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皆でひとしきり下らない雑談に興じた後、ステラは名残惜しそうにリスルドの王城へと帰っていった。またおいでと言っておいたが、あの様子だと毎日来そうだ。まあそれだけ楽しかったのだろう。それにアキとしてはミルナ達に新しい友人が出来たのが嬉しい。あの子達はずっとアキ、アキなので少しは同世代の友人とも触れ合った方がいい。慕ってくれるのは嬉しい事だが、それでは世界が狭まる。
「さて、それより魔法印の解析を急がないと。そろそろ次の行動に移りたい。」
魔法印の解析が終わったら情報収集は一旦打ち切る予定だ。そして集めた情報を持って、立ち入り禁止エリアへ行く。ある程度情報が集まった今なら無駄足にはならないだろう。そしてルティアのように忍び込むのではなく、ベルかステラ辺りに頼んで、正式に中に入るつもりだ。各国王家や冒険者協会が協力してくれているのであれば隠れる必要もない。堂々と調査して魔獣政策の改革を進めればいい。
もしこのまま順調に事が進めば、ミレーの音楽祭迄にはけりをつけることが出来るかもしれない。ただイリアの件が思いもよらない方向へ転がる可能性がある。彼女が唯一の不確定要素だ。現行の魔獣制度廃止の目途は実は立っている。ただそれを実行してしまうとイリアの件におそらく影響が出る。
「まずはイリアに接触。そして出来れば話がしたい。」
それで円満解決方法を模索出来るなら最高だ。イリアに会うというミルナ達の目的も達成するし、魔獣制度を廃止してベルに改革を推進してもらえる。
「その為にはとりあえず魔法印の解析。だがその前に報告書だけ書くか。」
新たに知った情報を爺さん、アイリス、エルミラに報告しておく必要がある。アキは簡潔に今日までの報告をまとめ、現段階で彼らの協力は必要ない旨を記す。そしてアリアに使者を手配するように伝える。
「さて……ここ数日は魔法印の研究だな。でも観光と買い物も行きたい。」
それにそろそろあの子達を構ってあげないと不味い。
というわけで午前中は解析、午後は皆と買い物。それでいこう。
1日目はうちの子達、2日目はアリア達、最終日はルティアを連れて行けばいいだろう。本当は1人ずつみんなと行きたいが、今は時間もないので我慢してもらう。それは全てが終わってからだ。まあ言うまでもなく彼女達はちゃんとそれを理解してくれてはいる。文句は言われるが。
そうと決まればアキは早速リビングに一旦戻り、ミルナ達に予定を伝える。ただ最終日にルティアがアキと2人きりで出かけるのが羨ましいらしく、拗ねられた。アキがお願いすると最終的には渋々納得してくれたが……。
「全部片付いたら1人ずつ行こうね。何回でも何時間でも付き合うから。」
彼女達の機嫌を取る為、アキがこの一言を付け加えると、拗ねていた事なんて秒で忘れて喜ぶミルナ達。現金な子達だ。
これで伝える事は伝えた。アキは再び自室へと引き上げる。
「ルティア。」
ミルナ達と団欒してもよかったのだが、うちの寂しがり屋の忍者さんにも伝えておかなければいけない。多分さっきの話は聞いていただろうが、直接言わないとこっちはこっちで拗ねそうだ。
「アキ。」
ルティアが外套を投げ捨て、タタタっと小走りで近づいてきて、いつもの様に抱き着いてくる。今日もずっと影でいたから寂しかったのだろう。
「聞いてた?」
「うん、楽しみ。」
アキの胸に顔を埋めながら呟くルティア。
「俺とやりたいことリストみせて?」
「そ、それはダメ。」
何がやりたいのかを確認して当日のプランを立てようと思ったのだが、駄目らしい。ルティアは頑なにそのリストとやらを見せてくれない。
「なんで?」
「はずかしいから。ダメ。」
「うーん、じゃあ買い物の日はルティアが案内してくれる?」
エスコートしてあげたかったが、何をしたいのか教えてくれないのであれば、ルティアに付き合う形にするほうがいいのかもしれない。
「うん、そうする。」
まあルティアがそれでいいのであればアキは別に構わない。だがここまで必死に隠されると、リストに一体何が書かれているのか逆に気になる。一緒に服を買うとかそういうのであれば別に恥ずかしがることではないだろう。
いや……考えるのは止めておこう。
推測し始めたら見抜くまで止めないのが自分の性格だ。ルティアが嫌がっている以上、詮索は無粋だろう。
「じゃあ楽しみにしておくね。」
「うん。私も楽しみ。」
嬉しそうに笑うルティア。
きっとルティアは今まで出来なかった事をアキと一杯したいのだろう。影で生きていたと言っても彼女は17歳の女の子なのだから。お洒落したり、買い物したり、お茶したりと普通の女の子がするような事をしたいはずだ。
そしてアキの予想では、ルティアは多分美味しい物を食べに行きたいはず。彼女はうちの子達と一緒でかなりの大食いだ。ミレーから戻ってきてアキ達に合流してからは、いつもアキがご飯を作ってあげていている。そしてそれを美味しい美味しいと食べてくれるのだ。
皆に正式に紹介してからは一緒に食事をするようになったが、その時も同じ。リスのように、口の中に食べ物をいっぱい放り込んで、幸せそうな顔をする彼女がとても可愛い。アキとしてもこんなに嬉しそうに食べてくれるから作り甲斐がある。だからついつい沢山作ってしまう。それなのにペロリと全て平らげるルティアはやはり相当食いしん坊だ。こんな小さい体のどこにあれだけの量が収まるのかと思ってしまうくらいに食べる。
ちなみにうちの食いしん坊ランキングはエレン、レオ、ルティア。見事に全員が小柄な3人組だ。そしてよくこの3人で最後の一切れの肉を誰が食べるか言い争いになるのだが、気づいたらルティアが得意の隠密性を生かして食べてしまうのだ。激しく間違った才能の使い方をしているのを見て呆れたのは記憶に新しい。
「美味しい物いっぱい食べような。」
「うん、食べる!」
やはり食事に関する返事が一番元気だ。まあそれがルティアらしくて和むから、彼女はこれでいい。




