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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十二章 魔法学校Ⅱ
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9

 アキ達は訓練の為に庭に出る。十分に「お話」したからか、全員素直にアキに従ってくれた。ベル、アリア、セシルもいつも通り観戦するらしい。


 今日も適当な茶番をでっちあげてやる気を出させようかとも思ったが、ミルナ達からただならぬやる気を感じるので、今日は何もしなくてよさそうだ。


「アキさん、早速この黒月試すよ!」

「はい、私も神無月試します!」


 ミリーとエアルもやる気一杯で、アキに可愛らしくガッツポーズしてくれる。


 ただうちの子達やエリスのおぞましい視線が2人に注がれていることにエアル達はまだ気づいていない。


「では、みなさん、今日もよろしくお願いします。」

「よろしくね!」


 2人は丁寧に頭を下げるが、次の瞬間、エレンとエリスとレオが斬りかかる。


「ちょ、まだ、待って!急に……!」

「きゃっ……待ってください……!まだ準備が!」


 問答無用と言わんばかりにソフィーとミルナもエアル達に集中砲火を浴びせる。


「ふふふ、泥棒猫さんにはお仕置きです。きょうは徹底的にやりますよー!」

「そうですわね、この雌犬どもには制裁が必要ですわ。」


 どうやらミルナ達のやる気の理由はこれらしい。全く。相変わらず罵詈雑言をエアル達に浴びせているのは気になるが、まあいいだろう。これはあくまで戦闘中のトラッシュトークだ。さっきリビングではちゃんと「お客さん」として敬意を表していたし、昨日のように無礼な態度はとっていなかった。


 しかしソフィーとミルナの言葉を皮切りに、全員が思い思いの言葉をエアル達に浴びせ始める。


「アキ、見ておくのだ!私がこの悪女どもを始末するぞ!」

「僕も盛りの付いた猫は嫌いなんだよね。」

「許したのはアキであってあんた達ではないのよ!しね!しね!しねー!」


 エリス、レオ、エレンが鬼の形相でエアル達を罵っている。ちなみにエアルとミリーにしゃべる余裕は無いようだ。必死に首を横に振りつつ「待って!」と涙目で訴えている。


 観戦組のアリア、セシルも辛辣な言葉で応援している。


「諦めて死んでください。」

「ですね、さっさと消えるといいです。」


 うーむ。これは本当にただの軽口だろうか。この子達めちゃくちゃ本気で言ってる気がするんだが……。しかも殺気がやばい。さっきまでのエアルとミリーに対する節度ある態度はどこに行ったんだと呆れる。


「王女権限で不問にします。殺りなさい。あとなんか不名誉な2つ名を広めておきます。」


 ベルはベルで恐ろしい事言っている。


 だがまあ面白そうなので話に乗っかっておこう。


「深紅のエアルと縞柄のミリーでいいと思うぞ。」

「あ、ではそれにしましょう。」


 ベルが名案ですと手を叩いて賛成してくれる。


「「アキさん!余計な事言わないで!」」


 エアル達はしゃべる余裕がないのかと思ったが、この話題にだけは必死に声を上げ「やめて!」と懇願してくる。本当にその2つ名だけは嫌なんだろう。


「「アキさん助けてー!」」


 そしてアキに助けを求めてくるエアルとミリー。だがそれは逆効果だ。彼女達はそれを未だわかっていない。


「この後に及んでアキさんに尻尾を振るとか……いい度胸の泥棒猫さんなのですー!」


 ほら。ソフィーみたいな暴走エルフに火が付くから絶対に止めた方がいい。エレン達も攻撃速度と威力が1段階上がっている。エアルとミリーは新しい武器でまだ慣れていないというのに……可哀そうだ。


 そんな可哀そうな2人を少しは助けてやろう。


「エアル、ミリーがんばれ。俺は2人が大好きだ!2人を特に応援してるぞー。」


 アキの言葉を受けてさらに殺気が増すミルナ達。


「「ほんとやめて!火に油注がないでってば!」」


 どうせ何を言ってもこの子達は止まらないから諦めろと心の中で呟く。そもそも彼女達を止められるなら昨日のアキの惨状は起こっていない。毎日のお話だってされていない。そもそもあの子達は単純なんだ。それを理解しないと大変な目に遭う。そう今のエアル達のように。すぐに感情で行動するから困った子達だ。でもまあ……そこが自分は好きなんだけど。


 「「アキさーん!!!」」


 エアルとミリーが叫ぶ。さらに自ら火に油を注いでどうする。


 そもそも本気で2人が怪我を追うような状況になればアキがとっくに止めている。いくら殺気が本気でも、罵詈雑言を浴びせていても、うちの子達やエリスはちゃんと手加減はしている。だからなんの心配もしていない。ミルナ達は致命傷になるような攻撃は一切してない。あの子達の事はアキが一番よくわかっているつもりだ。


「楽しそうですね、アキさん。」


 隣にいたベルが声を掛けてくる。


「うちの子達いい子だなって。もちろんアリア、セシル、そして当然ベルもね?」


 アキの言葉に3人は花が咲いたような笑顔を浮かべる。ベルやセシルも可愛いが、やっぱりアリアの笑顔は素敵だ。滅多に見れないから余計そう思ってしまうのだろう。最近は1日に1回くらいは見せてくれるようになったが、それでも基本的にはいつも仏頂面だ。だからこうしてアリアの笑顔が見られると癒される。


 しかしアキの癒しと言えばやはり兎耳だ。アキは無言でセシルの耳を掴む。


「きゃっ……!だからなんでいつも……!急なの……!もぉ……それにさっき……今日の分は撫でてた……のに……!」

「兎耳に1日1回なんて決まりはない。兎耳は永遠だ。」

「そんなのしらないから……っ!」


 口ではそうは言いつつも、セシルは目を細めて気持ちよさそうにしている。素直じゃない兎だ。


「みなさん、それが終わったら兎狩りですよ。」


 ベルの一言でミルナ達の視線がセシルに注がれる。気持ちよさそうに撫でられているセシルが気に入らなかったのか、ソフィーとレオの目に新たなる殺気が灯る。


「もぎもぎしましょうー!」

「獣人は僕だけでいいもんね、捥ごう捥ごう。」


 他の子達も口を揃えて「賛成!」と叫んでいる。今日の夕食は兎鍋になるかもしれない。そんな事絶対させないけど。この兎は癒しだ。許さん。


「なんでえええ!私かんけいないからあああ!」


 あとセシルは何か楽しそうに叫んでいた。

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