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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十三章 接触
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1

 魔法学校講師生活3日目と4日目は平穏無事に過ぎ去った。5日目こそ王族襲撃の黒幕に動きがあるかもと期待したが、特になく、結局講師生活6日目。明日で魔法学校の講師依頼も終わりだ。


 生徒達ともすっかり仲良くなり、エリザとの毎日は楽しい。今も、授業終わりの昼下がり、学園長室でエリザと談笑している。これが無くなるのはちょっと寂しい。いや、かなり寂しい。


「ねえ、アキ君。明日で最後じゃなくて……ずっと講師やらない?」


 エリザが無理だとわかりつつも聞いてくる。彼女もきっと寂しいと思ってくれているのだろう。


「俺もエリザといるのは楽しいけど、それは無理なのわかってるだろ。」


 アキはそう言ってエリザの尻尾を優しく撫でてやる。最近は2人で魔法談義している時や雑談している時はずっと撫でるように尻尾を差し出してくる。甘えん坊の猫さんだ。


「残念ね……寂しくなるわ。」


 エリザが少しだけ悲しそうな表情になる。


「また依頼してくれ。それに来ていいなら頻繁に来るようにするよ。」

「ほんと!?じゃあいつでも来ていいわよ!待ってるからね!」


 随分と懐かれたものだと苦笑する。すっかり気に入られてしまった。学園内でもエリザは全生徒公認の「アキのペット」になっている。最初はそう言われる度に顔を真っ赤にして生徒達に突進していたエリザも、最近は気にならなくなったのか、何を言われてもあまり否定しなくなった。


「授業の方は順調ね。」

「そうだな。」


 エリザの言う通り、アキの生徒達は燃焼を大分理解してくれた。もう普通の炎魔法程度であれば、ほぼ詠唱破棄を出来ている。高温の炎は無詠唱ではさすがにまだ無理だが。それでも詠唱を加えたら鉄を溶かす炎の顕現に成功した生徒がほとんどだ。ここ数日根気よく教えた甲斐があったというものだ。


 ちなみにエリザはさすが学園長だけあり、鉄を融解するレベルの炎魔法までは無詠唱を完全にマスターした。さすがに超高温炎魔法は金属の理解が追い付かないので無理だが、結果としては上々だろう。まあアキの個人レッスンのおかげとも言える。エリザにだけは毎日2人きりで教えていたのだから。


「でも燃焼以外は教える余裕が無かったな。」

「しょうがないわよ。これだけでも相当難しいもの。他のはまた今度……ね?」


 エリザは本気でアキを講師にしたいのだろう。また来てねと隙あらばお願いしてくる。でもアキとしても教えるのは意外に楽しかったので、ちょくちょく来るのは吝かではない。イリアの事が片付いたら冒険者を辞めてここの先生にして貰うのも面白いかもしれないな。


「それより例の『アレ』はまだなのかしら?」

「俺の予想では昨日か今日なんだよね。昨日何もなかったって事は今日だと思う。」


 エリザが言っているのは黒幕である外套の人物との接触の件だ。何の根拠もない予想だが、爺さんから聞いている貴族の温度感だと多分間違いないだろう。もし今日貴族への接触がないのであれば外套の人物はもうミレーにいないと考えるのが妥当だとも思っている。そしたら計画をまた一から練り直しなので、そうならない事を祈るばかりだ。


「ほんとに……その自信はどこから来るのかしらね。」

「洞察と観察は得意だから。エリザは身を以て知ってるだろ。」

「まあね。全く……アキ君のせいですっかり生徒達への威厳が消え失せたわ。」


 エリザは口を尖らせて拗ねているが、怒っている様子はない。多分本心は生徒達と仲良くなれたのが嬉しいのだろう。最近エリザが毎日楽しそうに生徒達と話して交流しているのを見ているし、間違いない。


「とにもかくにもおそらく今夜だろう。」

「ええ、おねーさんに任せなさい。いつでも準備はできているわ。」


 もう少しで夕暮れ時だ。爺さんからの連絡が来るとしたら、ここ数時間の話だろう。本当に来ればいいが果たして……。


 ちなみにそれを予想して、エアルとミリーには先に屋敷へ行くように伝えてある。エリザと授業についての打ち合わせがあると言ったので彼女達も特に不審に思わないだろう。ミルナ達にも「依頼の終わりが近いから話すことが多い」と説明してある。なので帰るのが遅くなるのを一応は納得してくれた。めっちゃ不満そうな顔をされたけど。


「アキ君、無理しちゃ駄目よ?おねーさんとの約束だからね?」


 エリザが心配そうな表情でそっと呟く。






 それから2時間程して学園を出る。そろそろいい時間なので、一度爺さんのところに顔を出しておこうと思ったのだ。連絡が来るのであれば、エスタートのところにいたほうが話は早い。アキは早速商業地区の方へ歩みを向ける。


「アキさん、お迎えに上がりました。」


 急に声がしたので振り返る。そこにはイリアナが立っていた。彼女がここにいるという事は……事態が動いたという事だ。エリザに伝えねばと学園長室へ向かう為に踵を返す。


 学園の門を潜り、イリアナを連れ立って校舎へと戻る。ただアキはふと視線を感じ、校舎を見上げる。すると学園長室の窓際にエリザが立っているのに気付いた。そして全てを察したかのように頷いてくれる。「わかったからアキ君は行きなさい。」そう言ってくれているようだ。アキもエリザに頷きを返して再び体を翻すと学園を後にした。


 これで女王にも連絡がいく、そしてエリザ自身も動いてくれる。予定通りだ。


「イリアナさん、お願いね。所定の場所へ。」

「はい、かしこまりました。」


 爺さんが気を利かしてイリアナだけでなく、馬車も寄越してくれたので、それに乗り込み接触予定地点へと移動する。


 さすがのイリアナもいつものような軽口は言ってこない。相変わらず空気の読めるメイドだなと苦笑する。


 いよいよだ。ここが正念場だろう。うちの子達の為にも頑張らねばとアキは気合を入れる。

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