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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三章 アリステール
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1

 アキ達はアリステールの街にある冒険者協会の前までやってきていた。大分夜が近づいて暗くなり始めていたが、依頼の報告とアキの登録だけは済ませておきたいのだとミルナが言う。特に異論はないのでアキはそれに従う。


「ここが冒険者協会か、結構立派な建物だね。」

「そうですかー?見慣れているからかよくわかりません。」


 アキの隣でソフィーが一緒に協会の建物を見上げる。


「いやー、結構かかったな。」


 協会にたどり着くまでに2~3時間は余裕でかかっている。夕方にはアリステールに到着していたのだが、商業地域をゆっくり散策していたのでこんな時間になってしまった。


「あんたのせいでしょーが!色々寄り道ばっかして!」


 エレンがアキのせいだと吠えるので、頭を撫でて落ち着かせる。


「どうどう。」

「犬扱いすんなー!」


 でもどこか嬉しそうなエレン。


「寄り道は悪かったって。でも楽しかったなー。うん、楽しかった。」

「あれを楽しいと言えるアキってやっぱ凄いね。」


 レオが呆れながらも尊敬しているような眼差しでアキを見る。


「そう?」

「そうですわよ……挙句の果てには楽しかったって……心配してた私が馬鹿みたいですわ。」


 レオに同意するように呆れるミルナ。


 仲睦まじい様子で雑談をしながら冒険者協会に入る5人。そんな彼らを見つめる視線は驚愕、嫉妬、羨望、憤怒、と様々な感情が織り交ざったものだった。





 3時間程遡った頃、アキ達はアリステールに到着した。街中は多種多様な人達が忙しなく行き交っていた。その活気と言ったらちょっとした大都市ではないかと思うほどだ。実際アリステールはエスペラルドで2番目に大きい街なので当然と言えば当然なのかもしれない。行き交う人々は人族が50%、獣人が30%、エルフが10%、残りの10%がアキにはわからない種族だった。またミルナ達に聞けばいいかとその場では観察だけに留めた。


 ちなみに街の入り口である門に衛兵はいたが、ミルナ達を見るとすんなりと通してくれた。アキの身元についてはミルナ達が引受人だというと怪訝な目をされたくらいで、何かを言われることはなかった。こんな適当でいいのかとミルナ達に聞いたが、街にはほとんど出入りがない上、基本的には誰でも通れるそうだ。衛兵はどちらかというと魔獣対策で配置されている。


 なら不審人物への対策はどうしてるのかとアキは思ったが、そもそも街の外に盗賊や野盗などはいないらしい。何故なら街の人達は外に出る事がないからだ。出るのは冒険者くらいで冒険者を襲っても特に旨味はないとミルナが言う。だったら商人は?と思ったが、大抵A・Bランク冒険者の護衛がいる。それでもやり方次第では……と考えていたら、アキの疑問を察したミルナが教えてくれた。


「昔は野盗もいたようですが、今は魔獣が多いですので。さすがのならず者でも魔獣にいつ襲われてもおかしくない外に出ようと思わないみたいですわ。」


 確かに一理ある。いくら腕が経つ犯罪者だったとしても四六時中魔獣に備えないといけないのであれば気も休まらないだろう。


 そんな話をしながら門を抜け、アリステールへ入ったアキ。

 

 門の先は少しひらけた広場になっていた。広場の中心には噴水のようなものがあり、周囲には色とりどりの花が植えてある。全体的にとても綺麗に整備されている印象を受ける。何でも街への入り口はさっきの1個だけらしく、必ずこの広場を通る設計だ。多分アリステールを訪れた人が最初に目にする場所なので綺麗にしてあるのだろう。


 この広場の先にまずは商業地区があるらしい。といより、この広場が繋がっているは商業地区のみだ。これもまた必ず商業地区を通るように設計したのだろう。街の門を利用する商人や冒険者であれば必ず宿屋や食事処がある商業地区は利用する。理に適っている設計だ。


 商業地区からは反時計回りに住居地区、農業地区、そして工業地区となっている。一周すると再びこの商業地区に戻ってくる。所謂円形型の街だ。農業地区が街への入口と逆側なのは魔獣襲撃などの際、食料への被害を最小限に抑える為らしい。こちらもかなり理にかなった設計になっている。ここを設計した人間はかなり頭が回る人間だと推測できる。


「このまま商業地区を30分程歩くと冒険者協会がありますわ。」


 もう少し時間が欲しいなとアキは思う。街に入ってからやたらと視線を感じるので、もっとゆっくり状況を観察したい。まあ適当に寄り道をしたりして時間を使えばなんとかなるだろうと考え、とりあえずはミルナ達を連れ添い商業地区へと入る。


 商業地区に入るとさらに人通りが増す。ただ街自体が広いので、石畳の通りもかなり道幅に余裕をもって作られている。おかげで、人が多くても、混んでいるという感じはしない。通りの両端には様々な店が軒を連ねる。建物はミルナに教えて貰った通り木材か石で作られているようで、イメージ的には中世ヨーロッパの街並みに近い。店などについている看板の文字は読めないが、絵から大体推測できる。食事処、宿、酒場などだ。しかし本当に風情があって美しい街だ。まるでファンタジー世界の街に来てしまったかのような感覚になる。ただここは地球とは違う異世界だからその表現でもあながち間違いではだろう。


 アキは初めて見るこの世界の街並みを存分に楽しんでいた。


 それに加えて自分に向けられる視線もアキは楽しんでいた。やはりミルナ達は目立つのか、商業地区の大通りに入ると一気に注目度が増した。特にミルナやソフィーを見る目が多い。次いでアキだ。いつもならエレンやレオになるのだろうが、今はアキがいる。しかもミルナやソフィーと仲良く話しているので、嫌でもアキの姿は街の人達の目に留まる。


「凄いな、まあソフィーが歩いていたら確かに見るけどね。」

「そうですか?」

「だって可愛いし。」


 アキはそう言ってソフィーを撫でる。撫でられたソフィーも嬉しそうにしている。


「あら、私の事は見てくださらないんですの?」

「そういう事言ってるうちは見ないぞ?胸なら見るかも知れないが。」

「そ、そうですか……。なら好きなだけご覧くださいな。」


 不意を突かれたミルナが恥ずかしそうに顔を赤らめつつも頑張って反撃してくる。


「この変態!ぶっ殺す!」


 そしてエレンがいつものように飛びかかってくるのでとりあえず撫でる。最近エレンは撫でるとすぐに大人しくなるので本当に犬みたいだ。


 アキはミルナ達とあからさまなやり取りをしつつ、周りをよく観察していた。ソフィー達は素でアキに反応してくれただけのようだが……。まあ彼女達が嬉しそうにしているのであれば別にそれでいいだろう。それよりも周囲の方だ。とりあえずアキが真っ先に思った事は「こいつらマジなのか?」だった。



「俺のソフィアルナちゃん今日も可愛いなぁ……」「ミルナミアの胸いいな、早く俺の物にしないとな。」「やっぱり絶壁のエレイナだろ!」「おい、あいつだれだよ!俺のソフィアルナちゃんとあんな仲良く……!」「ミルナミアさんとも楽しそうに話して!誰だよあの冴えない男は!」「あいつソフィーとミルナって呼んだぞ……殺す。」



 普通ここまで露骨にやらないだろう。せめて聞こえないように言えばいいものを。アキとしてはわかりやすくて助かるのだが、ここまでわかりやすいのも拍子抜けだ。アキの腕の中で暴れるエレンを宥めつつそんなことを考える。ちなみにエレンは絶壁発言で飛び出しそうになったのでアキが抑えた。Bランクのエレンに本気で抵抗されたらアキ抑えられるわけないのだが、エレンはちゃんとそれを理解してアキが痛くないだろう程度に暴れるだけにしてくれている。なんだかんだ気の使える優しい子だ。


「こいつら本気でそんなに馬鹿なのか?」


 疑いを抱くレベルで単純すぎる彼らに呆れる。とりあえず協会につくまではやり過ぎなくらいで丁度いいだろう。そう思いつつ、引き続きミルナ達とじゃれ合いながら商業地区を歩く。アキは色んな店を覗きつつミルナ達とのんびり雑談をする。寄り道の理由は周囲を観察する時間を取る為だったのだが、店や売っている物自体にも興味があったのでついつい見入ってしまう。食事処が並ぶ通りを通っていた時なんかは露店で美味しそうな肉串を売っていたのでついつい欲しくなってしまった。


「アキさん、それ食べたいんですか?」


 肉串を食べたそうに眺めるアキに気付いたのか、ソフィーが可愛らしいお財布を出して聞いてくる。申し訳ないので断ろうかと思ったが、料理のお礼だと言う。


「まだお小遣い残ってるので大丈夫ですよー。」


 基本的に金銭はミルナが一括で管理しているらしく、その中から好きに使っていいお金をお小遣いとしてみんなに2ヶ月に1回程度渡しているようだ。


「でもそれはソフィーのお小遣いだろ?」

「いいんです!」


 ソフィーは止める暇もなく肉串を購入してアキに渡してくれる。本人が嬉しそうなのでいいか、とありがたくソフィーのご馳走になる。早速肉串を頬張ると肉汁が口の中に広がる。肉も程よく柔らかく、香辛料のピリッとした辛さがよいアクセントになっている。


「うん、美味しい。これ何の肉なの?」

「それはミラージュラビットという獣のお肉ですわ。」


 ミルナが教えてくれる。そんなミルナもいつの間にか自分の分を買ったようだ。


「アキさんが美味しそうに食べるのを見ていたらつい欲しくなりまして……。」


 レオとエレンも買ったらしく、ミルナの隣で美味しそうに肉を頬張っている。


「あれ、ソフィーが食べてるのはまた違う種類なの?」


 ソフィーはアキの分と合わせて自分のも買ったようだが、何か違う種類の肉を食べている。


「これはミューリアっていう鳥のお肉です。さっぱりしてるので私はこっちのほうが好きなんです。」

「ソフィーは本当に鳥が好きなんだな。そちらも美味しそうだね。」


 むしろこの子は出会ってから鳥肉しか食べてない気がする。エルフも意外に肉食なんだなと思うアキ。そもそもエルフなんて見たのはソフィーが初めてだからこれがデフォなのかもしれない。アキがどうでもいいこと考えていると目の前に肉が差し出される。


「食べてみます?あーんしてください。」


 ソフィーが首を傾げてアキに食べるか聞いてくる。答える前に口に押し込まれそうな勢いだ。まあ遠慮する意味もないので、アキはありがとうと言いソフィーの肉を少しもらう。


「こっちも食べる?」


 アキはソフィーに自分の肉串を渡そうとするが、栗鼠のように頬を膨らませる。


「あーんしてくれないとヤです。」


 やれやれと思いつつも、周囲からの視線が愉快な事になるだろうと判断したアキはソフィーに自分の肉串を食べさせてやる。それに大抵の男であればソフィーにおねだりされたら断るのは難しい。アキとて例外ではない。ただそれを見ていたエレンやレオもアキに食べさせようと必死に肉を差し出してきたので困った。


「私のは食べていただけませんの?」


 ミルナまで面白がって参加してくる。


「そもそも3人のは俺と同じものだろうが……。」


 そう言いつつもアキは皆に食べさせてもらい、順調に敵を増やしつつもその状況を楽しんでいた。



「あいつソフィアルナちゃんに食べさてもらって……!殺す!」「ミルナミアさんやエレイナにまでだと。10回殺す。」「レオンナードも……あいつ男でもいける口なのか。」「見境なしかよ、殺す殺す殺す。100回は殺す。」



「いやー、凄いな。俺、今130回くらい死んだ気がする。」

「全く……そんな楽しそうに言う事じゃないですわよ?」


 ミルナが呆れた顔をしている。


「アキごめん……。」


 アキは全く気にしていないのだが、レオを始めソフィーやエレンは調子に乗り過ぎたとしょげている。


「むしろ楽しいから大丈夫。これからも別にその調子でいいぞ?」

「あんた馬鹿なの?少しは怒りなさいよ!」


 エレンはちょっと不機嫌そうにアキに進言する。


「そうだな、俺は男には興味ない。」

「そこじゃないわよ!」

「こんなに女の子らしいレオを男とか見る目ないよな?」


 一応アキはエレン達にしか聞こえないよう声を落とす。


「それは違わないけど!……だから私が言ってるのはそこじゃないわよ!」


 エレンが再び突っ込む。だがレオはちょっと嬉しそうだ。


「初めてこの世界の街を見るんだ。満喫したい、楽しもうよ。」


 アキが楽しそうにしているのが幸いしたのか、エレン達もすぐに気を取り直してアキと街を散策する。ミルナだけはちょっとだけ悲しそうな顔をしていたのに気付いたが、気にするなとだけ目で合図しておく。


 引き続きアキ達は商業地区を練り歩き協会の方へ進む。周囲の視線は相変わらずだが、アキがこんな調子なので、彼女達も周りの目を気にしなくなっていた。純粋に買い物や食べ歩きを楽しめるのは久々のようで皆すごく嬉しそうにしている。


「僕こんな気分で街歩けるの久しぶりだよ。」


 レオは先ほどのミラージュラビットの肉とはまた別の肉を買ったらしく、美味しそうに食べている。いつの間に買ったんだろう。全く気付かなかった。


「確かにそうだわ、忘れてたけど買い物って楽しいものよ。」

「アキさん、またお買い物付き合ってください、私買いたいものいっぱいあるんです!」


 エレンとソフィーも満喫しているようでなによりだ。


「ありがとうございます。みんなが楽しめてるのはアキさんのおかげですわ。」


 ミルナが丁寧にお礼を言う。


「そんなかしこまるな。それにミルナは楽しくないのか?」

「ふふ、じゃあ遠慮なく。もちろん、楽しいですわ。」

「今度、服買いに行こうね。」

「はい!約束ですよ?」


 ミルナが嬉しそうにアキの腕に抱きつく。


 ソフィー達が気兼ねなく楽しめているのはアキが周囲の視線を全て自分に誘導しているからなのは明白で、ミルナはそれがずっと気になっていたようだ。ただ肝心のアキが気にするそぶりを全く見せないから心配している自分が馬鹿らしくなったらしい。吹っ切れたようにいつものミルナに戻った。


 その後も周囲の好奇の目に晒されながらもアキ達はゆっくりと街の散策を楽しんだ。まあ晒されていたのは基本アキだけだったのだが。そして数時間かけてようやく冒険者協会へと彼らは辿り着いた。

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