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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三章 アリステール
36/1143

3

 ミルナはセシルにお礼を言い、アキ達に2階へ行きましょうと声をかけてくる。落ち着いて話しが出来る場所があるに越した事はないのでアキはミルナに続く。


 しかし冒険者協会に初めて来た時はテンプレが起きるのがお約束だと勝手に思っていた。だが小説とは違い現実にはやっぱり起きないものなのだろうか。確かに外野はうるさいが特に絡んでくる様子もない。ミルナ達が高ランクなので尻込みしているのかもしれない。嫉妬や羨望の視線は今でも感じるので、決して彼らの胸中が平穏なわけではないだろう。一応アキは美人を連れていると言うテンプレ理由を満たしているので何か面倒事があるかなと思っていたが、少しばかり小説脳が過ぎたかと反省する。


「てめえ!待ちやがれ!」


 そんな数秒でのフラグ回収は求めてないのにと溜息を吐くアキ。やはり小説だろうと現実だろうとテンプレはあるものなのかもしれない。しかし何故こういった事が起こるのか気になる。確かに美人を連れているのが羨ましいというのはわかる。だが美人を連れているか


「おい!おめーだよ!女みたいに女々しそうな屑!」


らといっていちいち絡もうとする理論がわからない。地球であれば「美人を連れていました、うらやましいです」で終わる事だ。冒険者だから血の気が多い?でもそんな短気な性格で一歩間違


「おい!おい!このゴミクズ!」


えれば命を落とす冒険者なんて務まるのだろうか。どんなに低ランクだったとしても分別はつかないとすぐに死ぬだろう。つまりそれ以外の理由で絡んできていると考えるのが妥当だ。ではそれは何か。アキが気に入らないから?じゃあ何故。アキは彼と話したこともない。存在が


「あ、あのー?」


気に入らないのだという輩的な理由ならわかるが、それは先に言った通り命がけの冒険者ならありえない理由だ。ではやはり小説は小説に過ぎず、今声を掛けられたのは彼が単純に本当に何か用があるのではないか。


「アキさんすいません、あの方が用事があるようですよ?」


 ソフィーに肩を叩かれて思考から抜け出す。そうだった、声を掛けられたのだ。顔を上げると少し筋肉質なハゲ男が立っている。背負っているのは斧だろうか。


「はい、俺ですか?なんでしょう?」

「て、てめえ!美人ばっか連れやがってふざけんな!気持ちの悪い顔しやがって!」

「おいお前、俺の思考につかった時間返せ。」


 まさかの返答に固まる男。アキの後ろで見ていたミルナやレオも呆れた表情をしている。


「な、何言ってんだこのゴミが!ぶっ殺すぞ!」

「なら、説明しよう。いきなり声を掛けられた事により俺は何故声を掛けられたのか考えるわけだ。話したこともないような男に何故声をかけられたのか。ミルナ達のような美人を連れているから?まさかと思った。何故なら冒険者は命を懸ける職業。そんな冷静な判断を常に求められる職種の人間が美人を連れていたからという短絡的な理由で声をかけるだろうか。それは否。つまり本当に何か俺に用事があると思った。で、聞いてみたら美人を連れているから声をかけただと?この一連の思考でどれだけ脳細胞を使ったと思ってるんだ。つまりお前には謝罪と賠償を要求するということだ。わかるか?」


 アキが捲し立てる。それを後ろで聞いていたミルナはくすくす笑っている。


「わ、わかるか!ミルナミアとソフィアルナは俺のだ、お前見たいな弱っちい屑は消えろ!」

「いえ、私はあなたの物ではございませんわ。アキさん、いきませんか?」

「私も違います。あなたには一切興味ありません。嫌いです。アキさん、いきましょう。」


 ミルナとソフィーが彼に止めを刺したことにより、それ以上アキ達に絡んでくる者は現れず、アキはソフィーとミルナに両腕を引っ張られてセシルが用意してくれた部屋に向かう為、冒険者協会の階段をあがる。いや正確には彼女達に引き摺られていった。





「アキさん!私ちゃんと嫌って言えましたー!」


 部屋に入るなりソフィーがアキに頑張りましたとアピールしてくる。アキも彼女が頑張ってるのは見ていたので撫でて褒めてやる。


 とりあえず部屋の中にあった椅子に腰を下ろしテーブルを5人で囲む。


「いやー、やっと落ち着ける。楽しかったからいいけど。」

「あんたにはあきれるわ……。」


 エレンがテーブルに頬杖を突きながら言う。


「そうか?」

「そうよ。普通は絡まれて罵られたら身構えるものよ。なのにあんたは急に考え始めてあいつの事無視するし。ソフィーが悪口言っている方に助け舟出したのよ?あまりにも可哀そうになってアキに声かけたでしょ?笑いそうだったわよ。挙句の果てには考えてた時間返せとかそりゃ相手もああなるわよ。いざとなったら守る気だったけどそんな気も失せたわ。」

「僕もいつでも飛び出せるようにしてたのにそんな気すら起こらなかったよ。」


 レオも呆れた顔をしている。


「でもあの返しは凄いですよ!わざとですかー?」


 ソフィーが無邪気に褒めてくれる。


「ソフィー、わざとだと思いますわよ。でも間違いなく半分は本気でしたね。ただ正直ああ返されたら誰も手が出せませんわ。考えてもみてください。『命を懸ける冒険者がそんな短絡的なことするはずない』この言葉は効果ありますわ。彼らにもプライドがありますもの。」


 ソフィーとミルナが勝手にアキの行動を分析する。間違っていないので別にいいのだけどなんか恥ずかしいのでやめて欲しい。ただ最終的に止めを刺したのはこの2人だが。


「そのプライドを木端微塵に破壊したのはソフィーとミルナだけどな。」

「簡単にその状況を作ってくださったおかげですわ。」


 今までは色々大変だったのに拍子抜けだというミルナ。


「今頃下でその話をしているだろうね。」


 アキからしてみればあいつらが拍子抜けだ。馬鹿すぎて遊び甲斐がない。視線の誘導も容易だし、面白いように引っかかる。皆にそう説明し、アキは最後に一言付け加える。


「ふん、でも不快だね。楽しかったとはいえミルナ達への態度は不快だ。」


 少し悪態をついてしまう。だがミルナ達の前だとこうやって少しは素を出せるようになってきている。


「アキさんがそう言ってくれるだけで嬉しいです。だから大丈夫です。」


 ソフィーが嬉しそうにアキを見つめる。ミルナ、エレン、レオも同じような顔をしている。でもソフィーが急に顔をしかめる。


「でも私も不快でした。アキさんを馬鹿にしたのは許せないです。気持ち悪い。」

「あ、それは僕も許せないなー。」

「お仕置きが必要ですわね。」

「許せないわ、絶対絶対ぶっ殺す。」


 ソフィーの言葉に他の3人も同意する。ソフィーが悪意をここまで出すことも珍しい。エレンの「殺す」にも初めて本気度が伺えた。だが、怒ってくれるのは嬉しいが、気にしないで貰いたいというのがアキの本音だ。


「でも目くじら立てるほどの事でもないって。」

「何へらへらしてんのよ!悪く言われてんのよ、怒りなさいよ!情けない!だから弱いのよ!」


 エレンはアキが怒らない事に納得がいかないようだ。


「エレンが俺の代わりに怒ってくれるから別にいい。それにちゃんと守ってくれようとしてたんだな、ありがとう。」

「そ、そういう約束だからよ!ち、ちゃんと守るから安心しなさい。」


 エレンが恥ずかしそうに言う。彼女が自分の事を心配してくれているのはわかっている。だから俺の代わりに怒ってくれる。そして他の3人も同じだ。


「でもまあ、あれだけ短絡的ならミルナ達が苦労するわけだ。」


 直情型なので理論が通用しないし、話にならない。欲望に忠実で下品。力が全てだと思っている。そして男の魅力はその力だと思っていて、女も強い男を求めていると勘違いしている節がある。男性が考える「女性が男性に求める事」と、実際の女性が「男性に求める事」が意外にも違うというのがわからないんだろう。


「でも今日は楽しかったです。街を楽しめたのは久々ですー!アキさん、ありがとうございます!」

「そうね、楽しかったわ。アキ、その……ありがとう。」

「私もですわ、感謝します。」


 ソフィー、エレン、ミルナが思い思いに礼を言う。


「別に大した事してないよ。」

「そんなことないよ、僕も凄く楽だったもん。視線も全然こなかったし気が楽だったよ。」

「俺も楽しかったしいいことばっかりだな。」

「あはは、あれを楽しいって言えるアキが凄いよ。僕は駄目だもん。」


 レオが少し辛そうな顔をする。


「そういやレオはあんまり話しかけてこなかったよね。」

「う、うーん、男の僕が邪魔しないほうがいいかなって。」


 気を使ってくれていたのは知っていた。たまに後ろで寂しそうにしていたのでさすがに気付いた。


「ミルナこの部屋って音漏れするの?」

「いえ、協会の2階は許可がない限り基本立ち入り禁止です。受付で出入りを管理しております。それに部屋の素材も音が漏れにくい仕様になっておりますので大丈夫かと思いますわ。」


 なるほど。それに指名依頼の話をするのに音が漏れているようじゃ協会の信頼にもかかわる。それだけ確認できれば心配はいらないだろう。


「レオ、こっちおいで。」

「なに?」


 レオが隣に来たので撫でてやる。気持ちよさそうに耳を下げて尻尾を振っている。


「リオナは女の子なんだから男の僕がとか言うな。」

「え……あ……うん。じゃあもう言わない。」


 仲間内で1人だけ疎外感を感じてしまうのはよくあることだ。アキが入ってそれが起きたとなれば、自分自身を許せない。街中での事は予定通りの行動とはいえ、それによってレオに疎外感を与えてしまったのも事実。レオは自分からは言えないだろうからその分構ってあげようと思っていた。ちゃんと全員に懐かれないとアキの計画の意味がない。


「それに邪魔とか思わないからリオナもいつでも話しかけていいぞ。」

「いいの?いいならそうする。」

「それに街中では今日みたいに楽になるから安心していいよ。」

「えへへ、うん。アキがいてくれてよかった。」


 ミルナやソフィー、エレンも優しい目でレオを見つめている。彼女達にはレオの本当の名前を聞いたことを伝えてある。そしてこの5人しかいない時は「リオナ」と呼んであげてもいいんじゃないかと3人に提案していた。レオに苦労させているのは彼女達も身に染みていたので直ぐに賛成してくれた。そして今は幸せそうな彼女の邪魔をしないでおこうと静かに見守ってくれている。






 アキ達がそんな話を2階でしているころ、1階の協会内ではアキの想像通りアキ達の事が話題の中心となっていた。


「ふざけんな!なんであんな冴えない男があのパーティに入ってんだよ。」

「ああ、なめやがって。」


 屈強な戦士姿の男達が言い合う。

 それに賛成するかのようにどこからか別の意見が飛ぶ。


「しかも今日登録したばっかのEランクだぞ、それなのにBのソフィアルナ達がいれるってどいうことだよ。」

「なんか弱みでも握ってるじゃねーのか?」


 魔法使いっぽい姿をした男が疑う。


「やっちまおうぜ、ちょっと虐めればすぐ逃げ出すだろ。」

「でもメルシーが周りにいるんじゃきついぞ?」

「いや、きついのは今手をだしたら確実にああなることだぞ?」


 そういってレンジャーらしき姿の男が先ほどの禿げ頭を指差す。


「ソフィアルナに嫌いっていわれた……死にたい……。」


 それを見た瞬間、全員の心が折れそうになる。


「今まではっきりとは言わないソフィアルナなのに今日ははっきりと言いやがったからな。」

「あの男にめっちゃ懐いているのがむかつくぜ。絶対俺のほうが強い。」

「その懐いているってのが問題なんだよ、あの男になんかしたらメルシー全員敵にまわすぜ。別にペットや猛獣はどうでもいいけどよ、ミルナミアに言われたら……。」

「ならバレないように1人の時にでも襲うか?」

「それがいいかもな、ただやるからには始末しないとバレるぞ。」

「始末しなくても強いとこ見せたら俺らの方を気に入るだろ。あんな弱そうなやつよりな。」

「それもそうだな。悪口言うだけで壊れたりしてな。」

「いいな、悪口いいまくろうぜ。」




 酒の肴にそんなことで盛り上がる冒険者達を冷たい目で見る1人の受付嬢の姿があった。アキが絡まれるところからの一部始終を静かに見守っていたセシル。どうやらアキは確実に嫌われて目の敵にされそうだ。セシルはそんなことを考えながら彼らの様子を伺っている。


「悪口って、餓鬼ですか。そもそもここで話している時点で私に聞かれてるって気付かないから貴方達は駄目なんですよ。アキさんくらいに強かじゃないと……ね。」


 セシルはピンと伸びた自分の耳を触りながらつぶやく。


「ずいぶん懐かれていると思いましたが、何となく理由はわかります。あの魔法見抜ける人はいませんし。さっきの対応も斜め上でした。それに……耳……なんか触ってもらいたくなりました。不思議な人です。さて、とりあえず支部長に報告だけはしておきましょう。」


 セシルは彼らの様子を観察する意味はもう無いと判断すると受付を後にして支部長室へと向かった。

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