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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第二章 魔素
29/1143

17

「じゃあレオよろしく頼む。」

「オッケー!ところでなんで僕を指名したの?」

「レオやソフィーからも教えて貰いたいっていうのと、レオとはゆっくり話せてなかったからかな。」

「確かにそうかもね。すぐに訓練する?」

「先に少し話しようか、その方が訓練に集中できそうだ。」

「僕はそれでもいいよー。」


 アキは焚火でお湯をわかして珈琲を淹れる。レオにも飲んでもらったところ、レオは甘いのが好きだとわかったので砂糖を2個とフレッシュを1個いれて珈琲を渡す。


「ありがと、甘いの好き。」

「レオは甘いものが好きなのか?」

「そうだね、甘いものは大好きだよ。」

「そういうところは凄く女の子っぽいね。」

「そうかな?」

「俺の世界にあった甘味いつか作ってあげるよ。」

「ほんと!やった!」


 とりとめない会話から始める。レオやソフィーは移動中警戒にあたっている為、ミルナや背後にいるエレンと違ってあまり会話出来ていなかった。


「レオはわかりやすいね。」

「えー、そうかなぁ?」

「すぐ尻尾にでるもん。」


 アキはレオの尻尾を指差す。


「むう……この尻尾め。」


 レオは尻尾に文句を言いつつも大事そうに抱え込む。しばらくの間レオは自分の尻尾を優しく撫でて何か考えていようだ。アキに確認したい事が決まったのかレオは顔をあげる。


「でも尻尾なんかなくても皆の事ちゃんと見てるよね。ねえアキ、聞いてもいい?」

「なに?」

「なんで僕達なの?なんで僕たちを選んだの?」

「どういう意味?」

「他にも冒険者見かけたんでしょ?なんで声をかけたのが僕達だったの?」

「そりゃ可愛い女の子達といられるし。」

「嘘。だって僕たちを見る目に下心なかったもん。」

「あるよ?むしろ下心で満載だ。」

「ふざけないでちゃんと答えて。下心しかなかったら皆気づいてる。そういう視線に僕達が敏感なのは知ってるでしょ?」


 レオは真剣な目つきでアキを見つめる。


「女性だったからってのは嘘じゃないよ。男といるより華やかなのは事実。でもそれより大事だったのが、1つはこの世界にきて右も左もわからない俺の命をお願いできる相手じゃないと駄目だった。その点では見てきた冒険者の中ではレオ達は実力が飛び抜けていたしね。」

「2つ目があるの?」

「出会った時に言ったように問題を抱えてると思ったから。そうだね……例えば俺がその辺を歩いてる冒険者に世界のこと教えて、訓練してって言ったらしてくれると思う?」

「それは……確かにしないかも。」

「だからその条件を満たせば誰でもよかった。それが偶々レオ達だった。お互いにメリットがあるならしばらくは一緒にいてもらえるっていう打算から近づいたんだよ。レオ達を使えばいいって打算で。俺はそんな男だよ。」


 アキはそう言って肩をすくめるが、レオは納得がいかないようだ。


「でもそれならあんな真剣にエレンに弱点教えたり、ミル姉の悩みを聞いたり、ソフィーや僕に喜んでもらえるように料理なんて作ったりしなくてもいいじゃん。もっと適当にやればいいじゃん!」

「皆に好かれる為の演技だよ。」

「演技ならミル姉があんなに懐くわけない。ミル姉があんなに楽しくしてるなんてイリアが居なくなってから見たことないんだから。エレンやソフィーだって同じ。」

「演技が上手いだけかもしれないよ?」

「僕達そこまで馬鹿じゃない。アキより皆と居た時間はずっと長いんだから皆の事はアキより知ってる。そんな皆が演技になんかに騙されるわけない。」


 でも皆チョロいから騙されるのでは?とアキは思うが口には出さない。それにレオの言う通り演技じゃないのは事実だし、彼女達を気に入ってしまったのも事実。


「まあ……確かに演技じゃなかったけど。でも最初は打算で近づいたのは本当だよ?」

「最初はでしょ?今は?」


 少し照れくさいのであまり言いたくなかったがアキはしょうがないなと思いレオに伝える。


「皆が好きになったかな。だからちゃんと力になりたいと思った。大事な事を色々教えてもらったし。」


 どうせミルナに話した事でいつかは皆に伝わると思ったのでアキはレオに前の世界での体験を話す。そしてレオ達に何を教えてもらって何を感謝しているかを。


「だからアキはそんな性格なんだね。」

「悪かったな。」

「えー、今のは褒めているんだよ。でも少しわかった気がする。皆がアキに懐く理由。感謝の気持ちで僕達を見てるのが皆に伝わってるんだね。」

「そうだと嬉しいけどね。」

「きっとそうだよ。ねえ、もう少し聞いていい?アキから見たミル姉ってどんな人?」


 聞いていいかと確認しつつも既に質問しているレオ。アキが答えてくれると信じて疑っていないようだ。


「ミルナは、凛としているしっかりした綺麗なお姉さん……に見えるけど、実際はとても弱くて泣き虫な女の子。」

「じゃあソフィーとエレンは?」

「ソフィーは笑顔が素敵でどんな時でも笑っていられる強い子、エレンは素直じゃないだけでとても優しくてとても真面目。」

「やっぱちゃんと見てるね、僕もそう思うよ。じ、じゃあ僕は……?」


 レオは恥ずかしそうに俯いてアキに自分の事を尋ねる。


「ちょっと頑張りすぎな頑張り屋さん。そしてとても可愛らしい女の子。」

「お、女の子らしくなんてないよ!別にそんなに頑張ってないし!」


 必死に否定するレオを見てアキは一考する。レオは結構色々と溜め込んでいる。1人で色々と悩んで誰にも相談しないようなタイプだ。少し発散させてやらないと不味いかなと思いアキは言葉を続ける。


「レオ、話が少し変わるけど今度は俺からも聞いていいかな?」

「う、うん、いいよ。」

「男の振りを始めたのはいつ頃なんだ?」

「えっと、イリアがいなくなって少し経ってからかな。その頃はアリステールじゃなくてもっと北東にあるイリテアって街を拠点にしてたんだ。イリアという実力者がいなくなって僕達にちょっかい出してくる連中が増えてね。」


 レオが目を閉じてその当時の出来事を思い出すかのように、ゆっくりと語る。


「それで男の振りを?」

「誰か男がいればそういうのも無くなるって意見が出たんだ。でも男を入れるのは嫌だったし、じゃあ誰かが男の振りをしたらって事になったんだ。」

「なんでレオになったの?」

「僕が自分から言ったんだよ。その……む、胸もそんなないし。」


 レオが少し恥ずかしそうに答える。


「それを言うならエレンでもよかったんじゃない?」

「エレンに出来ると思う?」

「1日でバレそうだな。」


 少年として通せる可能性があるのは体格的にレオかエレン。でもあのエレンにそんな演技は間違いなく無理だろう。


「でしょ?それで僕が男の振りをするってなって、それなら拠点も変えないとダメで、今のアリステールに行きついたって感じだね。ここなら僕が女って誰もしらないし。」


 なるほどとアキは一旦話を切って珈琲を飲む。レオの方を見ると少し悲しそうな顔をしている。当時の辛かった出来事を思い出してしまったのかもしれない。


「レオは男の振り辛くないのか?」

「全然大丈夫だよ。」


 レオは平気平気と笑顔を向ける。


「今度はレオが嘘つきだな。」

「う、嘘じゃないよ?」


 何かを思い出すように少し言葉に詰まるレオ。


「本当に平気なら何でレオはそんな辛そうな顔をするの?」

「してない……は嘘だね、してるかな。」


 レオは観念したように視線を逸らす。


「話くらいなら聞くから言ってみたらどう?少しはすっきりすると思うよ。」

「そう?……えっとね、最初はそんな大したことじゃないって思っていたんだよね。ちょっかいをかける連中が減るかなって軽く考えてた。でもそうじゃなくて方向が変わっただけ。」

「今までみんなに浴びせられていた不快な視線はレオに集中するだろうね。」

「うん、アキの言う通りだね。」

「止めればいいんじゃない?」

「皆はそう言ってくれたよ?でも僕が我慢して皆が楽になるんだったら別にいいかなって。だからイリアを見つけるまではやろうって。」


 レオ自身、自分の言ってる事が矛盾していることに気付いてないようだ。


「レオは昨日なんていったか覚えてるか?」


 レオが不思議そうにアキを見つめる。


「昨日俺に『アキ、そういう自己犠牲は嫌いなんだけどな』って言ったよね?」


 アキが1人だけ外で寝た時にレオが言った言葉だ。アキに指摘されて思い出したのか、レオが必死に弁解する。


「い、言った……けどそれとこれは違う!」

「一緒だよ。だからレオは頑張りすぎな頑張り屋さんなんだよ。」

「そんなことないよ……。」

「レオはもうちょっとわがままになってもいいと思うよ。1人で辛い思いする事ないって。レオが皆の事を心配なように皆もレオの事が心配なんだよ。」

「でも迷惑かけるもん。」

「仲間なんだから迷惑かけてもいいんだって。むしろかけて欲しいって思ってるよ。」

「でも……。」


 煮え切らない態度のレオ。人に迷惑かけるのが苦手で自分でなんとかしようとするタイプ。それがレオの良いところでもあるが悪いところでもある。


「じゃあ俺に迷惑かければいい。俺はそんなことそもそも迷惑って思わないし。」

「え、そんなんだめだよ!」


 レオが首をブンブンと横に振る。


「大丈夫だって。まあ、心配しないでいい。それに今は俺がいるからレオへの風当たりも減るし少し楽になるよ。」

「それ本当にいいの……?僕だけにしておけばみんな辛くないのに……。」


 アキはレオの顔に手を近づける。撫でられると思ったのかレオの耳が少し垂れ下がり尻尾が揺れる。アキはそのままレオの額を指で弾く。


「いたっ、アキなにするのさ。」


 額をさすって抗議の声を上げる。尻尾が逆立っているのをみるとちょっと拗ねているようだ。


「そろそろ怒るよ。」

「なんで……?」

「そうだな、例えば皆が勝手にレオが実は女でしたってばらしたらどうする?」

「怒るよ!だってまたみんなが辛くなるだけじゃん!」

「でもレオにこれ以上迷惑かけたくなかっただよ?」

「ダメだよ!僕は別に迷惑だって思ってない!」

「今の言葉すごく矛盾してると思わないか?」


 自分は迷惑かけたくないけど、迷惑かけられるのは構わないしかけて欲しいと思っているレオ。アキはそこに気付いて欲しかった。


「だって……僕は迷惑だって思ってないもん。」

「それは皆も同じじゃない?迷惑だって言われた?」

「言われてない……けど。」

「そういうことだよ、何も1人で辛い思いする事ないって。」

「でも……。」

「もう一発いっとく?」


 それでもはっきりしないレオにアキは指を弾く形にしてレオに向ける。


「やだ!」


 必死に額を守るレオ。


「なら、仲間には遠慮せず迷惑かけることだな。」

「うー……。」

「あきらめろ。それに俺がレオからの風当たりを勝手に奪ってやるから覚悟するがいい。ダメって言われてもやるから異論は認めない。」

「そんなんずるい。」

「俺はずるいからな。それに俺が風当たり程度気にすると本当に思ってる?俺はレオと違って本当の男だぞ。あんなのなんとも思わない。観念するんだな。」


 アキは大丈夫だからとレオを優しく諭す。レオはもう少し肩の力を抜いてのんびりやらないといつか潰れる。


「しょうがないなー、アキは。」


 レオもさすがに口ではアキには勝てないと悟ったのか、観念したような顔をする。


「レオから注目奪って俺も有名になっちゃうなー、目立っちゃうなー。どうだ、羨ましいか。」

「全然羨ましくなんてない。」


 やっと笑顔を見せるレオ。


「これからは俺もレオと同じようになる。だからお互い辛くなったら話そうな。俺も辛くなったらレオに愚痴ることにするよ。」

「うん……半分こだもんね。」

「そういうこと。だから辛くなったら言ってこい。レオは女の子なんだから少しくらい甘えてもいいんだ。そのくらいなんとかしてあげるから。」

「うん……。」


 目に少し涙を浮かべるレオ。話してすっきりしたのか悪い憑き物が取れたような表情だ。これで少しはレオが楽になってくれるといいんだが。この状態ではイリアを助けるどころかその前に精神的に壊れるのではないかと思った。全力で力になると言ったからには必要な事を必要な時にしなければならない。それにアキの計画上、レオにはもっと自分に懐いてもらう必要があったので少しでも仲良くなっておきたかった。勿論単純に心配だったというのもある。


 そんなことを考えていたら何時の間にかレオがアキの正面から隣に座っている。この世界の連中は気づいたら隣にいる身体能力があるのが恐ろしい。せめて足音とか立ててくれれば気づくのだが……とアキは苦笑する。


「ねえ、アキ?」


 アキの方を見ず、正面の焚火に視線を向けたままレオが話しかけてくる。


「なに?」

「アキはソフィーやエレンは撫でたりするのに僕のことは撫でないよね?なんで?」

「ああ、尻尾触らないでって言ってたから獣人の特徴である耳も同じなのかなと思って。」

「アキは僕の尻尾とかやっぱりモフモフしてみたいの?」

「そうだな、俺の世界に獣人はいなかったからちょっと興味はあるかな。」

「なるほど……別に大丈夫だよ。あ、尻尾じゃないよ!頭を撫でるのが大丈夫ってことだから!」

「わかってるって。」

「だ、だからアキ、撫でて?」


 レオは恥ずかしそうに俯く。本人が大丈夫だというのならアキには特段断る理由もない。レオの頭にそっと手をのせて優しく撫でる。気持ちがいいのかレオの耳がピクピク動いて尻尾を振っている。


「アキに撫でられるのなんか落ち着く。」

「そうか。」

「なんかお兄ちゃんみたい。僕は1人っ子だけどお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなって。」


 そいういやレオの家族構成とか何も知らない。むしろ他の皆のも知らない。何故皆が冒険者をやっているのか等も聞いていなかったなとアキはふと思い出す。まあ、いつか聞く機会がったら聞いてみればいいだろう。


「アキ、手止めないで?」


 考え事をしていたら撫でる手が止まっていたようでレオが続けるように催促してくる。しょうがないなとアキは思いつつも言われたとおりにする。


「こうしてるとやっぱレオは可愛い女の子だなって思うよ。」

「そうかな……女の子扱い全然されないからちょっと嬉しい。」

「男の振りしているからしょうがないな。俺と居る時くらいはちょっとくらい女の子してもいいんじゃないか?息抜きにはなるんじゃない?」

「うん……。あのね、たまに自分が女って忘れちゃうんだよね、そういう時がちょっと悲しいかな。」


 そこまで男になりきれるのは逆に凄いと思う。良い才能だと思うが、それは同時に少し悲しい才能だ。それに女だと忘れてしまうのは、きっとそれだけ周りがレオを男として扱ってきたという事でもある。ちょっと見ればすぐに女だとわかるのに。


「レオもちゃんと辛いこと言えるじゃないか。」

「あれ……。なんかね、今はいいかなって思っちゃって。」

「そうか。」

「アキ、手。」


 また止まっていた様でレオが再度催促する。やっぱり獣人族は撫でられたりするのが好きなのかもしれない。


「ねえ、アキの前だけは女の子してもいい?」

「だからいいって。」

「リオナ。」

「うん?」

「私の名前はリオナ。リオナリーゼっていうの。」


 レオが女の子としての本当の名を口にする。リオナだからReona。つまりチーム名MERSI(メルシー)のRはリオナということになる。


「リオナか、可愛い名前だね。」

「そうかな?」


 レオはそういいつつも嬉しそうに微笑む。


「昔はね髪も長かったんだよ、ソフィーやミル姉みたいに。」

「そうなんだ、それはすごい美人だっただろうね。」

「だった……?今は違うの?」


 レオが意地悪そうな笑みを浮かべる。


「リオナの時はミルナみたいな性格になるんだな。」

「えへへ、どうだろうね?」


 今までに見たことがないくらい可愛らしい女の子の顔をするレオ。


「心配しなくても今も美人だよ。」

「あ……うん、そ、そっか。ありがと。髪が長い私見たい?」

「どのくらい美人になるのか見てみたいな。」

「じゃあいつか見せてあげる!あ、あと尻尾もいつかモフモフさせてあげる!」


 照れているのを隠すように元気よく立ち上がり返事をするレオだが、尻尾が「恥ずかしい」って揺れている。レオでもリオナでも尻尾は変わらず正直なようだ。


「期待しておくよ。」


 大分話し込んでしまっていたようで、珈琲もぬるくなってしまっていた。火にかけなおすことにする。レオにも新しいコーヒーを淹れ、2人で静かに飲む。だがそろそろいい加減訓練を始めないと時間が無くなってしまうので珈琲を一気に飲み干すと、アキは立ち上がり軽くストレッチをする。


「リオナそろそろ訓練しようか。」

「うん。またお話しようね。」

「ああ、いいよ。」


 レオはそういうと両手で自分の顔をパシっと叩く。


「よし!リオナタイム終わり!」

「じゃあ、レオ、まずは何からする?」

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