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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十二章 魔法学校Ⅱ
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12

「おはよう、俺のペット。今日もいい天気だね。」

「その挨拶定着させるのやめなさい!」


 昨日と同じように爽やかな朝の挨拶をしただけなのに、納得がいかない様子のエリザ。何故だろう。


「えー、今日も元気なエリザの尻尾を確認しないと1日が始まらない。」

「始まるわよ!尻尾なんか関係なく太陽は登るわよ!」


 朝っぱらから尻尾を逆立て、元気そうな猫でなによりだ。ただエリザの不満は他にもあるらしい。


「あとアキ君!昨日よ、昨日!何勝手に帰ってるのよ!おかしいでしょ!」


 どうやら昨日、アキがエリザを弄りっぱなしで放置して帰った事が気に食わないらしい。なんでもあの後生徒達に揶揄われて大変だったのだとか。エリザに10分くらいねちねちと文句を言われた。


「私のお姉さんとしての威厳がなくなったじゃない!」

「もともとないから大丈夫。」

「あ、あるわよ!」


 フシャーと威嚇してくるエリザ。その姿があまりに可愛いので、とりあえず尻尾を引っ張る。目の前で揺れていたのだから仕方ない。そう、仕方ない。


「にゃああああ!」

「やっぱり『にゃ』って言ったよね?」

「い、言ってないわよ!だから勝手に尻尾をさらないでよ……!ばかっ!」


 そう言いつつも触りやすいように尻尾を差し出してくるエリザ。つまり撫でろという事なのだろう。アキが優しく尻尾を撫でると気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らしている……ような気がする。本当に猫だなと可笑しくなった。


「でも生徒達に囲まれてどうだった?楽しかったでしょ?」

「う、うん、そうね。悔しいけどアキ君の言う通りよ。こっちのほうがずっと生徒達に受けがいいみたい。みんな嬉しそうに話に来てくれて……私も楽しかったわ。」

「そっか、よかった。エリザさんのよさがみんなにも伝わったようで嬉しい。」


 彼女が怖いと誤解されたままなのはなんか嫌だった。こんなに生徒想いの学園長そうはいない。これでもっともっといい学園になる。今朝は怒られてもいいくらいの気持ちで来たが、エリザもどこか吹っ切れたような晴れやかな表情を浮かべていたので安心した。


「いいえ、お礼を言うのは私だわ。気づかせてくれてありがとう。あともう……その……エリザでいいわ。そっちの方が嬉しいし……。お、お姉さんだけど!特別にアキ君には許可してあげるんだからね!」

「ありがと、エリザ。」


 口ではそうは言ってるものの、「エリザ」と呼ばれて嬉しそうに尻尾を振っている姿が微笑ましい。ツンデレお姉さんだなと苦笑するアキ。






「1つ重要な頼みがある。」


 魔法談義に入る前に相談しておくべきだろう。名残惜しいがアキはエリザの尻尾を撫でるのをやめる。アキが大好きな尻尾を離したからか、エリザは大事な話だと理解したようで、姿勢を正し、聞く姿勢を整える。なんか……ものすごく嫌な理解のされ方だ。


「ええ、なにかしら。」


 エリザが「おねーさんになんでも言いなさい」と優しく微笑んできた。この猫は直ぐにお姉さん風を吹かせたがる。でもまあ実際本当に頼りになるお姉さんなのだが。


「アイリス女王と内密に話がしたい。うちの王女抜きで。だからエリザから手配してくれないか?エリザにも同席して貰いたいから場所は学園でいい。後、出来るだけ早めがいいかな。今日とか明日とか。頼める?」


 エリザは察しがいいので、これで十分に意図は伝わるだろう。ベル抜きで話がしたいという事は、エリザとアイリス以外には知られたくない話だという事。エリザにも同席を依頼したという事は彼女にも何かしらの役割があるという事。ちゃんと全部理解してくれたはずだ。


「構わないわ。遅くても明日までには何とかしてあげる。」

「頼りにしてるよ、エリザ姉さん。」

「ふふ、任せておきなさい。じゃあ手配だけしちゃうわね。少し待ってて。」


 そう言ってエリザは学園長室から出て行った。


 アキは一息吐く。これで今日一の要件が片付いた。後はアイリスと話し合いをしてから考えればいいだろう。






「アキ君、連絡しておいたわよ。」


 程なくしてエリザが戻って来た。どうやらもう手配が終わったらしい。さすがエリザ。日時についてはまた追って連絡があるそうだ。


 しかし彼女がいてくれて助かった。ベルを通さずにアイリスに連絡を取るのはエリザがいなければ難しかっただろう。


 そんなエリザは目をきらきら輝かせている。「お願い聞いてあげたんだから早く魔法教えなさい!」と言っている目だ。やれやれ……本当に頼りになるお姉さんだ。


「じゃあ今日も魔法談義しようか。」

「ええ!今日こそ完璧に覚えてやるわ!おねーさんの実力見せてあげる!」






「わ、わからないわ……!なぜ……!このおねーさんが!」


 自信を木っ端微塵に打ち砕かれ、絶望しているエリザ。


 昨日と全く同じ光景に苦笑する。今日も数時間講義してやったのにこのざまだ。あってないようなお姉さんのプライドなんてさっさと捨ててしまえばいいのに。


「もうお姉さんキャラとかやめたら?」

「キャラとかいわないでよ!?私は偉いのよ!敬え!!」


 自分で敬えとか言っている時点で……と呆れる。子供っぽいお姉さんだ。きっとこれからも生徒達の前で勝手に自爆して辱められる事になるんだろう。まあ個人的には可愛いと思うが。


「エリザ、大丈夫だ。安心しなさい。昨日よりは理解出来てる。まだ時間はあるしゆっくりやろう。エスペラルドに戻った後もちょくちょく来るようにするからさ。」

「え!ほんと!?」


 エリザが嬉しそうに尻尾をぶんぶん振りまくっている。相変わらずわかりやすいなと苦笑する。


「ああ、俺もエリザに会いたい。エアルやミリーもいるしな。後、例の件でベルとアイリス女王が今後も色々と話さないとだろ。絶対来る機会は増えるよ。」


 それは間違いない。魔獣政策をやめましたで終わる話ではないのだから、今後の改革については各国で協議しながら進める方向になるはずだ。多分ミレーには結構な頻度で来ることになる。

 

 しかしそうなるとミレーにも屋敷を1軒持っておいたほうがよさそうだ。毎回王家の屋敷を使うのも気を遣うし、気兼ねなく滞在できる屋敷が欲しい。そのあたりもまたアイリスに相談してみよう。手頃な屋敷を見繕ってもらえるかもしれない。


「確かにそうね。アキ君がちょくちょく来てくれるのならのんびり頑張る事にするわ。それじゃあそろそろお昼に行きましょ。」


 エリザが軽く伸びをしてソファーから立ち上がる。どうやらもうお昼前だったようだ。確かにお腹も空いて来たし、アキはいつものようにエリザと2人で食堂へ向かう。

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