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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十六章 サルマリア王国・王都リスルド
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7

 リスルドの屋敷に戻り、早速ベルに国が所有している依頼受託装置について尋ねる。やはり協会の物とは少し違うらしい。物自体は許可証を発行する国の施設においてあるとのこと。


「詳しく言ってなくてすいません……。」


 ベルが申し訳なさそうに謝ってくるので、気にするなと伝える。アキが聞いていない事まで全て伝えるなんて不可能なのだからなんら問題はない。むしろ確認しなかったアキが悪い。


「ところでその装置の呼称は?」


 さすがに依頼受託装置ではないだろう。


「えっと……確か『許可証発行装置』と呼んでいたかと思います。」


 こちらも用途の通りの呼称だ。


「見れる?」

「勿論!アキさんの為に何としてでも!エスペラルドに戻ったらすぐに手配します!」


 ベルがガッツポーズをして気合を入れている。そこまで頑張らなくてもいいのだが……。


 しかしそれだとやはりエスペラルドに戻ってからになる。


「明日のサルマリア王家との話次第ではそっちに頼むかも。」

「えっ……そ、そうですか……。」


 何故かベルはサルマリア王家の話になると歯切れが悪くなる。どうしたのと目で尋ねるが、やはりなんでもないですと返してくるので追及はしないでおく。明日になればわかるだろうし。


 ただ1つだけ確認しておきたい。


「サルマリアの王族はベルの両親やアイリス女王みたいな人か?」

「はい、それは間違いありません。」


 つまりベルが気まずそうにしているのは別の理由だ。とりあえず人間性に問題がないのであれば今はそれでいい。


 それより今日の報告だ。メビウスやアイリと話した事をミルナ達に伝えておく必要がある。


「今日わかった事を共有しておくね。」

「はい、お願いしますわ。」


 いつも通りミルナが代表して返事をする。


「冒険者協会はやはり問題なかった。これは俺がメビウスを連れてきたことでも分かると思う。」

「ええ、そうですわね。王女様から大体はお伺いしておりますわ。」


 どうやら既にベルが話しておいてくれたらしい。


「さすがベル、助かるよ。」

「うふふ、当然です。」


 ベルはえっへんと胸を張る。


「なんだ、ミルナの胸の大きさに張り合っているのか?無駄だぞ?あれは化け物だ。」

「ち、違います!」

「ちょっと!なんでそこで私なんですの!あと人を化け物みたいに言わないで!」


 アキの発言にベルが赤面して両手で胸を隠す。そしてミルナは化け物と言われたのが気に食わなかったようで、アキに非難の声を浴びせてくる。事実なのに。


「ほらミルナ、隣に座ってる絶壁が可哀そうだろうが。」

「だーかーらー!人をいちいち巻き込むな!あと絶壁言うな!」


 エレンがガルルと猛犬のように牙をむいてくる。


「ベルとミルナとエレンの胸のせいで話が逸れたから戻していいか?」

「アキさんのせいです!」

「私達は関係ありませんわ!あと胸も!」

「そうよ!あんたのせいよ!ぶっころすわよ!!!」


 すっかり3人が拗ねてしまった。まあご機嫌取りは後でするとして、とりあえず話を進めよう。


「それで協会で調べてきた事なんだけど。」

「「「無視するな!」」」


 どうやら後ではダメらしい。しょうがないので1人ずつ撫でてやる。


 まあそれだけで満足して機嫌を直してくれるので楽だ。しかしここでチョロいなとか言ったらまた怒るんだろうけど。


「俺の女チョロいな。」

「アキ、それ思ってても言わないほうがいいやつだよ?しかも『俺の女』と『チョロい』をわざと混ぜたよね?なにしてんのさ……。」


 レオが呆れ顔だ。


「面白いかなと。」

「ほら、3人とも怒ってるのか照れているのか嬉しいのか自分でもよくわからなくなってるからね?止めてあげようね?」


 レオに優しく諭されてしまった。


 確かにレオの言う通り、ミルナ、エレン、ベルは拳を握りしめ地団駄を踏んで怒っている。ただ顔が笑顔なので、ガッツポーズして喜びを表現しているようにも見える。この子達面白い。


 しかし笑顔と言えばやはりソフィーだろう。


「そういやソフィーの笑顔まだ見てない。」

「はーい!アキさん!えへへ、これでどうですかー!」


 ソフィーがいつもの笑顔を向けてくれる。和む。やはりうちのエルフの笑顔は癒される。


「相変わらず自由だね……ミル姉達放置してソフィーに行かないでよ。」


 レオがそういうのはやめなさいと注意してくる。真面目な狼だ。


「じゃあミルナ達放置してリオナを撫でるのと、ミルナ達を構うのどっちがいい?」

「ミル姉達は放置で。」


 尻尾を嬉しそうに振りながらあっさりとミルナ達を見捨てるレオ。


「ちょっと!レオ!なんであっさり見捨てるのよ!」


 エレンがレオに食ってかかる。ほんとうちの子達は元気だな。


「エリス。」

「……?どうしたのだ?」

「呼んだだけ。」


 アキがそう言うと、嬉しそうに微笑んではしゃぐエリス。


「アリア、特に変わりはなかったか?」

「はい、問題ございません。」


 これで全員を構ってあげられただろう。


 ちなみに最後のアリアとの会話は「不穏な事はなかったか」という意味だけでなく「彼女達は不平不満なく過ごしていたか」という意味も含まれている。当然アリアはそれに気づいた上で「問題ない」と回答してくれた。本当にうちのメイドは優秀で助かる。






「じゃあ今度こそ冒険者協会の話ね。」


 アキは協会で調べた依頼受託装置の説明をする。何を付与しているのか、どういう術式なのか。そして王国が所有している装置は術式が違う事を先程撮った装置の写真を見せつつ出来るだけわかりやすく伝える。


「5種類の術式を見られたら多分模様の解析はある程度できる。」

「そうなんですかー?」


 ソフィーがよくわからないので教えてくださいと首を傾げる。


「そうだなー……。」


 アキは日本語で2つの術式を書いてみんなに見せる。「魔素を剣に集約して魔法を発動、大気を燃やせファイヤ」と「魔素を刀に集合させて次の術式を展開、世界の理を持って水を顕現せよアクア」の術式を記した。


「これ読めないよね?」


 みんなタブレットで遊んでいるから日本語は多少読めるようになったが、おそらく漢字などはまだあまりわからないはずだ。


「はい、わかりませんわ。」


 ミルナが頷く。


「これは火と水魔法の術式だ。言葉を変えて記してある。なんかわかる人いる?」


 アキが書いた術式と必死に睨めっこするミルナ達。


「あっ、こことここ。模様が一緒じゃないかしら?」


 エレンが気づいたらしく、2つの術式の共通点を指差す。


「やるね、エレン凄い。」

「そ、そう?もっと褒めてもいいのよ?」


 褒められたのが相当嬉しいのか、エレンの口元が綻んでいる。


「今エレンの言った通り、そこが共通点だ。ミルナならわかるよね?この文字なんて書いてある?」


 魔法について詳しいミルナなら当然この程度の日本語は読み解けると思って聞いたのだが……。


「えっと……。アキさん、ヒント、ヒントをくださいませっ!!!」


 ミルナが涙目だ。そして必死だ。エレンに負けたのがそんなに悔しいのだろうか。


「ヒントか。2つは魔法の術式、火と水。前に術式の説明はしたよね?」

「……なら……ま、魔素!そうですわ!魔素です!」


 ミルナが「あってる?あってる?」と心配そうに上目遣いで見てくる。まあ合ってるけど……そんな必死にならなくても。


 だが褒めないと泣きそうなので褒めてやろう。


「そうだね、さすがミルナ。よくわかってる。」

「と、当然ですわ!これでもSランクの魔法職ですもの!」


 誇らしげなミルナ。よくこの流れでそこまでドヤ顔が出来るものだ。しかも小さくガッツポーズしている。このポンコツお姉さんほんと微笑ましいな。


「うん、ミルナとエレンの言う通りだ。魔法の発動には魔素がいる。つまり文字が読めなくてもこの文字が魔素を表していると推測できるわけだ。」


 そして魔素を集約する部分と魔法詠唱の部分は必ず分かれている。つまり前半の1文が魔素に関する記述、後半の文が詠唱にあたると予測がつく。


「2つの術式からでもこれだけの事がわかるんだ。俺はこれを5つ同時に行なう。記述の内容はキーリの報告から大体の推測ができる。後は今みたいに少しずつ共通部分を照らし合わせていけば、術式の解析が出来るという事だ。」


 アキが説明を終えると、全員が凄い凄いと拍手してくれる。


「いや、そんな拍手される事じゃないんだけど。」


 恥ずかしいから止めて欲しい。当たり前の事を得意気に解説して気を使われているような気分だ。むしろなんか揶揄われている気さえする。


「バカにしてない?」


 ついつい疑心暗鬼になってしまう。ミルナ達はそんな器用な子達じゃないし、そもそもアキを馬鹿にしたりしないのはわかっているのだが。


「してないわよ!なんでそんな捻くれてるのよ!」

「してないんだ?」


 エレンが慰めてくれた。


「そうよ!アキは凄いわよ!胸を張りなさい!」

「エレンと一緒で胸がないからそれは無理。」


 アキの一言にエレンが固まる。慰めていたのにまさかそんな返しをされるとは夢にも思わなかったのだろう。


「もうぶっころおおおおす!絶対ころすうううう!」


 顔を真っ赤にし、短剣を抜いて飛びかかってくるエレン。

 今日もうちはいつも通り平和だな。

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