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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三章 アリステール
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7

 冒険者協会から歩いて20分程で住宅地区に入り、さらに10分程歩くとミルナ達が借りている家があった。いや、家というより屋敷と言った方がいいだろう。周りは高い壁に囲まれており中が見えないようになっている。やはり彼女達にとって塀で隔離されているといないとでは雲泥の差なのだろう。ミルナもまずはこれが物件を探す際の一番の条件だと言っている。


「レオの事もありますし、それに外から見えないだけで大分心が休まるので。」


 彼女達とっては重要な要素なのだろう。どこから情報が漏れるかなんてわからないだろうし。


 塀の中には少し広めの庭がある。アキが訓練するには十分な広さだ。その先に屋敷があり、見た感じ大きめの2階立ての屋敷だ。街中でみた中世ヨーロッパの雰囲気そのもので、完全なシンメトリーで建てられている。ミルナ達に案内されて中にはいると吹き抜けの玄関があり、左にリビング、右にダイニングとキッチンという構造になっている。そして2階には各自の部屋があるらしい。全部で8部屋と主寝室があるらしいので、アキは空いている好きな部屋を選んでいいとのこと。


 とりあえずアキはリビングに案内され、みんなで一息つく。立派なソファーに暖炉、それに装飾品の数々が飾られている。


「私達が買ったわけではないです、家具付で借りられる屋敷なのですわ。」


 アキが部屋を見渡しているとミルナが説明してくれる。


 確かにこの調度品を揃えるとなったら結構な出費になる。Bランクの通常の稼ぎであれば問題ないのかもしれないが、今のミルナ達には少し厳しいのかもしれない。ちなみにこの家は1ヶ月400銀らしい。一般市民の1ヶ月の稼ぎの4倍ともなれば結構な値段と言えるだろう。ミルナ達の生活費は1人1ヶ月250銀と言っていたので、つまり100銀が家賃で150銀で生活をしている計算になる。大体Dランク冒険者くらい稼ぎだ。多少の贅沢は出来るのかもしれないが、BやAの依頼を受けつつDランクの収入となると色々大変に違いない。低ランクに比べて依頼の難易度もあがり、それ相応の武器なども必要になるだろうし。


「でも、いい屋敷だね。俺は好き。ここに住んでいいんだよね?」

「当たり前ですわ。むしろ別のところは私達が許しません。」


 それが全員の総意ですとミルナが言う。


「勝手に庭で訓練していい?」


 一応家主は彼女達なので確認をする。


「いいわよ、でも声かけなさいよね。ひ、暇だったら見てあげるんだから。」

「つまりエレンは教えたいって言ってるんだねー。」


 エレンの言葉を勝手にレオが意訳する。


「ち、ちがうわよ!」

「僕にも声かけてよね、アキ。」


 レオはエレンの突っ込みを無視する。


「わかったリオナ、声かけるようにするよ。家ではリオナでいいよね?」

「あ……う、うん。リオナがいい。」


 レオが嬉しそうに下を向く。


「アキさん、その話ですが私達はレオでいきますわ。アキさん程きっちり切り替えが出来る自信がないので……すいません。」


 ミルナが申し訳なさそうにアキとレオに告げる。


「リオナがいいならいいんじゃない?下手に外で間違えて問題なるよりいいと思う。」

「僕もいいよー。面倒な事お願いする事になっちゃうし。」

「ありがとうございます。レオがレオを本当に辞めた時はリオナに戻しますわ。早くその時が来るといいんですが。」

「まあ、すぐ来るから心配するな。」


 ミルナが残念そうな顔をするのでアキがフォローしておく。


「よし、とりあえずご飯食べてゆっくりして今日は休もう。俺は訓練するけどね。リオナ、エレン暇なら頼む。」


 2人はアキの言葉に頷く。


「そうですわね、色々ありましたし。」

「明日は忙しくなるしな。」

「アキさんの考えている予定をお聞きしても?」


 ミルナが尋ねる。


「ミルナはわかっていると思うけど、まず指名依頼の報告に俺がミルナとソフィーに同行。その後服を買いに行って、鍛冶屋に行きたい。」

「そうですわね。では依頼は明日はお休みにしてアキさんに必要なものを買いに行きましょう。」


 ミルナが他の3人にそれでいいかと確認する。勿論異論はないようで全員首を縦に振る。


「アキさん、生活に必要なものは私に買わせてくださいね!それくらいは許してほしいですー!」


 ソフィーがアキにお願いする。勝手にやるとまた頬を引っ張られると思ったのだろう。ミルナ、エレン、レオが自分達も出すって言ってくれている。


「ありがとう、お願いするね。でも明日が予定通りにいけば多分出してもらわなくても大丈夫だと思うけど。」

「どういうことですの?」

「今は内緒、というかミルナにも付き合ってもらうからそのつもりで。」

「はい、喜んでご一緒します。」


 そのやりとりを見ていたソフィーが私も行きたいですと必死にアピールしてくる。


「ならエレンもレオも来てくれるか?依頼報告が終わったら一旦合流して俺に付き合ってくれたら嬉しい。勉強になるとも思うしね。」

「いいわよ、もともと買い物には一緒にいくつもりだったし。」

「僕もいいよー。」

「ありがとう、よしとりあえず部屋決めて荷物整理するかな……。」


 アキがそう言うとミルナが2階の部屋の説明してくれる。どうやら2階は廊下を挟んで4部屋ずつ向かい合わせになっているらしい。片側をミルナ、ソフィー、エレン、レオの順で使っているので向かい合わせの部屋と主寝室は空いているとの事だ。


「誰も主寝室使ってないの?」

「ええ、広すぎてちょっと寂……いえ1人には広すぎるのですわ。」


 本音が出そうになったミルナは必死に言葉を誤魔化す。それを聞き逃すアキではないが特に追及しなかった。ミルナは意外だったようでちょっと驚いている。


「どこにしますかー?」


 ソフィーが興味津々に前のめりに聞いてくる。


「どこでもいいの?」

「はい、どこでも大丈夫ですよー。」

「うーん、じゃあソフィーの部屋にする。」

「はい!……はい?」


 ソフィーは元気よく返事をしたが何を言われたかわからず一瞬逡巡する。


「ってアキさん……ええ!?わ、私のですか?」

「ソフィーがどこでもいいって言うから。ソフィーの可愛い寝顔が見られる部屋にしようかと思って。」

「そ、そんなんダメです!一緒はまだダメです!」


 ソフィーが必死に否定するが「まだ」という言葉にミルナが悪乗りしてくる。


「あらあら、ソフィー。まだってなんですの?」

「ち、違うんです!そういうことじゃなくてー!」


 ミルナがソフィーで遊んでいるのを眺めて和んでいたら、いつもの銀髪ツインテールの猛獣が目の前に現れ、綺麗なオッドアイでアキを睨む。


「こ、この変態!ぶっころすわよ!」

「冗談だ、世界に解き放たれた気高き猛獣よ。」

「その名で呼ぶな!あと勝手に色々つけたすな!」


 適当にエレンを宥めつつ、ソフィーとミルナに声をかける。


「冗談だ、ソフィー。ごめんな。本当は俺、ミルナの部屋にするって最初から決めてたんだ。」

「い、いえ大丈夫です……はい?」


 アキはソフィーの反応にデジャヴを見る。


「あらあら、アキさんは私の部屋がよろしいんですの?本当に?」

「ミルナはいいのか?」

「さあ、どうでしょうね?」


 ミルナは余裕綽々でくすくす口元に手をあてて笑う。


「ほら、ミルナは夜1人では寂しいらしいからさ。」

「ア、アキさん!聞き流してくれたんでは!」

「まさかー。」

「時間差は辞めてください!余計恥ずかしいですわ!」


 余裕の表情はどこへ行ったのか必死の表情でミルナは抗議する。


「それに一緒ならまたミルナのセンスある誘惑が見られるかなって。」

「やめて!それまで思い出させないで!」


 私が悪かったですと白旗を上げるミルナ。そろそろ可哀そうだし話も進まないので彼女達で遊ぶのを切り上げる。


「とりあえず俺は正直どこでもいいんだよね。リオナが決めてよ。」

「え、僕?」


 静かに成り行きを見守っていたレオに声をかける。


「うん、リオナが決めて?」

「いいの?そうだね、う、うーん、じゃあ主寝室でいいんじゃない?」

「じゃあそこで。」


 アキが即答する。


「え、アキ?そんなんでいいの?」

「リオナが決めてくれたんだからそこがいい。」

「そ、そう?一応理由だけでも言うね……主寝室は広いから机とかもあるし勉強とか作業にも使えるかなって。それに多分アキの部屋にみんな遊びに行きそうだなって思ったから広いほうがいいかなって。」


 レオが理由を身振り手振りで説明してくれる。


「いいと思いますわ。」

「私もそれでいいと思うわ。」

「賛成ですー!」


 ミルナ達も賛成したので特に揉める事もなくアキの部屋は決まった。

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