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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第二章 魔素
25/1143

13

 朝の支度も終わりアキ達は出立する。今日もゆっくり森を迂回し、明日の夕刻頃に街に到着する予定だ。昨日と同じようにレオとソフィーが斥候、エレンが背後を固める。


「今日は魔法について説明しますわ。」


 そしてミルナがアキの先生だ。どうやら今日は魔法の講義らしい。アキとしては狂喜乱舞だ。魔法の事を知りたくて知りたくて仕方がなかった。自分が知らない知識。未知に心が躍る。


「今までで一番気合はいっていません?」

「魔法は俺の世界になかったからね、早く。」


 わかりましたと説明を始めるミルナ。


「まず先に言っておきます。戦闘利用としての魔法はこの世界では優遇されておりません。武器で戦う方が圧倒的に有利だからです。」


 どんな種族、生物であろうと大体同じ量の魔力しか保持できない。違いはあくまで個人差程度らしい。つまりどんな優秀な魔法職であっても極大魔法など使えないということだ。魔法職の優劣は限られた魔力をどう使うかので決まるという。


「ちなみに魔法のみでSランクになった人物は存在しません。私も魔法中心ではありますが短剣の心得もあります。」


 つまり純粋な魔法使いは存在しないと考えたほうがいいだろう。何かしらの武器に魔法を補助として使うのが一般的だという。


「何故そうなのかを説明しますわね。魔法は魔素というものを使って発動します。」


 魔素を体の中に貯めておいて、魔法を使用する際にその魔素を消費する。先に説明した通り保持できる魔力、つまり魔素の量は個人差程度の違いしかない。


「魔素は誰にでも存在します。もちろんアキさんの中にも。」

「では誰にでも魔法は使えると?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言えます。」


 ミルナ曰く魔素は全生物の体内に必ず存在するらしいが、それを魔法利用に変換できるかは個人の才能次第だという。出来る人は1発で出来るし、出来ない人は一生できない。


「魔素は消費すると時間経過で自動的に補充されます。」


 数時間くらいかかるのかとアキは思ったが数分で済むそうだ。というより使ったそばから補充されるらしい。


「うまく消費と補充を同量で行えば一生魔法を行使し続けられる?」

「理論的には可能です。」


 だが補充の理論は今でもよくわかっていないらしい。魔法組合が日夜研究を続けているらしいが解明にはまだまだかかりそうとのこと。


「魔法組合は新魔法などの開発もしております。余談ですが。」


 簡単に言えば魔法マニアが組合に所属して魔法の神髄を議論しているらしい。


「前置きは以上です。それでは魔法の使用方法を説明しますわ。」

「その前に魔法の種類をお願いできる?」

「種類ですか……?種類というなら無限ですね。」

「どういうこと?」

「魔法の使用方法を聞いて頂ければご理解していただけるかと。」

「なるほど、遮ってごめん。」

「いえいえ、アキさん視点は参考になりますので。それでは魔法の使用方法ですが、基本的には自分が想像しやすい言葉を媒介にして発動させます。」


 どうやら魔法には決まった詠唱はないらしい。自分がその現象を起こすのに想像しやすい言葉を使えば発動するとのこと。例えば火で対象を燃やしたいなら、「ファイア」、「火よ燃やせ」、「フレイム」など何でも大丈夫だ。


「つまり魔法の数は無限にあると言えます。同じ『ファイア』という詠唱で火を出したとしても、対象を燃やすという事象の理解度が人によって異なるので、魔法の範囲や威力も異なります。」


 事象の理解度とはなんだろうとアキは考える。例えば火で物を燃やすというのは燃焼に該当する。燃焼とは物質が酸素と急激に化合して酸化反応を起こし、その結果として熱と光を発する現象の事を指す。燃焼を実現させるには4つの要素が必要で、その1つが燃える物質、つまり可燃性物質。次に酸素供給体。いわゆる酸素を供給するもので一般的なのが空気。3つ目が点火エネルギー、又は熱源ともいう。最後に燃焼を継続させる為の連鎖反応。また、それに加えて燃焼の種類も色々ある。この世界でも原子理論が理解されているのかとアキは考えるが、ミルナを見る限りそんな様子はない。原子理論が展開されているのであれば燃焼や酸素といった用語が出てこないのはおかしい。


「待って、ミルナ。ちょっと火を出して。」

「はい、構いませんよ。全てを燃やせ、フレイム。」


 そういってミルナは手の上に炎を出現させる。


「ミルナは燃えるってどういう理解なの?」

「はい、えっと・・ちょっと言うのが恥ずかしいのですが……物の温度が急激にあがって光ってボンッ!って感じです……。」


 自分の理解を説明するのは初めてなのだろう、少し照れ臭そうにしている。だがアキはそれよりもミルナの理解のほうに驚いた。


「今の理解では……ありえない。」

「アキさん……?」

「ごめん、ちょっと待って。」


 事象の理解で火が出せる?ミルナのあれが燃焼の理解だというのか。それはありえない。では何故理解したことになり燃焼がおきているか。燃焼の原理が違う?いやそれもありえない。この世界でも燃焼の原理は間違いなく地球と同じはず。そうでなければライターが使えるわけがない。空気に酸素も含まれている、アキが呼吸しているのが何よりの証拠だ。


 そもそも魔素とはなんだ?てっきり魔素とは点火エネルギーか可燃性物質の代わりになるものだと思っていた。でもそれだと水や風魔法を使う時の説明に矛盾が生じる。


「ミルナ、酸素とか原子理論とかの言葉に聞き覚えは?」

「聞いた事ないですね。なんですか?」

「ミルナ、水だして。」

「はい……大気を潤せ、アクア。」


 ミルナの手の上に水の球体が現れる。


 原子論的に説明するのであればこれは空気中に気体として存在している水分子が何らかの理由で結合して液化されたと考えればいいはずだ。魔素がその結合力として働いているのだろうか。


「これはどういう理解なの?」

「えっと……こう濡れて!って感じです……。」


 ミルナはまた恥ずかしそうな声色で説明する。確かに何かエロい。だがアキは相も変わらずミルナの方を見る事なく思考に没頭する。


 そんなアキが気に食わない様子のミルナ。


「アキさん!アキさん!」

「うん?どうしたの?」

「アキさんのばか!私の質問には答えてくれないし、ずっと考え事してこっち見てくれないし、さすがに私だって怒りますわよ!」


 ミルナは拗ねてそっぽを向く。


「あー、ごめん。つい研究してる時の癖で……。」

「しりません!もう教えてあげません。」

「申し訳ありません。」


 アキはミルナが想像したより遥かに早い速度で謝罪する。そして膝まずいて何かをしようとしているアキを止める。


「なにしようとしてるんですの!」

「伝統的な土下座をしようかと。」

「何を言ってるかよくわかりませんがとりあえず辞めてください。嫌な予感しかしませんので。それにアキさんがその速度で素直に謝罪することに驚きですわ。」


 普段からそうならもっと扱いやすいのにとボソボソと呟くミルナ。


「特別に許しますわ。とりあえず魔法を使ってみませんか?」

「よし、早く。」

「もう……落ち着てください。でもいきなり使えるとは思わないでくださいね。とりあえず魔法を覚えるときにやる方法を行います。まず私から魔素をアキさんに渡して体内を循環させます。魔素を感じる事が出来れば魔素の使い方は自然とわかるはずです。」


 自然とわかるものなのだろうか。今まで存在すら知らなかった魔素という物質がいきなり理解できるのかアキにはよくわからない。


「では手を握ってください。」


 ミルナが手を差し出して来たのでアキは手を置くようにして上に重ねる。しばらくの沈黙が流れる。ミルナは何故か手を一回引っ込め、改めてミルナから恋人繋ぎのように指を絡めるように握り直してきた。


「ミルナ、この繋ぎ方をする意味は?」

「私のやる気の問題です。」

「そうですか……。」

「ではいきますわ。何か感じられたらそれが魔素です。……魔素よ巡れ、サーキュレーション。」


 アキは目を瞑り、手に意識を集中する。ミルナの手が温かくなり自分の手のひらにその温もりが移って体内に入ってくる感覚がある。そのまま腕を通り、心臓を経由して全身へ何かが送り届けられる感じだ。


「どうですか?」

「何かが循環している感覚がある。」

「それが魔素です。」

「なるほど、ちょっと考え事していい?」


 今度は許可を取ってから思考にうつる。魔素が血液のように全身を循環している感覚があった。今まで魔素に触れた事がなかったからこそ余計敏感に感じることができたのかもしれない。魔素は全身を循環する?血液のように?魔素っていうくらいだから……まさか酸素と同じような物質なのか?血液には酸素が含まれていて体内を循環する。そして酸素を血液に取り込むのは呼吸。


 そこでアキは一度魔素は酸素と同じような物質であると仮定する。そしてその仮説の検証から始める。ミルナは言った。魔素を保持できる量は誰でも同じくらいで、個体差くらいの差しかない。魔法を使用すると魔素が枯渇するが、使ったそばから補充される。酸素だってそうだ。人間が保有できる酸素の量は多少の個人差はあるかもしれないが、大体同じくらいだ。そして酸素も消費したら呼吸によってすぐに補充される。つまり魔法行使を激しい運動と考えるなら、当然すぐに魔素は枯渇する。そしてそれを補充する為に呼吸をすれば魔素が補充される可能性があるのではないだろうか。


「ミルナ、魔素って俺達の周りに常に存在してる?」

「ええ、していますわよ?」

「あとそろそろ手離していい?」

「いいですけど……。」


 不満そうなミルナだが、今のアキはそれどころではない。アキはひたすら頭の中で仮説と検証を繰り返す。


 やはり魔素は呼吸で補充される可能性が高そうだ。だが魔素は手から出すものなのだろうか?魔素を酸素のようなものだと仮定した場合、体のどこからでも出せるのではないだろうか。生物は皮膚呼吸による酸素交換が出来る。人間の皮膚呼吸は全体の酸素交換の1%以下といわれているが、出来ないわけではない。つまり魔素も体のどこからでも出せるはずだ。後は実際に使用して検証してみるしかないだろう。


「ミルナ、使ってみていいかな?ちなみに魔素って手から出すの?」

「そうですわね、手から出しますわ。口とかからも出せなくはないと思いますがやりたくないですわ。」


 確かにミルナの言う通り、口から魔素をだして火を吐いたらただの魔獣だ。ただやはり出来るらしいので、魔素は任意の場所から出せると考えても大丈夫そうだ。だがとりあえずは手のひらからでいいだろう。そう言う事は魔法を行使出来るようになってから考えればいい。


「コツとしては……魔素を感じられたのなら、その魔素を手に集中させるイメージですわ。大事なのは魔素を使うという意思、そして事象の理解度です。アキさんがどんな詠唱を選ぶか楽しみですわ。」


 ミルナは楽しそうにアキを見つめる。だがアキは言葉を発する予定はない。まずは燃焼や液化の現象を魔素に伝えるように想像し、詠唱なしで発動するかを検証したい。もしそれで魔法が発動したら、事象を本当に理解していれば詠唱などいらないと証明される。


 アキは目を瞑り手に集中する。先ほど感じた魔素を手から使えと脳に命じる。あとは並列思考で燃焼の原理を展開する。手のひらの上に魔素で作った可燃性物質である紙があると想像し、それに点火エネルギーとして別の魔素を送り込む。こっちの魔素はライターで着火するのをイメージする。


「……。」

「アキさん……?」


 ミルナが不思議そうな目を向けた次の瞬間、アキの手の上に小さい火が灯る。


「なるほど、紙という可燃性物質で想像するとこの程度の熱量か。」


 アキが炎を眺める。


「でも熱くないんだけどこれどういう理論なんだろう。熱量はどこに?」


 アキは顕現させた炎を使い、この現象についてひたすら検証する。炎を持続させるとどうなるのか、呼吸し続ければ永久的に連鎖反応を起こせるのか、呼吸を止めると魔素の補給が途絶え枯渇するのか。


 なんとなくだが魔素を消費していくと体が呼吸を求めたような気がした。そして呼吸をすると補充されるのが実感できる。逆に今度は呼吸を止めてみたが、魔素が枯渇する前に自分の酸素が枯渇した。枯渇については魔素消費の大きい魔法を使えば検証できるかもしれない。そんな事を魔法検証しながら考えているとミルナがアキの思考の邪魔をする。


「アキさん!アキさん!」


 必死にアキを揺する。


「今度はどうした、ミルナ。」

「今の、今のどうやったんですか!詠唱、何も言ってませんよね!」


 ミルナが珍しく興奮している。


「燃焼の原理を理解していれば詠唱いらないんじゃないかと思って検証してみたら出来たよ?」

「是非、是非私に教えてくださいませ。」


 今度はミルナが土下座しそうな勢いでアキに懇願する。


「ミルナは詠唱で出来ているから別にそれでいいんじゃない?」

「だってあれは恥ず……こほん。いえ魔法をさらに効率化できるんじゃないかと。」


 ミルナは必死に体裁を取り繕おうとするが時すでに遅し。アキが、彼女がなんて言おうとしたのか、聞き逃す事などありえない。こんな面白そうな事を聞き逃すなんてあってはならない。そして何故ミルナが必死なのか全てを察した。


「たいきをうるおせ、あくあー!」


 ミルナの真似をして叫んでみる。


 ピシッと石化の呪文を受けたかのようにミルナの動きが固まる。本人的にこれは恥ずかしかったらしい。まあ自分で考えているのだから……所謂厨二病といえるかもしれない。アキが詠唱なしで魔法を試したのもそんな恥ずかしい事言いたくなかったからだ。


「すべてをもやせ、ふれいむー!」


 今度は泣きそうな顔をしてアキの手を両手で握って懇願してくる。


「本当にやめて……そしてお願いだから教えて……。」


 エンチャント・フロストも用意していたが、さすがに可哀そうになったのでやめておく。とりあえずミルナを撫でてアキは落ち着けと宥める。


「これ、恥ずかしいの?」


 多少の落ち着きを取り戻したミルナだが顔は真っ赤だ。


「恥ずかしい……。」

「じゃあ教えるから俺にも1個だけ教えて。何でミルナの水魔法の詠唱は『水』とか『ウォーター』じゃなくて『アクア』なの?からかっているわけじゃなく真面目に理由を知りたい。」

「えっと……アクアのほうがかわいいかなって。」


 なんとも女の子らしい理由だとアキは苦笑する。そして余談だが、ミルナの話し方が大分素に戻っているのはアキにとってはちょっと嬉しいことだ。やはりこちらのミルナのほうが可愛い。


「とりあえず落ち着いて。そしたら説明するから。俺はもうちょっと練習。」

「はい。」


 ミルナは後ろを向いて落ち着こうとしている。その間にアキは検証の続きをする。まずは現象の理解をいれずに詠唱したらどうなるか。


「大気を燃やせ、ファイア。」


 先ほど紙を可燃性物質として想像して魔法を行使した時より一回り大きい炎が顕現される。次に発声と現象の理解を同時に行う。可燃物質は同じ紙で検証。


「大気を燃やせ、ファイア。」


 詠唱と無詠唱の2つを合わせたくらいの大きさの炎になる。詠唱と現象理解は単純に加算されるのか、それとも別の魔法と認識されて2つが同時発動しているのか。魔素の消費は炎が大きくなるにつれて少し増えている感覚がする。


 では今度は燃焼効率を上げる条件を現象理解に組み込んでみる。まずは温度の上昇の為に大量の酸化剤と木材を想像する。現れた炎は先ほどより輝きが増している。熱量があがったせいかもしれない。次は高融点金属材料のタングステンを想像。この金属を沸騰させるのに必要な温度は5555℃。それに到達させるために大量の酸素供給を想像し点火エネルギーを魔素で充填。最初の魔法よりかなり明るい炎が顕現する。ただ魔素の使用量は増えた気がしない。もしかしたら増えてはいるけど微々たる量なのかもしれない。温度を超高温にしたら魔素使用量がどれくらい増えるか検証してみたいが、さすがに危険すぎる。


 次に魔素使用量がどの程度魔法の規模に比例するか検証してみる。とりあえず炎を大きくしてみればいいだろう。炎の範囲を拡大する為に可燃性物質の大きさを直径10Mくらいで想像して点火エネルギーで着火。巨大な炎が展開されたが一瞬で消えてしまう。魔素を一瞬で持っていかれた感覚がある。アキは急いで深呼吸して体に魔素を満たす。やはり魔素は魔法の範囲には確実に比例するようだ。とりあえずこれ以上の検証は又後日すればいい。


 最後に魔法の使用実験をだけしてみるとしよう。アキはとりあえず手の上にゴルフボールサイズの5000℃くらいの炎を展開。


「ミルナこれ熱い?」

「い、いえ、平気ですわ。基本的にそれは着弾しないと燃えませんから。」


 急に問いかけられて少し焦ったような様子のミルナだったが、先ほどに比べると大分落ち着きを取り戻している。アキはそんな事より、着弾するまでの炎の熱量はどこに保存されているのかが気になる。だが魔素自体が摩訶不思議な存在なのでとりあえず今はそういうものだと理解するしかない。


「どうやって飛ばすの?」

「私は炎を投げるイメージをして魔素を使います。こちらもイメージで速度が変わりますわ。速度があがると魔素使用量もあがるので気を付けてください。」


 アキは一度炎を消し、ミルナにいらない短剣が無いか聞く。


「これでよければ、どうぞ。」


 ミルナは古びた鉄の短剣をアキに差し出す。アキはそれを受け取り地面に置く。


「ミルナ、これ炎魔法で溶かせる?」

「無理ですわ。アキさん、鉄はそう簡単に溶けませんよ?長時間炎を持続させればいけると思いますが1人でやったら魔素が先に尽きますわ。鉄を溶かす時は炉を使うんですよ?」


 ミルナがわかりましたか?と先生のようにアキに教える。やはりこの世界では物質の融解温度は知られていない。ミルナが使っている詠唱を伴う魔法で出せる炎の温度は約1000℃がいいとこだろう。鉄の融解温度である1538℃には届かない。


「見ていて。」


 先ほどの検証を元に、今度はバスケットボールサイズの5000℃くらいの炎を展開する。手のひらで押し出すイメージを魔素へ伝達して、炎を飛ばす。射出速度を上げるのなら拳銃でもよかったが、この検証に速さはいらない。それに多分そんな音速を想像すれば魔素が足りなくなる。


 アキの作った炎はゆっくりした速度で短剣に着弾。短剣を瞬時に融解する。


「なんで?ありえませんわ……。」

「現象理解を追及するとここまでできる。俺も完全に理解しているわけじゃないけどね。」

「凄いですわ。」

「でもあんな遅い速度で飛ばしても実践だと意味ないよね?」

「はい、そうなんです。あれだと実践では使い物になりませんわ。高速で飛ばすには魔素が大量に必要になります。でもそうすると今度は炎が小さくなってしまいます。つまり炎の大きさと射出速度のバランスが大事なんですわ。」

「だから魔法職は不遇なんだね。」

「はい、魔素の量に依存するのでどうしようもありません。それでもアキさんの事象理解は凄いですわ。」

「たいきをうるおせーって言わなくていいもんね。」

「やめてください!恥ずかしいんですから!では早速教えてください!」


 アキは燃焼の原理である4大要素や高温の原理、そして融解温度を何回も説明したが地球の現代化学を知らないミルナが理解できるはずもなく、酷く落ち込んでいた。理解できない事にじゃない、これからも詠唱で魔法を使わないといけない事に。アキはいつでも何回でも説明するからそのうち出来るようになるよと励ましておく。


「練習に付き合うから。」

「約束ですよ?絶対出来るまで諦めませんわ!」

「それにミルナだって詠唱しないで魔法使ってるの気付いている?」

「え……?いつですか?」

「さっき炎を飛ばす説明で前に投げるイメージで魔素を使えばいいって言ったよね?炎を使う時に詠唱はしたけどそこに飛ばす詠唱は入ってないよね。つまりちゃんと無詠唱で飛ばすという部分については出来ていることにならない?」

「確かに!そうですわ!」


 魔法職として希望の光が見えたと大げさに喜ぶミルナ。詠唱を使うのが本当に嫌だったのだろう。しかし喜んでいるところ悪いがあと1つ聞いておきたい。


「えっと……ミルナ。もう1個聞いていい?」

「何故かいい予感がしませんがどうぞ。」


 アキがどうしても気になっていた事がある。


「ミルナ、魔法使うのに杖いらなくない?」

「あ……え……えーっと……い、いらないですわ。」


 ミルナが持っている杖とアキを交互に見て気まずそうに答える。アキは杖なしで魔法を使えている。それに杖があったからといって魔素利用に必要な現象理解が深まるわけでもない。では何故ミルナは杖を持っているのか気になっていた。


「じゃあなんで持ってるの?」

「ま、魔法職ぽいからですわ?あ、あと可愛いから……?」


 疑問形で答えるミルナ。


「そうか……うん、どんまい。」


 アキもなんて言っていいのかわからなかったのでとりあえず慰めておく。ただアキの反応が不満だったようで、ミルナは赤面して叫ぶ。


「いいじゃないですか!可愛いって大事なんですの!見た目大事!」


 やっぱ碌な質問じゃなかったとちょっとだけ涙目になるミルナが可愛い。

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