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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第十二章 魔法学校Ⅱ
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7

「エアルもミリーも結構選んだね。」


 アキは商品の山を見て驚く。1人10点くらいかなと思っていたのに、1人で30点ずつくらいは選んでいた。ほとんどが服だが、数点小物や雑貨も混ざっているようだ。まあしっかり楽しんでくれたのであればよかった。


「イリアナさんに上手く乗せられて……気づいたらこうなってた……。」

「調子に乗りました……。ごめんなさい。」


 ミリーとエアルがちょっと落ち込んでいる。別に何も悪い事はしてないのだから気にするなと肩をぽんぽんと叩いてやる。


 アキは早速彼女達が選んだ服をじっくり見る。エアルやミリーの私服はまったく見たことがないのでちょっと気になったのだ。


「アキさん、お探しの物はそこにはないですよ。エアルさんは深紅の下着を、ミリーさんは縞々の下着をいっぱい選んでました。それらは隠してあります。」


 イリアナがあっさりと暴露する。どうりでイリアナがうちのアリアと仲良い訳だ。


「このど変態メイドが。そんなもの探してないわ。後、隠してるんだから言ってやるなよ。でも……やっぱり2人はその色を選ぶのか。」


 アキがエアルとミリーを見つめると、2人は耳まで真っ赤にして言い訳してくる。


「ち、ちがうの!誰にもいわないで!」

「アキさん忘れて!今聞いたことは忘れてください!」


 心配しなくても言いふらすつもりなどないから安心してほしい。


「ただ俺が個人的に2人で遊ぶのに使うだけだ。」


 エアル達がまたギャーギャーと騒ぎだす。元気な子達だ。


 とりあえずアキは2人を無視して彼女達が選んだ服の山を改めて確認する。ミリーの方は、バランスよくスカートとパンツを選んでいて、ボーイッシュ系から女の子っぽい格好まで、幅広いジャンルの服が積まれていた。一方エアルは、ミリーとは対照的に、ふりふりの女の子っぽい服ばかりだ。色もパステル系が多くとても可愛らしい。


「2人らしい服だね。凄く似合いそうだ。」


 褒められて嬉しそうなエアルとミリー。だがどこかちょっと浮かない顔をしていた。どうしたのかと聞いてみると、全部欲しいからどれにするか選べないそうだ。それに1着だけ買うにしても、ミレンド商会の服はどれも高いから買えなかったらどうしようと心配しているらしい。


「イリアナさん、それぞれの合計金額は?」

「はい。エアルさんが270金、ミリーさんが250金ですね。」


 まあ妥当なところだろう。この店の服の平均は10金前後だ。先ほどチラッと値札を見たので知っている。ただ合計金額を聞いた教え子2人は絶望に染まっているが……。まあエアル達は極貧Sランクだから仕方ない。


「爺さん、値引きしてくれ。いくらだ?」

「そうじゃの、アキの頼みじゃから……半額かの。」

「おお、大奮発だな。」

「ほほほ、かわいい孫の為じゃ!」


 セールでも何でもない服を半額にしたら利益なんて無いだろう。もしかしたら赤字かもしれない。だが半額と聞いても、暗い顔のままのエアルとミリー。


「半額なら1着くらい買えるかな……?」

「5金くらいってことですよね……なんとかいけるかも。」


 ボソボソと相談している2人を微笑ましく見つめている爺さんと目が合った。多分考えている事は一緒だ。むしろ爺さんはアキの知り合いになら全てタダにしてもいいと思っているくらいだろう。


「嬢ちゃん達がこんなにもうちの服を気に入ってくれて嬉しいわい。」

「それだけミレンド商会のセンスいいんだよ。」

「ふむ、イリアナ。値引きして合計いくらじゃ。」


 爺さんと適当な茶番を繰り広げつつ、会話を進める。


「はい、2人合わせて260金になります。」


 イリアナが即答で金額を教えてくれる。


「アキよ、260金お主に支払う予定の報酬から引いておくぞ。」

「うん?ああ、構わないけど。イリアナさん、その服は彼女達の家へちゃちゃっと送っちゃって。」

「かしこまりました。」


 エスタートとアキとイリアナの流れるようなやり取りにエアル達は唖然としている。何が起こったか分かってないようだ。そしてその間に店員数人でエアル達が選んだ服を素早くどこかに運んで行ってしまった。なんでも2人の家の場所はイリアナが既に聞き出しているらしい。さすがアリアと並ぶ有能メイド。毒舌だけど。


「「待ってええええ!」」


 やっと何が起こったのか認識したらしく、必死に叫ぶエアルとミリー。


「どうした深紅と縞々。」


 慌てふためいている2人が可愛い。


「色で呼ばないで!じゃなくて!そんなこと今はどうでもよくて!」

「そうです!色はどうでもいいんです!よくないけど!それよりお洋服は!?」

「はい、先ほどご自宅へと旅立ちました。」


 さすがイリアナ、仕事が早い。早すぎる。有無を言わさぬ迅速な行動だ。


「「はやっ!?」」


 エアルとミリーが金魚のように口を開けてぱくぱくさせている。まあ気持ちはわかる。正直アキでも驚くほどの速さだったし。というより爺さんとアキの考えをイリアナは見抜いていて、予め準備してあったのだろう。アリアやイリアナくらいのメイドになればそれくらいは普通にしてくる。


「アキさん、待って……さすがに無理、貰えないよ……。」

「そんなに欲しくなかった?」

「欲しいですよ……。でもミリーの言う通り、あんなのさすがに頂けません。」


 ミリーとエアルが無理無理と首を振っているが、既に旅立った後だ。


「諦めろ。それに260金だろ?そんな高くないし、俺の講師依頼料と同じくらいだから。」

「ダメです!アキさんがタダ働きになるじゃないですか!」


 タダ働きもなにもむしろアキはその金すら貰わないでエリザの尻尾触ろうとしているんだが……と苦笑する。


「それに260金は超大金だから!」

「まあ、俺は講師を依頼だと思ってないんだよね。エアルやミリーと楽しい学園生活を過ごせているのに、お金まで貰う必要ないしね。」

「「でも!」」


 中々煮え切らない2人に爺さんが口を挟む。


「ほほほ、嬢ちゃん達、わしが教えてやろう。アキは2人の事がとても気に入っているんじゃよ。そんな可愛い2人にこの服を着て欲しいということじゃ。だから貰ってやってくれんかの。こやつは恥ずかしくていわんだろうがの。」

「余計な事言うなジジイ。だがまあ……そういう事だ。それに2人は頑張ってるからな。借金までして騎士学校に行ったんだろ?遊びたい年頃なのにさ。だから偉いなって思ったんだ。それにSランクになってからも魔法学校に通ってる。そんなエアルやミリーが服を欲しそうに見てたら……買ってあげたくなるんだよ。」


 それだけ言うとそっぽを向くアキ。恥ずかしい事を言わされてしまった。

 

「ミリー、あれ……2人だったら大丈夫かな?」

「うん、大丈夫だと思う。私はいいよ。」


 エアルとミリーは何やら顔を見合わせて頷いている。

 

「イリアナさん!あれは……。」

「はい、こちらにございます。」


 エアルが全てを言い切る前にイリアナが小さな箱をエアルに手渡す。


「これはいくらですか?」

「そちらは8金になります。」


 エアルとミリーが再度視線を交わし、無言で頷いている。


「「買います!」」


 何故イリアナはあれだけわざわざ取っていたのだろう。しかし8金ともなれば彼女達にとっては結構な金額だ。中途半端に彼女達に出させるのも嫌だし、260も268金も誤差でしかない。アキはさっきの合計金額に足しておくようにイリアナに伝えるが……。


「「ダメです!」」


 2人が断固として譲らない。さっきとは違い、絶対に自分達で払うと言って聞かない。


「アキさん、こうおしゃっているので彼女達に任せましょう。」


 イリアナも彼女達の好きにさせた方がいいと言ってくる。こうなったら従うほかなさそうだ。


「まあ、いいけど……?」


 渋々納得するアキ。爺ちゃんはあれが何の商品かを知っているようで、意味深な笑みを浮かべているし……。全く。


 エアルとミリーは可愛らしいお財布から4金ずつ出して早速お会計をしている。とりあえず無事購入は出来たようだ。


 アキは何を買ったのかを2人に尋ねる。


「それで何を買ったの?」


 するとエアルとミリーが小箱をアキの方に差し出してくる。つまりこれはアキへの贈り物という事なのだろう。


 まあさすがに途中から気づいていた。あえて知らない振りをしていただけだ。サプライズに水を差すのも無粋だと思い、演技していたのだ。大体イリアナが1個だけ残しておく時点で察せる。アレはそんなミスをするメイドじゃない。


「剣や服に比べたらたいしたものじゃないけど。」

「アキさん、私達からのプレゼントです。受け取ってくれますか?」

「ああ、ありがとう。エアル、ミリー。」


 彼女達に礼を言ってプレゼントを受け取る。


 この子達に贈り物を貰えるのは正直とても嬉しい。学校の先生が生徒に贈り物をされたら感動するって言うが、こんな気持ちなのかもしれない。


 アキは早速小箱を開けてみる。


「ペンダント……?」


 箱から出てきたのはシルバーチェーンのペンダント。ペンダントトップには銀貨のようなコインがついていた。そしてそのコインには竜のような装飾が彫ってある。


「格好いいねってミリーと見てたんです。幸せを運ぶコインだそうです。」

「アキさんに似合いそうだなって。どうかな?」


 エアルとミリーが代わる代わるに説明してくれる。


「エアルとミリーと知り合えただけで幸運なのに。でも嬉しいよ。ありがとう。」


 それに今のアキにはミルナ達、アリア達がいて十分に幸せだ。これ以上幸せになって大丈夫かと苦笑する。


 まあせっかくの教え子からの贈り物だ。早速つけてみよう。


「ま、待ってください。私がつけてもいいですか?」


 エアルが両手を差し出してくるので、アキはペンダントを彼女に渡す。ネックレスなんて今までつけた事がなかったし、つけて貰えるのは正直助かる。それにつけるのに手間取ったりしたらなんか恥ずかしい。


「しょうがない、今日はエアルに譲るね。」


 どうやらミリーもアキにつけてくれるつもりだったらしい。


 この2人はいかなる時でも喧嘩しないし、お互いを尊重し譲り合っている。本当にいい親友なんだなと改めて思う。うちの子達に見習ってほしいものだ。この状況になったらうちの子達は間違いなく「アキに誰がネックレスを付けるか争奪戦」を始める。


「アキさん、はい。」


 エアルがネックレスをつけやすいようにと少し屈んでやる。彼女は正面からアキの首元に手を回し、ネックレスをつけてくれた。エアルの桃色の髪から優しい香りがふわっと漂ってくる。


「エアルいい匂いだね。」

「やっ……アキさんのばか!はい、つけましたよ。」


 エアルがそそくさとアキから離れ、そっぽを向いてしまう。


「似合う?」


 早速つけた姿を2人に見てもらう。


「う、うん、格好いいです!」

「似合うよ、やっぱりアキさんにぴったり。」

「それはよかった、大事にするよ。」


 この世界に来て3つ目の贈り物だ。最初の2つはアリアとセシルからの指輪だった。アキは今まで贈り物を貰ったことがほとんどない。ましてや大切な人からなんて一度もない。まあそんな人がいなかったのだから当然だろう。でもアキにもやっと出来た。そしてこれらはそんな大切な人達からの贈り物だ。値段なんて関係ない、大事にしようと心から思える。


「服、今度着てね。見せて欲しい。」

「はい、もちろんです!」

「うん、楽しみにしててね。」


 きっとエスペラルドに帰るまでには見せてくれるだろう。もしそんな機会がなかったとしても、ミレー滞在最終日に世話になった人達を招いてホームパーティーでもすればいいだろう。せっかくだしエアル達にお洒落出来る場を提供してあげたい。


「アキさん、深紅と縞々も見せて貰うんですか?」

「お前もう黙れ。」


 イリアナが雰囲気をぶち壊してくるので頭を引っ叩く。このメイド、下手したらアリア以上かもしれない。


「でも見てって言われたら?」

「見る。」

「だそうですよ、よかったですね、エアルさん、ミリーさん。」

「「み、見せませんから!!」」


 赤面しながら叫ぶエアルとミリー。最後の最後まで仲のいい2人だ。

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