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「ベル、今日は何時頃出る?」
「そうですね、お昼過ぎくらいです。」
今日はサルマリア王家との謁見の日だ。今回も非公式な場らしいので、謁見というよりは対談だろう。
国王に会いに行くのはベルとアキ。ベルは国務だし、アキはエルミラ王からサルマリア国王に会うようにと頼まれている。そのほかの面々の同行はダメとは言われていないが、許可されているわけでもない。連れて行っても大丈夫だろうけど、今回は遠慮してもらうのが妥当だ。
「また行けないんですの?」
ミルナがちょっとだけ拗ねているので構ってやることにする。
「ミルナ。」
「は、はい。」
「私の事を食べてっていつ使うんだ?」
アキの発言に口をぱくぱくさせるミルナ。
「な、な、な、何を言ってるんでしょうか!私はよくわかりませんわ!」
必死に誤魔化そうとするミルナだが、ソフィーがあっさりと暴露する。
「えー、だってミルナさん練習してました。昨日アキさんで試したら怒られましたー!」
「ちょっとソフィー!何をやってくれているんですの!」
ミルナが詰め寄るが、ソフィーは何故怒られているのかよくわかっていない。教えるなら今だろうとソフィーに近づいて「食べる」の意味をそっと伝授してやる。
「ええええええええ!」
ソフィーが真っ赤になって叫ぶ。無事うちのエルフの知識が1上がった。
「じゃあソフィー、食べさせてくれるんだね?」
「ま、待ちましょう!い、いいですけど!心の準備がですね!」
心の準備ができればいいらしい。
「ミルナ……誘惑の練習してるんだろうけど、『私を食べて』は流石にないぞ。」
「駄目出しとかやめてくださいませ!心折れちゃうから!」
ミルナがもうやめてと涙目で懇願してくる。そんな心さっさと折れてしまえばいいのに。
そしてエレンやレオは相変わらずのミルナに呆れ顔だ。
せっかくだしこの2人でも遊んでおこう。今日は連れていってあげられないのだから。
「じゃあエレンとリオナを食べる事にするよ。」
そういって2人の肩を優しく掴む。
「な、何をいってるのよ!へ、へ、変態!そ、そういうのはまだ駄目よ!」
「アキ、ま、待って。落ち着こう。ね?ね?ま、まだ早くないかな?かな!」
「落ち着くのはお前らだ。」
こういう免疫は相変わらず一切ないらしい。しかしてっきりエレンの事だから飛びかかってくると思ったのに、どうやら恥ずかしさが限界突破したらしく、それどころではないようだ。
アキは続いてアリア、セシル、エリスを構おうとしたのだが、「私達は大丈夫ですから」と目で伝えてきた。この3人は本当に物分かりがいい。寧ろちょっと怖いレベルで。
しかしまだ出かけるまで少し時間がある。
そうだ、ならルティアの事を紹介しよう。全員揃っているのだからタイミングとしては丁度いい。
「キーリ。」
「なに、アキ。」
アキが呼ぶと、いつものようにアキの背後に外套を被ったまま姿を現すルティア。
「いや、昨日話しただろ。」
「う、うん……。」
ルティアの声が少し緊張の色を含んでいる。
「アキさん?どうしたんですの?」
ミルナが尋ねてくるので皆に説明してやる。
「彼を改めて皆に紹介しようと思ってね。ミルナ達なら大丈夫だと彼も言ってくれた。屋敷にいる時まで隠れているのは可哀そうだろ?」
「なるほどそういうことですか。」
ベルが納得したように頷く。他のみんなもそれで問題ないと言ってくれた。
「じゃあ……。」
アキが言葉を続けようとすると、ミルナが急に割って入ってくる。
「アキさん。」
「急にどうした、ミルナ。」
「キーリさん、女性ですよね?」
アキは少しだけ目を見開く。正直気づかれているとは思わなかった。確かにルティアは小柄だ。でも常に低めの声を出しているし、少年に十分見える。それにアキはミルナの前ではずっとルティアの事を「彼」と呼んでいた。間違えた事は当然ない。
「なんでそう思う?」
「リスルドに到着した当日、その召喚で……その……私のし、下着を召喚しましたわね?」
下着で恥ずかしがるミルナのエロポイントは相変わらずよくわからない。「私を食べて」を練習していたとは思えない純情ぶりだ。
「そうだな。」
「あの後、召喚はキーリさんに見せる為だったと言いました。」
「言ったな。」
「アキさんが私のそういうのを男なんかに絶対見せるわけありません。だから女性だというのは直ぐにわかりましたわ。知っているんですよ、アキさんが意外に焼きもち妬きだという事くらい。」
ミルナが袖口を口にあててくすくすと笑う。
悔しいがミルナの指摘は的確だ。確かにルティアが男だったなら、召喚の際にミルナの下着を使う事は絶対になかっただろう。見抜かれたのは癪だが事実だ。まあ気づいていたのはミルナだけのようだが。他の子達は唖然としているし。
「さすがミルナだね。」
「ふふふ、少し前まで伊達にお姉さんしてたわけじゃないんですわよ?」
アキと出会うまでは立派なお姉さんをしていたことは知っている。まあ相当無理してたんだろう。その反動で今ポンコツしてしまっているというわけだ。
「ああ、でも今は俺がいるから無理しなくていいからね。」
「はい。」
ミルナが嬉しそうに微笑む。
アキは改めてルティアの方を見る。すると彼女は小さく頷いてくれた。このまま進めても大丈夫という事だろう。
「で、ミルナの言う通りキーリは女性だ。彼女が言わない限り俺から言うつもりはなかった。でも昨日話した時、ミルナ達ならいいと言ってくれた。」
「あれ?昨日ですか……?」
ソフィーが首を傾げる。
「ソフィーが突撃してきた時だな。」
「あー!やっぱりー!私の『お話探知機』は正常だったじゃないですかー!」
ソフィーがぶーぶーと文句を言ってくるが、無視して話を進める。
「キーリ、いやルティア。外套をとってもいいか?」
「う、うん……。」
ルティアがアキの袖をギュッと掴んでくる。
大丈夫だからとルティアを撫でてやる。そしてアキは彼女の外套を取る。
そしていつもの紫がかった髪の美少女が姿を現す。
「彼女がルティアだ。みんな、よろしくね。」
アキの背中に隠れていたルティアを無理矢理引っ張り出してやる。
「あらあら……。」
ミルナが目を見開く。
「ええ……これはまた……。」
ベルも口に手を当てて驚いている。エレン達も言葉が出ないのか、静かにルティアを見つめている。
「アキ。」
あまりにも誰も何も言わないので、不安になったらしいルティア。怯えた目でアキを見上げてくる。
「大丈夫だから。」
アキはミルナ達に何か言うようにと促す。
「いえ、あまりにも美少女で……見惚れてしまいましたわ。」
「ええ……驚いたわ。」
ミルナとエレンもやはりアキと同じ反応だ。まあ外套の下からこんな美少女が出てきたら誰でも驚く。
「ベルですら見惚れるって相当だな。まあ俺も同じ反応したけどな。」
うちの王女様も相当の美人だ。勿論ミルナ達、アリア達も。その彼女達がこれだけ言葉を失うのだから、ルティアの見た目の麗しさは群を抜いている。
「ふふ……キーリ、いえルティアさんはそれくらいの美貌の持ち主です。」
ベルがとても敵いませんと苦笑する。
「いやいや、ベルにアリア達、そしてうちの子達もかなりの美人だからな?ちゃんとわかってる?」
アキがそう言うと、全員が頬を染めて俯く。
「アキ、あれ、どうしたの?大丈夫?」
ルティアがミルナ達の方を心配そうに見つめる。彼女達の具合が悪いのかと心配しているのだろう。いい子だ。ちょっとズレているが。
「あれはね、美人って言われて恥ずかしがっているんだよ。」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
エレンが怒鳴る。アキはそんなエレンを無視してルティアに説明を続ける。
「今のはね、図星をつかれて恥ずかしいから怒鳴って誤魔化そうとしているんだよ。」
自分の行動原理を説明されてさらに顔を真っ赤にするエレン。他の皆も何か言おうとしていたようだが、すっかり押し黙ってしまった。まあ自分の行動の動機を詳細に説明されるほど恥ずかしい事はないからな。
「そして今度は言いたい事があるけど、言ったらルティアに説明されるから、言えなくなって悶えているうら若き乙女たちの光景だよ。」
「やめて!アキさん!謝るからもうそれやめてくださいませ!」
ミルナが懇願してくるのでそろそろ勘弁してやる。
「みんな具合、悪くない?」
「うん、元気だよ。」
「そっか。」
ルティアはほっとした表情を浮かべる。
「いい子だろ。ずっと1人で頑張ってたんだ。だからみんなの仲間にいれてやってくれ。」
アキの言葉にもちろんですと頷くミルナ達。ルティアの優しさは今の一連の流れで十分に理解してくれたようだ。
とりあえずミルナ達に改めて自己紹介してもらう。これでルティアもこの子達の仲間に入れるだろう。
「私達王家が不甲斐ないせいです……。すいません。」
自己紹介が終わると、ベルが申し訳なさそうにルティアに頭を下げる。
「私もあなたの命狙った。おあいこ。」
「ふふ、そうですね。ではおあいこということで。」
ベルとルティアの間に変なわだかまりもなさそうだ。
ただミルナ達はまだ何か聞きたいことがあるらしく、何やら視線を交わして無言のやり取りをしている。
話がまとまったのか、ミルナが代表して口を開く。
「ルティアさん、1つ教えてください。アキさんとはどういったご関係ですの?」
「うーん……?」
ルティアは質問の意図がよくわかってないようだ。
「ごめんなさい、質問を変えますわ。アキさんを好きですか?」
「うん、好き。大好き。」
ルティアの返事に何故か部屋に緊張感が走る。嫌な予感しかしない。
「な、なるほど。どのくらいですの?」
「食べられてもいいくらい?」
そして部屋の空気が一気に氷点下になるのを感じた。
ルティアは相変わらず飄々としているが、ミルナ達の笑顔がこれでもかというくらいに引き攣っている。どうやらアキのお話が無事確定したようだ。でも今の「例え」はどう考えてもミルナのせいなのだが……今更何を言っても無駄だろう。
「た、食べられましたの?」
「それはない。」
流石に口を挟む。ルティアは端的に話すタイプなので誤解を招きそうだ。
「でも昨日は一緒に寝た。アキあったかい。」
ルティアが嬉しそうに微笑む。どうやらルティアは安心して寝られたようだ。よかったよかった。まあ自分は今日は寝かせて貰えそうにないけど。
「アキさん?」
「なにかな、ミルナさん。」
ミルナの迫力がいつもの数割増しだ。怖い。
「こんな子供にまで手を出すんですの?」
「いや、エレンも十分にこど……。」
アキが言い終わる前にエレンが割って入ってくる。
「はあああ!ぶっころすわよ!このど変態!」
どうやらアキは変態からど変態に昇格したようだ。全く嬉しくない。
「アキさん……わ、私の妹は……やめてください。」
そしてアリアが本気で心配している。やめてくださいなのはこっちなのだが。
「みんな何か勘違いしてない?」
溜息交じりに言葉を吐き出す。
「なんですかー?このロリコンアキさんー。」
「ええ、アキさん。いえ、ロリコンさん。」
ソフィーやベルまでもが辛辣だ。結構傷つく。
「ソフィーとベルは17歳だろ?」
「ですよー?」
「ええ、それがなにか?」
やっぱり同年代には見えないらしい。
きっとみんなにはルティアがシャルくらいの年齢に見えているのだろう。
「ルティアも17だぞ。」
「うん。私17歳。大人。」
ルティアが可愛らしくえっへんと胸を張る。
「「「「「はっ?」」」」」
衝撃の事実にルティア以外の女性陣が固まる。特にエレンやレオは愕然としているようだ。まあ小動物のようなルティアが2人より年上なのだから驚く気持ちはわかる。ソフィーとベルも自分と同い年だと知ってまさかといった表情だ。
「う、うそよね?」
「ぼ、僕より上なの?」
エレンとレオが恐る恐る尋ねる。
「うん。私、おねーさん。」
「「うそー!」」
どうやらうちの猛獣と狼は未だに現実が受け入れられないようだ。
「ルティアさん本当に私と同じ歳なんですー?」
「ええ、本当に17なんですか?」
17歳組のソフィーとベルも再確認する。
「そうだよ?変……?」
ルティアは首を傾げて少し悲しそうな表情をする。
「変じゃないよ。ルティアは大人だね。」
そう言って、ルティアをそっと撫でてやる。
「うん。大人。」
「というわけで、別に子供に手をだしたわけじゃないから。みんなにあんなこと言われて俺は悲しいよ。」
わざとらしく悲しそうな顔をしてみる。
「あ、あのそのごめんなさい……。」
「アキさん……酷い事言ってごめんですー……。」
あんな下手糞な芝居でもこの子達には効果覿面だったようで、ベルとソフィーが必死に謝ってくる。
「わ、私も悪かったわ……へ、変態!」
エレンのアキの評価は無事変態に戻ったようで一安心だ。いやどっちにしろ嬉しくない。
「まあルティアは若く見えちゃうからね。」
「私子供?」
またルティアが悲しそうな顔を向けてくる。あっちを立てればこっちが立たずとはまさにこの事だろう。
「ううん、若く見えるってだけ。子供じゃないよ?」
「わかった、アキがそう言うなら信じる。」
なんとか納得してくれたようだ。
「じゃあルティア。これから屋敷にいる時は普通にいていいぞ。」
「うん。ありがと。」
「よし、じゃあ出かけるまでごろごろするか。」
アキは伸びをして話を切り上げる。
「あら、アキさん。往生際悪いですわよ?」
ミルナがうふふと意地悪な笑みを向けてくる。やはり見逃してはもらえないらしい。まあ無駄な足掻きなのはわかっている。抵抗くらいはしたかっただけだ。
「お話ですー!久々にゆっくりお話ですー!」
「そうね!覚悟しなさい!この女たらし!」
「アキ、僕はね、悲しいよ?」
うちの子達がいつものセリフでお説教してくる。今回はエリス、セシル、ベルも参戦するらしく、不敵な笑みを浮かべている。そしてアリアはいつの間にかアキの背後に回り、両肩を押さえつけてきやがった。絶対に逃がしてもらえないらしい。
これは長くなりそうだな。助けてくれそうなシャルはいないし諦めるか。
「なんでお話?」
ルティアが不思議そうにアキに尋ねてくる。
「なんでだろうね?」
「アキ苛めるの。ダメ。」
ルティアが頑張ってみんなに文句を言ってくれた。頑張れルティア。
「ルティアさん、これは必要な事なのですわ。」
「ええ、その通りです。避けて通れない道なのです。」
ミルナとベルが逃げ道を閉ざすかのようにルティアを説得し始める。こういう時だけはチームワーク抜群なミルナ達。それが出来るなら普段からそうしてくれ。
「やだ。アキ苛めるの許さない。私が守る。」
ガッツポーズして気合を入れ直すルティア。
「ルティア頑張れ。」
「なんでルティアさんを応援するんですかー!」
「いや、『お話』してくるソフィーの応援してどうするんだよ。」
「それはそれ!これはこれ!です!」
どれだよ。しかし果たしてルティアがこの8人に勝つ事ができるのか。
ただよく考えれば、ルティアなら出来るかもしれない。隠密性ばかりに注目されがちなルティアだが、ちゃんと交渉術も備えているのを忘れてはいけない。なんせ王族を襲うように冒険者や貴族達を説得したのだから。
ルティアのお手並み拝見だ。
「私みんなの秘密知ってる。そればらす。」
お手並みも何も一瞬で終わりそうだ。
「「ちょっと待って!」」
ミルナとベルが慌てて声を上げる。ソフィーも冷や汗ダラダラだ。きっとアキが以前ルティアを使って色々調べさせたのを思い出したのだろう。
「ルティア、あんた何を知っているっていうのよ!」
エレンが叫ぶが、その聞き方は不味くないだろうか。今ここで秘密を言えと言ってるようなものだ。
「エレン。最近、黒の……。」
ルティアが言いかけたところでエレンが慌てて遮る。
「ま、待ちなさい!アキ!今日は特別にお話無しにしてあげるわ!」
「ならいわない。」
それならいいとルティアは口を噤む。アキが苛められないならそれで満足らしい。まあもうエレンの秘密はわかったけど。
「アキさん、今日は無しにしましょう!許して差し上げますわ!」
「と、特別ですー!」
ミルナとソフィーが引き攣った笑みを浮かべている。
ここまで必死になられると、この子達は部屋で一体何をしているんだと逆に気になる。まあでも聞いたらきっと後悔する事になりそうだ。
とりあえずルティアのおかげで無事お話は回避できたのだから彼女には感謝だ。
王族を襲撃させる為の交渉も多分こんな感じだったのだろう。彼女の端的な物言いは説得力がある。相手は余計な事まで勝手に色々と想像してしまい、冷静さを失う。だから交渉の時、自然と優位に立つことができる。ルティアは無意識だろうが、彼女の隠れた才能だ。
「ルティアありがとう。」
「がんばった。」
ルティアがピースしてくる。いちいち可愛いな、この小動物。
「あ、みんなの秘密後で俺にこっそり教えて?」
「うん。アキになら何でも教える。」
せっかくなので知っている秘密は全て教えて貰おう。聞いて後悔はするだろうが、大事な仲間の情報は知っておくべきなのだ。きっと何かに役に立つ。そう、主におもちゃにする時に。
「「「「「待って!」」」」」
ミルナ達は土下座する勢いでやめてと懇願してくる。
仕方ない。諦める事にしよう。あのアリアやセシルまでその状態だったので本当に内容が気になるところだが……。
まあ全員の視線が「聞いたら本当に殺すから」と言っているのでやめておこう。懇願というより脅迫された気分だ。




