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「さてステラさん。」
「な、なんでしょう。」
仕返しと聞いて身構えるステラ。
まあうちの大事な王女様を弄ったんだ。アキもきっちりステラを弄っておくべきだろう。先も言ったようにアキはベルの味方だ。
「ベルの事が大好きなんですね。同い年で同じ王女という立場だからでしょうか?でも素直になれず、つい憎まれ口を叩いてしまうんですね。おやつの事だって本当は全く気にしてないのでしょう?」
「ち、ちがいます!」
アキの言葉聞いたステラは急に焦ったような表情を浮かべ、必死に弁解してくる。
2人が言い合いしている間、彼女の事はじっくり観察させてもらった。ベルに対してどういう感情を抱いているかなど、大体は把握出来た。ステラもベルやうちの子達のように非常に素直でわかりやすい性格をしていたので、すぐに色々わかった。
「そしていつもベルと会った後は『なんであんなこと言ったんだろう。またおやつの件で喧嘩した。気にしてないって言うつもりだったのに』って後悔して悶えているんですよね。次こそは優しくしようと思いつつ出来ない。」
ステラの笑顔が段々と引き攣っていく。余裕がなくなってきている証拠だ。
「イル陛下に『お父様なんとかして!』と泣きついてません?陛下から助言までもらってますよね。そしてそれを実行しようしたけどやっぱりダメで、今物凄く後悔していますね。」
「ち、ちがうから!そんなんじゃないんだもん!」
今度はステラがすっかり王女の顔を忘れてしまったようで、先ほどのベルのように必死に大声で叫ぶ。
「ステラさん可愛いんですね。」
アキの言葉がトドメになったらしく、ステラは羞恥で顔を両手で覆ってしまう。
これでこの部屋にいる王女全員が羞恥に悶えるという面白い状況が出来上がった。まあベルに対する仕返しはこのくらいでいいだろう。
「あらあら、うちの娘がすっかりやられてしまいましたね。」
ステラの母親であるミリアがくすくすと笑う。
「いやはや、よくわしが助言をしたと見抜きましたね?」
そしてイルがあっさりと真実を暴露する。その瞬間ステラの体がビクっと小さく跳ねた。まさか身内に追い討ちをかけられるとは思わなかったのだろう。
「さて……2人が復活しない事には本題にも入れませんね。それまでの箸休めとしてイル陛下の質問にお答えしましょう。イル陛下とミリア殿下を見てれば大体わかりました。」
いくらベルとステラが同い年とはいえ、ベルはエスペラルドの王女だ。非公式の会談だとしても、他国の王族に失礼にあたるかもしれない口の利き方をして、イルがステラを注意しない事がまずおかしい。まあベルに対しては注意しないだろう。もしベルの態度に不満があるなら正式な書簡で苦言を呈すはずだ。ただ自分の娘であり、自国の王女であるステラに関しては、今この場で注意するのが普通だ。
「つまり傍観している時点で、ステラさんから口を挟まないように頼まれていたと推測出来ます。」
ベルともっと仲良くなりたい。いつもの態度を謝って、おやつの件を水に流して、お友達したいとステラから頼まれていたのであれば、イル達が口を出さないのは説明がつく。それにこの場に王女であるステラが来ているのも、ベルに会いたかったからだろう。エルミラもアキの要件を詳細には連絡していないはず。それなのに王家総出で会談に来ているのは少し不自然だ。
「ベルとステラさんのやり取りを見ていたイル陛下やミリア殿下の表情が『あれだけ助言したのにしょうがない娘だ』になっていましたよ?」
だからアキはイル達が謝るタイミングやコツなどをステラに助言していたのではと考えた。まあステラを見ていても大体の事は想像がついたが。
「まあ上手くいかなかったのは俺の存在でしょうかね。」
きっとステラはベルと雑談や世間話をしようと考えていただろう。ただ話の主導権をアキが握ったまま進めてしまった為、ベルとステラが話すのではなく、アキとステラが話して、ベルが隣で聞いている構図が出来上がってしまった。だからベルをどうやって会話に混ぜればいいのかわからず、迷った挙句、いつものように憎まれ口を叩いてベルに構って貰おうとしたのだろう。
「ステラベルの計画は全て見抜かれていますね。これは恥ずかしい。」
ミリアが娘の痴態をからかう。復活しかけているステラがさらに凹んだから止めてあげて欲しい。一方うちのベルは大分落ち着きを取り戻したようで、いつの間にか顔を両手で覆うのをやめている。ただアキにくっつくように座って甘えてくるので、きっとまだ少し気恥しいのだろう。
「この子は本当にアイリーンベル王女殿下が大好きでしてね。会いたい会いたいとずっと言っているんですよ。わしとしても娘には同年代の友人を作って欲しかった。」
イルがさらに追い討ちをかけていく。そろそろ止めないとステラが恥ずかしさのあまり部屋から飛び出して行くんじゃないだろうか。そう思うくらいに羞恥に悶えている。しかしこの王族一家、身内にすら容赦ないな。
「なるほど。でもベルを好く気持ちはわかります。可愛いし、優しいし、真面目だし。私もそんなベルが本当に大好きなんですよ。」
せっかくなのでもう1回ベルにも悶えてもらおう。ステラが沈んだのだからうちの王女様にもそうなってもらうのが親心だ。
まあ実のところはベルの意外な一面が見られるからだけど。
「アキさん……もうやめて……恥ずかしい……から。」
アキの腕を引っ張って必死に懇願してくるベル。耳まで真っ赤にしているのがとても可愛い。そしてステラはステラで未だ赤面している。
きっとこの2人はいい友人になれるだろう。
「ベル、ステラさんと仲良くしてあげなさい。俺からのお願いだ。」
恥ずかしさでまだ俯いているが、アキの頼みとあって、なんとか声を絞り出すベル。
「なんで?……彼女を気に入ったから……?」
しかし絞り出した言葉が文句とは相変わらずだ。こんな時ですら拗ねる事を忘れないベルはある意味凄い。
「いい子だとは思うよ。でもね、理由は違う。」
ベルにはミルナ達やアリア達といった喧嘩できる仲間がいる。でもステラにはそういう相手がいないのだろう。アキと出会う前のベルもそうだった。それまでは彼女だって同年代の友人はいなかった。王女というのは孤独なんですとベル自身、言っていた事だ。
「ミルナ達とはいつも言い合いしているけど、あれはなんだかんだ楽しいだろ?」
ベルがすっかり年頃の女の子のようになったのはアキだけの力じゃない。間違いなくミルナ達と接した事がもう1つの大きな要因だ。王女でいる事の重圧から解放され、ただの女の子としての時間を楽しんでいるベル。
「うん……アキさんの言う通りかも。」
アキの言葉を聞いて、納得したように頷くベル。きっと昔の自分を思い出していたのだろう。
「だから仲良くしてあげなさい。ミルナがもう1人増えたようなものだろ?」
「ふふ、そうですね。でも……アレがもう1人増えるのはイヤです。」
ベルが苦笑する。確かにあのポンコツが2人もいたら大変なので、ミルナは1人でいい。
「よかったじゃない、ステラベル。」
「そうだな、お前の望む結果には一応なったんじゃないか?」
ミリアとイルがステラに微笑みかける。
「は、はい……うぅ……恥ずかしい。」
ステラも少しは落ち着いたのか、こちらの様子をチラチラ伺っていた。恥ずかしそうにはしているが、アキとベルの話を聞いてどこか嬉しそうな表情を浮かべている。
「ステラさん、今度うちの屋敷によかったら遊びにきてください。ベルのように手のかかる子達が他にもいます。きっと楽しいですよ。」
「はい……いきます。」
ステラは少し微笑んで、頷く。
「ベルもいいだろ?」
「落とすんですね?」
「なんでだよ。」
「ふんっ、しりません。」
拗ねてそっぽを向くベル。わざとらしい。これは「早く私のご機嫌を取りなさい」という事だ。
仕方ない、ご機嫌取りをしてやろう。
「王女はベル以外いらない。俺の王女はベルだけだから。」
それにステラを落としたりなんかしたら2国の王女を娶る事になりかねない。さすがにそれは勘弁して欲しい。王女は本当に1人で十分だ。
「そ、それならいいんです。えへへ。」
相変わらずチョロいうちの王女様だが、機嫌が直ったのでまあいいだろう。
さて、もう十分世間話もしたし、そろそろ本題だ。
「では要件の方に入ってもよろしいでしょうか。」




