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指名依頼の話も落ち着いたのでそろそろ屋敷に向かおうという話なった時、扉がノックされる。
「あら、邪魔が入るって珍しいですわね?」
ミルナはそういって扉を開ける。そこには仕事モードのセシルが立っていた。
「皆さん、すいません。アキさん。支部長が少しお話したいそうです。」
「いいけど、俺だけ?」
「はい、アキさんだけでとの事です。」
なるほど、多分指紋関連の事だろう。丁度いいので少し交渉するかと思い、アキは席を立つ。ミルナ達の話を聞いたあとでよかった。
「ミルナ達はどうする?」
「もちろん待ってますわ。アキさん気にせずいってきてください。」
「ありがとう。じゃあセシルさんについていけばいいですか?耳触っていいですか?」
「は、はい。あとセシルって呼んでください。それにミルナさん達に対する話し方と一緒でいいですよ。あ、あと……とりあえず耳触っていいか聞くのはやめて頂けると……。」
「そう?じゃあセシル、ごめん。凄く触り心地がよさそうだからつい。」
「そ、そのうちね?……で、でも今はダメです。」
「期待しておく。」
そんな話をセシルとしていると背後から気配がする。
「アキ、僕のじゃ満足できないの?」
「アキさん、何を言っているんです?」
「この変態!殺されたいの!」
「あらあら、アキさん……お仕置きしましょうか?」
後ろを見るとレオ、ソフィー、エレン、ミルナがそれぞれ異なる笑顔でアキを見ていた。とりあえず彼女達を適当にあしらってセシルと廊下へ出る。
「怒られましたね?」
「じゃれているだけだよ。」
「ふふ、そうですね。……ああ、なんだかアキさん相手だと調子が狂います。」
ついつい感情を出してしまった自分に落胆するセシル。
「そっちのセシルの方がずっといいと思うけど?」
「お仕事ですから私情はダメです。」
「うん。それはそうだけど四六時中そのモードでいる必要はない。臨機応変でいいんじゃないかな?」
「そうなんですかね……?」
「仕事を一生懸命、真面目にやるのは当然だけど仕事を楽しむことも大事だよ?」
「……楽しむ。確かに楽しくないと続きませんものね。」
「そういう事だね。だからみんなにセシルの耳を触らせるというのは?」
「アキさんそればっかり!だから耳はダメです!」
「でも今少し楽しかったでしょ?」
「ええ……はい。確かに。」
そう言ってセシルは少し微笑んだ。
そんな雑談をしていたら支部長室の前についた。それではこちらですと、セシルはアキを支部長室の中へと案内する。
ミルナ達は椅子に腰かけアキの帰りを待っている。
「アキさんちょっと怖ったですー。」
ソフィーがさっきの事を思い出すように言う。
「確かにね。僕もちょっとびっくり。」
「ミルナの顔はひどかったわね!」
エレンがその時のミルナの表情を思い出したのか必死に笑いを堪えている。
「エレン?お仕置きしてほしいのかしら?」
ミルナがエレンに真っ黒な笑みを浮かべながら威圧するが、さっきのミルナを見ているからどこ吹く風だ。
「ふふん、あのミルナ見たあとなら全然怖くないわよ!」
「そうそう、僕ね、昨日アキにミル姉ってどんな人?って聞いたんだよね。」
レオが思い出したように呟く。
「な、なんて言ってたんですの?」
ミルナはアキにどう見られているのか気になるようで、少し声に緊張が走る。エレンとソフィーも興味津々のようだ。
「ええと、『しっかりしたお姉さん。でも本当はとても弱くて泣き虫な可愛い女の子』みたいなこと言ってたよ。」
「へぇ、そうなのね!」
「なるほど、泣き虫なんですねー。」
エレンとソフィーからかうようにミルナを見る。
「ア、アキさん……なんてことを言ってくれたんですか……。これでは私のお姉さん的立場としての尊厳が……。」
ミルナは誰にも聞こえないような小声でここに居ないアキへの苦言を口にする。だがそう言いつつもミルナの顔は羞恥心で真っ赤だ。実際アキの前では弱音を吐いたりしたので、その時の事を思い出しているようだ。
「よかったねー、ミル姉。」
「な、なんでよかったなんですか。よくありませんわ。」
ミルナはレオにたどたどしく言葉を返す。
「あれ?だって合ってるじゃん。アキにわかってもらえてよかったねって意味だけど。よくなった?違う?」
さすがにレオは、当然エレンもソフィーもだが、長い付き合いのミルナが本当はそういう性格なのを知っている。ミルナも確かに嬉しかったのだが、恥ずかしさとプライドが邪魔をしてそれを認めたくない。「こ、これは不味いですわ。この子たちにいい様に言葉遊びされるなんて……。全く全部アキさんのせいです。」ミルナはそんな事を考えながら彼女達に必死に抵抗する為の言葉を探す。
「ミルナもまだまだね!」
何も言わないミルナに対してエレンが偉そうに言う。
「こうなったら私はアキさんに色々教わることにしますわ。そしてエレン?覚悟なさい。その時が楽しみですわね。」
ミルナはようやくいつもの微笑を浮かべる。
「そ、それはだめよ!」
「あら、何故ですの?」
ふふふとミルナは口元を隠して笑う。エレンもそうなったら有無を言わさずおもちゃにされる事がわかっているので必死に止めようとしたのだろう。
「遊びすぎたかな?ミル姉が本気でアキみたいになったらやばくないかな?」
「そうね、それこそ2人で世界征服できるんじゃないかな。」
レオとソフィーがひそひそと話していると、いつの間にかミルナが見つめている。
「世界征服なんてしませんわよ?」
ミルナが静かに口にする。
「き、聞こえてたんですか……?」
「あら、本当にそんなこと言ってたんですか?」
ソフィーがつい口を滑らせ、言っていたことを認めてしまう。
「ふふ、私もアキさんを見習ってソフィーの頬でも引っ張ろうかしら。」
「だ、だめです!ごめんなさーい!」
ソフィーが必死に自分の両手で頬を守るように隠す。
「冗談ですわ。」
ミルナはそう言って少し楽しそうな表情を浮かべる。
「でもこうやってみんなで楽しく話すのって久しぶりですわ。」
「そうね、ずっと必死にイリアの事だけ考えててこんな余裕なんてなかったわ。」
「イリア、指名依頼、街の事、どこでもずっと気を張っていたもんね。」
レオとエレンもそれに同意する。
「アキさんのおかげだと思います。彼といると安心できますー。」
ソフィーが嬉しそうに笑顔になる。
「そうね、弱いくせに頼りになるのよね。」
エレンも。
「うんうん、僕達の為にあんなに怒ってくれるんだもん。」
レオも。
「その通りですね。イリアの事についても彼がいるならなんとかなりそうな気がしますわ。だから私達も今を少しは楽しめるようになっているのかもしれませんわね。」
ミルナも。
みんなどこかでアキを頼りにしている。まだ数日しか一緒にいないけれど、戦闘では役に立たないくらい弱いけれど、それでも4人にとって彼は必要な人物になっているようだった。4人は楽しそうに、嬉しそうに、それでいてどこか憑き物が取れたような穏やかな表情を浮かべてゆっくりと過ぎる時間を心地よく感じていた。




