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「ミルナ、指名依頼どのくらい来てるんだ?」
そろそろ本題に入るべきだと思ったので話を切り出す。
「そうですわね、30件くらいでしょうか……。」
そういってミルナは溜息を吐く。
「凄いじゃないか、やっぱりBランクって稼げるんだね。」
アキがそういうとみんな少し暗い表情になる。
「違いますわ……アキさんにはちゃんと説明していませんでしたわね。」
「なんのことだ?」
「まず、Aランクの依頼は報酬がそんなに出ませんの。というより協会依頼の物は一定額って決まっているんです。」
ミルナの説明によると協会経由の依頼はAランクで100銀だという。そこから下がっていってBで50銀、Cで30、Dで20、Eで10という感じだ。指名依頼に関しては金額が依頼主次第になっており、基本的に協会依頼よりは高額に設定されている。ただ指名依頼は基本Bランク以上の冒険者にしか来ないらしく、C以下の冒険者は協会の依頼を受けて先ずはランクを上げるのを目指す。そしてA・Bランクは高額な指名依頼が中心になる。
「ただ指名依頼だけ受けているとAランクにはあがれませんの。指名依頼については依頼内容、報酬、難易度まで依頼者が全て決めることが可能です。でも設定できる難易度はB~Hの間になりますわ。」
SやAランク依頼は協会しか発行できないようになっており、制限が設けられている。つまりBからAランクにあがる為の昇格条件であるAランク依頼10回連続達成は指名依頼では達成不可能で、協会の依頼を受ける必要がある。よってBランクでいいという冒険者以外はAランクにあがる為に協会発行の依頼も受けるので、どちらの依頼も滞留しないような絶妙な設計になっている。
ちなみにAランク冒険者は逆にBランク難易度の指名依頼が中心になるらしい。Sランクの依頼を受けないのはミルナから聞いた通りだし、Sランクに上がる方法も達成率と闘技大会という特殊な条件なので当然だろう。ただBランク難易度の指名依頼しか受けてないような口ぶりなので不思議に思いミルナに確認する。依頼主が難易度を自由に決められるのだからAランクにだってCやDランク難易度に設定された指名依頼はいくらでも来るだろう。
「CやDランク難易度の指名依頼は来ないの?」
「はい。そうですよ?Aランクは受けられませんもの、当然ですわ。」
「あれ、そうなの?」
アキは少し勘違いしていたようなのでミルナに詳細を確認する。するとわかった事がある。それは「指名依頼の難易度設定にあまり自由はない」という事だ。確かに指名依頼は難易度がB~Eに依頼主が自由に設定できる事にはなっているが、正直「指名」している時点でこれに意味はほとんどない。てっきりアキは指名依頼なのだから「好きな相手に好きな内容の依頼を好きな金額と難易度で依頼出来る」のだと思っていた。だがそれは大きな間違いで「受けられる依頼の難易度は自分のランクの上下1ランク」という縛りは指名依頼にも適用されるらしい。例えばミルナ達の場合、彼女達はBランクだから受けられる依頼ランクはA~Cだ。Aランクの指名依頼は一般人には発行出来ないので、彼女達を指名する場合はBかCランク難易度として設定するしかない。
「つまりAランクが受けられる指名依頼はBランクに限られるんだね。」
「そういう事ですわ。説明が下手ですいません。」
「俺が勝手に勘違いしてただけから気にしないでくれ。」
しかし指名している時点で結局難易度にも縛りがあるのであれば、任意に難易度を設定出来る制度はあってもなくても意味は無い。アキとしては撤廃してもいいと思うのだが何故残しているのだろうか。まあ、きっとお役所仕事的な理由でもあるのだろうとアキは早々に考えを打ち切る。そんな重要な事でもない。それよりもアキには気になる事がある。
「じゃあSランクには指名依頼は出来ないって事だよね?」
「はい。出来ませんわ。」
Sランクが受けられる依頼はSランクかAランクのみ。Sより上がいないのだから当然の事だ。そして指名依頼はB~Eの難易度でしか発行できない。つまり一般人にSランクに指名依頼は出来ないという事になる。
「国や協会ならSランクで指名依頼を発行出来るからSランクは国と協会専属みたいなものか。」
「ええ、その考えで間違っていませんわ。後、補足しておきますがSランクの人達は『指名依頼しか』受けません。」
Sランクも協会に張り出されてるようなSやAランク難易度の一般依頼を受ける事は出来る。だが彼らにとってAランクの依頼はつまらないから受ける事なんてまずないらしい。そしてSランクの一般依頼はほぼ存在しない。Aランクはその危険性からSランク依頼は基本的に受けないとミルナが言っていたし、協会としてもそんな依頼を張り出す意味がないのだろう。そんな暇があるならSランクに指名依頼をした方が早い。つまりSランクは冒険者協会に来ること自体ほぼ無いと言っていい。だからSランクが受ける依頼は必然的に指名依頼になるという事だ。
やはりSランクはそう言う意味でも別格扱いなのだろう。一般市民がSランクに依頼を出すことは不可能。出来たとしても高額過ぎて依頼するのは難しい。つまり言い換えればSランクは国や協会にそれだけ重宝されているということになる。
「話が逸れたけど、指名依頼は個人にするもの?チーム単位?」
「どちらでも可能です。ただ私達は個人宛のは受けないと協会に伝えていますのでチーム宛のしかきませんわ。」
「なるほど。それでさっきミルナが言おうとしてた事は?」
指名依頼の説明に話しが逸れたが、最初は「一般依頼だとあまり稼げない」という話だった。ならば彼女達は高額な指名依頼でしっかり稼いでいると思ったのだが、どうやらそんな雰囲気じゃない。
「えっと……その、私達それほどお金に余裕ありませんの。困っているわけではありませんがあまり稼げなくて。」
「でも指名依頼は高額なんだよね?それにミルナ達は人気がありそうだけど?」
セシルから受け取っていた指名依頼の量を見てもそれは明白だ。
「はい。ですが……。」
「あ、ちょっと待って。その理由を聞く前にこの世界のお金事情を教えて欲しい。平均的な稼ぎとか。その方が多分わかりやすい。」
ミルナ曰く平均的な稼ぎは一般市民で1ヶ月100銀程度らしい。平均的なDランク冒険者になれば1ヶ月150銀くらいは稼ぐ。Cランクで300銀くらい。協会依頼だけこなすとすれば1ヶ月に10前後受ければいい。ただチームの場合は頭数で割るので実際のところ平均的な依頼受託数は1ヶ月で30~40だという。複数の依頼を受けることも可能で大抵の冒険者は2~3個は常に受けている。そう考えると1ヶ月の内、20日依頼をこなして10日休みくらいの計算になるだろう。しかし冒険者は出費がやたらと多い。武器の調達やメンテナンス、それに冒険に出る際の準備にもお金がかかる。だから結局はDランクと一般市民の生活レベルは同レベルらしい。Cになって初めてちょっと余裕のある生活ができるようになる。
「Bランクの平均所得は?」
「Bは指名依頼が入るようになるので一気に増えて2金くらいですわ。」
「1ヶ月の生活に必要なお金は?」
「一般的に80銀くらいです。」
そう考えるとBランクとなればかなりの所得だ。一般市民が1年で約1金稼ぐのに対してBランクは1ヶ月で2金稼ぐ。つまり一般市民の2年分の所得を1ヶ月で得ている事になる。それなのにBランクのミルナ達がお金に余裕がないというのはどういう事だろうか。
「じゃあミルナ達が1ヶ月の生活にかかる金額は?」
「私たちは1人当たり250銀は必要ですわ。」
理由は屋敷を借りているかららしい。その賃貸があるから1人あたり250銀。
「つまり4人で1ヶ月1金貨の生活費って事だね?全員Bランクと考えれば平均所得は8金。8分の1だ。余裕があるように思えるけど?」
「ええ、理由は2つありますわ。1つ目はAランクの一般依頼を中心に受けていたからです。」
Aランク依頼は時間が掛かる上、稼ぎは4人で100銀程度。ただイリアという目的がある彼女達は早くAに昇格する必要があるので、どうしてもAランク依頼を中心に受けなければならない。
「2つ目は?」
「指名依頼を受けないからです。なので稼ぎが大幅に下がります。」
「やっぱりAランク依頼で忙しいから?」
「それもありますわ……でもそれだけじゃなくてその……。」
ミルナが言うには指名依頼は依頼したい冒険者のランクに合わせてランク設定されることが多い。先ほどアキが考察した通りだ。そして報酬はランク別に大体の相場がある。ただし指名依頼を受ける、受けないは冒険者次第なので完全に依頼者と冒険者の間の交渉になってくる。つまり話の折り合いさえつけば超高額で指名依頼を受けることだって可能だ。それを聞いてアキは大体理解する。
「ミルナ、その指名依頼の内容を俺に教えて。」
「……はい。」
やはり依頼内容がひどい。メイド服を着て家の掃除をしろ、1週間家に泊まり込んで戦闘指導しろ、買い物に付き合えなどだ。酷いものになると1週間妾になれとか愛人になれとかそんなのばかり。
「Bランクにする依頼じゃないだろうに……ちなみに報酬は?」
「10金とか多いときで20金とかありますわ……。」
しかもメルシーはチーム依頼限定のはずなのに注意書きに「ソフィーを必ず同行させること」など書かれていて明らかに個人目的の不純な依頼ばかりだ。確かにこんな依頼ばかりなら指名依頼は受けないだろう。
「2つ質問がある、まず1個目。AランクになるとBランクの指名依頼が中心なんだよね?Sランクへの昇格条件である依頼達成率とかはどうするの?」
「それはA・Bランクの協会依頼でなんとかなりますわ。生活費はその……頑張ります。」
「なるほど、稼げないってだけで協会の依頼で達成率を稼げばいいか。生活費については今はおいておこう。」
「は、はい。」
「では2つ目、今はどうやって稼いでるの?Aランクだけ受けていたら明らかに4人で1金貨は稼げないよね?」
「指名依頼にも多少ましなものがあります、護衛して欲しいとか。ですのでそれを見つけてたまにやります……。さすがに何もされませんしさせません。けどあわよくばって感じがしてすごく嫌です。」
エレン、ソフィー、レオもしょうがないからやっているだけで絶対やりたくないのだと言う。アキも話を聞く限りこれは彼女達の目的達成に無駄なことだと感じる。それに幸いにも今までは何もなかったからよかったものの、今後の保証はできない。
「その依頼の判断と交渉は?」
「基本は私がやっておりましたわ。」
「とりあえず今までは何もなかったんだね?」
「ええ、ありませんでしたわ。」
ミルナがそれでも嫌そうな顔をするのでアキは隣に座ってるミルナを撫でる。
「そうか、それならよかった。」
「……はい。」
少し救われたような表情でアキを見るミルナ。
「ちょっと予想外だな、少し方向性考えるか。」
先日アキはアリステールでは自分の身銭を稼ぐ程度に考えていた。ミルナ達がお金に困っているという可能性は低いだろうという予想していたからだ。だが、その予想がはずれたので多少の方向転換をする必要が出てきた。
「そうだな、まず。ソフィー。」
「え、あ、はい。」
急に呼ばれたソフィーは焦る。アキはソフィーの頬を両手で摘まんで引っ張る。
「|ひひゃいです!はひさーん!《痛いです!アキさーん!》」
ソフィーが抗議するがしばらく続ける。このエルフはお金に困っているのにアキに肉串を買ってくれた。その無駄遣いのおしおきだ。
「ソフィー、お金困ってるのにお小遣いに余裕があるんだ?」
「ふぁってー!」
もういいだろうとアキは手を放す。
「だってぇ……アキさんが欲しそうだったからつい……。」
「その気持ちは嬉しいけどね、ありがとう。」
そう言ってソフィーを撫でる。
「飴と鞭、恐ろしい技術ですわね……。」
ミルナが余計な事を言うので今度はミルナの頬を摘み引っ張るぞと脅す。
「ミルナもいっとく?ミルナも買い食いしてたよね?」
「い、いえ!大丈夫ですわ。」
エレンとレオも何か言おうとしていたのだが、黙って視線を逸らしている。
「まあ、もういいけどね。じゃあ何とかするか、ソフィーの肉串のお礼に。」
「え、そんなの悪いです!」
「もっかい引っ張る?」
「嫌です!やめてください!」
ソフィーが泣きそうになって自分の頬を必死に守る。
「まあ、大した労力ではないから大丈夫。とりあえずミルナ、今受けてる指名依頼はあるのか?」
「1つだけあります。」
「今すぐ依頼書を一字一句違えず読んで。」
ミルナが依頼書を読み上げる。内容は「アリステールの森に生息している薬草を30本採取してくること。報酬は10金、ペナルティーは10金、払えない場合は応相談。期限は受託時に確認すること。受託・報告時はソフィアルナを同行させることを希望する」とのことだ。色々と気に食わないがまず確認しなければいけないことがある。
「ペナルティーってなんだ?」
「依頼を放棄したり達成できなかったりした場合に発生する違約金、違反金です。どの指名依頼にもあります。報酬と同等の金額が請求されます。」
「つまり分不相応の依頼を受けてしまった場合の処置ってことか。」
「ええ、指名されて遂行出来ると思って受けたけど、実際は無理だった時に放棄する為の制度ですわ。」
「依頼者は指名した冒険者の実力しらないのか?」
「知らない場合も多いです。人づてに実力を聞いたとかですわね。」
「ああ、でも違約金はやり過ぎじゃないか?」
「しょうがないんです。指名依頼は緊急や急ぎの場合も多いので高額報酬につられて分不相応の依頼を受け、出来ませんでしたですと依頼者に損害が出る場合があるので。」
「なるほど。指名依頼をされた時点で内容を判断して断る選択をすることで依頼主は別の冒険者を探せる。そして冒険者は違約金を払わなくて済む。違約金がないととりあえず受けて、達成出来ませんでしたで依頼主に損害だけが残るというわけか。」
「はい、アキさんのおっしゃる通りですわ。」
一応筋は通っている。ただそれはまともな依頼の場合だったらだ。両親が危篤なのでとかだったらこの措置は有効だろう。依頼を達成出来る冒険者が確実に受けるわけだし、もしダメだった場合でも最悪違約金で両親を弔ったりできる。たださっきの依頼内容は少々不味い。ミルナはまさか気付いていないのか?
「ミルナ、何故これ受けた。」
アキが真剣な声色で尋ねる。
ミルナはアキの雰囲気に驚いたのか、自然と声が小さくなる。
「薬草集めるだけだったらそんなに……ですし。」
「確かに。この期限ってのはどうなってる。」
「依頼を受けに行った時に期限は7日と言われました。明日がその期限です。」
次は話をソフィーに振る。
「ソフィー、依頼を受けに行った時の依頼主の印象は?」
「え、あの……あまり言いたく……。」
「言え。」
「は、はい……視線が気持ち悪くて舐めるような感じで見られました……。」
ソフィーが涙目になりながら説明する。
「おい、ミルナ。この報告俺にも同行させろ。」
「え、でも依頼主は私とソフィーを。」
「希望としか書かれてないだろ。ミルナ、ソフィーと俺でも問題ない。」
「そうですけど……。」
「させろ。」
「は、はい。」
ミルナもアキの冷たい言葉遣いに涙目になりそうなのを必死にこらえている。エレンとレオも委縮してしまっているようだ。ソフィーは半分泣いている。
「あとミルナ、これ以降指名依頼は受けるな。」
「で、でも……。」
「ミルナ。」
アキは静かにミルナの名前を呼ぶ。
「……はい、わかりました。アキさんを信じ……信じていいの?」
「お金を稼ぐ方法なんかいくらでもある、明日見せるからミルナも付き合え。」
「はい。」
「それに不愉快だよ。」
「……なにが?」
「今受けてる依頼の内容、そして来ている指名依頼。二度と受けさせないから安心しろ。あと、もし隠れて受けたら、わかってるな?」
「う、うん。絶対受けない……受けないから。」
アキの迫力やられたのかミルナの口調が素に戻ってしまっている。
「エレン、リオナ、ソフィーわかったな?」
「わかった、受けないわ。」
「私も受けない。」
「はい、受けません。」
3人とも素直にアキを見て返事する。正直かなり不愉快な内容だったので結構頭に来ている。自分でも驚いているが仲間が不当な扱いを受けるとこういう気持ちになるものなのかもしれない。碌な連中しかいないと思ったが頭の回るやつもいるようだ。正直そういう人間相手に敬意を表するつもりはない。向こうが敬意を見せないのであればこちらも見せる必要はない。
「アキさん……もしかして怒ってます?」
ソフィーが恐る恐る尋ねる。
「まあ。」
「アキさんは、アキさんは……自分の悪口言われても怒らないのに、私たちの為にはそんなに怒ってくれるんですね。嬉しいです。」
ソフィーが今度はアキの頭を撫でる。いつもとは逆だ。気持ちが少しは落ち着く。どうやら大分熱くなりすぎていたようだ。らしくないと反省する。




