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アキの寝息が聞こえるのを確認してミルナは両手で顔を覆って呟く。
「私なにやっているの……。」
アキを誘惑して試すというのは彼女達の間で決めたことではあった。アキが料理している最中にこっそりと4人で話し合った。最初は皆反対した。特にソフィーは猛烈に怒った。ミルナが危ない、それにアキに失礼でもあると。でもミルナは譲らなかった。確認は必要だと説明し、アキの実力程度であれば危なくなってもどうとでも出来るから大丈夫だと説得した。最後まで誰もちゃんと賛成はしてくれなかったが、理解はしてくれているだろう。
「はぁ……。」
ミルナは自分が恥ずかしくなる。アキに抱き着いて試したまではよかった。でも何かされても多分抵抗しなかった、出来なかったと思う。そのまま襲われてもいいと心のどこかで思ってしまった。
アキに出会って話した時は同じ人種だと感じた。ただ自分のほうが上だと思っていた。でもそれは間違いで、気づいたらいいように観察され遊ばれていた。いつも優位に立ち、人心掌握していたミルナにとっては初めての感覚だ。わずかな時間で自分達の隠していた全てを見抜かれてしまう。でもそれはまだいい。ミルナを何より驚かせたのは、自分達の全てを知ったにもかかわらず、アキが自分達を利用しようとしなかった事だ。ミルナだったら観察した情報をもとに色々と有効利用できる方法を考えただろう。でもアキはミルナ達を利用するのではなく、自分達の為に何を出来るかを提示し、対等な条件で交渉してきてくれた。
そう、彼が観察をもとにするのはあくまで互いに利益のある提案だけ。それ以外は基本的に言葉遊びだった。エレンで遊んだり、ミルナをからかったり。決して自分達を利用したり脅迫したりして来なかった。アキの交渉術を以ってすればミルナ達に体を差し出させる事くらい容易だろう。でも彼はそれをしないどころか、不快な視線すらミルナ達に向ける事はなかった。
ミルナは不快な視線には敏感だ。豊満な胸に、スラっと伸びた長くて綺麗な足。それでいてこの美貌となれば男は放ってはおかない。寄ってくる男は後を絶たなかった。だからこそ逆に彼らを使った。気持ち悪いと思いつつもミルナは彼らを情報収集や交渉に使った。自分達の目的の為ならと必死耐えながら。でも決して自分を触れさせなかったし相手に触れなかった。それだけは許せなかった。そんなことをしてイリアを助けにいっても彼女を悲しませると思ったから。
だからアキを迎え入れたあともミルナはずっと彼を見ていた。自分達に不快な事を
したらすぐに捨ててやろうと思っていたし、不審な動きをしたらすぐに殺そうと警戒すらしていた。だがそんな機会は永遠に訪れなかった。先も言った通り、アキは誠実にミルナ達と接してくれている。
ずっと目で彼を追い続けたせいで、不審なところを見つけるどころか、逆に彼の優しさや誠実さを目に焼き付けられてしまった。そしていつの間にかアキに懐いてしまっている自分がいた。彼と話をするのが楽しかったのもあるのかもしれない。話す事全てが新鮮だし、彼自身優しくてどこかこの世界の男とは違う。でもそれは彼が別の世界からの迷い人だからだと思っていた。迷い人であれど男は男。自分達にいつかは害をなす存在。そう思っていたはずなのに。
そして気づいたら彼は会話の中心にいた。こんな短い時間で皆の心の中に入ってきた。イリアとは全てが違う。でも似ている。彼女もいつの間にか自分達の中心にいた。今のアキと同じように。だから懐いてしまったのかもしれない。きっとソフィー達も同じ気持ちだろう。そしていつの間にか無意識に彼に触れにいっていた。横で寄り添っていると不思議と落ち着いた。ずっとこうしていたいとすら思えた。
「私ってチョロいのかなぁ……」
エレンの事を言えない気がしてきた。
「でも私だって女の子なんだもん。」
辛いときに優しくされたら嬉しい。気を遣われたら嬉しい。悲しいときに支えてくれたら嬉しい。近くにいてくれたら嬉しい。ミルナが嬉しいと思う事をアキは一杯してくれた。女としての見返りも求めずにそういうことをされたら懐いたってしょうがないじゃないとミルナは自分に言い訳する。
「素の私のほうが好きって嬉しい……。」
後ろ向きで寝ているアキをミルナは見つめる。彼の世界であった話をさっき聞いてからさらに彼の事が気になった。同情とはちょっと違う。親近感かもしれない。
「いいよね、イリア?彼を連れていっても。」
イリアと同じでちょっと変わっていて不思議な人。ミルナはそんな事を考えながら交代の時間が近づいてくるのを静かに待った。




