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「ではアキさん、参りましょう。」
王女モードのベルが声をかけてくる。みんなと雑談していたら出掛ける時間になっていた。予定通りこれからサルマリア王家と会談しに行く。
「うん、行こうか。ルティア、影できてくれ。」
大丈夫だとは思うが、一応ルティアを同行させる。念の為だ。
「がんばるっ!」
そう言うとルティアはいつも通りスッと姿を消す。
「す、すごいわね。」
「ああ、相変わらずだな。」
エレンとエリスが彼女の隠密に感心している。何度見てもやはり凄いらしい。
「でもな、人が急にいなくなるわけないんだ。つまり今どこかに隠れているという事だ。腕をぷるぷるさせながら必死に木の枝に捕まってるかもしれないんだぞ?そう考えると可愛いだろ?」
あまりにも2人が感心していたので、ちょっとだけルティアの可愛いらしい隠密方法を暴露してやる。まああの子がやるから可愛いのだが。アキがしていたら只の醜いオブジェだ。
「そ、それは可愛いわね……。」
「う、うむ……ルティアのその姿を考えると確かに。」
アキの説明に戸惑いながらも納得する二人。というより「それ言っていいやつなの?」という表情だ。確かに自分ならばらされたら恥ずかしくて死にたくなる。
「痛。」
何か頭に当たった。地面を見ると、どんぐりのような木の実が落ちている。
「ルティア、痛いだろ。」
「アキのバカ!だからそれは言っちゃダメなやつ!」
ちょっと拗ねたルティアの声がどこからか聞こえてくる。やはり恥ずかしかったらしい。きっと栗鼠みたいに頬を膨らませているのだろう。
「今のはアキが悪いわよ?」
エレンが楽しそうに笑う。
「アキさん、馬車が来ました。」
ベルが手配してくれた馬車がいつの間にか到着したようだ。
待ち時間というのは普通退屈なものだが、この子達と雑談しているとあっという間に過ぎてしまう。いや、そもそも最近は1日が早い。ミルナ達がいるおかげで毎日が充実している。楽しい。すっかり時間が過ぎるのが早くなってしまった。
そんなどうでもいい事を考えつつ、ベルと共に馬車へ乗り込む。どうやら行先は事前に伝えてあるらしく、ベルは御者と会話をする事なく扉を閉める。そしてそれを合図にすぐさま馬車が発車した。
窓の外を見るとソフィーが必死に手を振りながら叫んでいる。
「アキさん!怪我、怪我はダメですー!」
もうあのセリフ、ただ言いたいだけじゃないのかと思ってしまう。ソフィーだけじゃなく他の子達も「無理しちゃだめです」と叫びながら手を振って馬車を見送ってくれる。
「いや、戦闘しにいくわけじゃないんだから……。」
呆れ果てるアキ。だがベルは彼女達の気持ちがわかるという。
「ふふ、だってアキさんはすぐ無茶するんですから。」
「まあ否定は出来ないな。」
とりあえず目的地までは1時間くらいかかるらしい。国王と会うといっても今更緊張する事でもないし、到着までのんびりする事にしよう。昼寝するのもいいかもしれない。
アキは車内の椅子に深く腰掛け、目を瞑る。だが対面に座っていたベルがすぐさま隣に移動してきて抱き着いてきた。
「寝かせてくれたりは?」
「しません。」
ダメらしい。どうやら昨日と同じくうちの王女様はアキに構って欲しいらしい。この子はアキと二人きりの時は子供のように甘えてくる。王女の威厳なんてないただの女の子だ。まあそのギャップがものすごく可愛いんだけど。
とりあえず適当な雑談でもするか。
「そういやみんなすんなり受け入れたよね。」
「ルティアさんの事ですか?」
「うん。」
全員がルティアとは特にいがみ合う事なく打ち解けていた。
「まあでも親友にはなれません。恋敵ですから。」
ただベル曰く、ルティアはうちの子達よりは遥かに好感度が高いらしい。何故なら彼女はセシルやアリアのようにアキ絶対主義なのでまだ仲良く出来るんだとか。
「え、うちの子達は?」
答えを聞くのが怖いが一応聞いておく。
「えへへ、早くポイしてくださいね?」
「しません。」
ベルが冗談ですとくすくす笑う。いや、多分この王女様は半分本気で言っている。相変わらずミルナ達とは相容れないようだ。
「アキさん、私やアリアさん達はミルナさん達が羨ましいだけなんです。」
ベルが相容れない理由を説明してくれる。
ミルナ達は思いのままに感情を出して、アキに言いたい放題言っている。それでいてアキに嫌われるとは微塵も思っていない。それだけ彼女達はアキを信用している。
「それにアキさんもそんな彼女達を信用してます。」
「でもそれはベル達に対しても一緒だ。嫌いになんてならないよ?」
「ええ、わかっています。そこじゃないんです……。」
あんなに自由に感情表現できる彼女達が羨ましい。アリア、セシル、エリスも自分と同じ気持ちだとベルは言う。ずっと王女として生きてきたベル。だからアキと出会って素の自分が出せるようになったとは言っても、やっぱりどこか遠慮してしまう。感情より理性が先に働くのだ。
「ああ、なるほど。俺と一緒だな。そういう意味では俺もミルナ達が羨ましい。」
前にアキも同じ事を考えた。その時にベルもきっと羨ましがってると予想したが、その通りだったようだ。
「知っていますよ?アキさんも理性が先に来るタイプです。だから余計羨ましくて私はあの子達に辛辣に当たるんです。アキさんからも羨ましがられているあの子達がどこか特別な気がして。」
確かにミルナ達のそういうところは羨ましいと思った。感情をストレートに出せるのは凄いと思った。一方ベルやアリア達の事は、アキに似ているとは思ったが、羨ましいと思った事はない。
なるほど、そう言う事か。
「ベルはもっと感情だせ。好きに生きろ。」
「アキさんのバカ!それが出来たら苦労しませんもん!」
口を尖らせて拗ねるベル。
「じゃあちょっとずつ出来るようになろう。俺と一緒に、アリア達と一緒に。」
「あっ……はい!そうですね。それはあの子達には出来ない特別な事ですね。」
ベルが微笑む。
「ああ、アリア達にもいっておいてやれ。」
「イヤです。自分で言ってください。べーっだ。」
楽しそうに舌を出すベル。多分アキの口から言ってやれという彼女なりの優しさなのだろう。
「あ、そろそろ着くか?」
気付いたら馬車の速度が落ちている。目的地が近いのだろう。
「……そ、そうですね。」
ベルが歯切れの悪い口調で答える。何故かサルマリアの王族の事になると居心地が悪そうになるうちの王女様。
「そんなに嫌か?」
答えてくれるかわからないけど、少し追及してみる。
「はぁ……まあすぐにばれるから言いますけど、少し苦手なんです。」
「国王が?」
「いえ、国王と王妃はそれはもう素晴らしい方々です。王女のほうがです。」
なるほどと苦笑する。同い年の王女様同士、何かとぶつかることがあるのかもしれない。
「さて着きましたね。頑張れ私。」
気合を入れなおすベル。そこまで苦手意識があるのか。しかしこんな彼女を見るのは初めてなので、楽しみにしておこう。ベルの意外な一面が見られるかもしれない。




