されたので1歩前に出て挨拶を交わす。
「ご紹介に預かりました、アキと申します。今回のご依頼報告に同行させて頂きました。うちのミルナミアとソフィアルナがいつもお世話になっております。」
「ご丁寧にありがとうございます。私はミセランダ様のお屋敷でメイドを務めておりますアリアと申します。以後お見知りおきを。それではご案内させていただきます。」
アリアと言われたメイドはアキと同じくらいの年齢に見えた。目つきは鋭く仏頂面だがとても顔立ちが整っていて綺麗な人だ。きっと笑ったら凄く可愛いんだろうなとアキは思う。瞳は淡藤色で髪はアキと同じ黒。髪の長さはミルナくらいありそうだが、ミルナとは違い後ろで束ねている。おそらくは仕事の邪魔にならないようにしているのだろうか。まさにクールビューティという雰囲気がぴったりの美人だ。メイドなのでメイド服を着用しているがそれがまた凄く似合っている。そして挨拶を聞く限りメイドとしてかなり優秀なのだろう。
アキは屋敷に入ると同時に聴覚強化魔法を展開する。少しでも情報を集めておきたかったからだ。アリアに案内され客室であろう豪華絢爛な部屋に通される。ミルナの言う通り趣味はあまりよくない。金で物を言わそうという心が丸見えでセンスが感じられない。
「こちらにお掛けになってお待ちください。只今ご主人様を呼んでまいります。」
「あれ?」
「……?アキ様、どうかなされましたか?」
「気のせいかな?おねーちゃんって聞こえたような?ソフィー聞こえた?」
「いえ、聞こえませんよー?」
「……!申し訳ありません、少々失礼いたします。」
それだけ言い残すと、アリアは足早に部屋を出ていく。
「アキさん今のは何ですの?」
「多分俺の空耳だから気にしないで。」
適当に誤魔化す。聴覚強化で屋敷のどこからか「お姉ちゃん助けて」と聞こえたのは間違いない。どう考えてもアリアのいうご主人様とやらがメイドに手を出そうとしているのだろう。本当にクズ過ぎて助かる。そして聞こえてきた内容から察するに、もう1人のメイドはアリアの妹という事か。今アキが「お姉ちゃん~」と言った時、アリアの目が微かに動揺していたから間違いない。これでメイドは依頼主と同類という懸念は取り除かれたし、心置きなく動ける。主人を慕ってないメイドが邪魔をしてくるわけがない。
「ご主人様、やめてください!」
「うるさい、メイドの癖に口だすな。」
「妹は、妹だけはやめてください!私にしてください!」
「お前には興味ないんだよ、消えろ!」
と、こんな感じで今も聴覚強化で絶賛声が聞こえているので丸分かりだ。便利な魔法だがこんなことばかりに使っている気がする。ちなみに聴覚強化を使えることはミルナ達しか知らない。こんな魔法はこの世界に無いらしい。ミルナに集音の理論を説明したけどわかっていなかった。
しかしアリアに興味ないとは、どんな性癖の持ち主だよ。アリアも相当綺麗だろうに。とりあえずまだ暫くかかりそうなので、事の成り行きを盗み聞きしながらのんびり待つとする。
結局ご主人様とやらはソフィーが来ていると聞いてアリアの妹には興味をなくしたようだ。ちなみに話に出たのでわかったが、姉妹の借金を肩代わりした代償として同等の金額分ここで働く契約になっているらしい。つまりよくあるやつだ。そしてそのご主人様は絶賛こっちに向かってきている。もっとやる気が起きる相手だったらよかったのに。この世界に来て相手にしている連中、こんなやつばっかりじゃないかと溜息を吐く。
「失礼いたします。ご主人様をお連れいたしました。」
ノックした後、アリアが扉を開けて一礼する。先程まで取り乱していたのが嘘のようにしっかりとした落ち着き具合だ。
「ソフィアルナ、待ってたぞ!」
そう言ってちょっと小太りの小柄な男が入ってくる。これがブランだろう。しかしまたこれは絵に描いたような腐れ外道貴族の外見そのままじゃないか。彼はずかずかと部屋に入ってきてアキ達の正面のソファーに腰掛ける。ソファーにはミルナだけが座っており、アキとソフィーはミルナの後ろに立っている。
「おい、お前は誰だ?」
アキの事がやっと目に留まったのか、上から目線で尋ねてくる。貴族なんだか知らないが、初対面の人間にそういう口の利き方をする奴に碌なのはいない。それに大体俺の事は優秀なメイドであるアリアが間違いなく報告している。アリアを横目で見ると「言ったのに」という感じで疲れた顔をしているので間違いない。
「彼は私達のチームの1人であるアキさんですわ。」
ミルナが説明する。
「なんだと、どういうことだ。なんで男がいるんだ。」
「メルシーは女性限定チームというわけではありませんので。私達がお誘いして加入して頂きました。」
「そんなん許されるか!ふざけるな!」
ふざけるなとかこいつはどれだけ馬鹿なのだとアキは思う。そもそもブランに冒険者チームの構成に口出す権利などない。それに依頼報告に来ているのに一向に本題に入らないし……と表情には出さずに呆れるアキ。
「アキと申します。いつもうちの2人がお世話になっております。」
「貴様!勝手に話すな!話していいとはいってないぞ!」
アキは特に突っ込むことはせず、ミルナの肩に手を置く。
さっさと進めろという合図だ。
「ブランさん、とりあえず依頼のお話だけでも先によろしいでしょうか。」
「気に入らんが……わかった。報告を聞こう。」
ミルナが穏やかな落ち着いた口調でブランを本題へと引き戻す。しかしミルナやアキに怒鳴りながらもソフィーを見ているのはある意味才能だと思う。ソフィーが嫌そうに怯えているので、横に立っているアキはソフィーの手を握ってやる。するとすぐに握り返してきた。
「はい、まずご依頼内容の確認になります。ご依頼は『アリステール近隣の森に生息している薬草を30本採取してくること。報酬は10金、ペナルティーは10金、払えない場合は応相談。期限は受託時に確認すること。受託・報告時はソフィアルナを同行させること』でよろしいですね。」
「うむ、問題ない。」
「承知しました。それではこちらがご依頼の薬草30本になります。」
「確認しよう。おい、アリア数えろ。」
アリアがかしこまりましたと薬草を確認する。
「ご主人様、問題ございません。30本ございます。」
「ふむ。わかった。下がれ。」
ブランが偉そうに指示を出す。アリアは一礼してブランの後ろへ下がる。
「ではブランさん、こちらの依頼書にサインを頂いてもよろしいでしょうか。」
「よかろう。」
ミルナはほっとしたのか、彼女の肩が少し揺れた。ソフィーも安心した表情をしているようだ。本当にこれで終わればいいが、依頼内容からして終わるはずがない。
ブランは依頼書を裏返しミルナに問う。
「では次は違反金ありとなし、どちらにサインするのかの交渉だな。」
「ど、どういうことでしょうか。」
ミルナに動揺が走る。必死に抑え込んではいるみたいだが、動揺しているのは丸分かりだ。落ち着けとアキは空いている方の左手でミルナの背中を撫でる。ちなみに右手は相変わらずソフィーが必死に握り締めている。
「依頼が達成出来ていないからに決まってるだろうが。」
「いえ、確かに薬草30本お届けいたしました。」
「物はな。でも期限が守られてないだろうが!」
「7日とおっしゃられたので、本日が7日目になりますわ。」
「7日とはいっておらん!俺は5日といったのだ!」
「そんな!私もソフィーも7日と聞いておりますわ。」
「それはお前らの勘違いだろう。俺は5日といった。」
予想通りの展開だ。契約書に明確な日時が書かれてない以上、言った、言ってないにできる。そしてそれを文書的に協会に証明する方法はない。依頼を受諾する際に明文化しておくべき重要な部分だ。それをミルナは怠った。騙そうとする方が当然悪いが、世の中にはこういう連中がいるのでしっかり対策は行うべきだったのだ。
「そんな、7日で完了しております。お約束通りです。」
「知らん!5日と言っておるだろうが。なので違約金を払え。」
「それは横暴ではないでしょうか!」
「では俺が7日と言った証明をしろ。俺のいい間違いだったのであれば完了にサインしよう。大体この契約書のどこに7日と書いてある?」
「私とソフィーが聞いております。」
「聞き間違いだ。俺は5日と言った。何回も言わすな、この女が!」
ミルナがビクっとする。実力的にはミルナの方が圧倒的に上なのに感情まかせに来られると強く出られないのが彼女の弱さであり優しさなのだろう。
「協会に赴いて判断してもらおうか?俺は5日といった、お前らは7日という、どちらが正しいかを。」
「そ、それは。」
ミルナも多分わかっている。明文化してない以上、依頼主が正しいという判断になる事を。セシル辺りは擁護してくれるとは思うが、どうにもならないだろう。
「違約金払えるのか?」
「わかりました……払います……。」
「今すぐだぞ?」
「そんな!無理です、時間をください!」
「ダメに決まってるだろうが!依頼達成できなかった上に払えないから時間を寄越せだと?さっさと払え!」
「無理です……。」
「大丈夫だ、払えない場合は応相談と書いてあるだろうが。簡単な話だ、ソフィアルナを置いていけ、サインした依頼書を持たせて明日には返してやる。」
「そ、そんな!駄目です!」
「知るか、さっさとソフィアルナを置いて消えろ。」
そう来るよね、とアキは思う。そろそろミルナも限界だろう。ソフィーに関しては怯えて泣きそうになってアキの手を思いっきり握りしめてくる。まあ、2人が限界というより自分がミルナ達を苛められて結構むかついているのもある。
「まあまあ、ちょっと待ってください。」
アキが割って入る。ミルナをソファー立たせて今度はアキが代わりに座る。
「なんだ貴様は!」
「あれ、もう1度名乗った方がよろしいでしょうか。私は……。」
「そういうことじゃない!貴様に用はない!」
「いえいえ、私もメルシーの一員ですから彼女達が扱いきれない交渉については当然口を出させて頂きますよ。もし話を聞いて頂けないなら協会にはそのように報告させて頂きます。依頼主が話を聞いてくれずサインを拒否したと。」
「なんだと……!」
「その場合色々と冒険者協会の調査が入りますよ?私達としてもそんな面倒な事は嫌なのでお話聞いてくださいませんか?」
先ほど捕捉説明としてミルナから聞いていたが、依頼主と冒険者間で問題が発生した場合は協会を間に挟むことが出来るらしい。この場合だと依頼書のサインを拒否したというアキの言い分、冒険者が指定の期日までに依頼を達成出来なかったというブランの言い分を両面から調査することになる。こうなると最終的にどちらに転ぶかは完全に協会次第だ。何故なら両方とも証明する方法がない。
だからミルナの最善の手としてはこれで時間を稼ぎ、協会が調査をしている間に違約金を作る。そうすればどちらに転んでもソフィーは傷つかない。お金が入るか出るかの違いだ。ただ彼女は動揺しすぎてそれに気付かなかった。
「なら、一応聞いてやろう。」
「ありがとうございます。」
アキは形式的にだが頭を下げる。アリアを見たら少しだけ驚いているようだった。ほぼ表情は仏頂面から変わらないが。
「ブラン様は期限は5日とおっしゃった。」
「そうだ!」
「ミルナ達は7日と聞いた。」
「はい、そう聞きましたわ。」
「正直に申し上げますとブラン様が正しいです。」
「ほう!そうか!」
「アキさん!」
ミルナが泣きそうな声を上げる。
「明文化してない以上、依頼内容は依頼主の言葉が正です。どちらが事実なのかその場にいなかった私やそちらのメイドのアリアさんでは判断できません。そうですね?アリアさん。」
アキは敢えてアリアに問いかける。彼女を巻き込むには理由がある。
「は、はい。私は同席しておりませんでしたので。」
「メイドが勝手にしゃべるな!」
アリアが許可なく発言したのが気に食わないのかブランが叱責する。
「まあまあ、アリアさんは貴方が正しいという証人にもなりえるのですから。」
「ふん、それで?」
アリアがありがとうございますという目を向けてくる。気にするなと合図して本題をブランに切り出す。
「では達成できなかった前提で話をさせて頂きます。違約金は10金、それかソフィアルナを置いていくかということでよろしいですか?」
「そうだ!早くおいていけ!ソフィアルナ、待ってろ!もうすぐだからな!」
背中に温かい手の温もりを感じる。ソフィーだろう。
「いやいやお待ちください。違約金を払えばいいんですよね?」
「今すぐ10金払えるのか!」
「はい、こちらですよ、どうぞ。」
そう言ってアキは金貨を10枚外套の中から出してテーブルの上に重ねる。わかりやすいように1枚ずつ、数えながら。
「な、なんだと!何で貴様がそんな大金を!」
「頑張って稼いだ貯蓄ですよ。まあ、お金がどこからとかいいじゃないですか。お金はお金です。では違約金有りのほうにサインをしていただけますね?」
ブランは焦る。本気で10金出されると思っていなかった。これではソフィーが手に入らない。おそらくこう考えているはずだ。そういう場合、このタイプの人間が次に取る行動は自ずと決まってくる。
「く……そうだ、これは元々俺の金だ!お前はまだ10金払ってない!だからサインはできんぞ!」
ブランはテーブルにある10金を手元に引き寄せる。
清々しいくらいの屑だな、と思うアキ。
「そんな……!今見てました!そこのメイドさんも見てたはずです!」
ソフィーが叫ぶ。
「うるさい黙れ!」
「まあまあ、落ち着いてください。ソフィー、ミルナも落ち着いて。アリアさんも目を瞑っていて何も見てなかったでしょう?あ、何も言わなくていいですよ。」
アリアが何か言おうとしたのが見えたので、アキは最後に「黙ってろ」という意味も込めて言葉をつけ足し、アリアが口を開くのを止める。
「なんだと!」
「この10金は貴方のものなんですよね、わかりました。」
アキは外套の中からさらに袋にいれたお金を取り出す。ただ今度はテーブルの上には置かない。軽く振ってちゃんと金貨が入っている事をブランに証明する。
「ここに10枚あります。出すと誰のお金かわかりにくくなりますから、とりあえず協会にいきましょう。そこで私がお金を出しますので協会で清算すれば揉めないでしょう?ブランさんも協会へ行こうとおしゃっていましたし、丁度いいでしょう。」
「ぐ……貴様どこからそれほどの金を……。」
「まあ、そんなことはどうでもいいでしょう。行きましょうか?」
最終的に上手く行かなった場合、ブランがとるのは強硬手段。実力的にBランクのソフィーに敵うわけはない。だがおそらくソフィーは動けない。だからその時は代わりにアキが動く。
「うるさい!ソフィアルナは俺のだ!」
予想通りブランは激高しながらソファーから飛び上がろうとするので、アキは手で制して声のトーンと言葉遣いを変える。
「黙れ、この豚。殺すぞ。」
部屋に沈黙が流れる。
「……え」
ミルナが声を小さく上げる。アキの言葉遣いに驚いたのだろう。
「さっきからおとなしく聞いてれば好き勝手いってくれる。こっちはBランク冒険者なんだ。本気で殺すぞ?」
そう言ってアキはテーブルに手を置き、先日ソフィー達に見せた岩を凍らせる魔法でテーブルを氷漬けにする。
「別にお前一人氷漬けにしたところで誰も困らないよな?俺も別に1人くらい殺してもなんも気にしない。」
ブランは氷漬けにされた机を見て情けない声を出し後退る。
「氷は嫌か?火の方がいいか?」
アキは次に高温の炎を手にまとわせ、外套の中から短剣を取り出し溶かす。アキは戦闘能力的にはこれくらいしかできないが、原子論を取り入れた魔法はこの世界の人間を脅すには十分な威力だ。ブランが脅しに怯えずに襲い掛かってきたらアキは負けるかもしれない。だが彼にそんな度胸がないのはわかりきっている。この程度の脅しで十分に効果があるだろう。
「ひっ……」
「骨まで溶かされるか、氷漬けにされるか選べ。両方嫌ならとっとと依頼書の『未達成違約金あり』にサインしてその10金を持って消えろ。」
アキはソファーから立ち上がり、手をブランの前に持って行き、今にも魔法を行使するぞと脅す。ブランは黙って頷き、サインをして10金を拾い上げると足早に部屋から出ていこうとする。
「おい、1つだけ言い忘れた。」
アキはソフィーの隣まで移動すると、彼女を抱き寄せる。
「これは俺の女だ、手を出したら殺す。」
そう言ってアキは手に炎を宿す。ただの脅しだがブランには効果覿面だったようで慌てて部屋を出ていく。メイドのアリアを残して。
「やれやれ、単純だなー。」
アキはそう言って炎を消し、ソフィーから離れようとする……が離れない。
「どうした、ソフィー。」
ソフィーはアキに抱き着いて首をブンブン振っている。今はダメ、ちょっと待ってということか。安心して泣いているのだろう、しばらくは好きにさせよう。
「ミルナは大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫ですわ。それよりあのお金……。」
「まあ、その話は後でね。」
「……はい。」
口では大丈夫と言いつつもアキに近寄り外套を摘まんでいる。とりあえず2人が落ち着くまで少し待つとしよう。
「アリアさん、交渉の間、黙っていてくれて感謝します。」
「い、いえ……私の方こそご配慮いただき……。」
アリアの方もアキの配慮に気付いていたようで感謝の意を示す。
「あ、黙ってくれてたお礼がまだでした。この状態だから投げますね……。」
ソフィーとミルナがお荷物状態になっているので動けないアキは外套から袋を取り出しアリアに投げる。アリアは袋を受け取り、不思議そうな顔で中を確認する。
「そ、そんな!こんなの頂けません!」
袋の中には先ほどブランに使った見せ金の10金が入っている。アリアは機械のような冷淡な表情を崩して戸惑う。
「気にしないでください。出来るだけアリアさんが責任を問われないように話を持っていったつもりですが、多分この後大変ですよね?妹さんのこと頑張ってください。」
「なんで、それを!」
さすがに盗み聞ぎしていましたとは言えないので適当に誤魔化す。
「どのみち20金使う予定で交渉に来ていたので、それは余ったはした金です。妹さんの為に使ってあげてください。俺が貴方の主人を苛めたせいで大変なのは貴方たちでしょうし。」
「で、でも……。」
「どう使ってもいいですから。でも有意義に使って頂けると嬉しいです。」
本当にいいからとアキはアリアを見つめる。ちょくちょくアリアを話しに巻き込んでいたのはブランにアリアは関係ないと印象付ける為だ。ただやはり八つ当たりは避けられないだろう。お金はそのお詫びの意味もある。
アリアは貰ったお金の袋を両手で握りしめて深くお辞儀をする。
「ありがとうございます。」
顔を上げたアリアはほんの少しだけ微笑んでいた。やっぱり笑ったら可愛い子だ。
「あと、もし本当にどうしようも無くなって悪魔に魂を売ってもいいと思った時は協会のセシルを尋ねるといいです。」
アキはそう言うとソフィーの頭を撫で、もう大丈夫?と声を掛ける。ソフィーは静かに頷いてアキから離れる。ミルナも大丈夫ですと目で返事をしてくる。
「さっさと行こうか。まだ予定もあるし、これ以上ここで時間使ってもしょうがない。ではアリアさん、またお会いしましょう。」
アキ達はアリアに見送られ屋敷を後にする。アリアはアキ達が見えなくなるまで深くお辞儀していた。




