21
翌朝アキは欠伸をしながらソフィーと歩いている。
「眠そうですねー。」
「エレンがずっと話しかけてきたからね……。」
今日はソフィーがアキと一緒に歩いてくれている。朝起きた時ミルナに今日はソフィーに日中教えて貰いたいって言ったらもの凄く拗ねられた。なんでも「話したい事がいっぱいあったのにひどいですわ。」らしい。ちなみにエレンは俺の睡眠を妨げていたことをレオに怒られていた。
ミルナの説明では予定通り今日の夕刻前には街に着くことができる。特に急ぐ必要もないのでアキのペースで歩いていいとのことだ。おそらく街についたら色々大変なのでミルナなりの配慮なのだろう。ソフィーに道案内してもらいつつアキは適当に歩みを進める。
午前中はソフィーに弓の打ち方や斥候の指導などをしてもらっていた。ただ弓の指導は5分で終了になった。ソフィーが俺を後ろから抱き締めるような形で教えようとしたらエレンが相も変わらず飛び掛かりそうな勢いで抗議してきたのだ。その後ソフィーがすっかり恥ずかしがってしまい、弓の訓練は後日にすることになった。
斥候については正直に言うとレベルが高すぎた。気配の消し方、足音の押さえ方、生物が出す音の聞き分け方など。エルフだけあってソフィーはかなり斥候として優秀らしい。とてもじゃないけど真似出来る気がしない。とりあえず参考程度にしておいてちょっとずつ練習していけばいいだろう。
「ソフィーはすごいな。」
「そんなことないですよ?」
「ソフィーに忍び込まれたら絶対気付けないわ。」
「褒めても何もでませんからねー。」
「夜這いとかしないでね?」
「よ、夜這!?そ、そんなことしません!アキさん、お怒りますよ!」
そんなくだらない話をしてソフィーをからかっていたら見覚えのある川辺に出た。丁度時間的にお昼らしく、休憩にしましょうとミルナ達が偵察から戻ってきたのでミルナに聞いてみる。
「なんか見覚えがある川だな。」
「ふふ、だってここアキさんと出会った場所の近くですのよ?」
ミルナがくすくすと笑いつつアキの隣に自然と座る。
「そうなんだ?」
「ええ、遠回りといいましたが正確には『危険な奥地を避けつつ森の外に出ないようなルート』で森を1周したような感じですわ。斥候も魔獣を警戒というよりは人に見られないようにする為でしたのよ。後はこの川沿いを下ると森を抜けて平原に出ます。その先に街がありますわ。」
「俺が気を遣うと思って隠してたな?」
「たまには私も主導権を握りたいんですのよ?許してくださいね?」
「ミルナ、ありがとう。頼りにしてるよ。」
そう言ってミルナに笑いかける。
「は、はい……。そ、そのどういたしまして。」
素直にお礼を言われたことで不意を突かれたのかミルナの勢いがなくなる。恥ずかしそうにもじもじして何を言おうか迷っているようだ。とりあえず他の皆にも声をかける。
「みんなもごめんね、無駄な事させちゃって。」
「無駄じゃないよ、楽しかったし平気!」
「はい、私も楽しかったのであと何日でも平気ですー!」
レオとソフィーがむしろ楽しかったと言ってくれる。
「べ、別に私達の好きでしたのだからアキが気にしなくていいわよ。」
エレンが照れくさそうに横を向きながら答える。
「おい、ミルナ。」
「ええ、アキさん。」
アキとミルナは顔を見合わせて言う。
「「雨が降るね(りますわね)」」
「え、雨ですかー?」
ソフィーが素直に空を見上げる。違うそういうことじゃない。
「「エレンが素直になるなんて。」」
「あんたらぶっ殺されたいの!息合わせてんじゃないわよ!」
エレンが顔を赤くして叫ぶ。
「いいなあー。ミル姉とアキ仲良さそうで。」
レオがよくわらないところを羨ましがる。
「そんなとこ羨ましがるんじゃないわよ!」
「エレン、まあ聞け。」
アキは真剣な目でエレンを見つめる。
「な、なによ。」
「褒めてるんだ。素直なエレン、俺は好きだよ。」
「な、な、な何言ってるのよ……。アキは素直な方が好き?」
「うん。」
「そ、そっか。」
エレンが後ろを向いて表情を見せないようにしてるが喜んでいるのは丸わかりだ。
「ちょろいわー。」
「ちょろいですわ。」
「ちょろいですねー。」
「ちょろいねー。」
全員でハモる。
「あんたら全員ぶっころーす!」
とりあえず休憩を終えて川辺を下る。もうすぐ森を抜けるらしいので斥候は辞めてみんなで足並みを揃えてのんびりと歩く。
「アキさん、もうすぐ森を抜けますのでこれをどうぞ。」
ミルナがどこからか外套を取り出しアキに渡す。
「だからどこから……。」
「乙女のアレですわ。アキさんの格好は目立つのでそれで隠してください。」
いつものやり取りをしつつアキは外套を受け取る。確かにアキは今でも前の世界の服を着ている。簡素なワイシャツとジーンズだ。アキはミルナから受け取った外套を羽織る。ほのかにミルナのいい香りがする。
「あ、あまり嗅がないでくださいね!」
「わざわざ言うってことは逆に嗅げと言う意味は……。」
「ありません、言葉通りの意味です!」
ミルナがちょっと恥ずかしそうにアキの言葉を遮る。
「とりあえず助かる。さすがにこの格好のままは俺も不味いと思ってたしね。」
「はい、それとアキさん。すぐに!すぐに!服を買いにいきましょう!私が付き合いますわ!」
服の事となるとおかしくなるってソフィーが言っていたなと彼女に視線を送る。諦めてくださいと言いたげな目をするソフィー。つまりそういう事なのだろう。
「アキ頑張ってねー。」
レオはついてくる気すらなさそうだ。エレンも目線を合わそうとしない。
「別にいいけどね、ミルナになら何時間でも付き合うよ。」
彼女にしては珍しく、嬉しそうに「やった」とはしゃいでいる。
暫くすると森を抜けて平原が目の前に現れる。アキはその光景に感嘆する。前方には見渡す限り広大な大地が続いており、遠方に街を囲う白い壁が見える。左手にはアキ達が下ってきた川が街の方まで流れていて、清流の音が耳をくすぐる。平地は薄緑色の草が絨毯のように覆いつくし、平原というより草原だ。そして所々に小さな岩山や小高い丘があり、とても風情ある情景に見える。ずっと見てたくなるくらい美しい景観。風光明媚という言葉がぴったりだ。
気持ちの良い風が草原を駆け抜けアキの顔を撫でる。
「綺麗だな。」
アキは風を体で感じる。そして空を見上げると青く澄み渡っており雲一つない。気持ちのいい初夏のような空だ。見ているだけで晴れやかな気分になる。後ろを見るとアキ達が抜けてきた森が深緑の葉っぱを茂らせ存在感を主張するように佇んでいる。薄緑と深緑が何とも言えないコントラストを表現しており、川がそれを緩和するアクセントになっている。
「アキさん、すごく穏やかな表情をしています。」
ソフィーがアキの横に立ち雰囲気を壊さないように静かに話しかける。
「こんなに綺麗な世界があるんだな。凄く綺麗で気持ちいい。本当にここに来てよかった。俺がこの世界に来てよかったって思ったのはこれが2回目。」
「もう1つはなんですか?」
「ソフィー達に出会えたことかな。」
そう呟くとアキは目を閉じて再び風を体で感じる。普段憎まれ口を叩くエレンも気持ちよさそうなアキを邪魔しないように何も言わず静かに優しい目をアキに向けている。
「せっかくだし、写真を撮っておこう。最初の記念だね。」
「写真ですか?」
隣にいたソフィーがなんですかそれ?とアキに訪ねる。アキはソフィーの質問には答えずタブレットを取り出し、草原にレンズを向けるが何かが足らない。すぐにその足らない何かに気付き皆に声をかける。
「ミルナ、ソフィー、レオ、エレン。そこに並んで立って?」
皆よくわからないといった表情をするが、素直に並んでくれる。
「よし、笑って。」
この風景と皆を写真に収めた。
「アキさん、一体なんですの?」
ミルナがアキに尋ねて来たのでアキは写真を皆にみせる。
「すごい!僕達がいるー!」
レオが尻尾を振りながら驚いている。
「写真って言ってその時の風景を保存できるようなものだよ。」
「あら、それは素敵ね。」
エレンも写真のよさをわかってくれたようで自分が写った写真を見つめている。
「いい写真だと思う。俺がこの世界に来て出会った大切なものが写ってる。大事な思い出になるよ。」
写真はもともと好きだった。1人で楽しめる趣味の内の1つだ。しがらみもなく、好き勝手自由に1人で写真撮っている時間が好きだった。そう……地球では1人でいるのが好きだった。でも今は違う。素敵な世界で良き仲間に出会い、それが楽しいと思えた。だからこそこの写真は感慨深いのかもしれない。今までこれほど気に入った写真はない。気持ちの問題かなと思う。自分が楽しいと思える居場所で撮った初めての写真だからこそ、そう思えるのかもしれない。
「みんな綺麗に映っているし、印刷できたらな……なにか方法ないかな。」
アキがボソボソとそんなことを呟いているとミルナがアキの肩を叩く。振り向くとミルナが不満そうに頬を少し膨らましている。
「その写真ですが、私的には納得いきませんわ。」
「みんな綺麗に映ってるよ?」
「私もそれじゃ納得できません!」
「僕もだねー。」
「その写真は素敵だけどそれじゃ私も嫌だわ。」
ソフィー、レオ、エレンも納得がいかない様子だ。
「うーん、何が?」
皆が声を揃えて言う。
「「「「アキも映って。」」」」
やれやれとアキは苦笑する。そう言われると思っていたアキは改めてみんなで写真を撮る。ミルナ達がさっきより数倍は良い笑顔なのがなんか嬉しい。
「しかしこの写真街中にばらまいたら面白そうだな。」
色んな意味で面白そうだ。ミルナ、ソフィー、レオ、エレンは呆れた表情だ。
「それを楽しいと思えるアキさんの神経がわかりませんわ……。」
「だめです!それは私達だけの思い出ですー!」
「僕的には面白くならなさそうなんだけど?」
「そんなことしたらぶっ殺すわよ!」
皆が三者三様の反応を返す。この場合、正確には四者だが。
とりあえずアキは街に向かって歩みを進める、4人の少女達もその後を追う。
「さすがにしないけどね。街まであと少し。ああ、楽しみだ。」




